俺は魔法使いの息子らしい。

高穂もか

文字の大きさ
上 下
239 / 239
第二部 プロムナード編

十二話

しおりを挟む
「さて、待たせて悪かったな。メシと行くか」
「うおっ、いつの間に!」
 
 俺は、ぎょっとした。
 明るい声を上げた会長に、二人用の丸テーブルの席につかされちまってた。ふわ……と綿毛みたいに座面に下ろされ、いつ座ったんかわかんなかったし。ここまで来ると、少女漫画のヒロインてーより、少年漫画のチンピラにでもなった気分だぜ。
 対面に腰かけた会長が、にこやかにメニューを差し出した。
 
「ほら、好きなもん頼みな」
「うす!」
 
 革張りの立派なメニューを開いた俺は、目が点になった。
 
「先輩、値段が書いてねんすけど」
「そりゃお前。時価だよ、時価」
「寿司屋みてえっすね」
 
 頷いてみたものの、脇の下に汗が滲む思いだったぜ。
 なにしろ俺、財布に五百二十円しかもってねえんだわ。どうも、駅でジャンプとサンデー買ったのが痛かったな。
 会長に恥を忍んで借りるにしろ、限度ってもんがあるつーか。
 と、俺の考えを読んだのか、会長が目を細めて笑う。
 
「吉村。男がメシの値段なんか気にするなよ」
 
 いや、それは富豪にもほどがあるだろ。
半目になってると、会長はパァン! と平手でご自分の胸を叩いた。
 
「お前の前にいるのは、この俺――八千草直だ。自由にできるでかい財布だと思って、好きなもん頼め」
 
 ――か、かっけえ……!?
 自信満々の笑みを見せる会長に、圧倒されちまう。懐事情に裏打ちされた自信……それに心震えない男がいるだろうか。
 
「じゃあ、お言葉に甘えて! 俺、カツカレーランチお願いしますっ」
「よしきた!」
 
 パチィン!
 超かっこよく、指を鳴らした会長は――そっと近くにいた店員さんに目配せした。
 
 
 
 
「うめえ! いや、美味しいです」
 
 届いたカツカレーに舌鼓を打つ。
 白米の上にサックサクのカツと千切りキャベツが、たっぷり乗っかっててな。カレーは、デミグラっぽい上品な味わい。さくさくと頬張っていると、会長が頷く。
 
「美味いよな、ここのカツカレー」
「うす。最高っす!」
 
 こくこく頷く俺の対面で、会長も優雅にカレーを頬張っている。スーツでカレーを物ともしねえ、カレースプーンの扱いぶりは、水面で泳ぐ白鳥見てえだった。
 
「吉村、序列上がったろう? 今度からは自由に食いに来れるな」
「え。ご存じなんすか」
 
 まさか、会長ともなれば――全校生徒の序列事情を把握してるもんなのか?
 そう言うと、会長は声を上げて笑った。
 
「そうだ――と言いてえとこだが、違う。お前は、桜沢のダチだろ?」
「おす」
「あいつが一日千秋の思いで、お前を待ってたからな。だから、お前のことは、なんとなく気になってたんだわ」
 
 
しおりを挟む
感想 14

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(14件)

なつみ
2024.01.05 なつみ
ネタバレ含む
高穂もか
2024.01.06 高穂もか

なつみさん、読んで下さりありがとうございます~!
わわ、楽しみにして頂いてとても感激です(*^^*)✨
ゆっくりペースですが、更新再開していきたいと思います!続きも楽しんで頂けるよう頑張りますっ
感想、ありがとうございました!

解除
俺が払うよ
2022.12.30 俺が払うよ
ネタバレ含む
高穂もか
2023.01.01 高穂もか

俺が払うよさん、読んで下さりありがとうございます〜!
お返事が遅くなりまして、申し訳ないです;
一気に読んで頂いて、とても嬉しいです(*^^*)面白いと言って頂けることが、何よりの活力です!ありがとうございます✨
お待ち頂いていた二部も、近日中に公開予定です!楽しんで頂けるよう、頑張ります🦾
お体にお気をつけてお過ごし下さい!
感想、ありがとうございました!

解除
三月猫
2022.09.26 三月猫
ネタバレ含む
高穂もか
2022.09.27 高穂もか

はじめまして。
三月猫さん、読んで頂いてありがとうございます!
時生のことを好きといってくださり、とても嬉しいです(o^▽^o)
もだもだな恋が大好きでして!「こんなにゆっくりで大丈夫かな?」と思ったりしたので、そう言っていただけで、感無量です✨
第二部も、準備をすすめております。続きも楽しんで読んで頂けるよう、頑張りますね!
本当に、あたたかなお心遣いと、嬉しいお言葉の数々、励みになります。
感想、ありがとうございました!

解除

あなたにおすすめの小説

いとしの生徒会長さま

もりひろ
BL
大好きな親友と楽しい高校生活を送るため、急きょアメリカから帰国した俺だけど、編入した学園は、とんでもなく変わっていた……! しかも、生徒会長になれとか言われるし。冗談じゃねえっつの!

【完結】I adore you

ひつじのめい
BL
幼馴染みの蒼はルックスはモテる要素しかないのに、性格まで良くて羨ましく思いながらも夏樹は蒼の事を1番の友達だと思っていた。 そんな時、夏樹に彼女が出来た事が引き金となり2人の関係に変化が訪れる。 ※小説家になろうさんでも公開しているものを修正しています。

学園の俺様と、辺境地の僕

そらうみ
BL
この国の三大貴族の一つであるルーン・ホワイトが、何故か僕に構ってくる。学園生活を平穏に過ごしたいだけなのに、ルーンのせいで僕は皆の注目の的となってしまった。卒業すれば関わることもなくなるのに、ルーンは一体…何を考えているんだ? 【全12話になります。よろしくお願いします。】

ある日、木から落ちたらしい。どういう状況だったのだろうか。

水鳴諒
BL
 目を覚ますとズキリと頭部が痛んだ俺は、自分が記憶喪失だと気づいた。そして風紀委員長に面倒を見てもらうことになった。(風紀委員長攻めです)

俺の親友がモテ過ぎて困る

くるむ
BL
☆完結済みです☆ 番外編として短い話を追加しました。 男子校なのに、当たり前のように毎日誰かに「好きだ」とか「付き合ってくれ」とか言われている俺の親友、結城陽翔(ゆうきはるひ) 中学の時も全く同じ状況で、女子からも男子からも追い掛け回されていたらしい。 一時は断るのも面倒くさくて、誰とも付き合っていなければそのままOKしていたらしいのだけど、それはそれでまた面倒くさくて仕方がなかったのだそうだ(ソリャソウダロ) ……と言う訳で、何を考えたのか陽翔の奴、俺に恋人のフリをしてくれと言う。 て、お前何考えてんの? 何しようとしてんの? ……てなわけで、俺は今日もこいつに振り回されています……。 美形策士×純情平凡♪

夢では溺愛騎士、現実ではただのクラスメイト

春音優月
BL
真面目でおとなしい性格の藤村歩夢は、武士と呼ばれているクラスメイトの大谷虎太郎に密かに片想いしている。 クラスではほとんど会話も交わさないのに、なぜか毎晩歩夢の夢に出てくる虎太郎。しかも夢の中での虎太郎は、歩夢を守る騎士で恋人だった。 夢では溺愛騎士、現実ではただのクラスメイト。夢と現実が交錯する片想いの行方は――。 2024.02.23〜02.27 イラスト:かもねさま

【奨励賞】恋愛感情抹消魔法で元夫への恋を消去する

SKYTRICK
BL
☆11/28完結しました。 ☆第11回BL小説大賞奨励賞受賞しました。ありがとうございます! 冷酷大元帥×元娼夫の忘れられた夫 ——「また俺を好きになるって言ったのに、嘘つき」 元娼夫で現魔術師であるエディことサラは五年ぶりに祖国・ファルンに帰国した。しかし暫しの帰郷を味わう間も無く、直後、ファルン王国軍の大元帥であるロイ・オークランスの使者が元帥命令を掲げてサラの元へやってくる。 ロイ・オークランスの名を知らぬ者は世界でもそうそういない。魔族の血を引くロイは人間から畏怖を大いに集めながらも、大将として国防戦争に打ち勝ち、たった二十九歳で大元帥として全軍のトップに立っている。 その元帥命令の内容というのは、五年前に最愛の妻を亡くしたロイを、魔族への本能的な恐怖を感じないサラが慰めろというものだった。 ロイは妻であるリネ・オークランスを亡くし、悲しみに苛まれている。あまりの辛さで『奥様』に関する記憶すら忘却してしまったらしい。半ば強引にロイの元へ連れていかれるサラは、彼に己を『サラ』と名乗る。だが、 ——「失せろ。お前のような娼夫など必要としていない」 噂通り冷酷なロイの口からは罵詈雑言が放たれた。ロイは穢らわしい娼夫を睨みつけ去ってしまう。使者らは最愛の妻を亡くしたロイを憐れむばかりで、まるでサラの様子を気にしていない。 誰も、サラこそが五年前に亡くなった『奥様』であり、最愛のその人であるとは気付いていないようだった。 しかし、最大の問題は元夫に存在を忘れられていることではない。 サラが未だにロイを愛しているという事実だ。 仕方なく、『恋愛感情抹消魔法』を己にかけることにするサラだが——…… ☆描写はありませんが、受けがモブに抱かれている示唆はあります(男娼なので) ☆お読みくださりありがとうございます。良ければ感想などいただけるとパワーになります!

思い出して欲しい二人

春色悠
BL
 喫茶店でアルバイトをしている鷹木翠(たかぎ みどり)。ある日、喫茶店に初恋の人、白河朱鳥(しらかわ あすか)が女性を伴って入ってきた。しかも朱鳥は翠の事を覚えていない様で、幼い頃の約束をずっと覚えていた翠はショックを受ける。  そして恋心を忘れようと努力するが、昔と変わったのに変わっていない朱鳥に寧ろ、どんどん惚れてしまう。  一方朱鳥は、バッチリと翠の事を覚えていた。まさか取引先との昼食を食べに行った先で、再会すると思わず、緩む頬を引き締めて翠にかっこいい所を見せようと頑張ったが、翠は朱鳥の事を覚えていない様。それでも全く愛が冷めず、今度は本当に結婚するために翠を落としにかかる。  そんな二人の、もだもだ、じれったい、さっさとくっつけ!と、言いたくなるようなラブロマンス。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。