俺は魔法使いの息子らしい。

高穂もか

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第一部 決闘大会編

百八十七話

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「よいしょ、よいしょ」
 
 うむ、これでよし。
 ギュッと絞った布巾を干して、俺はポンと手を叩いた。まあ実際、掃除は慣れてるから、早く終わっちまうのだ。
 鞄を持って、えっちらおっちら歩き出す。
 しかし、鳶尾のやつ。マジで意味わからんかったなあ。やったら、ブレスレットが気にくわなかったみてえだけど。ブレスレットを高くかざすと、石が電灯の光を吸って、きらきらする。
 
 ――性懲りもなく、そんなものつけて。
 
「……俺が、かっこよくキメてんのが、許せねえってこと?」
 
 いや、そんなん余計なお世話じゃんな。俺にだって、おしゃれする権利くらいあるわ。ふんす、と鼻息を吹き、俺は廊下をのし歩く。
 と、廊下の隅っこをひょこひょこ歩く、後姿を発見する。俺は駆け寄って、ポンと肩を叩いた。
 
「……!?」
「片倉先輩、こんにちは!」
「……吉村」
「うす! 昨日はどうもっす」
 
 やっぱり、片倉先輩だ。一年の校舎にいるの珍しいから、違う人かと思ったけど。ぐるん、と振り返った勢いにビビりつつ、にかっと笑いかける。
 片倉先輩は、嫌そうに顔をしかめた。
 
「……お前はよ、そっと見ないふりするって気は、ねえのかよ?」
「え、なんでっすか?」
 
 折角会えたんだから、挨拶したいぜ。そう言うと、先輩はうっと呻いて、そっぽを向いた。
 
「……はぁ、もういい」
 
 先輩は、がしがしと乱暴に頭を掻く。なんとなく、横顔が物憂げだ。
 
「片倉先輩、なんかありました? こっちの校舎来るの、珍しいすね」
「別に……いや、人探しつーか」
 
 先輩は、脇に抱えてる鞄から、一枚のファイルを取り出した。
 何だろう? ひょいと覗きこむと、「見てんじゃねえよ」って、額をチョップされる。
 
「すんません、つい。なんすか?」
「……風紀関連のレポート。お前さ、一年の風紀で、金髪の奴、知ってるか?」
「へ?」
「いつも渡してる人が、出向で。代わりの奴に渡しといてくれってよ……」
「そうだったんすか!」
 
 合点がいったぞ。
 しかし、先輩が言っている「一年で、金髪の風紀」って、めっちゃ知り合いの予感がするんだが……
 
「先輩、そいつって。二見って名前だったり――」
 
 二見のことを尋ねようとした、そのとき。
 
「あーーーーーーーー!!!!」
 
 大音声の叫びが、聞こえてきた。ぎょっとして、俺も先輩もそっちを見る。すると、丁度話題の人である二見が、こっちを指差したポーズで、固まっていた。
 
「ふ、二見?」 
「吉村くん! 何やってんだよ、キミはー!」
 
 呆気にとられて、呼び掛けると。二見は我に返ったらしく、ツカツカと歩み寄ってきた。廊下にたむろしていた生徒達も、なんだなんだと振り返っている。
 
「もう、聞いたよ? 午前サボって、会いに行ったんだって? ふらふら一人になんないでって、言ってるのに」
「あっ! ごめん」
「今だって、教室行ってもいないしさ。居残りしてるって聞いたから、講義室に行こうか迷ってたところで――」
 
 二見は、立て板に水の勢いで話し続けている。俺がひとつ相槌を打つ間に、あっという間で話題が跳んでいった。
――しばらく後。
 ひとしきり怒って、スッキリしたらしい。二見は、青い目をくるりと動かした。 
 
「――って言うわけだから。……ところで、さっき誰かと一緒にいなかった?」
「あっ、そうなんだよ! ちょうど、お前を探してる先輩がいて」
「へえ。どこに?」
「え?」
 
 不思議そうに尋ねられ、はっとする。
 片倉先輩は、ケムリのようにいなくなっていた。先輩の身代わりのように、例のファイルだけが床に落ちている。
 片倉先輩、どうしたんだ?! ともかく、俺はファイルを拾い上げて、二見に渡した。
 
「何これ?」
「じつは、かくかくしかじかで」
「あー、草一さんの。はいはい、受け取りました、っと」
 
 二見は、茶嶋先輩から話を聞いていたらしく、あっさりと受け取ってくれた。
 
「それはそうとして。オレ、キミに用があったんだよ。ちょっと、相談したいことがあってさ」
 
 二見は、「とりあえず顔貸してくれない?」と爽やかに笑った。 
 
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