俺は魔法使いの息子らしい。

高穂もか

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第一部 決闘大会編

百四十七話

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 あっという間に、たどり着いた風紀室。
 ノックしようと拳を丸めると、かすかに中から声が聞こえてくる。

「――吉村くん、――だろ――」

 ん? と思ったとき、すでに拳が戸を叩いていた。
 コン、と高い音が鳴る。中のおしゃべりが、ピタリと止まった。続けて二回打つと、「――どうぞ」と、声が聞こえた。

「失礼します」
「ああ、吉村くん。何かあったのかな?」

 中に入ると、風紀の人たちは笑顔で応対してくれた。お昼時だからなのか、室内には沢山の人が居る。
 奥の席で、しらけたように頬杖をついている二見と目が合った。小さく手を振られて、振り返す。
 俺は、声をかけてくれた委員さんに、相田さんのことを伝えた。

「ああ、そうだった! ありがとう。真帆、すぐに行ってきてくれ」
「ハーイ」

 ひょっこり席を立った二見は、すれ違いざまに俺のポケットに手を突っ込んだ。

「えい、追剥ー」
「うわっ?!」

 ぎょっとして、けらけら笑う二見を見上げる。かち合った青い目が思いがけずに真剣で、俺はちょっと面食らった。
 え。どうした?

「ふた――」
「そうだ。吉村くん、田野先生の所には行ってみたかい?」
「あ、ハイ」

 と、氷室さんに聞かれて、ほぼ反射で返事をする。

「どうだった?」
「はい――ええと」

 風紀室を出て行く二見の背中が、気になったけど。
 俺は、氷室さんに田野先生の診立てを話した。

「――ということだそうです」
「なるほど。悪夢、か……」

 氷室さんは、顎を指でこすりながら呟いた。周りの委員さんたちも、目を合わせて、頷き合っている。
 たくさん気をもんでもらったのに「勘違いかもしれない」って言うのは、ちょっと恥ずかしい。喋ってるうちに、変な汗かいてきちまった。
 すると氷室さんは、にこやかな笑みを浮かべて言う。

「そういうことなら、良かったじゃないか!」
「えっ」
「夢だったなら、変質者等いなかったってことだろう? 君の安全はこの上なく保証されるし」
「そ、そうですか?」
「ああ、もちろん」

 ポン、と肩に手を置かれる。
 氷室さんは、晴れやかな笑顔を浮かべていた。俺を囲む委員さんも、くちぐちに「よかったね」と言ってくれる。
 あっけにとられていると、氷室さんが言う。

「あれ、どうかした?」
「あっいや。その、やっぱり、夢なんすかね?」
「納得がいかないかい」
「すんません。ちょっと、不安で……」

 おずおずと切り出すと、氷室さんは「わかるよ」と頷いた。

「大丈夫。君の痛みを軽んじるわけではないが、それは杞憂と言うものさ。田野先生は、立派な先生だから。信頼できる」

 あちこちで、「そうだぞ」「大丈夫」と賛同の声が上がった。
 きょろきょろと見回すかぎり、皆があったかい目で俺を見てくれている。
 俺は、弱った。
 正直さ、「悪夢」って言いきれるかというと、よくわかんねえ。あの「腕」には心底ビビったし、二度と来てほしくねえもん。
 けど……「夢じゃない」とも、言いきれなくなってる自分もいて。
 やけに喉が突っかかって、「あうあう」と狼狽えちまう。
 と、白井さんが助け舟を出してくれた。

「まあ、そう簡単には割り切れないよな。でも、安心してくれ。俺たちは、ちゃんと毎日巡回しているから」
「あ、ありがとうございますっ」

 思わず拝むと、白井さんは苦笑いした。


 というわけで。
 俺の「腕」事件は、いったん解決ってことになったみてえ。

「また何かあったら、気軽に風紀を頼ってくれ」
「はい。ありがとうございました」

 お礼を言って、風紀室を出る。
 昼休みは、まだ始まったばかりだ。廊下は、昼メシを携えた生徒達で、溢れかえっている。
 人波をくぐって、305に向かった。

「おはよー」

 言いながら、戸をくぐって中へ入る。
 イノリがいないのわかってるけど、習慣ってやつ。カーテンを開けて、いつもの席に行く。
 よいしょ、と椅子に腰かけて。――カサッと音がした。
 ポケットからだ。

「ん?」

 中を探ると、なんかの紙くずが出てきた。
 こんなん、入れっぱなしにしてたっけ? 首を傾げてから、「あっ」と思う。

――えい、追剥ー。

 もしかして、二見?
 俺は、まじまじと紙くずを見る。くちゃくちゃに丸まってたけど、広げてみたら、二つ折りのメモ用紙だった。

「何か書いてあるぞ」

 そこには、細い整った文字で、こう書かれてた。

 「 inside 」。


 
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