俺は魔法使いの息子らしい。

高穂もか

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第一部 決闘大会編

二百二十話

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「まったく、時生は危なっかしいわね」

 母ちゃんが、呆れ顔で覗き込んでいる。
 バックには、だだっ広い青空が広がっていた。
 俺は地面に寝転んでいるらしく、草の匂いがきつい。

「うー……」

 足が、じんじん痛い。
 えっと、俺。
 どうしたんだっけ?

「時生、木から落っこちたんだよ。小鳥を巣に戻そうとして……」

 父さんが、眉毛を下げて苦笑する。
 ああ、そうだ。
 木登りしようと思ったら、根っこに小鳥が落っこちてて……

「トキちゃん、だいじょうぶ?」

 俺の手を握って、イノリがぽたぽたと涙を溢している。俺は、ぎゅっと小さな手を握り返した。

「だいじょーぶだぞっ」
「うう……」
「わあ、なくなイノリー」

 ふくふくの頬っぺたに手を伸ばして、涙を拭ってやる。擦ったのか、熱を持っている。
 かわいそうで、胸がズキッと痛んだ。
 と、イノリの頭を、母ちゃんが撫でる。

「祈くん、大丈夫よ。――勇二くん」
「うん、わかった」

 父さんが、俺の足にそっと手を触れた。
 それから、歌うように「言葉」を口にする。

「――」

 ポウ……と光が溢れだした。きらきら、シャボン玉みたいな虹色の玉が、宙にぽこぽこ浮かぶ。

「わあ……」

 俺とイノリは、声を上げる。
 虹色の玉は、オレの足に吸い込まれていき――傷を癒した。

「なおったっ!」

 俺は、足をぱたぱたと動かした。もうちっとも、痛くないぞ。

「すげー、とうさん! ありがとうっ」
「ふふ。どういたしまして。でも、もう危ないことしちゃだめだよ?」
「うぐっ」

 めっと釘を刺され、俺は言葉につまる。
 すると、イノリがそっと足に触れた。

「トキちゃん、いたくない?」
「うん、へっちゃら」
「よかったぁ」

 イノリが笑ってて、俺は嬉しい。

「ねえ、おじさん。それ、おれもできる?」
「ん?」

 イノリがでっかい目で、父さんを見上げた。真剣な様子に、俺は息を飲む。

「いたいの、なおせるようになりたいのー」
「祈くん……」
「とうちゃん、おれも!」

 俺も、手を上げる。
 痛くなくなる魔法、使えるようになりたい。
 そしたら、きっとイノリは泣かなくてすむよな。
 父さんは、俺たちの勢いに目を丸くして――頷いた。

「二人には、まだ早いと思うけど――魔法の言葉を教えてあげる。……いつか、君たちが魔法使いになったら、役にたつように」

 それから、父さんは。また歌うように詠じた……







「……っ!」

 炎の中で、俺は目を見開いた。
 一瞬、気絶していたらしい。ややもすると、走馬灯だぜ。 
 てか、あつすぎて、細胞全部が煮えたぎってる。
 目、覚めたけど……依然としてヤバい。
 息ができない。
 鳶尾を、ぶん殴ってやりてえのに。
 足が、一歩も動かない――
 
「……トキちゃん!」

 イノリの声が、届いた。
 炎の轟音に負けずに、はっきり。
 見れば、リングの側。
 結界に両手をついて、イノリが叫んでいる。
 おま、試合はどうしたの。

「トキちゃん、頑張れ!」

 風紀が引き剥がそうとするのを、千切っては投げ――イノリはリングから離れようとしない。

 イノリ。

 夢と違って――もうでっかくて、イケメンで強いイノリ。
 でも、ぼろぼろ涙をこぼしていた。

「トキちゃん! トキちゃん、負けるなー……!」

 イノリの泣き声が、俺の脳をぐらりと揺らす。

「――!」

 おいこら、俺。
 イノリ泣かせちゃ、駄目だろ!

 そのとき、頭の奥でキンッと音がなる。 
 ずっと忘れていた魔法の言葉を、思いつくまま口にする……


――火はもえ、水はめぐる。

――風ははこび、土はさだめる。

――わが身に宿る四元素よ、結びつきたまえ……


 詠じるほどに、体の中でぐるぐると何か動き出す。――俺は、力を込めて叫んだ!


「そして……光よ、われを象どれ!」


 体から、ぶわっと虹色の光が溢れだした。
 そして俺は、走り出す。
 真っ赤な火をかき分けて、その度に肌は焼ける――でも、もう怯んだりしねえ。
 傷ついても、傷ついても走ってやる。
 傷なんて、どうせ治るんだ。

「うおおお!」

 虹色の光が肌から溢れ、火傷は瞬時に癒えていく。いつのまにか、足の痛みも失せていた。

――真っ赤な炎に、あの夕焼けの記憶が脳裏に過る。
 血だまりの中で、ぼろぼろになって、俺は言葉を紡いでいた。
 ああ、そうか。
 そんなことも、忘れていた。
 あの時、俺を治したのは、俺だったのか――!

  炎の中を駆け抜けて、俺は鳶尾の前に躍り出る。

「鳶尾ーーっ!!」
「――!?」

 鳶尾の目が、驚愕に見開かれる。

「くらえっ!」

 俺は、その顔面に黄金の右を叩き込んだ!

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