俺は魔法使いの息子らしい。

高穂もか

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第一部 決闘大会編

百九十四話

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 魔法格闘の授業は、レポートの直しも終わって、今日は久々の実技だ。俺たちはジャージに着替えて、武道館に集まった。
 
「さて。ついに決闘大会も、週末に迫った」
 
 葛城先生は、咳払いして生徒達の注意を引いた。
 
「今まで君達には、魔法格闘の基礎と言うことで「げんそくん」を使っての模擬戦をやってもらった。まずは、対人格闘をする前に、基本的な動きを学んでほしかったのでな。しかし、」
 
 先生は、ぐるりと生徒達の顔を見回す。
 
「決闘大会では、一人一度は必ず戦わねばならない。対人格闘が初めての生徒も、いることだろう。――そこで、今日の授業では対人格闘を体験してもらおうと思う」

 先生の言葉に、ザワザワとクラスメイトが騒ぎだした。

「やった、本番前にやっときたかったんだよ」「久々だもんな」「てか、もっと早よしてほしかった」「まあ、俺は肩慣らし程度で」「えーっ」「もう、ぶっつけの一回だけでいい……」

 みんな、思い思いの感想を言っている。
 てか、聞いてるところによると、決闘したことねぇやつもいるんだな。俺だけかと思ってたから、なんか嬉しいぜ。
 と、葛城先生が、パン! と手をたたく。

「静かに!――というわけで、トップバッターをやりたいものはないか? いなければ、こちらで指名するが」

「――先生」

 先生が言い終えたとたん、鳶尾が挙手をした。

「ボクがやります」

 おおっ、とどよめきがあがる。葛城先生は、「うむ」と満足そうに頷いて言う。

「よし。鳶尾、相手を指名しろ。手を上げたやつの特権だ」
「では――吉村を指名します」
「へ?」

 突然、名前を呼ばれて、俺はきょとんとした。クラス中の視線が、俺に突き刺さっている。
 え、俺?


「なるほど。お前達は、決闘大会の対戦相手だから、ちょうどいいかもな。――吉村、いけるな?」
「うす!」

 よくわかんなくても、返事は腹から思いっきりがモットーだぜ。
 まあ、確かに決闘、したことねえし。いっぺんくらい、練習試合しときてえと思ってたからな。
 促されるまま、鳶尾と二人前へでる。

「あくまで格闘ということで、魔法は魔力コントロールまで。10カウント制を採用するが、ダウンは一回で試合終了とする」
「わかりました」
「うす!」

 四角いリングで、鳶尾と睨み会う。なんでこいつが、俺を指名したかわかんねーけど。
 こんなチャンス、そうないし。クラストップの実力ってやつ、見せてもらうぜ!

「では、始め!」

 葛城先生が、高く上げた手を振り下ろした。
 俺は、さっそく詠唱する。

「我が身に宿る、風の元素よ。我が身をはやてのごとくせよ!」

 ふわ、と体が軽くなる。――鳶尾を見れば、軽く構えたまま、まだ詠唱していない。

「先手必勝!」

 俺は、鳶尾にギュン、と直進した。一瞬で目前に躍り出て、パンチを放つ。

「たあっ!」

 ――パンッ!

 俺は、目を見開く。俺の拳を、鳶尾が軽々受け止めていた。奴の全身が、淡い褐色に光っている。

「わあっ?!」

 拳を打ち落とされた直後、鋭い肘が強襲してきた。なんとか転がってかわす。――すると、鳶尾が重心を低く下げ、脚を振り上げる。
 思いッくそ、蹴られる!――俺は、とっさに叫んだ。

「我が身に宿る土の元素、我が身を鋼鉄に!」

 カッ! と全身が暗褐色に光る。――打撃を、これでなんとか防ぐんだ。ぎゅっ、と体を丸めて、堪え――。

――ドンッ!

「……かふっ!」

 
 腹に爪先が突き刺さって、息が詰まった。
 ビューン、とめちゃくちゃ吹っ飛ばされて、武道館の壁にぶち当たる。

「うぐっ!」

 背中がパーンッて破裂したんじゃね? ってくらい痛い。視界が、ミルク流したみたいにもやもやしてる。
 それでも、鳶尾が近づいてくるのは見えた。

「ぐぬ……」

 なんとか、動け、動け、動け――必死に身動ごうとしてるのに、指先ひとつ動かない。
 とうとう目前にきた鳶尾が、爪先で俺を仰向けにする。

「『参りました』は?」
「……!」
「早く言えよ。もう勝負はついたって、わからないかなァ?」

 子どもに言い聞かすように言われて、むかっ腹がたつ。きっ、と睨みつけると鳶尾は不愉快そうに眉根を寄せた。

「あ、そう。なら、痛い目を見るんだな!」

 鳶尾の暗褐色の拳が振り上げられ――そこで、俺は限界がきて。ふっつりと気を失ってしまった。







「――」


「……は、構わない。だが――」

 なんか、葛城先生の声がする。誰かと話してるみたいだ。……細目を開けると、真っ白い天井が見えた。ここは、

「いむしつ?」

 呟いた途端、シャッ、と鋭くカーテンが開いた。予想通り、葛城先生が顔を出す。

「吉村、目が覚めたか」
「うす。俺……?」
「鳶尾と対戦して、気絶した。念のため、医務室に運んで治療してもらったところだ」
「ありがとうございます……」

 俺は、ぱちぱちと瞬きした。体をおっかなびっくり起こすと、どこもなんも痛くない。
 腹をさすっていると、葛城先生がたずねる。

「どうだった? 対人格闘は」
「えーっと……なんか、よくわかんなかったっす」

 ぽりぽりと頭を掻くと、葛城先生は頷いた。

「対人格闘は、げんそくん相手のようにはいかん。元素の配分が複雑というのもあるが―もっと臨機応変に動いてくる」

 葛城先生が、さっきの試合の顛末を教えてくれた。
 土の元素で防御を固めた俺を、鳶尾がかるがる蹴り飛ばしたんだそうだ。

「お前はなぜ、土の元素にした? 」

 葛城先生に問われ、俺は首を捻った。

「えっと……鳶尾が黄褐色だったから、防御してふせげるかなと」
「ふむ。考えは悪くないが、甘い。鳶尾はそれを見たあと、風の元素を総動員して蹴っていた」
「えっ」
「げんそくん相手と違い、対人格闘では相手の動作の選択肢は無限。だからこそ、こちらの対応にも正解はないと考えろ――要するに「思考」を止めるな、吉村」
「うす」
「冷静に相手を洞察する目と、それに応じた元素の対応。これが、簡単なようで難しいのだが」

 葛城先生は、うんうんと頷いている。
 そうだったのか。ガッツリ防御できたと思ったのに、なんで吹っ飛んだのか、合点がいった。

「あいつ……魔力コントロールうまいんだな……」

 しみじみ呟くと、悔しさが込み上げてきた。ぜんぜん、相手にならなかった。げんそくんとなら、わりかし言い勝負できてたから、よけいに悔しい。
 と、葛城先生にポンと肩を叩かれる。

「あいつは、あれでかなりの努力家だ。お前も頑張れ、吉村」
「うす」

 俺は、先生に頷いて。ぎゅっと布団を握りしめる。
 負けてたまるか。
 胸の奥が、めらめらと炎が燃えるみたいに熱い。決闘大会まで、足掻くだけ足掻いて、今度は俺が一撃食わしてやるぜ!

「とう!」

 ベッドから飛び出した俺は、先生に「寝てろ!」と怒られた。
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