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第二部 プロムナード編
第三話
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翌朝――俺とイノリは、学校へ戻るべくバスに乗り込んでいた。
飛び入りだってのに、二人並んでの席が空いてたのはラッキーだ。荷物も網棚にのせちまって、窓際のイノリを笑顔で振り返る。
「ふいー、ひとごこちついた。な、イノリ」
「うん……」
イノリはどんよりと頷いた。でっけえ体が丸まっていて、ちんまりしてやがる。
「おいおい、暗いぞ! 顔に斜線ついちまってるぞ」
「だって……」
半端なく落ち込んでいるイノリに、俺は苦笑した。
昨夜、須々木先輩からの電話をイノリに届けたじゃん。んで、席を外そうとしたら、「吉村くんもそこにおって」と言われて、隣で聞いてたとこによるとさー。
イノリが断った生徒会の集まりってのが、けっこう凄えパーティだったっぽいんだよ。なんでも、魔法協会のオエライサンが集まるってんで、しっかり顔合わせしといた方が、将来のためにいいらしく。
『せっかく気に入られとるんやから! 絶対来るんやで!』
「わかりました、責任もって俺が連れてくっす!」
「ええっ、トキちゃん!?」
やっぱなー。先輩にわざわざ言われちゃ、行かねえわけにはいかねえじゃん。戸惑うイノリの尻を蹴りまくり、一晩で荷造りを終わらせたってわけなんだが。
「ごめんね、トキちゃん。俺のためにカラオケ出れなくて……」
イノリは、俺まで帰ることになったのが相当こたえているらしい。マイペースに見えて、気にしいなんだよなあ。自分だって残念だろうに、俺のことまで慮ってちゃ疲れるだろうぜ。
「なーに言ってんだよ!」
「あいてっ」
しょんぼりと落ちた肩を、俺はバシンと叩く。
「俺が、お前を連れて帰るって言ったんだろ! なんにも気にすることねーってば」
「と、トキちゃん」
「カラオケは来年もするし、大丈夫! そもそもお前がいねえと、なーんも始まんないからなっ」
俺の「夏色」は、イノリの完璧なハモリあってこそだぜ。ニカッと笑うと、イノリはパアっと薄茶の目を輝かせる。
「トキちゃん……そうだねっ! 来年は一緒に歌おうね!」
「おう――ぎええ、ギブギブ!」
ぎゅうぎゅうに抱きつかれ(っていうより締め上げられ)、俺はマットよろしくイノリの背を叩く。ぱっと離れたイノリは、「えへへ」とはにかんで笑ってる。
ちょっと元気になってくれたみてえで、よかったぜ。
気を取り直した俺たちは、学園の最寄り駅までのんびりすることにした。
イノリに貰ったトッポを齧りながら、俺は訊ねる。
「そういやさー、お前。前も海棠さんと、なんだっけ……イレクション? に行ってたよな」
「あー! たぶん、それはレセプションのことだねぇ!」
「おう、それそれ」
すごい勢いで訂正され、ちとビビりつつ頷く。
「生徒会って、わりかしパーティとかあんだな。どんな感じなん?」
「えー、そうだなぁ。だいたい、普通にぶらぶら立ち歩いてぇ、メシ食ってるうちに終わってるねえ。なんか、偉そうなおっさんと話すときもあるけどー、「やー、はー」って言ってたら、勝手に満足してくしー」
「ほっほー、ドラマみてーだな」
なんか、大人の世界だぜ。イノリの奴、俺と同い年で堂々と振舞ってるなんて、かっけぇ。尊敬のまなざしで見つめていると、イノリが照れくさそうに笑う。
「トキちゃん、パーティに興味ある?」
「おう! 行ったことねーから、見てみてーつうか。それにさ、名探偵コナンみてーで、楽しそうじゃん」
「もー、トキちゃん。それだと殺人事件おきるやつー!」
わはは、と笑い合う俺たちは知らなかった。
パーティも事件も、すぐに他人事じゃなくなるってことを――
飛び入りだってのに、二人並んでの席が空いてたのはラッキーだ。荷物も網棚にのせちまって、窓際のイノリを笑顔で振り返る。
「ふいー、ひとごこちついた。な、イノリ」
「うん……」
イノリはどんよりと頷いた。でっけえ体が丸まっていて、ちんまりしてやがる。
「おいおい、暗いぞ! 顔に斜線ついちまってるぞ」
「だって……」
半端なく落ち込んでいるイノリに、俺は苦笑した。
昨夜、須々木先輩からの電話をイノリに届けたじゃん。んで、席を外そうとしたら、「吉村くんもそこにおって」と言われて、隣で聞いてたとこによるとさー。
イノリが断った生徒会の集まりってのが、けっこう凄えパーティだったっぽいんだよ。なんでも、魔法協会のオエライサンが集まるってんで、しっかり顔合わせしといた方が、将来のためにいいらしく。
『せっかく気に入られとるんやから! 絶対来るんやで!』
「わかりました、責任もって俺が連れてくっす!」
「ええっ、トキちゃん!?」
やっぱなー。先輩にわざわざ言われちゃ、行かねえわけにはいかねえじゃん。戸惑うイノリの尻を蹴りまくり、一晩で荷造りを終わらせたってわけなんだが。
「ごめんね、トキちゃん。俺のためにカラオケ出れなくて……」
イノリは、俺まで帰ることになったのが相当こたえているらしい。マイペースに見えて、気にしいなんだよなあ。自分だって残念だろうに、俺のことまで慮ってちゃ疲れるだろうぜ。
「なーに言ってんだよ!」
「あいてっ」
しょんぼりと落ちた肩を、俺はバシンと叩く。
「俺が、お前を連れて帰るって言ったんだろ! なんにも気にすることねーってば」
「と、トキちゃん」
「カラオケは来年もするし、大丈夫! そもそもお前がいねえと、なーんも始まんないからなっ」
俺の「夏色」は、イノリの完璧なハモリあってこそだぜ。ニカッと笑うと、イノリはパアっと薄茶の目を輝かせる。
「トキちゃん……そうだねっ! 来年は一緒に歌おうね!」
「おう――ぎええ、ギブギブ!」
ぎゅうぎゅうに抱きつかれ(っていうより締め上げられ)、俺はマットよろしくイノリの背を叩く。ぱっと離れたイノリは、「えへへ」とはにかんで笑ってる。
ちょっと元気になってくれたみてえで、よかったぜ。
気を取り直した俺たちは、学園の最寄り駅までのんびりすることにした。
イノリに貰ったトッポを齧りながら、俺は訊ねる。
「そういやさー、お前。前も海棠さんと、なんだっけ……イレクション? に行ってたよな」
「あー! たぶん、それはレセプションのことだねぇ!」
「おう、それそれ」
すごい勢いで訂正され、ちとビビりつつ頷く。
「生徒会って、わりかしパーティとかあんだな。どんな感じなん?」
「えー、そうだなぁ。だいたい、普通にぶらぶら立ち歩いてぇ、メシ食ってるうちに終わってるねえ。なんか、偉そうなおっさんと話すときもあるけどー、「やー、はー」って言ってたら、勝手に満足してくしー」
「ほっほー、ドラマみてーだな」
なんか、大人の世界だぜ。イノリの奴、俺と同い年で堂々と振舞ってるなんて、かっけぇ。尊敬のまなざしで見つめていると、イノリが照れくさそうに笑う。
「トキちゃん、パーティに興味ある?」
「おう! 行ったことねーから、見てみてーつうか。それにさ、名探偵コナンみてーで、楽しそうじゃん」
「もー、トキちゃん。それだと殺人事件おきるやつー!」
わはは、と笑い合う俺たちは知らなかった。
パーティも事件も、すぐに他人事じゃなくなるってことを――
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