俺は魔法使いの息子らしい。

高穂もか

文字の大きさ
上 下
204 / 239
第一部 決闘大会編

二百四話

しおりを挟む
「白井さん、どうか頭を上げてください」
「……吉村くん」
「話してくださって、ありがとうございます」
 
 白井さんの目が、苦し気な色を見せる。俺は、ニカッと笑った。
 スッキリ爽快! って言うには、複雑な問題かもしんねえけど。だからこそ、真っすぐに話してくれたことが、ありがたかった。
 
「俺はこのとおり、大丈夫です。だからもう、気にしないで下さい」
「……」
 
 ぐっと拳を握って見せると、白井さんは目を伏せて頷いてくれた。
 そのとき。
 ベンチに座る俺たちの足元を、さあ……と風が吹きぬける。くるくると枯れ葉が回りながら飛んでいった。
 そういや、転入したのは紅葉には早い頃だっけ。
 いつのまにか、時って過ぎてるもんなのな。 
 
「……これだけは、言わせて欲しい。俺は、きみと桜沢に危害を加えるつもりはない。今までも、これからも」
「や、そんな――」
 
「気にしないでくれ」って言おうとして、白井さんに目で制される。それで、これは男の約束ってやつだって、わかって。俺も、黙って深く頷いた。
 
「ありがとう」
「いえ。こちらこそっす」
 
 白井さんがかすかに笑って、腕時計に目を落とした。
 
「遅くなってしまったね。そろそろ聴取に行こうか」
「はい」
 
 俺たちは、和やかに風紀室へ歩きだした。
 

 
 
 
 廊下には、すっかり西日が差していた。すれ違う生徒をかわしつつ、白井さんの後をついて行く。
 
「あの、白井さん。二見、どうしてるかご存じですか?」
 
「真帆か。――俺は、今日はまだ会えていないけど……」
 
 振り返った白井さんは、合点が行ったように頷いた。
 
「そうか。君は、真帆のことを気にかけていたものな。大丈夫、牢屋みたいなところじゃないから」
「すんません。大丈夫だって、茶嶋先輩からも聞いたんすけど。どうしても気になって」
 
 どよんと俯くと、白井さんは「なら」と声を上げる。
 
「一度、面会に行ってみるか?」
「えっ?」
 
 意外な申し出に、俺はぽかんと大口を開けた。
 
「会わせてもらえるんですか?!」
「ああ。処罰の程度にもよるけど――条件付きで面会は許されているよ。真帆の場合、委員の立ち合いがあれば問題はないと思う。行ってみるか?」
「ぜひ! お願いしますっ」
 
 がばぁと頭を下げると、白井さんは笑って「こっちだよ」と進路を変更した。
 俺は、わくわくしながら、その後に続いた。
 
「嬉しそうだね、吉村くん」
「はいっ。最後にあったとき、話も途中だったし……」

 何か掴んだみたいだった二見。まさか、あのときはこんなことになると思わなかったから……
 色々、話せたらいいな。

「そうか。真帆も、喜ぶんじゃないかな。君が行ったら」
「へへ。白井さんは、二見に会われたんすか?」
「うん。元気だったよ」

 白井さんは、前を向いたまま頷いた。俺は、ホッと胸を撫で下ろす。

「よかったです。どうでしたか、二見の様子……」
「そうだなあ」

 白井さんは、くるりと俺を振り返る。

「すごく、怒っていた。自分のたくらみが、うまくいかなかったから」
「え?」 

 えっ。
 たくらみ?
 
しおりを挟む
感想 14

あなたにおすすめの小説

六日の菖蒲

あこ
BL
突然一方的に別れを告げられた紫はその後、理由を目の当たりにする。 落ち込んで行く紫を見ていた萌葱は、図らずも自分と向き合う事になった。 ▷ 王道?全寮制学園ものっぽい学園が舞台です。 ▷ 同室の紫と萌葱を中心にその脇でアンチ王道な展開ですが、アンチの影は薄め(のはず) ▷ 身代わりにされてた受けが幸せになるまで、が目標。 ▷ 見た目不良な萌葱は不良ではありません。見た目だけ。そして世話焼き(紫限定)です。 ▷ 紫はのほほん健気な普通顔です。でも雰囲気補正でちょっと可愛く見えます。 ▷ 章や作品タイトルの頭に『★』があるものは、個人サイトでリクエストしていただいたものです。こちらではいただいたリクエスト内容やお礼などの後書きを省略させていただいています。

いとしの生徒会長さま

もりひろ
BL
大好きな親友と楽しい高校生活を送るため、急きょアメリカから帰国した俺だけど、編入した学園は、とんでもなく変わっていた……! しかも、生徒会長になれとか言われるし。冗談じゃねえっつの!

鬼は精霊の子を愛でる

林 業
BL
鬼人のモリオンは一族から迫害されて村を出た。 そんなときに出会った、山で暮らしていたセレスタイトと暮らすこととなった。 何時からか恋人として暮らすように。 そんな二人は穏やかに生きていく。

【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】

彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』 高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。 その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。 そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?

僕のために、忘れていて

ことわ子
BL
男子高校生のリュージは事故に遭い、最近の記憶を無くしてしまった。しかし、無くしたのは最近の記憶で家族や友人のことは覚えており、別段困ることは無いと思っていた。ある一点、全く記憶にない人物、黒咲アキが自分の恋人だと訪ねてくるまでは────

少年神官系勇者―異世界から帰還する―

mono-zo
ファンタジー
幼くして異世界に消えた主人公、帰ってきたがそこは日本、家なし・金なし・免許なし・職歴なし・常識なし・そもそも未成年、無い無い尽くしでどう生きる? 別サイトにて無名から投稿開始して100日以内に100万PV達成感謝✨ この作品は「カクヨム」にも掲載しています。(先行) この作品は「小説家になろう」にも掲載しています。 この作品は「ノベルアップ+」にも掲載しています。 この作品は「エブリスタ」にも掲載しています。 この作品は「pixiv」にも掲載しています。

光る穴に落ちたら、そこは異世界でした。

みぃ
BL
自宅マンションへ帰る途中の道に淡い光を見つけ、なに? と確かめるために近づいてみると気付けば落ちていて、ぽん、と異世界に放り出された大学生が、年下の騎士に拾われる話。 生活脳力のある主人公が、生活能力のない年下騎士の抜けてるとこや、美しく格好いいのにかわいいってなんだ!? とギャップにもだえながら、ゆるく仲良く暮らしていきます。 何もかも、ふわふわゆるゆる。ですが、描写はなくても主人公は受け、騎士は攻めです。

夢では溺愛騎士、現実ではただのクラスメイト

春音優月
BL
真面目でおとなしい性格の藤村歩夢は、武士と呼ばれているクラスメイトの大谷虎太郎に密かに片想いしている。 クラスではほとんど会話も交わさないのに、なぜか毎晩歩夢の夢に出てくる虎太郎。しかも夢の中での虎太郎は、歩夢を守る騎士で恋人だった。 夢では溺愛騎士、現実ではただのクラスメイト。夢と現実が交錯する片想いの行方は――。 2024.02.23〜02.27 イラスト:かもねさま

処理中です...