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第一章 おけつの危機を回避したい

八話

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「お前さ、愛野くんの事殴ったってマジ?」
「ちゃうねん! それはっ」
「殴ってないの? じゃ、あっちが嘘つきって事?」
「そ、そうでもないけど。でも、ちょっと叩いただけやし! 事情があって」
「ふーーん?」
 
 あかーん! 何をどう言うても、微妙な反応される!
 まごまごしとったら、晴海が「とにかく、誤解や」って助けてくれた。
 
「大丈夫か、シゲル?」
「うわ~、晴海ぃ~!」
 
 わっと晴海の肩に泣き伏す。
 ひどい。風評被害や。
 朝からずっと、「愛野を殴ったのか?」って聞かれてるねん。クラスメイトどころか、別の学年のやつにまで。今かて授業中やのに、わざわざ聞いてこられてさ。
 当の愛野くんは、あれからチラッとも帰ってこん。おかげさんで、おればっか質問責めされてるやんけ。
 晴海は、「よしよし」と頭を撫でてくれる。
 
「シゲルは、ぶきっちょやなあ。「殴ってへん」て言うたらええのに」
「うう……でも、頭叩いたんは、ほんまやもん……」
 
 おれのあほ! 我慢してたら、堂々と「潔白や」と言えたのに。
 晴海のシャツを涙塗れにしとったら、竹っちらが肩を叩いてくれる。
 
「泣くなよ今井。俺らはわかってるからさ」
「そうそう。みんな野次馬根性だよ。すぐ興味なくすって」
「みんな……!」
 
 あたたかい笑顔に、胸が熱くなった。
 
「そこ、静かにしなさい」
 
 とつぜん、冷静な声が和やかな空気を切り裂いた。
 振り向くと、化学教師の榊原先生が立っとった。「ひえっ」と声を上げそうになって、慌てて口を押える。

――榊原由紀彦(齢29)。おれのおけつの天敵や。

 改めて、先生を見て――なんで今まで、平気で授業受けれてたんやろうって思う。髪型は、風浴びたマイケル・ジャクソンみたいやし。金のネクタイに、蛇皮のシャツ着とる先生とか、面白すぎるのに。
 先生は、銀縁の眼鏡をクイクイしながら、おれを見下ろした。
 
「今井くん。騒いだ罰として、居残って片づけを手伝いなさい」
「えっ」
「――何か?」
 
 怖い声で言われ、頷くほかない。教室のどっかから「いいなあ」「榊原先生のお手伝い、僕もしたあい」と声が聞こえてくる。ほな、代わってくれ……!
 しおしおと項垂れとったら、晴海が肩を抱いてきた。
 
「シゲル、しっかりするんや」
「だって、怖いやん! あいつに、おれのおけつがっ」
「わかっとるけど気張れ。これは、何かのイベントかもしれへんぞ」
「ええっ」
 
 晴海が、ひそひそと言う事には、こうや。
 榊原は、可愛い感じの生徒が好き。やから、おれらみたいなんが、今までどんだけ騒いでもスルーしてる。せやのに、今日はおれだけ呼び出しを食った。その心は、つまり――
 
「愛野くんが会計ルートに入ったから、悪役モブのおれに接触してきたんかもしれん……ってこと?!」
「ああ、そうや。もう、お前と愛野が揉めとることは、周知の事実やし」
「ひいい」
 
 ガタガタ震えてたら、晴海が真っ黒い目を光らせる。
 
「大丈夫、俺に考えがある。ここを何とか踏ん張るで!」
「晴海……!」

 力強く言われて、胸にむくむくと勇気が湧いてくる。おれも、腹をくくる。

「わかった!」





 で。

「今井くん、有村くん。それはこちらに」
「はいっ」

 おれと晴海は、洗った実験道具を持って、榊原先生の後をついていく。向かう先は、準備室や。
 晴海は、「俺も手伝います」の一点張りで付いてきてくれた。先生はおもろくなさそうやったけど――

「俺ら、付き合い始めたんですわ! 片時も離れたくないんです!」
「そうそう、そうなんです!」

 と、一芝居うったら、渋々ゆるしてくれた。お付き合い効果、てきめんやね。
 準備室の中は、散らかってないけど、物だらけ。
 真ん中に作業台がドンと置いてあって、壁に同化してる棚には道具とか薬とか、いっぱい並んであった。

「とりあえず、そこの台に置いていって下さい」
「はいっ」

 おれと晴海は作業しながら――さり気なく部屋を見回した。
 ようし、作戦決行や!


「ええか、シゲル。準備室に入ったら薬を探すで」

 さっき、晴海はおれの耳にこそこそと囁いた。

「薬って?」
「薬言うたら、あの媚薬ローションや」
「ええっ?」

 ぎょっとして身を引くと、晴海は真剣な顔をして言う。

「あの薬がキーアイテムやろ? この機会に見つけ出して、破棄しといた方がええ」
「で、でも。そんな解りやすいとこにあるん?」
「絶対ある! 俺を信じろ!」


……って、晴海は言うてたけど。
 ほんまにあるんかなぁ。そんな危ないもん、解りやすいところに置くやろか。
 そう思いつつ、一番奥の棚を見上げたら。

「ふわあ?!」
「……どうしました?」
「い、いえいえ! 何でもありません!」

 訝しげに尋ねられ、慌てて誤魔化した。危なかった……!

――あったか?!
――あったで!

 先生にばれんように、アイコンタクトを交わす。
 あった、媚薬ローション……!
 一番奥の棚の、上から三段目。
 そこに――デッカイちんちんの形した、ショッキングピンクのボトルがちん座しとった。

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