俺は魔法使いの息子らしい。

高穂もか

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第一部 決闘大会編

百三十七話 

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 放課後には、姫岡先輩の温室を訪ねた。
 勉強会をするからか、温室の中は昨日と様変わりしてた。
 所せましと並んだテーブルとイス。そこに、ぎゅうぎゅうで生徒達が座っている。
 お花の匂いも、この前より濃い。お茶の数が多いからかもな。

「皆、今日は初めての子が来たよ」
「一年の吉村時生です。今日はお世話になります!」

 姫岡先輩に並んで、皆の前で自己紹介をする。
 ペコっと頭を下げると、「よろしくー」とか、「うぇーい」とか砕けた調子でリアクションが返ってきた。
 思ったより、フランクな雰囲気だぞ。
 見た感じ、先輩が多そうだけど、ちらほら同級生っぽいやつもいる。
 キョロキョロと視線を巡らすと、真ん中付近のテーブルにクラスメイトがいた。
 あれって、薬学の授業で隣の奴らじゃん。あいつらも、勉強会のメンバーだったんか。
 向こうもびっくりしてるみたいで、俺を指さしてなんか言っている。
 それにしても、鳶尾の姿が無いのはなんでだろ? 絶対来てると思って、構えてたんだけど。

「吉村くんのテーブルは……同輩が近い方が安心だよね? とりあえず、あの真ん中あたりに座ってもらおうかな」
「あ、はいっ」

 俺は、「どうもどうも」と腰を屈めて、テーブルの間を移動する。割り当てられた席につくと、同じテーブルの人に挨拶した。

「よろしくお願いします、吉村です」
「いやそれ、さっきも聞いたからー」

 愉快そうな声が言う。

「てか、初めましてでもねえよな。俺たちのこと覚えてねえ?」
「えっ? どこかでお会いして――」

 また違う声が、明るく尋ねた。
 え、会ったことある人だったんか。
 慌てて顔を上げて、俺は目を丸くする。
 そこには、いつかの二人組。
 太いリムの眼鏡の先輩と、すげぇピアスの先輩が、頬杖をついていた。

「あぁ! こんにちはっす」
「やりー、覚えてた。俺は利登」
「俺は泰我ね。まあ、座れよヨシムラー」
「うす! お邪魔します」

 眼鏡が利登先輩で、ピアスが泰我先輩らしい。促されて座ると、先輩たちはお茶の準備をし始めた。

「あっすんません。俺やります」
「あーいいよ。後輩は座ってりゃ」
「それより菓子、好きなやつとってって」
「えっ、いいんすか?」
「いーよいーよ」

 あっという間にお茶の支度が整った。湯気と共に、ふわんと花の匂いが漂う。
 俺は、小皿にチョコボンボンとアップルパイを取り寄せて、思う。
 めっちゃ親切じゃん。
 こないだは、正直めっちゃ変な人達だなぁと思ってて、悪かったかも……。
 俺は、シュクシュクとお茶をご馳走になった。
 途中、テーブルにやって来た他のメンバーの人たちと、ご挨拶したりして。賑やかさにあっけにとられてると、姫岡先輩が苦笑する。

「ごめんね。久々の新入りで、みんな嬉しいんだ」
「そうなんすか?」
「玲人くんのせいじゃないか。君がメンバー決めてんだから」
「何だよ、僕が気難しいみたいに」
「違うの?」

 先輩たちは、ハハハと笑い合っている。
 なんでも、人数が多くなり過ぎないように、姫岡先輩がメンバーを選んでるんだって。
 恰幅の良い先輩が、ティーカップを振りまわしながら言う。

「一人抜けたの、ひと月は前だぜ。なかなか補充されなかったじゃない」
「仕方ないだろう。僕だって、感傷的になってたんだ」

 姫岡先輩が肩を竦めると、背のひょろっと高い先輩が噴き出した。

「解らんでもない。彼、かわいかったものねえ」
「ああ、色白の顎細き美少年!」

 先輩たちは、やんややんやと盛り上がっている。
 俺はもちろん、周りの同輩もポカンとしちまった。知らない人の話題ってさ、どんな顔して聞いてりゃいいのかわかんねえよな。

「幼馴染にべったりで、甘えん坊だったよな。玲人くん、随分面倒見てやってたよね」
「そうでもないさ」
「そうだろう。七原君、君のこと慕ってたぜ」
「ななはら?」

 思わず声を上げると、先輩たちの目が全部こっちを見た。
 ちょっとたじろぎつつも、「あの」と教科書を鞄から取り出す。

「でかい声出して、すんません。このお借りした教科書の持ち主と、同じ名前だって思って……」
「えっ?」

 恰幅の良い先輩が、目を細めて教科書を改める。周りの、利登先輩や泰我先輩も、俺の手元をまじまじと覗き込んで。――はじかれたように、笑いだした。

「ははは、は。おいおい、玲人くん。よりによって、彼に?」
「いけない? 吉村くんは、教科書がなくて困っていたんだよ」
「あ、あの? 俺、なんか変なこと言いましたか?」

 何、笑ってんだろ。わけわかんなくて眉を下げると、利登先輩に肩を叩かれる。

「気にすンなよ。その教科書、お前が大事に使ってやれっつー話」
「はあ……」
「カワイイ七原君も、喜ぶだろうってね」

 そうなのか?
 それにしちゃ、ヘンな笑い方だった気がすんだけど……。
 疑問が顔に出てたのか、泰我先輩に頬を掴まれる。もひゅ、と口から空気が抜けた。

「あは、蛸みてぇ」
「ひょ、ひゃめてくださいっ」
「乳臭えけど、悪くねえよなぁ。利登?」
「わかる、わかるー」

 泰我先輩と利登先輩は、にまにましている。――ちょ、やっぱ妙な絡み方してくんな、この人達!
 肩をぐいぐい押し返しても、びくともしねえ。細身に見えて、体幹強えーでやんの。
 周りの先輩達も、微笑ましそうに見ているだけだ。

「ちょ、マジで――!」

 抗議しようとしたとき、背後でドシン! という音がする。
 驚いたのか、手が緩んだすきに逃げる。
 「あー」と残念そうな声をしり目に、後ろを振り返った。
 と、そこにはでっかい袋を積み上げた台車を引いて、鳶尾がいた。

「……遅くなってすいません、姫岡先輩。頼まれていた土です」
「ああ、お疲れ様。佑樹も、座りなよ。お茶を入れるから」
「いえ、せっかくですが」

 固い声で話していた鳶尾が、急に俺の腕を掴む。

「へっ?」
「法規の代田先生に、こいつ諸共呼び出されましたので……今日は失礼します」
「えーっ、マジで?」

 泰我先輩が、残念そうな声を上げた。鳶尾を見上げると、苛立たしそうに舌打ちされる。

「行くぞ」
「あ、おう。……あの、途中ですみません。今日は、ありがとうございました」

 慌てて立ち上がって、あっちこっちにお辞儀する。
 姫岡先輩は肩を竦めて、苦笑した。

「わかったよ。残念だけど、仕方ないね……またね、吉村くん。佑樹も」
「失礼します」

 足早に歩く鳶尾の後を、俺は慌てて追いかけた。

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