俺は魔法使いの息子らしい。

高穂もか

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第一部 決闘大会編

百九十一話

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 「吉村くんさぁ、最近妙な事件に巻き込まれてるんだよねー。生徒会も警備に参加してるし、当然、みんな知ってることなんだけどさぁ」 
 
 イノリは、「みんな」をめっちゃ強調して言う。俺たちがダチなの、バレない為なんだろーけど、さすがに無茶じゃねえ?
 
「さっきから、何か思う所がありそうだし……もしかして、事件にも関わってるの?」
 
 イノリは、透明な目で美門を見つめた。あいつの周りから、空気がすーっと涼しくなってって。風紀の人が、腕をしきりにこすっている。
 美門は、うろたえつつ首を振った。
 
「し、知らねえよ。俺はただ、そいつが盾太に何かしねえか見てただけだ」
「証明できるー?」
「それは……」
 
 じっ、と強い視線を向けるイノリに、美門が思わずって感じに俯いた。そのとき、白井さんが「あっ」と声を上げる。
 
「そういうことなら、「宣誓」のもとで聴取をしないか。これなら、虚偽の供述は出来ない」
「せ、宣誓? ……そっそれって」
 
 森脇が、おずおずと問い返す。
 
「ああ。例えば――私は、これから桜沢の訊ねたことに嘘は言わないと誓うんだ。それなら、証言の真正性は保たれる。……もちろん、これは人道的な意味で、強制できることじゃないが……」
「わかった」
「み、美門くん?! い、いいの」
 
 驚愕の声を上げた森脇に、美門が頷いた。
 
「ああ。別に、俺はそんな事件に関わっちゃねえし――なら、ハッキリさせといたほうがいいだろ?」
「じゃあ、決まりだな」
 
 



 
 そいうわけで、美門が「桜沢祈の質問に、嘘をつかず答えることを誓う」と宣誓してさ。イノリと美門が向かい合って座って、もう一度、聴取が始まった。
 一問一答形式で、ばんばんと聴取が進んでいく。
 
「――美門輝人は、吉村時生くんを付け回した。危害を加える意図はあった?」
「ねえよ。まあ、ちょっと邪視で脅したけど、そんなん危害のうちじゃねえだろ?」
 
 ジャシってなんだ? ハテナを飛ばすのは俺だけで、みんな解ってるらしい。イノリは、半眼になって言う。
 
「……それは、立派な危害でしょ? さっき、吉村くんの首、赤くなってたんだけど?」
「今日は、気が立ってて――たまたまだ! いつもは、もうちょっと弱くしてたよ!」
 
「俺は潔白だ!」のポーズで美門が訴える。案外楽しい奴だな、こいつ――とフフッと来たところで、俺は気づく。
 
「はっ! もしかして、ジロジロ見てたのお前か?!」
 
 言われて見れば――あの、項がピリッとするやつ! さっき、こいつに睨まれたのと感じが似てたぞ。
 ビシッ、と指を突きつけると、美門は口を尖らせた。
 
「そうだ。盾太のまわりをうろつかねえように、ビビらしたろうと思ってな。てかお前、鈍すぎんよ。いつまでたっても、ヘラヘラウロウロしやがってー」
「なんだとっ。俺だって、森脇のダチだし! どけろとか言われても知らねえっての!」
「あん?!」
「はい、静かにしてねー」
 
 立ち上がろうとした美門の胸を、イノリが軽く突いた。「うっ」と呻き声を上げて、美門は椅子に逆戻りする。すまん、イノリ。
 しかし、美門の奴が「ピリッ」の正体だったとは。
 俺はてっきり、部屋にやって来た「腕」の奴が、視線の正体だと思ってたからなあ。さすがに、森脇の友達(?)がそんなやべえ奴とは思えないし……。
 考えこんでるうちに、イノリは着々と質問を進めていた。
 
「吉村時生くんに、今日以外で接触したことは?」 
「ねえし。そもそもこいつの周り、風紀が始終うろついてンじゃん。なにが出来るってんだ」
「風紀がうろついてなきゃ、何かするつもりだったわけー?」
「揚げ足をとんな!」
 
 そう言ってそっぽを向いた美門に、イノリは「なるほど……」と呟いた。何に納得したんかわかんねえけど、イノリは考えを咀嚼するように、目を伏せた。
 
「四六時中、吉村時生くんの周りには風紀がいた?」
「だから、そうだっつってんだろ」
「美門輝人は、吉村時生くんの私物を盗んだ?」
「馬鹿にすんな。そんなことしねえわ」 
「ふうん……じゃあ、最後の質問。吉村時生くんの部屋に、入ったことはある?」
 
 イノリの薄茶の目が、きょろんと美門の黒い目を覗く。美門は、不機嫌そうに言い捨てた。
 
「ねえよ。そもそも、どこの部屋かも知らんし」
「へぇー……アリガトー、よくわかった」
「ふん」
 
 美門がそっぽを向いた、そのとき。
 
「えーと、ね。そろそろ、医務室閉めちゃいますからね。話し合いは、終わりにしてくださいねえ」
 
 田野先生の穏やかな声が、ポーンと割って入る。言われて見れば、もうとっくに外が暗くなっている。
 大慌てで白井さん達が、その場をまとめてくれた。
 俺と森脇の聴取は、今日済んだ通り。
 美門については、反省文を五枚、明日までに提出するようにってことらしい。森脇とのことは、「友人同士の行き違い」ということで処理されて、乱闘騒ぎを起こしたことだけ、咎められるらしい。






 
「じゃあ、俺は美門くんのこと、部屋に送ってきますんでぇ」
「頼む、桜沢」
 
 でっかい背中をじっと見送っていると、イノリが不意に振り返った。
 
「もう遅いから、ふたりで気をつけて帰ってねー」
 
 イノリはそう言って、くるりと踵を返し、美門を連れて去って行った。ほんと、心配性だなあ。苦笑していると、森脇に袖を引かれた。
 
「よ、よよ吉村くん。帰ろうか」
「あっ、そうだな!」
 
 帰り支度をしていると、風紀の人の輪から抜けて、白井さんが歩み寄ってきた。
  
「吉村くんに邪視を行っていた件は、また後日。ともかく、長く引き留めてすまない」
 
 そう言って、申し訳なさそうに頭を下げて、風紀の人達と去って行った。
 俺と森脇は二人で寮に戻った。森脇は、今日のことをしきりに謝ってて、俺の方でも申し訳なかった。だいぶ、俺の早とちりだったっぽいし。
 謝りあってるうちに、寮に着いちまって。また、話を聞かせてもらう約束して、今日は別れたんだ。
 
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