俺は魔法使いの息子らしい。

高穂もか

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第一部 決闘大会編

二百十七話

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 扉を潜り、俺は目を見開いた。
 そこは、外だった。
 でっかいリングと客席があって、その上にすかーんと青空が広がってる。
 
「おお……!」
 
 決闘場ってこんな広いんだなあ。校庭にあるやつと、仕組みは一緒みてえ。
 リングの周りに四本の支柱が立ってて、結界を張る風紀の生徒が立っててさ。
 あ。でも、違うとこもあった。
 サッカーボール大の水晶が、めっちゃ宙に浮かんでる。
 
「なんだろう?」
 
 近くにあるのを覗いてみて、驚く。
 中に、決闘してる生徒がいる。――しかも、どう見ても森脇だし!
 目を丸くしてたら、葛城先生が説明してくれた。
 
「その魔石は、他の決闘場の様子をライブで映している。見学しやすいようにな。お前たちの闘いの様子も、外の魔石には映っているぞ」
「へえ、すげー!」
 
 森脇は、片手に小さい本を持って闘っていた。見る限り、圧勝してるみてえ。さすが!
 リングに上がる道すがら水晶をチラ見すると、気になる試合がいっぱいある。……あの玉は、三段ロッドを扱いてる須々木先輩。こっちは、めっちゃすげえ数を相手取ってる会長。……あっ、佐賀先輩と、西浦先輩が向かい合ってる。二人、闘うのか! イノリは……
 
「おい、早く来いよ!」
「はっ、すんません!」
 
 しまった! ただでさえ待たせてるのに。
 俺は、ペコペコと頭を下げて、リングに上がった。先に上っていた鳶尾は、素知らぬ顔で手首を回してる。
 声を上げたジャッジの風紀は、よく見れば健太さんだ。
 
「ったく。ルールの確認をするぜ!」
 
 ハキハキと威勢のいい声がルールを説明する。いつもの決闘と同じで、10カウント制で、審判二人がダウンと判断したら試合終了だそうだ。
 
「異論はないな?」
「はい!」
 
 鳶尾とそろって、頷く。
 
「それでは――これより、鳶尾佑樹と吉村時生の決闘を始める!」
 
 健太さんが宣言すると、客席からパチパチと拍手の音がする。
 葛城先生が、俺たち二人を「健闘を祈る!」と激励し、リングを下りてくと――四人の風紀が結界を作動させた。
 キイイン、と甲高い音と共に、リングが結界に囲われる。



 
「もう、後戻りはできないぞ」
「そんなつもり、ねえわっ」
 
 ふんすと言い返すと、鳶尾が口の端をつり上げた。
 俺たちは距離を取りつつ、正面から睨み合う。
 
「わが身に宿る土の元素よ――わが身に岩をも砕く力を!」
 
 俺は素早く詠唱した。暗褐色の光が、拳に宿る。
 やっぱり、攻撃は最大の防御だろ!
 
「やあ!」
 
 ドドド、と突進して、俺はパンチを放った。
 鳶尾は、軽いバックステップでかわす。――その目が金色に光り、鋭いカウンターが来た。
 
「はっ!」
 
 俺は、とっさにスウェイバック。拳が掠めた鼻先が、涼しくなる。
 すると、鳶尾が重心を下げた。

 来る!

 予感した途端、凄いスピードの蹴りが俺の米神を急襲した。しかし――俺はニヤッとする。

 ビュン!

 鋭く風を切る音が響き――鳶尾が、目を見開いた。
 
「!」
 
 鳶尾の蹴りを、俺は上体を沈めてかわした。
 全身から金色の光が溢れだす。無詠唱の「風」――そのスピードを生かし、鳶尾の背後に回り込んだ。
 
「でえいっ!」
「……っ!」
 
 ドカ! と重いパンチを打ちこむ。
 鳶尾は、交差させた両腕で俺のパンチを止めていた。
 くそ、おしい!
 鳶尾は、多少驚いたらしく、俺に話しかけてくる。
 
「へえ? 無詠唱を覚えたんだ」
「ふっふっふ」
 
 反省室を出るために、必要だった無詠唱。思わぬ収穫だったぜ。
 俺は胸を反らし、ビシッと人差し指を突きつける。
 
「男子三日会わずば、カツモクして見ろだぜ!」
「はっ」
 
 鳶尾は鼻で笑って、突進してくる。
 奴も「風」を纏ってて、すげえ速さだ。――でも、さっきのイノリほどじゃない!
 俺は手のひらで、奴の激しい攻撃を凌ぎ――懐にダックインする。
 
「てやーっ!」
「っ!」
 
 ボボボボボ……!

 とにかく、ラッシュラッシュ、ラッシュを打ちまくる! 鳶尾に、攻撃の隙をあたえるもんか。
 
「ええい!」
 
 俺は体重を乗せたフックで、奴のガードの脇を狙った。

 バシッ!

 ガード体制の鳶尾が、ズザザーッと後退する。

「……!」 
「よおしっ」
 
 咄嗟にガードを上げられて、顔には当たんなかったけど――俺の無詠唱は、ちゃんと鳶尾に通用してる!
 このまま、勢いに乗って押し込むぜ! 

「うおおお!」

 俺は突進しながら、大きく拳を振りかぶった。
……と。
 鳶尾の吐き捨てるような声が聞こえた。 
 
「調子に乗るなよ、雑魚が」

 
 ボウッ!

 
「え」
 
 俺は、目を丸くする。
 振り上げた俺の腕が、真っ赤に燃え盛っていた。
 
「うわああーっ!?」
 
 俺は叫びながら、腕を振った。――何だこれ! なんで火が!?
 半狂乱で腕を振り回す俺に、鳶尾の蹴りが急襲する。
 ドゴッ! と横腹に物凄い衝撃が走った。
 
「がふっ!」
 
 めっちゃくちゃに吹っ飛ばされる。床を二、三回バウンドし、ゴロゴロ転がって。
 痛みに、視界が一瞬真っ白になる。
 ゲホゲホ咳き込む俺に、鳶尾がローキックの追撃を加えてきた。つま先が、凄まじいスピードで旋回している――
 
「うぐー!」
 
 ど根性で両腕を突っ張り、俺はトンボを切る。
 なんとか攻撃をかわし、遠くへ逃げた。
 鳶尾も、今度は追ってくる気はないらしく、悠然と構えている。
 
「はー……ひー……」
 
 転がったおかげで、腕の火は消えてる。……けど、マジ怖かったんだが。
 鳶尾は、馬鹿にしたような笑みを浮かべる。
 
「お前、ボクと闘えてるとでも思った? 残念だったな――遊びは終わりだ」
 
 奴の手のひらから、ポウ、と赤い魔法陣が現われる。
 
「……ひゅう」
 
 俺は、思わず口笛を吹いた。
 めっちゃ、やべえぜ。
 
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