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第一部 決闘大会編

二百十話

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 俺は、床に転がって荒い息を吐いていた。
 
「はー……ひー……」
 
 全然、開かねえよう。
 あれから、ずっと殴り続けてるのに。窓は、いまだにピンシャンとして壁におさまっている。
 漏れてくる光が、ほんのり赤い。もう夕方なのかもしれない。
 
「うぐぐ、くやしい~」
 
 どうしても、対の元素で相殺されてしまう。俺がまとう元素を感じ取って、防御を固めてくるんだと思うんだけど……。
 俺は、ゴロンと転がって、烏龍茶のボトルを掴む。ふたを外して口につけると、ポタポタと雫が落ちてきた。
 
「あっ。またねえや」
 
 とっくに飲み切っちまったから、水道水入れてたんだ。
「よいしょ」って起き上がって、洗い場に向かう。
 そのとき。
 
 ――……れ? おか……な。
 
「えっ」
 
 どこからともなく、人の声がした。俺は、ぐるん! と壁(元ドアの)を振り返る。けど、そこは依然として壁のまま。
 ……気のせいかな? 
 すると、今度はごはん箱から「ゴトゴトッ」と物音がした。中で、なにかつっかえてるみたいな音だ。
 
「あっ、そういえば!」
 
 窓を殴るのに夢中になってたから、昼メシ食ってなかったかも。俺はごはん箱に駆け寄って、蓋をパカッと開けた。
 中から、ゴロン、とペットボトルが転げ落ちる。
 
「わっととっ」
 
 パシッと受け止める。
 中を探ると、メロンパンが一つ。ひょっとすると、これがお昼の分かもしれん。そっと腕に抱えたとき、また声がした。
 
 ――あれ? もうつかえてないぞ。勘違いか?
 
「!」
 
 さっきよりも、ずっとはっきりと聞こえた。
 どうも、ごはん箱から声がする。じっと箱に耳をつけていると、ガサゴソ……と電話越しみたいに音がした。
 
 ――まあいいや……持ってきてくれ。ガサ……ゴソ。うわ。コンビニのパン……でいいんだぞ、反省室なんだから…… 
 ――……そりゃ、かわいそうだよ……育ちざかりなんだし……ガサガサ。
 
 低い男の声に、明るい響きの声がのっかって聞こえて来て、俺は目を見開く。
 
「あ、相田さん!」
 
 俺は、箱に向かって叫んだ。
 間違いない、この声は相田さんだ。よくわかんねえけど、今この箱の向こうに、相田さんがいる!
 
「相田さん! 吉村ですっ。相田さーん!」
 
 俺は言いながら、箱に手を突っ込んだ。すると、壁に当んなくって、すぽっと奥を突き抜けた感じがある。――間違いない! 今、外と繋がってるんだ。
 俺は必死に手を伸ばして、相田さんに呼びかけた。ガタガタ、とごはん箱が揺れる。ふいに指先が、何かに触った。
 向こう側から熱いものが手に押し付けられる。
 
「あちー!」
 
 たまらず手を引くと、コロコロ……と追っかけるように転がって来たのは、あつあつの竹皮の包みだった。恐る恐る手に取ると、ふんわりとお米のいい匂いが。
 じゅる、と口の中に涎があふれる。
 
 ――……なんか、聞こえたか? ……まあ、いいか。
 
「はっ! 待っ!」
 
 しまった! つい、ごはんに気を取られて。
 慌ててのぞき込んだけど、遅かった。ただの箱に戻ってて、奥にお茶のボトルが転がってるだけだった。
 俺は、がっくりと肩を落とす。
 チャンスだったのに、うまく伝えらんなかったぞ……。
 
「……けど、なんで相田さんが?」
 
 この箱、食堂に繋がってたのか? それに、反省室って聞こえたよな。
 
「ってことは、俺がいるのって……風紀の反省室?」
 
 じゃあ。
 この部屋の外は――学園の敷地内だったり、するんだろうか?
 
「や、でも。チャンネルだから、そうとも言い切れねーのか。やっぱ、リオってことも」
 
 ううむ、と唸る。
 ……なんにしても、早く出るにこしたことはねえわけだけど。
 俺は、竹皮の包みを、膝の上に置きなおす。かなりアツアツで、出来立てに違いない。
 ぐーっ、とお腹が鳴った。
 
「まあ、いいや! せっかくだし、あったかいうちに食おうっ」
 
 メシの度にあの箱が繋がるなら、まだ外に伝えるチャンスはあるんだし!
 マットレスを机代わりに、包みを置いて。
 紐にメモが挟んであってさ、特徴的な丸文字が言うには、『はやめに食べてください。がんばってね!』って。気遣いが胸に染みるぜ……。
 竹皮をひらくと、でっかいお握りが二つも入ってる。
 
「わーい、いただきますっ」
 
 かぶりつくと、ホカホカでやわらかい。
 しょっぱいサケと、ほんのり甘いごはんを口いっぱいに頬張った。うめえ。じわ、と目が潤む。
 うう、あったかいごはんって、最高だー。
 あっという間に二つ、平らげてしまう。
 
「ふー……」
 
 お茶も飲んで、ほっと一息ついた。
 
「相田さん、ごちそうさまでしたっ」
 
 マジで、メシが、すっげえ美味くてさ。
 はやく、みんなと……イノリとメシが食いてえなって、俄然やる気になってきた。
 
「よおし!」
 
 俺は、すっくと立ちあがり、脱出作戦を再開した。
 
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