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第一部 決闘大会編
百八十一話
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葛城先生、他の先生方も、ごめんなさい。
心の中で、俺は手を合わせた。
俺は、今日――午前の授業をサボる!
校庭の片隅にある、大きな木。そして、その前に置かれたベンチ。
ここは、須々木先輩のスポットらしい。以前、イノリが、教えてくれたんだ。
そう言われてみると――いつか、ここで魔力コントロールしてたとき。須々木先輩が、ひょいっと現れたことがあった。
だから、ここで待っていれば、須々木先輩と会えるに違いない。
「ようし!」
俺は、ベンチに座って、本を開いた。
さあっ、と心地よい風が吹き抜ける。ぱたぱたと、本のページを叩いていく。
ふと、手元が暗がりになって、俺は後ろを振り返った。
「あっ、須々木先輩!」
須々木先輩が、背もたれに肘を付いていた。
「おはようございますっ!」
「おはよう、吉村くん」
立ち上がって挨拶すると、確かにいらえがある。
本当に、会えた。
会いたいと思ってたけど、ほとんど運だと思ってたから。ホッと胸を撫で下ろした。
と、先輩が静かな声で言う。
「吉村くん。ぼくに、何か聞きたいことがあるんやろ?」
「えっ」
「……昨日の勉強会のときな。めっちゃ、何か言いたそうやて思ってん。ごめんな、はぐらかして」
「あっ、いや! そんな。俺こそ、押しが強くて……」
慌てて両手を振ると、先輩は苦笑した。
「いつか、ちゃんとせなあかんとは思っててん。友達って言っといて……大事なこと黙ってんのは、ずるいもんな」
「先輩……ありがとうございます」
先輩は、俺の手をとった。
「ここやと、落ち着いて話せへんから。ちょっと、移動しても構へん?」
須々木先輩に手を引かれ、たどり着いた場所に俺は目を丸くした。
「さんまるご?!」
いつもの、21号館の305教室――イノリのスポットだ。俺が目を真ん丸にしていると、須々木先輩は苦笑する。
「総合的に考えて、ここが一番安全かな、と思って。桜沢の目も届いた方が、ええやろうし」
「そうなんすか……」
イノリも、後からくるのかな。きょろきょろしていると、先輩は言う。
「ごめんな。信用して、ついてきてくれてありがとう」
俺は、ハッとした。先輩の顔色、あまり良くない。
「ぼくの言えることやったら、何でも話すよ。聞きたいこと、聞いてくれてええから」
「……先輩」
静かな調子で言われ、ごくりと唾を飲む。
先輩は、まるで殴られるのを待つように、無防備で、神妙な顔をしていた。
その様子を見ていたら、思っていたのと全然違う言葉が、口をついて出てしまった。
「須々木先輩は……どうして、俺に謝るんですか?」
「!」
須々木先輩は、目を見開いた。……まずったかな。
けど。
――ごめん、吉村くん。
夢で見た、赤い髪の先輩のイメージがよぎる。
本当は、ずっと知りたかったのかもしれない。――どうして、先輩は俺に申し訳なさそうなのか?
だってさ。
「先輩に、ずっと優しくしてもらってて。俺、マジで感謝してます。イノリとのことも、いっぱい励ましてくれて、どんだけ心強かったか……!」
須々木先輩は、俺たちの助けになってくれた。
「だから――謝る必要なんて、一個もないじゃないですか」
須々木先輩の目が、ユラユラ揺れている。大きく、何か堪えるようなため息をついた。
「……ちゃうねん、ぼくはそんなつもりやない」
先輩は、でっかい目を手で覆って、少しの間黙っていた。
「吉村くん」
「うす」
「ちょっと長い話やけど。聞いてくれる?」
「はい!」
俺は、力強く頷いた。
心の中で、俺は手を合わせた。
俺は、今日――午前の授業をサボる!
校庭の片隅にある、大きな木。そして、その前に置かれたベンチ。
ここは、須々木先輩のスポットらしい。以前、イノリが、教えてくれたんだ。
そう言われてみると――いつか、ここで魔力コントロールしてたとき。須々木先輩が、ひょいっと現れたことがあった。
だから、ここで待っていれば、須々木先輩と会えるに違いない。
「ようし!」
俺は、ベンチに座って、本を開いた。
さあっ、と心地よい風が吹き抜ける。ぱたぱたと、本のページを叩いていく。
ふと、手元が暗がりになって、俺は後ろを振り返った。
「あっ、須々木先輩!」
須々木先輩が、背もたれに肘を付いていた。
「おはようございますっ!」
「おはよう、吉村くん」
立ち上がって挨拶すると、確かにいらえがある。
本当に、会えた。
会いたいと思ってたけど、ほとんど運だと思ってたから。ホッと胸を撫で下ろした。
と、先輩が静かな声で言う。
「吉村くん。ぼくに、何か聞きたいことがあるんやろ?」
「えっ」
「……昨日の勉強会のときな。めっちゃ、何か言いたそうやて思ってん。ごめんな、はぐらかして」
「あっ、いや! そんな。俺こそ、押しが強くて……」
慌てて両手を振ると、先輩は苦笑した。
「いつか、ちゃんとせなあかんとは思っててん。友達って言っといて……大事なこと黙ってんのは、ずるいもんな」
「先輩……ありがとうございます」
先輩は、俺の手をとった。
「ここやと、落ち着いて話せへんから。ちょっと、移動しても構へん?」
須々木先輩に手を引かれ、たどり着いた場所に俺は目を丸くした。
「さんまるご?!」
いつもの、21号館の305教室――イノリのスポットだ。俺が目を真ん丸にしていると、須々木先輩は苦笑する。
「総合的に考えて、ここが一番安全かな、と思って。桜沢の目も届いた方が、ええやろうし」
「そうなんすか……」
イノリも、後からくるのかな。きょろきょろしていると、先輩は言う。
「ごめんな。信用して、ついてきてくれてありがとう」
俺は、ハッとした。先輩の顔色、あまり良くない。
「ぼくの言えることやったら、何でも話すよ。聞きたいこと、聞いてくれてええから」
「……先輩」
静かな調子で言われ、ごくりと唾を飲む。
先輩は、まるで殴られるのを待つように、無防備で、神妙な顔をしていた。
その様子を見ていたら、思っていたのと全然違う言葉が、口をついて出てしまった。
「須々木先輩は……どうして、俺に謝るんですか?」
「!」
須々木先輩は、目を見開いた。……まずったかな。
けど。
――ごめん、吉村くん。
夢で見た、赤い髪の先輩のイメージがよぎる。
本当は、ずっと知りたかったのかもしれない。――どうして、先輩は俺に申し訳なさそうなのか?
だってさ。
「先輩に、ずっと優しくしてもらってて。俺、マジで感謝してます。イノリとのことも、いっぱい励ましてくれて、どんだけ心強かったか……!」
須々木先輩は、俺たちの助けになってくれた。
「だから――謝る必要なんて、一個もないじゃないですか」
須々木先輩の目が、ユラユラ揺れている。大きく、何か堪えるようなため息をついた。
「……ちゃうねん、ぼくはそんなつもりやない」
先輩は、でっかい目を手で覆って、少しの間黙っていた。
「吉村くん」
「うす」
「ちょっと長い話やけど。聞いてくれる?」
「はい!」
俺は、力強く頷いた。
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