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第一章 おけつの危機を回避したい
九話
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『――それで、媚薬は持ってこれたのね? でかした、二人とも!』
「いやいや。お姉さんの情報のおかげです」
その後――みごと、媚薬ローションを盗み出したおれらは、姉やんに報告していた。姉やんは、電話口でパチパチと拍手する。
姉やんいわく、さっきのはやっぱり会計ルートのイベントやろうって。榊原先生が、「シゲル」を悪事に勧誘したのは、いつかはハッキリわからへんけど。背景が、「化学準備室」やったらしいねん。
危なかったあ!
晴海がいてくれたから、榊原先生に「悪事」への誘いをされんですんだんやな……。
『……で、ブツはどこにあるの?』
「いま、持っとるよ。見る?」
おれは、テレビ電話に切り替えたスマホの前に、ちんちん型のボトルを置いた。姉やんは、「わあ」と歓声を上げる。
『あー、このナニ型ボトル! スチルで見たまんまだわ~。じゃあ早速、私のとこへ送ってくれない?』
「えっ!? 姉やん、食べもんちゃうで?」
ぎょっとして問い返すと、姉やんは米神に青筋を立てた。
『わかってるわよ! 成分とか調べるから、くれって言ってんの。ゲームで薬の概要はわかってるけど、詳しく調べておきたいからっ』
「あっ、なるほど」
おれは、ぽんと手のひらをグーで打つ。
姉やんは、薬の研究が趣味やねん。ちっさいころから「ピーマンが好きになる薬」とか、色々作っててな。実験台のおれは、何べん食あたりになったかわからへん。
『もしかしたら、解毒剤を作れるかもしれないし。いいでしょ?』
「ふんふん。晴海、かまへん?」
「俺はええと思う。そんな目に遭わんのは前提としても、解毒剤はあったら安心や」
「そっか。ほな、姉やん。今日の学校ひけたら、すぐ送るわな」
『あざーっす』
姉やんとの通話を切って、被服室を出る。媚薬ローションは、郵送するまで晴海が持ち歩いてくれることになった。おれが持つより安心やからって。
「晴海、ごめんなあ。巨大ちんちん持ち歩いてもろて……」
「ええよ、自分ので慣れとるから」
「何それ、かっこええ! もっぺん言うて?」
「俺ので慣れとる!」
「晴海、かっこい~!」
きゃっきゃ言うて廊下を歩いとったら、あっという間に教室へ着く。愛野くんはおらんみたいで、ほっとする。
おれらに気づいた竹っちが、寄ってきた。
「お前ら、遅かったな。急がねえと、昼休み終わんぞ」
「おう、ちょっとな。シゲル、購買でサッと買ってこよか?」
晴海の言葉に、おれは「ふふふ」と笑って、首を振る。ついに、隠し玉を出すときが来たようやな……!
「いーや。今日はな、購買も食堂も行かんでええよ」
「は? 腹具合でも悪いんか?」
「ちゃうし! あのな、お弁当つくって来てん」
「え!?」
鞄から、お弁当箱をふたつ取り出した。何故か、晴海だけや無くて竹っちらも驚いてる。
「え。お前、手作り……?! いつの間に?」
「今朝、晴海が寝てるうちやで。初めて作ったから、上手ちゃうけど」
おつきあいしたら、手作りのお弁当食べるもんなんやろ? せっかく、恋人のふりすんねんからな。恋人らしいこと、おれも色々考えてんで。
すると、お弁当を持った晴海の顔が、かーっと赤くなった。
「うわ、嬉しいわ……ありがとう」
「ほんま?!」
「よかったな、有村~!」
竹っちらに肩を叩かれて、晴海が「やめえや」って怒る。冷やかされて、照れとるみたいや。おれは助け舟を出すつもりで、「早よ食べよ」って、席に座らせた。
机二つつけて、向かい合って弁当を開く。なぜか、竹っちらも覗いてくるから、ちょっと気恥ずかしい。おっきい声で言わんだらよかった。
「おー、意外。ちゃんと弁当じゃん」
「この、ぶきっちょな感じがいいな」
「定番。あ、これとこれ、冷凍だろ」
「んもー、そんなん言わんでええやん! たまごとウインナは焼いたんやで!」
初めてで、そんな作るの無理やもん。そら、友達の手作り弁当て、からかっとるのはわかるけど……。しょげとったら、対面で「カシャッ」て音がした。
晴海が、お弁当をスマホで撮ってて、ぎょっとする。
「ちょお、なんで撮んの?!」
「記念に決まっとるやろ。彼女の作ってくれた弁当やぞ」
そんな風に言われると、逆にまごついてまう。鈴木の言うとおり、ハンバーグとコロッケ冷凍やし。無理に入れたからプチトマトへしゃげたし、たまご焼きもまん丸なってしもたし。蟹さんの足も上手に開かへんかったし……みたいなことが気になってきた。
「で、でも、ほんまに大したもんやないし……」
「なんでやねん。これ、おれの好きなんばっかりやん」
「……!」
晴海の真黒い目が、きらきらしとる。今だけや無くて、せっせとお弁当詰めとった、朝のおれまで見てくれてるみたいやった。
「めっちゃ嬉しい。ありがとうな、シゲル」
「あぅ……」
にっこり嬉しそうに笑われて、なんかめっちゃ恥ずかしい。顔があっつあつになって、俯く。
「食べてもええ?」
「……うん!」
おれの下手なお弁当、晴海は「うまいなー」言うて全部食べてくれた。自分で食べた感じ、買った方がうまいし、お世辞やとはわかってんねんけど。
それでも、嬉しいもんなんやなあ。
「晴海、明日はもっと期待しててなっ」
「明日も作ってくれんの!? 楽しみやわ」
「ふふふ」
おれな。カップルが手作りのお弁当、食べる理由わかったかも。好きあっとるもん同士で、ドキドキしたいんやな。
だって、ふりでもこんなにドキドキすんねんもん。
「いやいや。お姉さんの情報のおかげです」
その後――みごと、媚薬ローションを盗み出したおれらは、姉やんに報告していた。姉やんは、電話口でパチパチと拍手する。
姉やんいわく、さっきのはやっぱり会計ルートのイベントやろうって。榊原先生が、「シゲル」を悪事に勧誘したのは、いつかはハッキリわからへんけど。背景が、「化学準備室」やったらしいねん。
危なかったあ!
晴海がいてくれたから、榊原先生に「悪事」への誘いをされんですんだんやな……。
『……で、ブツはどこにあるの?』
「いま、持っとるよ。見る?」
おれは、テレビ電話に切り替えたスマホの前に、ちんちん型のボトルを置いた。姉やんは、「わあ」と歓声を上げる。
『あー、このナニ型ボトル! スチルで見たまんまだわ~。じゃあ早速、私のとこへ送ってくれない?』
「えっ!? 姉やん、食べもんちゃうで?」
ぎょっとして問い返すと、姉やんは米神に青筋を立てた。
『わかってるわよ! 成分とか調べるから、くれって言ってんの。ゲームで薬の概要はわかってるけど、詳しく調べておきたいからっ』
「あっ、なるほど」
おれは、ぽんと手のひらをグーで打つ。
姉やんは、薬の研究が趣味やねん。ちっさいころから「ピーマンが好きになる薬」とか、色々作っててな。実験台のおれは、何べん食あたりになったかわからへん。
『もしかしたら、解毒剤を作れるかもしれないし。いいでしょ?』
「ふんふん。晴海、かまへん?」
「俺はええと思う。そんな目に遭わんのは前提としても、解毒剤はあったら安心や」
「そっか。ほな、姉やん。今日の学校ひけたら、すぐ送るわな」
『あざーっす』
姉やんとの通話を切って、被服室を出る。媚薬ローションは、郵送するまで晴海が持ち歩いてくれることになった。おれが持つより安心やからって。
「晴海、ごめんなあ。巨大ちんちん持ち歩いてもろて……」
「ええよ、自分ので慣れとるから」
「何それ、かっこええ! もっぺん言うて?」
「俺ので慣れとる!」
「晴海、かっこい~!」
きゃっきゃ言うて廊下を歩いとったら、あっという間に教室へ着く。愛野くんはおらんみたいで、ほっとする。
おれらに気づいた竹っちが、寄ってきた。
「お前ら、遅かったな。急がねえと、昼休み終わんぞ」
「おう、ちょっとな。シゲル、購買でサッと買ってこよか?」
晴海の言葉に、おれは「ふふふ」と笑って、首を振る。ついに、隠し玉を出すときが来たようやな……!
「いーや。今日はな、購買も食堂も行かんでええよ」
「は? 腹具合でも悪いんか?」
「ちゃうし! あのな、お弁当つくって来てん」
「え!?」
鞄から、お弁当箱をふたつ取り出した。何故か、晴海だけや無くて竹っちらも驚いてる。
「え。お前、手作り……?! いつの間に?」
「今朝、晴海が寝てるうちやで。初めて作ったから、上手ちゃうけど」
おつきあいしたら、手作りのお弁当食べるもんなんやろ? せっかく、恋人のふりすんねんからな。恋人らしいこと、おれも色々考えてんで。
すると、お弁当を持った晴海の顔が、かーっと赤くなった。
「うわ、嬉しいわ……ありがとう」
「ほんま?!」
「よかったな、有村~!」
竹っちらに肩を叩かれて、晴海が「やめえや」って怒る。冷やかされて、照れとるみたいや。おれは助け舟を出すつもりで、「早よ食べよ」って、席に座らせた。
机二つつけて、向かい合って弁当を開く。なぜか、竹っちらも覗いてくるから、ちょっと気恥ずかしい。おっきい声で言わんだらよかった。
「おー、意外。ちゃんと弁当じゃん」
「この、ぶきっちょな感じがいいな」
「定番。あ、これとこれ、冷凍だろ」
「んもー、そんなん言わんでええやん! たまごとウインナは焼いたんやで!」
初めてで、そんな作るの無理やもん。そら、友達の手作り弁当て、からかっとるのはわかるけど……。しょげとったら、対面で「カシャッ」て音がした。
晴海が、お弁当をスマホで撮ってて、ぎょっとする。
「ちょお、なんで撮んの?!」
「記念に決まっとるやろ。彼女の作ってくれた弁当やぞ」
そんな風に言われると、逆にまごついてまう。鈴木の言うとおり、ハンバーグとコロッケ冷凍やし。無理に入れたからプチトマトへしゃげたし、たまご焼きもまん丸なってしもたし。蟹さんの足も上手に開かへんかったし……みたいなことが気になってきた。
「で、でも、ほんまに大したもんやないし……」
「なんでやねん。これ、おれの好きなんばっかりやん」
「……!」
晴海の真黒い目が、きらきらしとる。今だけや無くて、せっせとお弁当詰めとった、朝のおれまで見てくれてるみたいやった。
「めっちゃ嬉しい。ありがとうな、シゲル」
「あぅ……」
にっこり嬉しそうに笑われて、なんかめっちゃ恥ずかしい。顔があっつあつになって、俯く。
「食べてもええ?」
「……うん!」
おれの下手なお弁当、晴海は「うまいなー」言うて全部食べてくれた。自分で食べた感じ、買った方がうまいし、お世辞やとはわかってんねんけど。
それでも、嬉しいもんなんやなあ。
「晴海、明日はもっと期待しててなっ」
「明日も作ってくれんの!? 楽しみやわ」
「ふふふ」
おれな。カップルが手作りのお弁当、食べる理由わかったかも。好きあっとるもん同士で、ドキドキしたいんやな。
だって、ふりでもこんなにドキドキすんねんもん。
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