俺は魔法使いの息子らしい。

高穂もか

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第一部 決闘大会編

百七十話

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「お疲れ様、吉村くん。真帆」

 茶嶋先輩が自席を立って、声をかけにきてくれた。聴取の間も、ずっと気にしてくれていたみたいだ。
 俺は、頭を下げてお礼を言う。

「お時間取っていただいて、ありがとうございましたっ。二見も、本当にありがとう」
「いえいえ~」

 二見は、大量のバインダーを抱え上げると、棚に戻しにいった。
 と、二人になったとたん、茶嶋先輩は申し訳なさそうな顔をして。

「吉村くん、大変なことになっていたんだな。……すまなかったね」
「えっ」

 急に下げられた頭に、うろたえる。だって、謝られる理由がないし。


「いやいや! そんなん気にしないで下さい、先輩」

 俺は、慌てて両手を突き出した。
 話を聞くに、「腕の奴」が来てた事件を把握できていなかった、とそこを申し訳なく思ってくれていて。
 そんなん、いいのにな。だって、ここんとこ後輩への引き継ぎとかで、あまり第三には来れてなかったらしいのに。今日だって、二見がわざわざ先輩を呼んでくれたらしいし、すげえ忙しいんだと思う。


「この事件は、解決すべきだと思う。必ず再問題化して、風紀が一丸となってこの件に当たるように働きかけるよ」

 茶嶋先輩は、力強く請け負ってくれた。俺は、慌てて礼をする。

「あ、ありがとうございます! よろしくお願いします」
「お願いします、草一さん!」

 と、いつの間にか戻ってきていた二見まで、満面の笑みで頷いた。





「――って言うわけでさぁ、やっぱ簡単にはいかなかったよ」
「そっかあ。お疲れさま、トキちゃん。二見くん」

 聴取のあと、俺と二見は305教室に来ていた。って言うのも、イノリに聴取の結果を共有するためだ。
 イノリは、ずっと気にしてくれていたらしくてさ。戸を開けるとソワソワしたイノリが突進して来て、びっくりしたな。

「トキちゃん、大丈夫だった? 嫌なこと言われたりしなかった?」

 俺の両手を握って、イノリが言う。姫岡先輩と会ったことを心配してくれているみたいで、説明する間にも、「怖いこと」や「嫌なこと」がなかったか、しきりに尋ねられた。
 俺は手を握り返して、安心させるように笑った。

「大丈夫だぞ! 二見が全部喋ってくれてさー。俺、座って聞いてただけだし!」
「ほんと? なんかやだなーって思ったら、言ってよね?」
「おうっ」

 イノリは心配性だなあ、って思いつつ、包まれた手があったかくてホッコリした。ニコニコしていると、二見が咳払いする。

「とりあえずさ。今日の聴取を踏まえて、吉村くんの事件は草一さんが再問題化してくれる手筈だし。注目度が上がれば、滅多な真似はされにくくなると思うんだよね」

 二見は、人差し指を俺の鼻先に突き立てた。

「でね? 佐賀さんや西浦さんがついててくれるから、部屋での安全面はまあオッケーだと思うんだけど。問題は、登校中の安全じゃん。吉村くん、なるたけ一人にならないようにしてね。オレも巡回のふりして、様子見に行くからさ」
「わかった。ありがとう!」

 俺は、神妙に頷いた。
 そういうことなら、なるたけ教室にいるようにしよう。俺自身がちゃんと注意して、みんなの心配をムダにしねえようにしなくちゃな。
 イノリも、マジな目をして頷いた。

「この件は、生徒会でも共有してみるね。うまくいけば、抑止力になると思うからー」
「サンキュ、イノリ!」

 二人の手厚い気遣いに、感謝で胸がいっぱいになった。




 生徒会室で仕事があるらしいイノリと別れて、俺は二見と連れ立って帰った。
 そういえば、今日はテスト最終日だ。
 学校中に、どことなくウキウキした空気が漂っている。
 試験が終われば、ついに決闘大会がやってくる。鳶尾との決闘もあるし、気を抜かずに頑張らねえとな!
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