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第一部 決闘大会編
二百四話
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「白井さん、どうか頭を上げてください」
「……吉村くん」
「話してくださって、ありがとうございます」
白井さんの目が、苦し気な色を見せる。俺は、ニカッと笑った。
スッキリ爽快! って言うには、複雑な問題かもしんねえけど。だからこそ、真っすぐに話してくれたことが、ありがたかった。
「俺はこのとおり、大丈夫です。だからもう、気にしないで下さい」
「……」
ぐっと拳を握って見せると、白井さんは目を伏せて頷いてくれた。
そのとき。
ベンチに座る俺たちの足元を、さあ……と風が吹きぬける。くるくると枯れ葉が回りながら飛んでいった。
そういや、転入したのは紅葉には早い頃だっけ。
いつのまにか、時って過ぎてるもんなのな。
「……これだけは、言わせて欲しい。俺は、きみと桜沢に危害を加えるつもりはない。今までも、これからも」
「や、そんな――」
「気にしないでくれ」って言おうとして、白井さんに目で制される。それで、これは男の約束ってやつだって、わかって。俺も、黙って深く頷いた。
「ありがとう」
「いえ。こちらこそっす」
白井さんがかすかに笑って、腕時計に目を落とした。
「遅くなってしまったね。そろそろ聴取に行こうか」
「はい」
俺たちは、和やかに風紀室へ歩きだした。
廊下には、すっかり西日が差していた。すれ違う生徒をかわしつつ、白井さんの後をついて行く。
「あの、白井さん。二見、どうしてるかご存じですか?」
「真帆か。――俺は、今日はまだ会えていないけど……」
振り返った白井さんは、合点が行ったように頷いた。
「そうか。君は、真帆のことを気にかけていたものな。大丈夫、牢屋みたいなところじゃないから」
「すんません。大丈夫だって、茶嶋先輩からも聞いたんすけど。どうしても気になって」
どよんと俯くと、白井さんは「なら」と声を上げる。
「一度、面会に行ってみるか?」
「えっ?」
意外な申し出に、俺はぽかんと大口を開けた。
「会わせてもらえるんですか?!」
「ああ。処罰の程度にもよるけど――条件付きで面会は許されているよ。真帆の場合、委員の立ち合いがあれば問題はないと思う。行ってみるか?」
「ぜひ! お願いしますっ」
がばぁと頭を下げると、白井さんは笑って「こっちだよ」と進路を変更した。
俺は、わくわくしながら、その後に続いた。
「嬉しそうだね、吉村くん」
「はいっ。最後にあったとき、話も途中だったし……」
何か掴んだみたいだった二見。まさか、あのときはこんなことになると思わなかったから……
色々、話せたらいいな。
「そうか。真帆も、喜ぶんじゃないかな。君が行ったら」
「へへ。白井さんは、二見に会われたんすか?」
「うん。元気だったよ」
白井さんは、前を向いたまま頷いた。俺は、ホッと胸を撫で下ろす。
「よかったです。どうでしたか、二見の様子……」
「そうだなあ」
白井さんは、くるりと俺を振り返る。
「すごく、怒っていた。自分のたくらみが、うまくいかなかったから」
「え?」
えっ。
たくらみ?
「……吉村くん」
「話してくださって、ありがとうございます」
白井さんの目が、苦し気な色を見せる。俺は、ニカッと笑った。
スッキリ爽快! って言うには、複雑な問題かもしんねえけど。だからこそ、真っすぐに話してくれたことが、ありがたかった。
「俺はこのとおり、大丈夫です。だからもう、気にしないで下さい」
「……」
ぐっと拳を握って見せると、白井さんは目を伏せて頷いてくれた。
そのとき。
ベンチに座る俺たちの足元を、さあ……と風が吹きぬける。くるくると枯れ葉が回りながら飛んでいった。
そういや、転入したのは紅葉には早い頃だっけ。
いつのまにか、時って過ぎてるもんなのな。
「……これだけは、言わせて欲しい。俺は、きみと桜沢に危害を加えるつもりはない。今までも、これからも」
「や、そんな――」
「気にしないでくれ」って言おうとして、白井さんに目で制される。それで、これは男の約束ってやつだって、わかって。俺も、黙って深く頷いた。
「ありがとう」
「いえ。こちらこそっす」
白井さんがかすかに笑って、腕時計に目を落とした。
「遅くなってしまったね。そろそろ聴取に行こうか」
「はい」
俺たちは、和やかに風紀室へ歩きだした。
廊下には、すっかり西日が差していた。すれ違う生徒をかわしつつ、白井さんの後をついて行く。
「あの、白井さん。二見、どうしてるかご存じですか?」
「真帆か。――俺は、今日はまだ会えていないけど……」
振り返った白井さんは、合点が行ったように頷いた。
「そうか。君は、真帆のことを気にかけていたものな。大丈夫、牢屋みたいなところじゃないから」
「すんません。大丈夫だって、茶嶋先輩からも聞いたんすけど。どうしても気になって」
どよんと俯くと、白井さんは「なら」と声を上げる。
「一度、面会に行ってみるか?」
「えっ?」
意外な申し出に、俺はぽかんと大口を開けた。
「会わせてもらえるんですか?!」
「ああ。処罰の程度にもよるけど――条件付きで面会は許されているよ。真帆の場合、委員の立ち合いがあれば問題はないと思う。行ってみるか?」
「ぜひ! お願いしますっ」
がばぁと頭を下げると、白井さんは笑って「こっちだよ」と進路を変更した。
俺は、わくわくしながら、その後に続いた。
「嬉しそうだね、吉村くん」
「はいっ。最後にあったとき、話も途中だったし……」
何か掴んだみたいだった二見。まさか、あのときはこんなことになると思わなかったから……
色々、話せたらいいな。
「そうか。真帆も、喜ぶんじゃないかな。君が行ったら」
「へへ。白井さんは、二見に会われたんすか?」
「うん。元気だったよ」
白井さんは、前を向いたまま頷いた。俺は、ホッと胸を撫で下ろす。
「よかったです。どうでしたか、二見の様子……」
「そうだなあ」
白井さんは、くるりと俺を振り返る。
「すごく、怒っていた。自分のたくらみが、うまくいかなかったから」
「え?」
えっ。
たくらみ?
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