俺は魔法使いの息子らしい。

高穂もか

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第一部 決闘大会編

百四十六話

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「うーん。怪しいところはなにも無いねぇ」

 田野先生は、首をこてんと傾けた。虫眼鏡の向こうで、目がでっかくなっている。
 左肘を丸出しにして、俺はほっと息を吐く。

「そうですか、よかったー」
「魔力の痕跡も無いし、妙な呪いはかかってないと思うよ。内出血の部分は、日にち薬だね」

 田野先生が、にこやかに太鼓判を押してくれる。
 変な針をぶっ刺されたうえ、呪われてたらどうしよう。そんな心配が吹っ飛んで、俺も思わず笑顔になる。

「ありがとうございます!」
「変な人が来たんだっけ。風紀には行きました?」
「はい。それで――」

 俺は、事の次第を説明した。

「風紀が見張ってても、捕まらなかったのかい?」
「いやあ、何故か……マジ俺、お騒がせしちまって……」

 頭をぽりぽり掻く。
 すると先生は、腕を組んで唸った。

「……それ、本当に犯人がいるんでしょうか」
「えっ?」

 田野先生は、俺の痣を指で軽く押した。痛くもなんともない。

「この痣、注射痕と言うよりは、普通の内出血に近いと思う。回復魔法の痕跡も無いし……本当に、変な人は来たのかな。そんな悪夢を見たってことも、ありえないかい?」

 田野先生は、えびす顔を引き締めて言う。
 俺は、ごくっと唾を飲んだ。

「悪夢……ですか?」
「そう。ストレスを抱えてると見るでしょう」
「で、でもこれ。痣がっ」
「寝てる間にぶつけたり、掻きむしったりしたのかもしれないよ。ストレスや疲労で、カユイカユイになったりするからね」

 そ、そういうこともあるのか……。
 疑問に次々と回答されて、頭がすっからかんになる。
 マジか。
 じゃあ、変な「腕」に針を刺されたのは、単なる夢だったのか?
 左肘をぎゅっと握って、考えに耽ってしまう。
 田野先生が気の毒そうに言う。

「あまり思いつめないようにね」

 教室へ戻ると、みんな参考書や教科書にかぶりついていた。
 今日は、期末テスト初日だ。
 そういや、葛城先生が「決闘大会は、期末試験から始まっていると思え!」って、言ってた。
 なんでも、赤点取って補習受けてたら、最後の調整にかける時間が減るからだって。
 みんな、すっげえギラギラしてる。

「……ようし!」

 俺も気合を入れて、鞄から教科書を取りだした。
 




 午前の試験を終えて、教室を出た。
 向かうは、風紀室だ。
 田野先生に診てもらったし。異常はなかったですって、きちんとお伝えしときたくってさ。
 風紀室へ向かう道すがら、食堂の前を通る。
 と、調理室の勝手口の前で、顔見知りの調理師さんが立っていた。
 調理師さん――相田さんは、寮のご飯を作ってくれてるお兄さん。
 めっちゃ優しくて、お握りしたいときとかも、丼にたくさんご飯盛ってくれるんだ。
 相田さんは、でっかいパンコンテナーを携えている。

「相田さん、こんにちはっす」
「おっ、吉村」
「校舎の方に来られるの、珍しいっすね」
「あー注文があってさぁ。もう取りに来てくれると思うんだけど」

 相田さんは中身が見えるよう、コンテナーを下ろしてくれた。覗き込んで、俺は歓声を上げる。

「うまそー!」
「だろ?」

 相田さんは得意そうに胸を反らす。
 コンテナーの中には、色とりどりの野菜や炙った肉の挟まった、コッペパンサンド。栄養満点でうまい、寮の人気メニューなんだよな。

「こっちにも購買あるけど、どうしてもコイツが食いたいって注文があったわけよ。もー承認欲求、満たされまくり」
「すげー! 俺もこれ超好きっす」
「そお?」

 相田さんは照れくさそうに笑っている。
 俺もニカッと笑う。

「頑張ってください! じゃ、俺はこれで」
「ちょい待ち」

 一礼してその場を去ろうとすると、何故か慌てた様子で引き留められる。

「はい」
「あのさぁ、第三風紀室ってとこ、こっから遠い?」
「いえ。すぐっすよ」
「じゃー、お願いがあんだけど。ひとっ走り行って、誰か呼んできてくんねぇ?」
「へっ?」

 俺はきょとん、と目を丸くする。
 相田さん曰く、注文先は第三風紀室なんだって。取りに来てくれるはずの人がなかなか来なくて、困ってるらしい。

「悪いけど、頼めねーかな? 俺は魔法使いじゃないから「食堂」までしか校舎に入れねーし」
「あっ。じゃあ俺が運んできますよ」
「受け渡しは、責任もって見届けてぇんだ。頼む! 今度、鮭フレークもつけてやっから」
「わ、わかりました!」

 がばぁ、と頭を下げられて慌てる。
 でも、第三風紀ならちょうど行こうと思ってたし、ちょうどいい。
 俺は、ダッシュで第三風紀に向かった。

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