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第一部 決闘大会編
二百三話
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白井さんは、生徒手帳を取りだすと、中を開いて見せる。
そこには、アルバムの中にあった、白井さんとその幼馴染の2ショット写真があった。
「俺と水脈は、母親同士が姉妹で――要するに従兄なんだ。母親同士が、昔からとても仲が良くってさ。家も隣で、水脈とはそれこそ、幼馴染と言うよりは兄弟みたいに育ってきた」
「そうなんですか?」
白井さんは、前を向いたまま頷いた。
「水脈は、小さい頃から繊細で、何かあると熱を出していた。その体質のせいで、7歳で魔法が発現しても学校に通うことは難しくてね。だから、ずっと通信教育で学ばなければいけなかった。――水脈は、からだは弱いけど自尊心は人一倍に高かったからな。よく悔しがって泣いていたよ」
――早瀬くん、なんで僕だけそんなとこに行かなきゃなんないの?
通信クラスにも、週一回必ず登校日があった。そのとき、水脈はいつも布団にくるまって、「行きたくない」って泣いたんだ。
そういう時に連れ出すのは、いつも俺の役目だった。
毎週、水脈の登校日は学園から家に帰って、水脈を連れて戻るんだ。
苦痛に思ったことは無かったよ。兄弟って、そういうものだよな?
状況が変わり始めたのは、水脈が小等部の三年になった頃だ。
水脈のクラスに、桜沢がやってきたんだ。
通信クラスで鬱憤を溜めていた水脈にとって、彼は劣等感を払拭してくれる存在だった。水脈は、すぐに桜沢に夢中になった。
――早瀬くん、聞いて。桜沢くんって同級生の誰よりもできるって、先生言ってたんだよ!
――今日ね、桜沢くんが消しゴム貸してくれたの。クールなのに優しいんだ。
水脈は、桜沢に会うために、登校を嫌がらなくなった。健康になるように、懸命に努力をして。
高等部の一年に上がるころには、一般生徒として入学できるまでになったんだ。
その原動力は「桜沢と友達になること」だと、水脈は嬉しそうに話していた。
水脈は、ずっと同じクラスだったのに、桜沢に声を掛けなかったらしい……
――早瀬くんには、わからないかもだけど。素敵な人に話しかけるには、自分もちゃんとしてなきゃダメなの。
と、水脈は言っていたっけ。ただ、うまくいって欲しいと思った。
けれど――転入してきた桜沢の側には、仲の良い幼馴染みがいたんだ、
水脈は、日に日に調子が悪くなって――俺は、見ていられなくて。
あの日、君に直談判しに行ったんだ。
「水脈のために、桜沢くんと距離を置いてくれないか」ってね。
もちろん、君は「できない」と言った。
当たり前だよ。他人に言われて、友人付き合いを辞めるなんてありえない。
でも、水脈や桜沢を説得するより、君に引いてもらうのが一番可能性があると思った。――本当に、卑怯な真似をして申し訳ない。
すまない、話を戻そう。
この学園に水脈が来てから、俺も風紀の仕事で水脈に余り構えていなくて。
水脈のことを、ちゃんと見れていなかったのかもしれない。
水脈が、君と俺が話しているのを見ていたことも。
評判の悪い連中と、交流を持っていることも。
把握はしていても、わかっていなかった。
……水脈が仲間と組んで、君を暴行したのだと聞いて、俺は後悔した。
苛めを行っていたと知ったのも、事件の後で。
俺は、何も知らなかった。
水脈が退学になって、俺は自分が間違いを犯したと気づいたんだ。
白井さんは一息に話すと、苦し気に息を吐いた。
俺は、なんて言っていいのか――ただ、じっと黙って聞いていた。
「俺がすべきことは、君を説得することじゃなくて……もっと他にあったはずだと――そう思ったんだ。だから、事件の後――君と桜沢の警護を申し出た」
「えっ」
俺は、目を丸くした。白井さんは、自嘲するように笑って見せる。
「俺の罪を償うには、それしかないと思ったんだ」
「けど……どうして。俺、白井さんに親切にしてもらう、理由がないような……」
「誤解しないでほしい。水脈のことで、君を恨んだことはないよ。あれは、仕方がなかった。ただ、水脈を諌めなかった俺には、責任がある」
そこで白井さんは、がばりと頭を下げた。
「本当に、すまなかった」
そこには、アルバムの中にあった、白井さんとその幼馴染の2ショット写真があった。
「俺と水脈は、母親同士が姉妹で――要するに従兄なんだ。母親同士が、昔からとても仲が良くってさ。家も隣で、水脈とはそれこそ、幼馴染と言うよりは兄弟みたいに育ってきた」
「そうなんですか?」
白井さんは、前を向いたまま頷いた。
「水脈は、小さい頃から繊細で、何かあると熱を出していた。その体質のせいで、7歳で魔法が発現しても学校に通うことは難しくてね。だから、ずっと通信教育で学ばなければいけなかった。――水脈は、からだは弱いけど自尊心は人一倍に高かったからな。よく悔しがって泣いていたよ」
――早瀬くん、なんで僕だけそんなとこに行かなきゃなんないの?
通信クラスにも、週一回必ず登校日があった。そのとき、水脈はいつも布団にくるまって、「行きたくない」って泣いたんだ。
そういう時に連れ出すのは、いつも俺の役目だった。
毎週、水脈の登校日は学園から家に帰って、水脈を連れて戻るんだ。
苦痛に思ったことは無かったよ。兄弟って、そういうものだよな?
状況が変わり始めたのは、水脈が小等部の三年になった頃だ。
水脈のクラスに、桜沢がやってきたんだ。
通信クラスで鬱憤を溜めていた水脈にとって、彼は劣等感を払拭してくれる存在だった。水脈は、すぐに桜沢に夢中になった。
――早瀬くん、聞いて。桜沢くんって同級生の誰よりもできるって、先生言ってたんだよ!
――今日ね、桜沢くんが消しゴム貸してくれたの。クールなのに優しいんだ。
水脈は、桜沢に会うために、登校を嫌がらなくなった。健康になるように、懸命に努力をして。
高等部の一年に上がるころには、一般生徒として入学できるまでになったんだ。
その原動力は「桜沢と友達になること」だと、水脈は嬉しそうに話していた。
水脈は、ずっと同じクラスだったのに、桜沢に声を掛けなかったらしい……
――早瀬くんには、わからないかもだけど。素敵な人に話しかけるには、自分もちゃんとしてなきゃダメなの。
と、水脈は言っていたっけ。ただ、うまくいって欲しいと思った。
けれど――転入してきた桜沢の側には、仲の良い幼馴染みがいたんだ、
水脈は、日に日に調子が悪くなって――俺は、見ていられなくて。
あの日、君に直談判しに行ったんだ。
「水脈のために、桜沢くんと距離を置いてくれないか」ってね。
もちろん、君は「できない」と言った。
当たり前だよ。他人に言われて、友人付き合いを辞めるなんてありえない。
でも、水脈や桜沢を説得するより、君に引いてもらうのが一番可能性があると思った。――本当に、卑怯な真似をして申し訳ない。
すまない、話を戻そう。
この学園に水脈が来てから、俺も風紀の仕事で水脈に余り構えていなくて。
水脈のことを、ちゃんと見れていなかったのかもしれない。
水脈が、君と俺が話しているのを見ていたことも。
評判の悪い連中と、交流を持っていることも。
把握はしていても、わかっていなかった。
……水脈が仲間と組んで、君を暴行したのだと聞いて、俺は後悔した。
苛めを行っていたと知ったのも、事件の後で。
俺は、何も知らなかった。
水脈が退学になって、俺は自分が間違いを犯したと気づいたんだ。
白井さんは一息に話すと、苦し気に息を吐いた。
俺は、なんて言っていいのか――ただ、じっと黙って聞いていた。
「俺がすべきことは、君を説得することじゃなくて……もっと他にあったはずだと――そう思ったんだ。だから、事件の後――君と桜沢の警護を申し出た」
「えっ」
俺は、目を丸くした。白井さんは、自嘲するように笑って見せる。
「俺の罪を償うには、それしかないと思ったんだ」
「けど……どうして。俺、白井さんに親切にしてもらう、理由がないような……」
「誤解しないでほしい。水脈のことで、君を恨んだことはないよ。あれは、仕方がなかった。ただ、水脈を諌めなかった俺には、責任がある」
そこで白井さんは、がばりと頭を下げた。
「本当に、すまなかった」
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