俺は魔法使いの息子らしい。

高穂もか

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第一部 決闘大会編

百九十九話 六月十七日(午前零時五十二分)加筆完了しました!

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 それから、俺たちはメシを食うことにしたんだが。

「あり?」 
 
 パンの袋を開けながら、俺はふと違和感に気づいた。
 
「イノリ、なんでブレザー着てんの? 髪も結わえてんの、珍しいよな」
 
 指をさすと、イノリは「あぁ」と苦笑して。
 
「今日ね、これから偉い人と会うらしーんだぁ。だから、ちゃんとしろって、海棠くんがうるさくて」
「そっか。大変だなあ」
「週末きたら、終わるしねー。あとひとがんばりー」

 イノリは、ブイと指を立てた。 
 聞けば、ちょうど五限くらいから、説明会が始まるらしい。理事長とか、OBとかが来るんだって。聞くだけで、肩がこりそうだぜ。
 生徒会って、マジで激務だよな。
 しみじみ思っていると、イノリは真面目な顔になって言う。
 
「でね? 生徒会も風紀も、主だった人は行くみたいだからー。トキちゃん、気をつけて」
「おう、イノリもな」
 
 びっと親指を立てる。でも、イノリはなんとなく、不安そうな顔をしていて。

――気をつけてね……

 その顔が――夢でみたイノリと重なって、ハッとする。
 そうだ。あのときは、結局えらいことになったんだよな。
 それからも、何度もこういうやり取りはしてるけど。もしかしたらイノリは、いつも不安だったかもしれねえ。

「!」

 気づけば「大丈夫だぞ」って、イノリの手をギュッと握ってた。

「トキちゃん」

 イノリは、目を軽く見開いた。俺は、ニカッと笑いかける。
 
「イノリ。また明日、一緒に昼メシ食おうなっ」
「……うんっ」
 
 するとイノリは、嬉しそうに笑ってくれた。
 
 





 手を振るイノリを見送って、午後の授業。


「ふんふーん」

 気分一新した俺は、薬作りに精を出していた。
 イノリが回復魔法かけてくれたおかげで、頭痛はすっかり大丈夫。
 いやー、体調の悪さってメンタルに直結してんだな。具合が良くなったいま、すげぇ「何とかなるだろ!」って気持ちが湧いてきてるから。

「吉村くん、調子はどうかな?」

 長い髪をハーフアップにした姫子先生が、俺の鍋を覗き込む。

「はい! 緑のアクが取れました」
「順調ね。――では、そろそろ次の工程に進んでみましょう」

 姫子先生は、軽やかに教壇へ歩いていき、黒板に向かった。
 作業工程の一つを、赤いチョークで囲う。
 それは『魔力を注ぐ』という、今までなかった工程だ。

「本日は、三学期で習う薬術の先取りをしましょう。――皆さんにはこれまで、魔法薬を作るための基礎の作業を学んでもらいました」

 先生は、ナイフを手にとって笑う。

「まず、道具や魔法素材に慣れてもらって。適切な処理や、煮込みかたを知れたよね? 魔法薬術は、ここからが本番ですよー」

 そう言って、先生は自分の鍋の側へ寄った。先生の鍋は、授業開始前から淡いピンク色の湯気を吐いている。

「魔法薬は――元素を含有する魔法素材を組み合わせることで、使用者の肉体の元素に働きかける効果を持たせたもの。そして、素材の効果を活性化させる為に、魔力を注入する。今日は、回復薬ですから……吉村くん、どの魔力を注ぎ込みますか?」
「あっ、はい!」

 慌てて立ち上がったものの――俺は首を捻った。

「えーと。消毒もかねて、火ですか?」
「うーん、惜しい! 鳶尾くん、どうですか」
「はい。――風・火・水・土の全てです」

 鳶尾は、スラスラと答えた。姫子先生は、「うん!」と大きく頷いて。

「正解です。回復薬の材料は、これと言って決まってないよね。それは、風火水土の四属性を、一鍋に納めれば完成するからなの」

 ど、どういうこと?
 ともかく、せっせとノートに書き取る。先生の説明は続いた。
 しかし、今までは料理してる気分だったけど、一気に魔法使いの世界だぜ。

「――と言うわけですね。皆さん、自分の鍋に魔力を込めてみてください。四元素のどれからでもいいですが、強さは等しくなるようにね」
「先生、質問いいですか?」
「はい、吉村くん」
「等しいかどうか、どうやったらわかりますか?」

 質問すると、誰かが「ぶはっ」と噴き出した。何でい。
 先生は、にっこり笑う。

「それは、感覚っていうか――勘かな?」
「かん」

 鸚鵡返しにすると、先生はきょるん、と人差し指をたてる。

「でも、成功はわかりやすいですよ。回復薬が上手くクラスアップしますと、虹色の霧が出るからね」
「へーっ」

 虹色の霧か!
 そういや、さっきイノリがかけてくれた魔法――きらきらした虹色で、あれも綺麗だった。
 よし。いいイメージが残ってるから、うまく行きそうな気がしてきたぞ。

「では、皆さん頑張ってください。先生は、教室中まわりますから、困ったら声かけてねー」

 姫子先生がポンと手を叩くと、みんな自分の鍋に取りついた。
 俺も、さっき出来上がったばかりの回復薬(レベル1)に手を翳す。
 手のひらに、ほわほわと湯気を感じる。――最初は、風にしようかな。
 俺は目を閉じて、意識を集中すると、呪文を詠唱し始める。

「我が身に宿る、風の元素よ――」

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