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第一章 おけつの危機を回避したい

六話

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「うーーん……」 
 
 寮の部屋で、おれはスマホと睨めっこしとった。
 開いとるページには、姉やんお勧めの漫画。頬を赤らめた男たちが、夕焼けに照らされた教室でエッチッチしとる。「お前が好きだ!」「俺は大好きだ!」と叫び、二人が絶頂を迎えた瞬間、おれはスマホを放り投げた。
 
「出来るか、こんなん!」
 
 何考えてんねん、姉やんは! ばふばふとベッドマットを殴りつける。
 脳裏には、被服室での通話が、ぐるぐるとよぎった――
 
 
 
 
 
「なっなっなんで、おれと晴海がBLやねん!?」
 
 完全に度肝を抜かれて、おれは叫んだ。はっとしたらしく、晴海も電話を掴み上げる。
 
「お姉さん、何考えてるんすか?!」
『落ち着いて、ちゃんと理由を話すから。あのね――この世界はBLゲーム。シゲルのキャラは、悪役モブでしょ? 破滅回避するには、このキャラ付けを取っ払うしかない』
「ど、どういうこと?」
 
 おれと晴海は、顔を見合わせる。
 
『さっき、「主人公の友達」になれば「悪役モブ」じゃなくなるって言ったわよね? つまり、ゲーム内で別のキャラ付けを持てば、「悪役モブ」の運命から解放されるってこと! 愛野くんと仲良くなれないなら、自分でキャラを変えるしかないわ』
「ほなら、なんでBL? なんか、他の個性を押し出してくとか」
 
 そう言うたら、鼻で笑われた。
 
『あんたね、モブの分際でナマ言ってんじゃないわよ。そんな個性があれば、最初からいい感じの脇役で登場できてるっつーの』
「ひ、ひどい!」
『だから、BLよ! 大したとりえが無くても、いい男と付き合えば「素敵な彼氏持ちの男」になれるっ! 普通、都合よくいい男は転がってないけど、幸いにもあんたには晴海くんがいるんだから!』
 
 姉やんは、熱い熱い、受話器が焼けそうな声で、宣言した。
 
『いい? あんたの明日からのキャラ付けは――「主人公のクラスにいる、モブカップルの彼女」よ!』
 
 

 
 
「なんでそ~なるん! しかも、そこまでやっても、まだモブやし!」
 
 ばす! と枕に頭を打ち付けた。
 ひどい、姉やん。彼女もおったことないのに、彼女になれやなんて。おれは、おけつを守りたいだけやのに、何で……。
「ううう」と呻いて、枕に突っ伏していると。
 
「なんや、これ?」
「うわあ!」
 
 おれのスマホを持って、晴海が側に立っとった。首にタオル掛けて、湯上りでほかほかしとる。おれは、慌ててスマホをひったくった。
 
「どえらい巨根やなあ。お前、巨乳好きはどうしたん?」
「ちゃうもん! これは、姉やんが読んで学べって言うからっ」
「うん、知っとる」
「なんやねん!」
 
 晴海は笑って、おれのベッドに腰掛けた。後頭部をわしわし撫でてくる。
 
「むくれとらんと、頭乾かせよ。風邪ひくで」
「うう……でも……」
「シゲル。やっと見えた光明やんか」
 
 励ますように言われて、うっと詰る。
 
「わかっとるけど……! 逆に、晴海は平気なん? おれと付き合ってるフリすんねんで?」
「平気や」
「即答!?」
  
 おれは、ぎょっと目をむいた。ほ、本気で言うてんのか、お前……!
 
「え、意味わかっとる? 付き合うって言うたら――お前、皆におれとチューとかしてると思われるんやで?」
「ええよ」
「いやいやいや……そ、そうや! おれら同室やから、毎晩パコパコしてると思われるよ? ええんか?!」
「全然かまへん」
 
 ホンマに考えてる?! って聞きたいくらい、晴海は即断即決や。おれはうろたえて、晴海の横顔を見上げた。
 
「な、なんで? なんで平気なん?」
 
 どう考えても、おれ以上に――晴海にとっては損しかない話やんか。いくらウチの学校でも、変な目で見られるかもしれへんのに。
 すると、晴海はきっぱりと言う。
 
「他ならぬお前のピンチに、俺の評判なんぞ塵芥や」
「……!」
 
 真っ黒い目に漲る気迫に、ドキッとする。
 
「……お前、そこまでおれを慮ってくれるんか……?」
「水臭い。俺とお前の仲やろ!」
「は、晴海ぃ~!」
 
 おれは感激の涙を溢し、晴海に抱きついた。お互いの背中を、バシバシと叩きあう。
 
「わかった、頑張る! お前がそこまで言うてくれるんや。おれも腹くくって、お前の彼女になるわ……!」
「そうか! ほな明日からよろしくな!」
「うん!」
 
 思いっきりギューされて、心強さに笑ろてまう。
 晴海は首にかけてたタオルで、ぐちゃぐちゃの顔拭いてくれた。優しい。
 
「晴海がおって、良かった……おけつ真っ暗やのに希望が持てるんは、お前のおかげやで?」
 
 心からの感謝を目に込めて、見つめる。
 すると――晴海は穏やかに微笑み、おけつを揉んできた。
 
「これからは、お前のケツは俺のケツ。二人で守ろうな」
「台無しや、あほ!」
 
 おれは彼女らしく、ほっぺをビンタしといた。

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