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第一部 決闘大会編
百八十四話
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須々木先輩は、弾かれたように顔を上げた。でっかい目が、困惑気に揺れている。
「なんで」
「なんでって……そのまんまっす」
むしろ、なんで「なんで」なんだって話だ。俺は、先輩の両手をギュッと握った。
「俺とイノリのこと、ずっと見守ってくれて。俺たちがぎくしゃくしたときも、魔力起こすってなったときも。ずっと、先輩が励まして、支えてくれてたんじゃないっすか!」
思い出すだけで、胸がジンとあったかくなる。須々木先輩が、俺とイノリのためにしてくれた、たくさんの心遣い。
イノリと揉めたとき、辛抱強く話を聞いてくれたこと。俺の魔力起こすとき、気前よく貸してくれた、大切なお部屋。友達の証にって、くれたキレイなお守り。――それと。
「先輩、「イノリの側にいたいなら、序列を上げよう」って、アドバイスしてくれたっすよね。そんで、すげえスッキリして、やるぞ! って思えたんす。俺、あいつの側に行くために、頑張れるのが嬉しいです」
ニカッと笑って見せる。先輩のでっかい目が、丸くなってますますでっかい。
「……いや、でも」
「それに、聞いたんすけどっ。須々木先輩が、ぶっ倒れてる俺を助けてくれたんでしょ? 犯人とかも、先輩が証言してくれたから、捕まったんだって。こんだけ、俺のこと助けてくれてて、「ごめん」なんてなしっすよ! も、俺のほうが、キョーシュクもんじゃないっすか」
こんなに俺の恩人なのに、先輩はしょい込みすぎなんだ。たぶん、すっげえ「気にしい」なんだと思う。だったらもう、とにかくこの思いをぶつけるしかない。そう、佐藤だって言ってた。
「トキ、仲間を励ますときは、勢い一辺倒だぜ! いいか、相手が何か考える時間を与えんな! 息もつかせずチャージチャージ、チャージだぞ!」
俺も、ありったけの感謝を伝えるぜ。
大丈夫。目を見てちゃんとぶつかれば、伝わるはず。だって先輩は、いつだって俺に真剣に話をしてくれたじゃねえか。
「ありがとう、須々木先輩!」
「吉村くん……」
――と、須々木先輩の声が湿っぽくなって。手の中で強張ていた指先が、ゆるくほどける。先輩は、なにか堪えるように目をギュッと瞑った。
「……ありがとうな」
「うすっ!」
低く、噛み締めるようなお礼に、俺も明るく頷いた。
それからしばらく、先輩は黙り込んでいて。俺も、何も言わなかった。窓の外で、移動の生徒が騒いだりしてんのが、聞こえてきたりして。ひたすら、おっとり静かな時間が、流れていた。
「吉村くん、もうええよ」
「あっ、はい」
そっと、手を抜かれて。しばらくぶりに空になった手をニギニギしていると、須々木先輩が「ふふ」って笑った。
「手ぇあったかいなあ、吉村くん。冬やけど、手汗やばいわ」
「なはは、よく言われます。子ども体温らしいっす」
なんて、頬をぽりぽり掻きながら、俺はちょっとホッとした。先輩の顔、ちょっとスッキリして見えたからさ。
そのとき、チャイムが鳴り響く、午前の授業が、全部終わったらしい。
「ありゃ。全部、さぼってしもたなあ」
「あっ、すんません! 俺のせいでサボらせちまって」
「いやいや、ぼくの台詞やろー」
はらはらしていると、先輩はもういつもの調子で、手をひらひら振った。それから、上着のポケットをゴソゴソやりだす。
「まあ、授業はなんとかするとして。今日はな、吉村くんに渡したいもんがあったんよ」
「へ? ……あっ、これ!」
手を取られ、するりと手首に通されたのは、キレイな石のブレスレットだ。
透明の、明るいレモン色の石が連なってる。見ていてワクワクするような、素敵な色だぜ。電灯にかざして見とれていると、先輩が笑う。
「気に入ってくれた?」
「はい!」
「それ、こないだのと同じで、魔法の攻撃食ったら割れるようになってんねん。で、これの片割れに知らせが行くようになってるから――」
先輩は、かくかくしかじかと機能を説明してくれた。このブレスレットが、スマホがないこの学園で、俺のピンチを知らせる役目をしてくれるそうだ。すげえな、どんな仕組みになってんだろ。
てか、こんなハイテクなもの、頂いていいのだろうか……
「むしろ、きみに作ったやつやから。受け取ってくれな、困るわ」
「そ、そうすか? ――じゃあ、ありがとうございます!」
手首ごと、右手で大事に包む。にへにへしていると、須々木先輩はひょいっと立ち上がる。
「――もう、桜沢来るやろな。そろそろ、ぼくはお暇した方がよさそうや」
「えっ、先輩も一緒に昼メシ……」
「いやいや。馬に蹴られる趣味はないから」
先輩は、二見と同じことを言う。
それ、どういう意味だ? 首を傾げていると、からからと笑われた。
「吉村くん、今日はありがとうな。おかげで、ずっとつっかえてたもんが取れて、スッとしたわ」
「えっ? いやいや、俺の方こそです!」
慌てて、俺も立ち上がる。すると、先輩は悪戯っぽく目を光らせて。人差し指をいっぽん、顔の前に立てた。
「でもな、一個だけ訂正せなあかんことがあんねん。たぶんやけど、きみの命の恩人はぼくと違うで」
「へっ? でも」
と、言いかけた口を、指でビスっと突かれる。地味に痛え。
「確かに、倒れてるきみを医務室へ運ぶ手配したんは、ぼく。せやけど、ぼくが駆けつけた時には、きみは”血だまりに倒れてた”けど、無傷やったんや」
「!?」
俺が目を見開くと、先輩も静かに頷いた。
「あの血は、紛れもなくきみのものやった。きみは、たしかに大怪我を負って死にかけたんや。……なら、ぼくが駆けつける前に、きみを助けたもんがおる、ということと違う?」
ま……まじでか。驚きの新情報だぜ。
「そういうわけで。もしかしたら、めっちゃシャイな味方がおるんかもやで?」
「えぇ~?」
そうなの? だとしたら、一体誰が? 俺の知ってる人なんだろうか……?
米神をぐりぐりして唸っていると、先輩が励ますように背中を叩いてくれた。
「なんで」
「なんでって……そのまんまっす」
むしろ、なんで「なんで」なんだって話だ。俺は、先輩の両手をギュッと握った。
「俺とイノリのこと、ずっと見守ってくれて。俺たちがぎくしゃくしたときも、魔力起こすってなったときも。ずっと、先輩が励まして、支えてくれてたんじゃないっすか!」
思い出すだけで、胸がジンとあったかくなる。須々木先輩が、俺とイノリのためにしてくれた、たくさんの心遣い。
イノリと揉めたとき、辛抱強く話を聞いてくれたこと。俺の魔力起こすとき、気前よく貸してくれた、大切なお部屋。友達の証にって、くれたキレイなお守り。――それと。
「先輩、「イノリの側にいたいなら、序列を上げよう」って、アドバイスしてくれたっすよね。そんで、すげえスッキリして、やるぞ! って思えたんす。俺、あいつの側に行くために、頑張れるのが嬉しいです」
ニカッと笑って見せる。先輩のでっかい目が、丸くなってますますでっかい。
「……いや、でも」
「それに、聞いたんすけどっ。須々木先輩が、ぶっ倒れてる俺を助けてくれたんでしょ? 犯人とかも、先輩が証言してくれたから、捕まったんだって。こんだけ、俺のこと助けてくれてて、「ごめん」なんてなしっすよ! も、俺のほうが、キョーシュクもんじゃないっすか」
こんなに俺の恩人なのに、先輩はしょい込みすぎなんだ。たぶん、すっげえ「気にしい」なんだと思う。だったらもう、とにかくこの思いをぶつけるしかない。そう、佐藤だって言ってた。
「トキ、仲間を励ますときは、勢い一辺倒だぜ! いいか、相手が何か考える時間を与えんな! 息もつかせずチャージチャージ、チャージだぞ!」
俺も、ありったけの感謝を伝えるぜ。
大丈夫。目を見てちゃんとぶつかれば、伝わるはず。だって先輩は、いつだって俺に真剣に話をしてくれたじゃねえか。
「ありがとう、須々木先輩!」
「吉村くん……」
――と、須々木先輩の声が湿っぽくなって。手の中で強張ていた指先が、ゆるくほどける。先輩は、なにか堪えるように目をギュッと瞑った。
「……ありがとうな」
「うすっ!」
低く、噛み締めるようなお礼に、俺も明るく頷いた。
それからしばらく、先輩は黙り込んでいて。俺も、何も言わなかった。窓の外で、移動の生徒が騒いだりしてんのが、聞こえてきたりして。ひたすら、おっとり静かな時間が、流れていた。
「吉村くん、もうええよ」
「あっ、はい」
そっと、手を抜かれて。しばらくぶりに空になった手をニギニギしていると、須々木先輩が「ふふ」って笑った。
「手ぇあったかいなあ、吉村くん。冬やけど、手汗やばいわ」
「なはは、よく言われます。子ども体温らしいっす」
なんて、頬をぽりぽり掻きながら、俺はちょっとホッとした。先輩の顔、ちょっとスッキリして見えたからさ。
そのとき、チャイムが鳴り響く、午前の授業が、全部終わったらしい。
「ありゃ。全部、さぼってしもたなあ」
「あっ、すんません! 俺のせいでサボらせちまって」
「いやいや、ぼくの台詞やろー」
はらはらしていると、先輩はもういつもの調子で、手をひらひら振った。それから、上着のポケットをゴソゴソやりだす。
「まあ、授業はなんとかするとして。今日はな、吉村くんに渡したいもんがあったんよ」
「へ? ……あっ、これ!」
手を取られ、するりと手首に通されたのは、キレイな石のブレスレットだ。
透明の、明るいレモン色の石が連なってる。見ていてワクワクするような、素敵な色だぜ。電灯にかざして見とれていると、先輩が笑う。
「気に入ってくれた?」
「はい!」
「それ、こないだのと同じで、魔法の攻撃食ったら割れるようになってんねん。で、これの片割れに知らせが行くようになってるから――」
先輩は、かくかくしかじかと機能を説明してくれた。このブレスレットが、スマホがないこの学園で、俺のピンチを知らせる役目をしてくれるそうだ。すげえな、どんな仕組みになってんだろ。
てか、こんなハイテクなもの、頂いていいのだろうか……
「むしろ、きみに作ったやつやから。受け取ってくれな、困るわ」
「そ、そうすか? ――じゃあ、ありがとうございます!」
手首ごと、右手で大事に包む。にへにへしていると、須々木先輩はひょいっと立ち上がる。
「――もう、桜沢来るやろな。そろそろ、ぼくはお暇した方がよさそうや」
「えっ、先輩も一緒に昼メシ……」
「いやいや。馬に蹴られる趣味はないから」
先輩は、二見と同じことを言う。
それ、どういう意味だ? 首を傾げていると、からからと笑われた。
「吉村くん、今日はありがとうな。おかげで、ずっとつっかえてたもんが取れて、スッとしたわ」
「えっ? いやいや、俺の方こそです!」
慌てて、俺も立ち上がる。すると、先輩は悪戯っぽく目を光らせて。人差し指をいっぽん、顔の前に立てた。
「でもな、一個だけ訂正せなあかんことがあんねん。たぶんやけど、きみの命の恩人はぼくと違うで」
「へっ? でも」
と、言いかけた口を、指でビスっと突かれる。地味に痛え。
「確かに、倒れてるきみを医務室へ運ぶ手配したんは、ぼく。せやけど、ぼくが駆けつけた時には、きみは”血だまりに倒れてた”けど、無傷やったんや」
「!?」
俺が目を見開くと、先輩も静かに頷いた。
「あの血は、紛れもなくきみのものやった。きみは、たしかに大怪我を負って死にかけたんや。……なら、ぼくが駆けつける前に、きみを助けたもんがおる、ということと違う?」
ま……まじでか。驚きの新情報だぜ。
「そういうわけで。もしかしたら、めっちゃシャイな味方がおるんかもやで?」
「えぇ~?」
そうなの? だとしたら、一体誰が? 俺の知ってる人なんだろうか……?
米神をぐりぐりして唸っていると、先輩が励ますように背中を叩いてくれた。
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