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第二部 プロムナード編
十二話
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「さて、待たせて悪かったな。メシと行くか」
「うおっ、いつの間に!」
俺は、ぎょっとした。
明るい声を上げた会長に、二人用の丸テーブルの席につかされちまってた。ふわ……と綿毛みたいに座面に下ろされ、いつ座ったんかわかんなかったし。ここまで来ると、少女漫画のヒロインてーより、少年漫画のチンピラにでもなった気分だぜ。
対面に腰かけた会長が、にこやかにメニューを差し出した。
「ほら、好きなもん頼みな」
「うす!」
革張りの立派なメニューを開いた俺は、目が点になった。
「先輩、値段が書いてねんすけど」
「そりゃお前。時価だよ、時価」
「寿司屋みてえっすね」
頷いてみたものの、脇の下に汗が滲む思いだったぜ。
なにしろ俺、財布に五百二十円しかもってねえんだわ。どうも、駅でジャンプとサンデー買ったのが痛かったな。
会長に恥を忍んで借りるにしろ、限度ってもんがあるつーか。
と、俺の考えを読んだのか、会長が目を細めて笑う。
「吉村。男がメシの値段なんか気にするなよ」
いや、それは富豪にもほどがあるだろ。
半目になってると、会長はパァン! と平手でご自分の胸を叩いた。
「お前の前にいるのは、この俺――八千草直だ。自由にできるでかい財布だと思って、好きなもん頼め」
――か、かっけえ……!?
自信満々の笑みを見せる会長に、圧倒されちまう。懐事情に裏打ちされた自信……それに心震えない男がいるだろうか。
「じゃあ、お言葉に甘えて! 俺、カツカレーランチお願いしますっ」
「よしきた!」
パチィン!
超かっこよく、指を鳴らした会長は――そっと近くにいた店員さんに目配せした。
「うめえ! いや、美味しいです」
届いたカツカレーに舌鼓を打つ。
白米の上にサックサクのカツと千切りキャベツが、たっぷり乗っかっててな。カレーは、デミグラっぽい上品な味わい。さくさくと頬張っていると、会長が頷く。
「美味いよな、ここのカツカレー」
「うす。最高っす!」
こくこく頷く俺の対面で、会長も優雅にカレーを頬張っている。スーツでカレーを物ともしねえ、カレースプーンの扱いぶりは、水面で泳ぐ白鳥見てえだった。
「吉村、序列上がったろう? 今度からは自由に食いに来れるな」
「え。ご存じなんすか」
まさか、会長ともなれば――全校生徒の序列事情を把握してるもんなのか?
そう言うと、会長は声を上げて笑った。
「そうだ――と言いてえとこだが、違う。お前は、桜沢のダチだろ?」
「おす」
「あいつが一日千秋の思いで、お前を待ってたからな。だから、お前のことは、なんとなく気になってたんだわ」
「うおっ、いつの間に!」
俺は、ぎょっとした。
明るい声を上げた会長に、二人用の丸テーブルの席につかされちまってた。ふわ……と綿毛みたいに座面に下ろされ、いつ座ったんかわかんなかったし。ここまで来ると、少女漫画のヒロインてーより、少年漫画のチンピラにでもなった気分だぜ。
対面に腰かけた会長が、にこやかにメニューを差し出した。
「ほら、好きなもん頼みな」
「うす!」
革張りの立派なメニューを開いた俺は、目が点になった。
「先輩、値段が書いてねんすけど」
「そりゃお前。時価だよ、時価」
「寿司屋みてえっすね」
頷いてみたものの、脇の下に汗が滲む思いだったぜ。
なにしろ俺、財布に五百二十円しかもってねえんだわ。どうも、駅でジャンプとサンデー買ったのが痛かったな。
会長に恥を忍んで借りるにしろ、限度ってもんがあるつーか。
と、俺の考えを読んだのか、会長が目を細めて笑う。
「吉村。男がメシの値段なんか気にするなよ」
いや、それは富豪にもほどがあるだろ。
半目になってると、会長はパァン! と平手でご自分の胸を叩いた。
「お前の前にいるのは、この俺――八千草直だ。自由にできるでかい財布だと思って、好きなもん頼め」
――か、かっけえ……!?
自信満々の笑みを見せる会長に、圧倒されちまう。懐事情に裏打ちされた自信……それに心震えない男がいるだろうか。
「じゃあ、お言葉に甘えて! 俺、カツカレーランチお願いしますっ」
「よしきた!」
パチィン!
超かっこよく、指を鳴らした会長は――そっと近くにいた店員さんに目配せした。
「うめえ! いや、美味しいです」
届いたカツカレーに舌鼓を打つ。
白米の上にサックサクのカツと千切りキャベツが、たっぷり乗っかっててな。カレーは、デミグラっぽい上品な味わい。さくさくと頬張っていると、会長が頷く。
「美味いよな、ここのカツカレー」
「うす。最高っす!」
こくこく頷く俺の対面で、会長も優雅にカレーを頬張っている。スーツでカレーを物ともしねえ、カレースプーンの扱いぶりは、水面で泳ぐ白鳥見てえだった。
「吉村、序列上がったろう? 今度からは自由に食いに来れるな」
「え。ご存じなんすか」
まさか、会長ともなれば――全校生徒の序列事情を把握してるもんなのか?
そう言うと、会長は声を上げて笑った。
「そうだ――と言いてえとこだが、違う。お前は、桜沢のダチだろ?」
「おす」
「あいつが一日千秋の思いで、お前を待ってたからな。だから、お前のことは、なんとなく気になってたんだわ」
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なつみさん、読んで下さりありがとうございます~!
わわ、楽しみにして頂いてとても感激です(*^^*)✨
ゆっくりペースですが、更新再開していきたいと思います!続きも楽しんで頂けるよう頑張りますっ
感想、ありがとうございました!
俺が払うよさん、読んで下さりありがとうございます〜!
お返事が遅くなりまして、申し訳ないです;
一気に読んで頂いて、とても嬉しいです(*^^*)面白いと言って頂けることが、何よりの活力です!ありがとうございます✨
お待ち頂いていた二部も、近日中に公開予定です!楽しんで頂けるよう、頑張ります🦾
お体にお気をつけてお過ごし下さい!
感想、ありがとうございました!
はじめまして。
三月猫さん、読んで頂いてありがとうございます!
時生のことを好きといってくださり、とても嬉しいです(o^▽^o)
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