俺は魔法使いの息子らしい。

高穂もか

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第一部 決闘大会編

二百二十四話

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 冬休みがはじまる直前、俺は退院した。
 それから、大慌てで帰り支度。
 とりあえず、貴重品と勉強道具――あと、土産があればいいからさ。リュックサックにぽんぽん詰めて、サクッと荷造りを済ませた。
 また、すぐに戻って来るから大丈夫だよな!


――そして、やってきた帰省の日。

 寮のロビーに下りていくと、でっかいツリーが飾られていた。
 そういや、もうすぐクリスマスだった。道行く生徒達も、どことなくウキウキして見える。
 と。
 でっかいモミの木の側に、亜麻色の頭を発見する。
 ツリーと同じくらい注目を集めてるのに、本人は、ぽーっとツリーに見とれてるみてぇ。
 あんまりらしくって、俺はくふふと笑う。
 
「イノリーっ、お待たせ!」

 大声で呼んで、ブンブン手を振った。

「トキちゃん!」
 
 イノリが振り返り、ぱあっと明るい笑顔になった。荷物を放り出して、走ってくる。
 俺も駆け寄ると、思いっきり抱きつかれた。

「うぎゃあ!?」
「久しぶりっ、トキちゃん!」

 まぶしい笑顔に、力が抜けて。俺も、へらっと笑い返した。
 俺たちは、今日いっしょに帰るのだ。
 
 
 ならんで歩きながら、イノリはずっとニコニコしている。

「どした?」
「んーん。一緒に歩くの、久しぶりだなあって思ってさ」
「ああ、たしかに!」

 俺はポンと手を打った。
 一緒に歩いたり、待ち合わせしたり。確かに、ここんとこ全然なかったもんな。
 ここに来るまでは、一緒にいるのが俺たちの当たり前だったから。
 離れてるのは――安全のためってわかってたけど。やっぱ、寂しかったよな。
 でも。
 俺は、コートの胸元をぎゅっと掴んだ。
 その下には、真新しいネクタイがあって――じんわりと嬉しさを噛みしめる。

 俺たちの「日常」が、やっと戻ってきたんだよな。

 隣を歩くイノリを、そっと見上げた。すっげぇ機嫌良さそうで、なんだか胸がくすぐったくなる。
 
「……なあ、イノリ! 冬休み、何する?」

 俺は、ぱっと話題を変えた。イノリは「えー?」って、弾んだ声で言う。

「やっぱ、クリスマスだなぁ。おじさんが、お祝いにチキン焼くって言ってたしー」
「マジで! やった~」
「ねぇ。あと、カラオケも行きたいなぁ」
「行こう、行こう。あ、ならさ、駅前のツリーも見に行かねえ?」
「行くー!」

 俺達は、わいわいと冬休みの楽しい計画を立てた。
 隣り合って、歩きながら。
 取り戻した「日常」を、噛みしめて――
 ずっと、こんな日が続きますように、と願いながら。






第一部 (完)
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