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第一章 おけつの危機を回避したい

七話

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 おけつを守るため、親友(♂)の彼女になった。
 って、どえらい矛盾を孕んでるようやけど。BL好きの姉やんいわく、これが最善策なんやから、頑張るほかない。
 
「シゲル、ほな行くで!」
「わかった!」
 
 差し出された晴海の手を、ぎゅっと握る。やっぱり、恋人同士と言えば、おてて繋いで登下校は基本やろ、と言うことで。
 おれらは固く手を繋ぎ、登校中の生徒の群れに進撃した。
 ぶっちゃけ、恥ずかしかったんは最初だけ。そもそも、仲良しの手ぇ握るくらい、肩組むのとそんな変わらんわけやから。つないだ手をぶんぶん振りながら、晴海に話しかける。
 
「なあなあ、晴海。おれらカップルに見えるかな?」
「おう、バッチリや。どう見ても初々しいカップルやろ」
「よっしゃ!」
 
 おけつ破壊が一歩遠のいた気がして、気分ええ。へらへらしとったら、晴海もなんか嬉しそうやった。
 てか、なにげ、気づいたんやけど。おれら以外にも、手つないどる奴けっこうおるねんな。さすがBLゲームやね。
 手ぇつないだまま教室にはいったら、友達の竹っちが目ぇまん丸にして寄ってきた。
 
「何よお前ら、どうしたの。ついに付き合いだしたわけ?」
 
 なんでやねん。
 と、突っ込みかけて、慌てて口をチャックする。
 おれは、晴海と繋いだ手を、顔の高さに掲げた。友達に嘘言うのは心苦しいけど、おけつにはかえられへん。
 
「そうそう。おれら、付き合うことになってん!」
「へー、おめでとう! やったじゃーん、有村」
「馬っ……! シーッ、言うんやない!」
 
 竹っちは満面の笑顔で、晴海の肩を叩いた(有村て、晴海の名字な。ちなみに、おれは今井やで)。晴海は、くわっと目を見開いてどつき返してた。……何のことやらわからんくて、首傾げとったら「なになにー?」って、友達がわらわら寄ってくる。 
 ほんで、「付き合ってんねん」「おめでとう」の流れがリピートされてやね。みんな、普通に受け入れてくれて、ほっとしたけど。
 
「なあなあ、何が「やったな、有村」なん?」
「ええ? そりゃ、お前」
「なあ? 苦節十二年の情熱がさあ」
 
 竹っちに聞いたら、ニヤニヤしながら上杉と小突き合っとる。鈴木は訳知り顔で、晴海を顎でしゃくるのみ。
 
「晴海~、なんなん?」
「あー。うーん。それは内緒のさくらんぼ」
「ぷぷ。何それ」
 
 晴海に聞いても、なんかずっとモゴモゴしとる。眉毛八の字ぃにして、珍しく困っとるから、一限の数学に話題を変えた。おれ、きづかいの出来る彼女やな。
 ほんで、みんなで課題の話をしとったら、教室に愛野くんが飛び込んできた。
 
「やべー、遅刻ーっ!」
 
 なぜか、窓から。
 
「今井、危ない!」
 
 アッと思ったときには、遅かった。愛野くんの靴の裏が、迫ってくんのが見える。――あかん、避けれへん! 覚悟してぎゅっと目を瞑ったら、思いっきり体が引っ張られた。
 
「シゲル!」
 
――どんがらがっしゃん!
 
 机やらなにやら、吹っ飛ぶ音がして。教室内が、にわかに騒然となった。
 
「今井! 有村!」
「おうい、生きてっか!?」
 
 友達が駆け寄って来る。
 
「シゲル、大丈夫か?! 痛いとこないか?!」
「はわ……」
 
 た、助かった……?
 おれは、床に倒れた晴海の上に抱えられとった。ドキドキする心臓を宥めながら、糊のきいたシャツにすがる。
 
「は、晴海ぃ~! 死ぬかと思った!」
「かわいそうになぁ……! どこも、怪我してへんか?」
 
 真摯に聞かれて、こくこくと頷いた。竹っちが「良かったなあ」と安堵の息を吐く。
 
「いてててっ!」
 
 甲高い声が、聞こえてきた。振り向くと、倒れた机の上で、愛野くんが痛そうにおけつを擦っている。
 
「あの……大丈夫?」

 近くにいた生徒が、恐る恐る尋ねる。

「……おう、へっちゃら!」
 
 愛野くんは、痛そうなのを堪えて、ニカッと笑う。拍子に、おっきい目から、涙がぽろっと零れ落ちた。声をかけた生徒は「かわ……」と呟き、頬を赤らめる。
 
「……愛野、立てる? 良かったら、保健室に連れてくよ」
「サンキュ。 お前いい奴だな!」
 
 そいつと愛野くんは、連れ立って教室を出て行こうとする。ポカンとして見送ってたら「おい!」と声を上げたもんがおる。
 
「お前が窓から来るから、今井が危なかっただろ!」
 
 竹っちやった。上杉と鈴木も、「そうだそうだ」と続く。みんな、おれのために……。ジーンとしとったら、愛野くんがぱたぱた駆け寄ってきた。――警戒した晴海が、おれを抱えて後ずさる。
 すると、愛野くんはペコっと頭を下げた。
 
「ごめんな、大丈夫?!」
「えっ、うん……」
「いやー、急いでて。次から気を付けるから」
 
……アラ、素直やん。
 気持ちのいい謝罪に、びっくりする。
 てっきり逆切れとか、されるかなあって思ってた。ちょっと反省しながら、「そんなら、ええよ」とへらへらしとったら。
 
「あ、言っとくけど、わざとじゃないからな! 確かに、昨日お前に殴られたけどさ。仕返しとか、そういう陰湿なこと、俺嫌いだし!」
 
 と、くそでかい爆弾を落とされる。
 愛野くんの声は、教室はおろか廊下にまで響き、こだまのように遠のいていった。
 
「……え。ちょっと、どういうこと?」
「今井が、愛野を殴ったの? なんで?」
 
 ひそひそと、クラスのあちこちで声がする。
 ご、誤解や……! 叫びたくても、びっくりし過ぎて声が出えへん。本人は言うだけ言って、保健室に行きよった。ずるい。
 
「あ、あいつ。悪魔や……」
「あうあう」
 
 晴海のゾッとしたみたいな呟きに、半泣きで頷くしか出来んかった。
 
 
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