210 / 239
第一部 決闘大会編
二百十話
しおりを挟む
俺は、床に転がって荒い息を吐いていた。
「はー……ひー……」
全然、開かねえよう。
あれから、ずっと殴り続けてるのに。窓は、いまだにピンシャンとして壁におさまっている。
漏れてくる光が、ほんのり赤い。もう夕方なのかもしれない。
「うぐぐ、くやしい~」
どうしても、対の元素で相殺されてしまう。俺がまとう元素を感じ取って、防御を固めてくるんだと思うんだけど……。
俺は、ゴロンと転がって、烏龍茶のボトルを掴む。ふたを外して口につけると、ポタポタと雫が落ちてきた。
「あっ。またねえや」
とっくに飲み切っちまったから、水道水入れてたんだ。
「よいしょ」って起き上がって、洗い場に向かう。
そのとき。
――……れ? おか……な。
「えっ」
どこからともなく、人の声がした。俺は、ぐるん! と壁(元ドアの)を振り返る。けど、そこは依然として壁のまま。
……気のせいかな?
すると、今度はごはん箱から「ゴトゴトッ」と物音がした。中で、なにかつっかえてるみたいな音だ。
「あっ、そういえば!」
窓を殴るのに夢中になってたから、昼メシ食ってなかったかも。俺はごはん箱に駆け寄って、蓋をパカッと開けた。
中から、ゴロン、とペットボトルが転げ落ちる。
「わっととっ」
パシッと受け止める。
中を探ると、メロンパンが一つ。ひょっとすると、これがお昼の分かもしれん。そっと腕に抱えたとき、また声がした。
――あれ? もうつかえてないぞ。勘違いか?
「!」
さっきよりも、ずっとはっきりと聞こえた。
どうも、ごはん箱から声がする。じっと箱に耳をつけていると、ガサゴソ……と電話越しみたいに音がした。
――まあいいや……持ってきてくれ。ガサ……ゴソ。うわ。コンビニのパン……でいいんだぞ、反省室なんだから……
――……そりゃ、かわいそうだよ……育ちざかりなんだし……ガサガサ。
低い男の声に、明るい響きの声がのっかって聞こえて来て、俺は目を見開く。
「あ、相田さん!」
俺は、箱に向かって叫んだ。
間違いない、この声は相田さんだ。よくわかんねえけど、今この箱の向こうに、相田さんがいる!
「相田さん! 吉村ですっ。相田さーん!」
俺は言いながら、箱に手を突っ込んだ。すると、壁に当んなくって、すぽっと奥を突き抜けた感じがある。――間違いない! 今、外と繋がってるんだ。
俺は必死に手を伸ばして、相田さんに呼びかけた。ガタガタ、とごはん箱が揺れる。ふいに指先が、何かに触った。
向こう側から熱いものが手に押し付けられる。
「あちー!」
たまらず手を引くと、コロコロ……と追っかけるように転がって来たのは、あつあつの竹皮の包みだった。恐る恐る手に取ると、ふんわりとお米のいい匂いが。
じゅる、と口の中に涎があふれる。
――……なんか、聞こえたか? ……まあ、いいか。
「はっ! 待っ!」
しまった! つい、ごはんに気を取られて。
慌ててのぞき込んだけど、遅かった。ただの箱に戻ってて、奥にお茶のボトルが転がってるだけだった。
俺は、がっくりと肩を落とす。
チャンスだったのに、うまく伝えらんなかったぞ……。
「……けど、なんで相田さんが?」
この箱、食堂に繋がってたのか? それに、反省室って聞こえたよな。
「ってことは、俺がいるのって……風紀の反省室?」
じゃあ。
この部屋の外は――学園の敷地内だったり、するんだろうか?
「や、でも。チャンネルだから、そうとも言い切れねーのか。やっぱ、リオってことも」
ううむ、と唸る。
……なんにしても、早く出るにこしたことはねえわけだけど。
俺は、竹皮の包みを、膝の上に置きなおす。かなりアツアツで、出来立てに違いない。
ぐーっ、とお腹が鳴った。
「まあ、いいや! せっかくだし、あったかいうちに食おうっ」
メシの度にあの箱が繋がるなら、まだ外に伝えるチャンスはあるんだし!
マットレスを机代わりに、包みを置いて。
紐にメモが挟んであってさ、特徴的な丸文字が言うには、『はやめに食べてください。がんばってね!』って。気遣いが胸に染みるぜ……。
竹皮をひらくと、でっかいお握りが二つも入ってる。
「わーい、いただきますっ」
かぶりつくと、ホカホカでやわらかい。
しょっぱいサケと、ほんのり甘いごはんを口いっぱいに頬張った。うめえ。じわ、と目が潤む。
うう、あったかいごはんって、最高だー。
あっという間に二つ、平らげてしまう。
「ふー……」
お茶も飲んで、ほっと一息ついた。
「相田さん、ごちそうさまでしたっ」
マジで、メシが、すっげえ美味くてさ。
はやく、みんなと……イノリとメシが食いてえなって、俄然やる気になってきた。
「よおし!」
俺は、すっくと立ちあがり、脱出作戦を再開した。
「はー……ひー……」
全然、開かねえよう。
あれから、ずっと殴り続けてるのに。窓は、いまだにピンシャンとして壁におさまっている。
漏れてくる光が、ほんのり赤い。もう夕方なのかもしれない。
「うぐぐ、くやしい~」
どうしても、対の元素で相殺されてしまう。俺がまとう元素を感じ取って、防御を固めてくるんだと思うんだけど……。
俺は、ゴロンと転がって、烏龍茶のボトルを掴む。ふたを外して口につけると、ポタポタと雫が落ちてきた。
「あっ。またねえや」
とっくに飲み切っちまったから、水道水入れてたんだ。
「よいしょ」って起き上がって、洗い場に向かう。
そのとき。
――……れ? おか……な。
「えっ」
どこからともなく、人の声がした。俺は、ぐるん! と壁(元ドアの)を振り返る。けど、そこは依然として壁のまま。
……気のせいかな?
すると、今度はごはん箱から「ゴトゴトッ」と物音がした。中で、なにかつっかえてるみたいな音だ。
「あっ、そういえば!」
窓を殴るのに夢中になってたから、昼メシ食ってなかったかも。俺はごはん箱に駆け寄って、蓋をパカッと開けた。
中から、ゴロン、とペットボトルが転げ落ちる。
「わっととっ」
パシッと受け止める。
中を探ると、メロンパンが一つ。ひょっとすると、これがお昼の分かもしれん。そっと腕に抱えたとき、また声がした。
――あれ? もうつかえてないぞ。勘違いか?
「!」
さっきよりも、ずっとはっきりと聞こえた。
どうも、ごはん箱から声がする。じっと箱に耳をつけていると、ガサゴソ……と電話越しみたいに音がした。
――まあいいや……持ってきてくれ。ガサ……ゴソ。うわ。コンビニのパン……でいいんだぞ、反省室なんだから……
――……そりゃ、かわいそうだよ……育ちざかりなんだし……ガサガサ。
低い男の声に、明るい響きの声がのっかって聞こえて来て、俺は目を見開く。
「あ、相田さん!」
俺は、箱に向かって叫んだ。
間違いない、この声は相田さんだ。よくわかんねえけど、今この箱の向こうに、相田さんがいる!
「相田さん! 吉村ですっ。相田さーん!」
俺は言いながら、箱に手を突っ込んだ。すると、壁に当んなくって、すぽっと奥を突き抜けた感じがある。――間違いない! 今、外と繋がってるんだ。
俺は必死に手を伸ばして、相田さんに呼びかけた。ガタガタ、とごはん箱が揺れる。ふいに指先が、何かに触った。
向こう側から熱いものが手に押し付けられる。
「あちー!」
たまらず手を引くと、コロコロ……と追っかけるように転がって来たのは、あつあつの竹皮の包みだった。恐る恐る手に取ると、ふんわりとお米のいい匂いが。
じゅる、と口の中に涎があふれる。
――……なんか、聞こえたか? ……まあ、いいか。
「はっ! 待っ!」
しまった! つい、ごはんに気を取られて。
慌ててのぞき込んだけど、遅かった。ただの箱に戻ってて、奥にお茶のボトルが転がってるだけだった。
俺は、がっくりと肩を落とす。
チャンスだったのに、うまく伝えらんなかったぞ……。
「……けど、なんで相田さんが?」
この箱、食堂に繋がってたのか? それに、反省室って聞こえたよな。
「ってことは、俺がいるのって……風紀の反省室?」
じゃあ。
この部屋の外は――学園の敷地内だったり、するんだろうか?
「や、でも。チャンネルだから、そうとも言い切れねーのか。やっぱ、リオってことも」
ううむ、と唸る。
……なんにしても、早く出るにこしたことはねえわけだけど。
俺は、竹皮の包みを、膝の上に置きなおす。かなりアツアツで、出来立てに違いない。
ぐーっ、とお腹が鳴った。
「まあ、いいや! せっかくだし、あったかいうちに食おうっ」
メシの度にあの箱が繋がるなら、まだ外に伝えるチャンスはあるんだし!
マットレスを机代わりに、包みを置いて。
紐にメモが挟んであってさ、特徴的な丸文字が言うには、『はやめに食べてください。がんばってね!』って。気遣いが胸に染みるぜ……。
竹皮をひらくと、でっかいお握りが二つも入ってる。
「わーい、いただきますっ」
かぶりつくと、ホカホカでやわらかい。
しょっぱいサケと、ほんのり甘いごはんを口いっぱいに頬張った。うめえ。じわ、と目が潤む。
うう、あったかいごはんって、最高だー。
あっという間に二つ、平らげてしまう。
「ふー……」
お茶も飲んで、ほっと一息ついた。
「相田さん、ごちそうさまでしたっ」
マジで、メシが、すっげえ美味くてさ。
はやく、みんなと……イノリとメシが食いてえなって、俄然やる気になってきた。
「よおし!」
俺は、すっくと立ちあがり、脱出作戦を再開した。
10
お気に入りに追加
519
あなたにおすすめの小説
いとしの生徒会長さま
もりひろ
BL
大好きな親友と楽しい高校生活を送るため、急きょアメリカから帰国した俺だけど、編入した学園は、とんでもなく変わっていた……!
しかも、生徒会長になれとか言われるし。冗談じゃねえっつの!

【完結】I adore you
ひつじのめい
BL
幼馴染みの蒼はルックスはモテる要素しかないのに、性格まで良くて羨ましく思いながらも夏樹は蒼の事を1番の友達だと思っていた。
そんな時、夏樹に彼女が出来た事が引き金となり2人の関係に変化が訪れる。
※小説家になろうさんでも公開しているものを修正しています。

学園の俺様と、辺境地の僕
そらうみ
BL
この国の三大貴族の一つであるルーン・ホワイトが、何故か僕に構ってくる。学園生活を平穏に過ごしたいだけなのに、ルーンのせいで僕は皆の注目の的となってしまった。卒業すれば関わることもなくなるのに、ルーンは一体…何を考えているんだ?
【全12話になります。よろしくお願いします。】

ある日、木から落ちたらしい。どういう状況だったのだろうか。
水鳴諒
BL
目を覚ますとズキリと頭部が痛んだ俺は、自分が記憶喪失だと気づいた。そして風紀委員長に面倒を見てもらうことになった。(風紀委員長攻めです)

俺の親友がモテ過ぎて困る
くるむ
BL
☆完結済みです☆
番外編として短い話を追加しました。
男子校なのに、当たり前のように毎日誰かに「好きだ」とか「付き合ってくれ」とか言われている俺の親友、結城陽翔(ゆうきはるひ)
中学の時も全く同じ状況で、女子からも男子からも追い掛け回されていたらしい。
一時は断るのも面倒くさくて、誰とも付き合っていなければそのままOKしていたらしいのだけど、それはそれでまた面倒くさくて仕方がなかったのだそうだ(ソリャソウダロ)
……と言う訳で、何を考えたのか陽翔の奴、俺に恋人のフリをしてくれと言う。
て、お前何考えてんの?
何しようとしてんの?
……てなわけで、俺は今日もこいつに振り回されています……。
美形策士×純情平凡♪
夢では溺愛騎士、現実ではただのクラスメイト
春音優月
BL
真面目でおとなしい性格の藤村歩夢は、武士と呼ばれているクラスメイトの大谷虎太郎に密かに片想いしている。
クラスではほとんど会話も交わさないのに、なぜか毎晩歩夢の夢に出てくる虎太郎。しかも夢の中での虎太郎は、歩夢を守る騎士で恋人だった。
夢では溺愛騎士、現実ではただのクラスメイト。夢と現実が交錯する片想いの行方は――。
2024.02.23〜02.27
イラスト:かもねさま
【奨励賞】恋愛感情抹消魔法で元夫への恋を消去する
SKYTRICK
BL
☆11/28完結しました。
☆第11回BL小説大賞奨励賞受賞しました。ありがとうございます!
冷酷大元帥×元娼夫の忘れられた夫
——「また俺を好きになるって言ったのに、嘘つき」
元娼夫で現魔術師であるエディことサラは五年ぶりに祖国・ファルンに帰国した。しかし暫しの帰郷を味わう間も無く、直後、ファルン王国軍の大元帥であるロイ・オークランスの使者が元帥命令を掲げてサラの元へやってくる。
ロイ・オークランスの名を知らぬ者は世界でもそうそういない。魔族の血を引くロイは人間から畏怖を大いに集めながらも、大将として国防戦争に打ち勝ち、たった二十九歳で大元帥として全軍のトップに立っている。
その元帥命令の内容というのは、五年前に最愛の妻を亡くしたロイを、魔族への本能的な恐怖を感じないサラが慰めろというものだった。
ロイは妻であるリネ・オークランスを亡くし、悲しみに苛まれている。あまりの辛さで『奥様』に関する記憶すら忘却してしまったらしい。半ば強引にロイの元へ連れていかれるサラは、彼に己を『サラ』と名乗る。だが、
——「失せろ。お前のような娼夫など必要としていない」
噂通り冷酷なロイの口からは罵詈雑言が放たれた。ロイは穢らわしい娼夫を睨みつけ去ってしまう。使者らは最愛の妻を亡くしたロイを憐れむばかりで、まるでサラの様子を気にしていない。
誰も、サラこそが五年前に亡くなった『奥様』であり、最愛のその人であるとは気付いていないようだった。
しかし、最大の問題は元夫に存在を忘れられていることではない。
サラが未だにロイを愛しているという事実だ。
仕方なく、『恋愛感情抹消魔法』を己にかけることにするサラだが——……
☆描写はありませんが、受けがモブに抱かれている示唆はあります(男娼なので)
☆お読みくださりありがとうございます。良ければ感想などいただけるとパワーになります!
思い出して欲しい二人
春色悠
BL
喫茶店でアルバイトをしている鷹木翠(たかぎ みどり)。ある日、喫茶店に初恋の人、白河朱鳥(しらかわ あすか)が女性を伴って入ってきた。しかも朱鳥は翠の事を覚えていない様で、幼い頃の約束をずっと覚えていた翠はショックを受ける。
そして恋心を忘れようと努力するが、昔と変わったのに変わっていない朱鳥に寧ろ、どんどん惚れてしまう。
一方朱鳥は、バッチリと翠の事を覚えていた。まさか取引先との昼食を食べに行った先で、再会すると思わず、緩む頬を引き締めて翠にかっこいい所を見せようと頑張ったが、翠は朱鳥の事を覚えていない様。それでも全く愛が冷めず、今度は本当に結婚するために翠を落としにかかる。
そんな二人の、もだもだ、じれったい、さっさとくっつけ!と、言いたくなるようなラブロマンス。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる