191 / 239
第一部 決闘大会編
百九十一話
しおりを挟む
「吉村くんさぁ、最近妙な事件に巻き込まれてるんだよねー。生徒会も警備に参加してるし、当然、みんな知ってることなんだけどさぁ」
イノリは、「みんな」をめっちゃ強調して言う。俺たちがダチなの、バレない為なんだろーけど、さすがに無茶じゃねえ?
「さっきから、何か思う所がありそうだし……もしかして、事件にも関わってるの?」
イノリは、透明な目で美門を見つめた。あいつの周りから、空気がすーっと涼しくなってって。風紀の人が、腕をしきりにこすっている。
美門は、うろたえつつ首を振った。
「し、知らねえよ。俺はただ、そいつが盾太に何かしねえか見てただけだ」
「証明できるー?」
「それは……」
じっ、と強い視線を向けるイノリに、美門が思わずって感じに俯いた。そのとき、白井さんが「あっ」と声を上げる。
「そういうことなら、「宣誓」のもとで聴取をしないか。これなら、虚偽の供述は出来ない」
「せ、宣誓? ……そっそれって」
森脇が、おずおずと問い返す。
「ああ。例えば――私は、これから桜沢の訊ねたことに嘘は言わないと誓うんだ。それなら、証言の真正性は保たれる。……もちろん、これは人道的な意味で、強制できることじゃないが……」
「わかった」
「み、美門くん?! い、いいの」
驚愕の声を上げた森脇に、美門が頷いた。
「ああ。別に、俺はそんな事件に関わっちゃねえし――なら、ハッキリさせといたほうがいいだろ?」
「じゃあ、決まりだな」
そいうわけで、美門が「桜沢祈の質問に、嘘をつかず答えることを誓う」と宣誓してさ。イノリと美門が向かい合って座って、もう一度、聴取が始まった。
一問一答形式で、ばんばんと聴取が進んでいく。
「――美門輝人は、吉村時生くんを付け回した。危害を加える意図はあった?」
「ねえよ。まあ、ちょっと邪視で脅したけど、そんなん危害のうちじゃねえだろ?」
ジャシってなんだ? ハテナを飛ばすのは俺だけで、みんな解ってるらしい。イノリは、半眼になって言う。
「……それは、立派な危害でしょ? さっき、吉村くんの首、赤くなってたんだけど?」
「今日は、気が立ってて――たまたまだ! いつもは、もうちょっと弱くしてたよ!」
「俺は潔白だ!」のポーズで美門が訴える。案外楽しい奴だな、こいつ――とフフッと来たところで、俺は気づく。
「はっ! もしかして、ジロジロ見てたのお前か?!」
言われて見れば――あの、項がピリッとするやつ! さっき、こいつに睨まれたのと感じが似てたぞ。
ビシッ、と指を突きつけると、美門は口を尖らせた。
「そうだ。盾太のまわりをうろつかねえように、ビビらしたろうと思ってな。てかお前、鈍すぎんよ。いつまでたっても、ヘラヘラウロウロしやがってー」
「なんだとっ。俺だって、森脇のダチだし! どけろとか言われても知らねえっての!」
「あん?!」
「はい、静かにしてねー」
立ち上がろうとした美門の胸を、イノリが軽く突いた。「うっ」と呻き声を上げて、美門は椅子に逆戻りする。すまん、イノリ。
しかし、美門の奴が「ピリッ」の正体だったとは。
俺はてっきり、部屋にやって来た「腕」の奴が、視線の正体だと思ってたからなあ。さすがに、森脇の友達(?)がそんなやべえ奴とは思えないし……。
考えこんでるうちに、イノリは着々と質問を進めていた。
「吉村時生くんに、今日以外で接触したことは?」
「ねえし。そもそもこいつの周り、風紀が始終うろついてンじゃん。なにが出来るってんだ」
「風紀がうろついてなきゃ、何かするつもりだったわけー?」
「揚げ足をとんな!」
そう言ってそっぽを向いた美門に、イノリは「なるほど……」と呟いた。何に納得したんかわかんねえけど、イノリは考えを咀嚼するように、目を伏せた。
「四六時中、吉村時生くんの周りには風紀がいた?」
「だから、そうだっつってんだろ」
「美門輝人は、吉村時生くんの私物を盗んだ?」
「馬鹿にすんな。そんなことしねえわ」
「ふうん……じゃあ、最後の質問。吉村時生くんの部屋に、入ったことはある?」
イノリの薄茶の目が、きょろんと美門の黒い目を覗く。美門は、不機嫌そうに言い捨てた。
「ねえよ。そもそも、どこの部屋かも知らんし」
「へぇー……アリガトー、よくわかった」
「ふん」
美門がそっぽを向いた、そのとき。
「えーと、ね。そろそろ、医務室閉めちゃいますからね。話し合いは、終わりにしてくださいねえ」
田野先生の穏やかな声が、ポーンと割って入る。言われて見れば、もうとっくに外が暗くなっている。
大慌てで白井さん達が、その場をまとめてくれた。
俺と森脇の聴取は、今日済んだ通り。
美門については、反省文を五枚、明日までに提出するようにってことらしい。森脇とのことは、「友人同士の行き違い」ということで処理されて、乱闘騒ぎを起こしたことだけ、咎められるらしい。
「じゃあ、俺は美門くんのこと、部屋に送ってきますんでぇ」
「頼む、桜沢」
でっかい背中をじっと見送っていると、イノリが不意に振り返った。
「もう遅いから、ふたりで気をつけて帰ってねー」
イノリはそう言って、くるりと踵を返し、美門を連れて去って行った。ほんと、心配性だなあ。苦笑していると、森脇に袖を引かれた。
「よ、よよ吉村くん。帰ろうか」
「あっ、そうだな!」
帰り支度をしていると、風紀の人の輪から抜けて、白井さんが歩み寄ってきた。
「吉村くんに邪視を行っていた件は、また後日。ともかく、長く引き留めてすまない」
そう言って、申し訳なさそうに頭を下げて、風紀の人達と去って行った。
俺と森脇は二人で寮に戻った。森脇は、今日のことをしきりに謝ってて、俺の方でも申し訳なかった。だいぶ、俺の早とちりだったっぽいし。
謝りあってるうちに、寮に着いちまって。また、話を聞かせてもらう約束して、今日は別れたんだ。
イノリは、「みんな」をめっちゃ強調して言う。俺たちがダチなの、バレない為なんだろーけど、さすがに無茶じゃねえ?
「さっきから、何か思う所がありそうだし……もしかして、事件にも関わってるの?」
イノリは、透明な目で美門を見つめた。あいつの周りから、空気がすーっと涼しくなってって。風紀の人が、腕をしきりにこすっている。
美門は、うろたえつつ首を振った。
「し、知らねえよ。俺はただ、そいつが盾太に何かしねえか見てただけだ」
「証明できるー?」
「それは……」
じっ、と強い視線を向けるイノリに、美門が思わずって感じに俯いた。そのとき、白井さんが「あっ」と声を上げる。
「そういうことなら、「宣誓」のもとで聴取をしないか。これなら、虚偽の供述は出来ない」
「せ、宣誓? ……そっそれって」
森脇が、おずおずと問い返す。
「ああ。例えば――私は、これから桜沢の訊ねたことに嘘は言わないと誓うんだ。それなら、証言の真正性は保たれる。……もちろん、これは人道的な意味で、強制できることじゃないが……」
「わかった」
「み、美門くん?! い、いいの」
驚愕の声を上げた森脇に、美門が頷いた。
「ああ。別に、俺はそんな事件に関わっちゃねえし――なら、ハッキリさせといたほうがいいだろ?」
「じゃあ、決まりだな」
そいうわけで、美門が「桜沢祈の質問に、嘘をつかず答えることを誓う」と宣誓してさ。イノリと美門が向かい合って座って、もう一度、聴取が始まった。
一問一答形式で、ばんばんと聴取が進んでいく。
「――美門輝人は、吉村時生くんを付け回した。危害を加える意図はあった?」
「ねえよ。まあ、ちょっと邪視で脅したけど、そんなん危害のうちじゃねえだろ?」
ジャシってなんだ? ハテナを飛ばすのは俺だけで、みんな解ってるらしい。イノリは、半眼になって言う。
「……それは、立派な危害でしょ? さっき、吉村くんの首、赤くなってたんだけど?」
「今日は、気が立ってて――たまたまだ! いつもは、もうちょっと弱くしてたよ!」
「俺は潔白だ!」のポーズで美門が訴える。案外楽しい奴だな、こいつ――とフフッと来たところで、俺は気づく。
「はっ! もしかして、ジロジロ見てたのお前か?!」
言われて見れば――あの、項がピリッとするやつ! さっき、こいつに睨まれたのと感じが似てたぞ。
ビシッ、と指を突きつけると、美門は口を尖らせた。
「そうだ。盾太のまわりをうろつかねえように、ビビらしたろうと思ってな。てかお前、鈍すぎんよ。いつまでたっても、ヘラヘラウロウロしやがってー」
「なんだとっ。俺だって、森脇のダチだし! どけろとか言われても知らねえっての!」
「あん?!」
「はい、静かにしてねー」
立ち上がろうとした美門の胸を、イノリが軽く突いた。「うっ」と呻き声を上げて、美門は椅子に逆戻りする。すまん、イノリ。
しかし、美門の奴が「ピリッ」の正体だったとは。
俺はてっきり、部屋にやって来た「腕」の奴が、視線の正体だと思ってたからなあ。さすがに、森脇の友達(?)がそんなやべえ奴とは思えないし……。
考えこんでるうちに、イノリは着々と質問を進めていた。
「吉村時生くんに、今日以外で接触したことは?」
「ねえし。そもそもこいつの周り、風紀が始終うろついてンじゃん。なにが出来るってんだ」
「風紀がうろついてなきゃ、何かするつもりだったわけー?」
「揚げ足をとんな!」
そう言ってそっぽを向いた美門に、イノリは「なるほど……」と呟いた。何に納得したんかわかんねえけど、イノリは考えを咀嚼するように、目を伏せた。
「四六時中、吉村時生くんの周りには風紀がいた?」
「だから、そうだっつってんだろ」
「美門輝人は、吉村時生くんの私物を盗んだ?」
「馬鹿にすんな。そんなことしねえわ」
「ふうん……じゃあ、最後の質問。吉村時生くんの部屋に、入ったことはある?」
イノリの薄茶の目が、きょろんと美門の黒い目を覗く。美門は、不機嫌そうに言い捨てた。
「ねえよ。そもそも、どこの部屋かも知らんし」
「へぇー……アリガトー、よくわかった」
「ふん」
美門がそっぽを向いた、そのとき。
「えーと、ね。そろそろ、医務室閉めちゃいますからね。話し合いは、終わりにしてくださいねえ」
田野先生の穏やかな声が、ポーンと割って入る。言われて見れば、もうとっくに外が暗くなっている。
大慌てで白井さん達が、その場をまとめてくれた。
俺と森脇の聴取は、今日済んだ通り。
美門については、反省文を五枚、明日までに提出するようにってことらしい。森脇とのことは、「友人同士の行き違い」ということで処理されて、乱闘騒ぎを起こしたことだけ、咎められるらしい。
「じゃあ、俺は美門くんのこと、部屋に送ってきますんでぇ」
「頼む、桜沢」
でっかい背中をじっと見送っていると、イノリが不意に振り返った。
「もう遅いから、ふたりで気をつけて帰ってねー」
イノリはそう言って、くるりと踵を返し、美門を連れて去って行った。ほんと、心配性だなあ。苦笑していると、森脇に袖を引かれた。
「よ、よよ吉村くん。帰ろうか」
「あっ、そうだな!」
帰り支度をしていると、風紀の人の輪から抜けて、白井さんが歩み寄ってきた。
「吉村くんに邪視を行っていた件は、また後日。ともかく、長く引き留めてすまない」
そう言って、申し訳なさそうに頭を下げて、風紀の人達と去って行った。
俺と森脇は二人で寮に戻った。森脇は、今日のことをしきりに謝ってて、俺の方でも申し訳なかった。だいぶ、俺の早とちりだったっぽいし。
謝りあってるうちに、寮に着いちまって。また、話を聞かせてもらう約束して、今日は別れたんだ。
10
お気に入りに追加
523
あなたにおすすめの小説
六日の菖蒲
あこ
BL
突然一方的に別れを告げられた紫はその後、理由を目の当たりにする。
落ち込んで行く紫を見ていた萌葱は、図らずも自分と向き合う事になった。
▷ 王道?全寮制学園ものっぽい学園が舞台です。
▷ 同室の紫と萌葱を中心にその脇でアンチ王道な展開ですが、アンチの影は薄め(のはず)
▷ 身代わりにされてた受けが幸せになるまで、が目標。
▷ 見た目不良な萌葱は不良ではありません。見た目だけ。そして世話焼き(紫限定)です。
▷ 紫はのほほん健気な普通顔です。でも雰囲気補正でちょっと可愛く見えます。
▷ 章や作品タイトルの頭に『★』があるものは、個人サイトでリクエストしていただいたものです。こちらではいただいたリクエスト内容やお礼などの後書きを省略させていただいています。
いとしの生徒会長さま
もりひろ
BL
大好きな親友と楽しい高校生活を送るため、急きょアメリカから帰国した俺だけど、編入した学園は、とんでもなく変わっていた……!
しかも、生徒会長になれとか言われるし。冗談じゃねえっつの!

鬼は精霊の子を愛でる
林 業
BL
鬼人のモリオンは一族から迫害されて村を出た。
そんなときに出会った、山で暮らしていたセレスタイトと暮らすこととなった。
何時からか恋人として暮らすように。
そんな二人は穏やかに生きていく。

【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】
彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』
高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。
その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。
そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?

僕のために、忘れていて
ことわ子
BL
男子高校生のリュージは事故に遭い、最近の記憶を無くしてしまった。しかし、無くしたのは最近の記憶で家族や友人のことは覚えており、別段困ることは無いと思っていた。ある一点、全く記憶にない人物、黒咲アキが自分の恋人だと訪ねてくるまでは────
少年神官系勇者―異世界から帰還する―
mono-zo
ファンタジー
幼くして異世界に消えた主人公、帰ってきたがそこは日本、家なし・金なし・免許なし・職歴なし・常識なし・そもそも未成年、無い無い尽くしでどう生きる?
別サイトにて無名から投稿開始して100日以内に100万PV達成感謝✨
この作品は「カクヨム」にも掲載しています。(先行)
この作品は「小説家になろう」にも掲載しています。
この作品は「ノベルアップ+」にも掲載しています。
この作品は「エブリスタ」にも掲載しています。
この作品は「pixiv」にも掲載しています。
夢では溺愛騎士、現実ではただのクラスメイト
春音優月
BL
真面目でおとなしい性格の藤村歩夢は、武士と呼ばれているクラスメイトの大谷虎太郎に密かに片想いしている。
クラスではほとんど会話も交わさないのに、なぜか毎晩歩夢の夢に出てくる虎太郎。しかも夢の中での虎太郎は、歩夢を守る騎士で恋人だった。
夢では溺愛騎士、現実ではただのクラスメイト。夢と現実が交錯する片想いの行方は――。
2024.02.23〜02.27
イラスト:かもねさま

【完結済み】乙男な僕はモブらしく生きる
木嶋うめ香
BL
本編完結済み(2021.3.8)
和の国の貴族の子息が通う華学園の食堂で、僕こと鈴森千晴(すずもりちはる)は前世の記憶を思い出した。
この世界、前世の僕がやっていたBLゲーム「華乙男のラブ日和」じゃないか?
鈴森千晴なんて登場人物、ゲームには居なかったから僕のポジションはモブなんだろう。
もうすぐ主人公が転校してくる。
僕の片思いの相手山城雅(やましろみやび)も攻略対象者の一人だ。
これから僕は主人公と雅が仲良くなっていくのを見てなきゃいけないのか。
片思いだって分ってるから、諦めなきゃいけないのは分ってるけど、やっぱり辛いよどうしたらいいんだろう。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる