俺は魔法使いの息子らしい。

高穂もか

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第一部 決闘大会編

百四十四話

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 今朝は寝坊しちまったから、昼メシがねぇ。
 と言うわけで、購買にパンを買いに来たら、森脇を発見した。

「よっ、森脇」
「あ、よ吉村くん」

 近寄って肩を叩くと、森脇が目を丸くして振り返る。
 拍子に、山盛りパンを抱えた腕から、二つ三つ落っこちて。
 俺はとっさにキャッチした。

「わっと」
「ふわ、ごっごめん。ありがとう」
「うんにゃ。たくさんあるなー」
「えっ? わ、わわかるっ?」
「うん」

 森脇は、頬をぱっと赤らめる。
 二人で手分けしてパンを抱えると、会計の列に並んだ。森脇は、真っ赤な顔でニコニコしてる。

「じっ実は。い、一緒に、おお昼食べようって、誘ってみたんだ。そしたら、いっいいよって言ってくれて」
「マジっ?! やったじゃん!」
「うんっ。で、でね。これみんなのパン。たっ頼まれて」
「そっかあ。森脇~! あんたはエライ!」
「え、えへへ」

 うんと手を伸ばして頭を撫でると、森脇が誇らしそうにニッコリした。

――ピリッ。

 また項に、嫌な感じがした。
 俺は、グルンと背後を振り返る。
 でも、混雑してて誰がこっちを見てるかなんてわかんねえ。

「よ、吉村くん? どうかした?」

 森脇が、不思議そうに首を傾げる。

「や、なんでも……」

 もごもごと言葉を濁すと、森脇はハッとした顔になって。

「あっ! ちち違うよ? パシリとかじゃな、なくて。ち、ちゃんとお金もらってるから……!」
「お、おう! わかってるぞっ」

 やべえ。あらぬ誤解を招いちまったぞ。
 俺は、森脇に大慌てで弁解した。






 森脇と別れて、ダッシュで305に向かった。
 走りつつ、チラチラ背後を振り返る。
 ううむ。視線はあの一回きりだけど、どーにも落ち着かないんだよな。
 なんつーか、おっかない。
 向こうは俺を知ってるのに、俺は知らねえわけだから。それって、よく考えたらやべーよな。
 例えば、相手がヒットマンなら、俺はとっくにハチの巣ってわけだもん。
 項をわしわし擦りながら、足を速めた。

「イノリ、おはよう!……あれ?」

 ガラ、と戸を開けて、勢いよく中へ飛び込んで。
 目がまん丸になっちまう。
 イノリがいねえ。
 いや。カーテンは開いているから、先に来てたのかもしれねえ。
 いつもの窓際に行って、鞄を置こうとして。――机に、落書きがあるのに気がついた。
 元々書いてあった、イノリの正方形と、俺の伝言。
 その下に、イノリのちょっと癖のある字が書き足されてて。

 おはよー
 なんか 校外に出るよーじができて
 しばらく お昼やすみにここへ来れないかもです
 せっかく来てくれたのに ごめんね


「ええっ?!」

 机に取りついて、何度も読み返す。
 けど、そんなことしても、内容が変わったりするはずもなく。

「そっかぁ」

 俺は、ぷしゅーっと音を立てて、胸がしぼんでいく気がした。また、イノリに会えないんだ……。
 しばらくって、いつまでなんだろう。もしかして、決闘大会が終わるまでだったり?
 うう、頭の上に重石が乗ってるみてえ。

「――馬鹿。大変なのはイノリだろっ。俺が寂しがっててどうすんだ!」

 頭をブンブン振って、気持ちを切り替える。
 しっかりしろ、俺。それでこそ、イノリに頼られる強い男ってもんだろ!
 俺は、書き置きを指でなぞった。
 イノリは普段、ちょっと癖っぽいけどキレイな字を書く。
 でも、これは乱暴に書きなぐったのか、けっこう雑だ。
 だから、慌てて書いたんじゃねーかな。
 忙しいのに、俺が待ちぼうけたり、心配しないようにって、気を遣ってさ。
 そういう奴だもん。
  
「よしっ、頑張るぞ!」

 チョココロネを一気にぱくつくと、余った時間にテス勉をした。
 いよいよ、明日からテストが始まるし。良い点……とまでは言わんけど、赤点は取らねえようにしてえもんなー。 

「ええと、テスト範囲は百十二ページから……」

 ぺらぺらと、教科書のページを捲る。
 持ち主の七原くんて人は、教科書にたくさん書きこむタイプだったらしい。説明文の余白が、細かい字でみっちりだ。

「ん?」

 薄い整った文字に混ざって、すっげえ右肩上がりの、気の強そうな文字がある。
 よく見てみると、

『全然わかんない』『諦めるな。まず公式の確認だ』

 とか、

『解けた!天才』『よし!やればできる』

 二種類の文字が、あっちこっちで掛け合いをしていた。
 きっと、友だちなんだな。
 ほっこりしつつ、せっせと問題をノートに書き写した。
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