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第一部 決闘大会編
百三十六話
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目を丸くすると、副会長は慌てだした。
「い、いえ! 言ってみただけです。決闘の報酬でもないのに、図々しかったですね……!」
「ええ!?」
報酬って、あれがか?!
大げさな言葉にぎょっとする。
「や、あの。よくわかんないすけど。俺のってわけでもないですし、どうぞ……」
「えっ、良いのですか?」
副会長は、ころっと顔を明るくする。
肩を揺らされて、何度も「本当に良いのですね?」と念を押されてさ。俺が「もちろんす」って、何度も頷くと、ぱあっと嬉しそうに笑った。
「ありがとうございます! 大切に使いますね」
「いえいえ……」
何がなんだかわかんねえけど、喜んでくれたなら良かった。ニカッと笑い返すと、そばで見ていた白井さんが、ため息を吐く。
「蓮条、まだあの”クマ”に凝ってるのか? よくまあ、飽きない……」
「何を言いますか。私がテディちゃんに飽きるなどありえませんよ」
「テディちゃん?」
「あっ見ますか?」
くるん、と副会長が振り返る。
んで、懐から生徒手帳を取り出して、中に挟んであった写真を見せてくれたんだ。そこには、色とりどりの透明なクマが、体をスイングさせてんのが写ってて。
「お、カワイイ!」
「でしょう?! 揺れるだけじゃなくて、飛び跳ねたりもするんです。サイズも手に乗るくらいでね、本当に可愛いんですよ」
「えーっ、すげえっすね!」
「はい! この子達は、魔力をガソリンにしてまして。しかも、魔力の性質によって色もそれぞれ変わるんです。多彩な色が出るのがまた、楽しくて――」
「……まあ、子供の玩具なんだけどな」
熱く語る副会長に、白井さんが呆れ顔で言う。
いわく、テディちゃんってのは、魔法使いの子供に向けた玩具なんだって。コップ一杯の水に魔法の粉を入れて、魔力を込めるだけで、動くクマさん「テディちゃん」が爆誕するらしく。
「魔力を込めた水に粉を入れるんでも、テディちゃんは生まれるって発見したんです。それから、色んな人に魔力に水を込めてもらって、楽しんでいるんですよ。やっぱり、人の魔力は千差万別ですし、その分たくさんのテディちゃんに会えるなら、会いたいと思うじゃないですか――」
「へええ」
熱いな~!
昔、小学校の近くに住んでた盆栽好きのおじいさんを思い出すぜ。ふだんニコニコしてるのに、盆栽のこと話し出すと止まんねえの。
副会長は、水の玉を手元に呼び寄せて、にっこりする。
「で、この水の玉は、吉村くんの魔力を多量に吸い上げていますから。……ふふ、楽しみだなあ。久々に虹色が出るかもしれませんね。私の魔力も少し混ざってしまうのが、残念ですが――」
「虹色が欲しいなら、あいつに頼めばいいじゃないか? 喜ぶだろ」
「いえ。それは、決闘で勝ちませんとね」
「お前も難儀だなぁ」
きっぱりと言い切った副会長に、白井さんは肩を竦めた。なんのこっちゃ解らないけど、きっといろんな事情があんだろうな。
副会長はうきうきと生徒手帳を取り出すと、サラサラとペンを走らせた。あっけにとられて見ていると、ビリッと破り取ったページを見せられる。
「『蓮条・C・幸也は、吉村時生より譲渡された魔力をダンシング・テディちゃんの生成にのみ使うことを誓います』……あの、これは?」
「言葉通り、私は君の魔力を悪用しないという、誓いですよ。魔力をお預かりするからには、そこの所はきちんとしておきたいのです」
にっこり笑って、手に紙を握らされる。なんだか、すごく大ごとな気がするんだが……。
戸惑っていると、白井さんに肩を叩かれる。
「まあ、貰っておきなさい」
「は、はぁ……」
よくわかんねえけど、せっかくのご厚意だもんな。
俺は、貰った紙を生徒手帳に挟んだ。
「こうしてはいられません。魔力が抜けてしまう前に、テディちゃんを爆誕させなくては……お先に失礼しますね!」
「はい! ありがとうございましたっ」
副会長は、上機嫌で教室を飛び出して行った。ぴゅーっと鉄砲玉みてえな速さだ。
本当に好きなんだなあ、テディちゃんのこと。
それから、俺は、白井さんと廊下を歩いていた。
「念のため」って、俺の教室まで、送ってくれるって。いつも気遣ってもらって、申し訳ないぜ。
「すんません」
「気にするな。――少し、話したいこともあってな」
半歩前を行く白井さんは、真剣な顔で振り向いた。
「何すか?」
「さっきの……魔力を込めて動くクマで思い出したんだが。水だけでなく、物にも魔力は込めることが出来るんだ」
「はい」
「他人の魔力が込もったものは、簡単に受け取らないようにな。体に思わぬ作用をしたり――何かまじないがかかっている可能性もある」
「えっ」
思わず声を上げると、白井さんは頷いた。
「蓮条の奴は、ホイホイと受け取っているが……あいつは実力を自負してるからな。だが本来、他人の魔力が籠ったものは危ない。だからもし――魔力の籠った物を、そうと言わずに渡してきた者が居たら、警戒したほうが良い」
「……はい」
気迫のこもった目に、圧倒される。こくりと深く頷くと、白井さんは目力を和らげた。
「頼む。――すまない、脅すようなことを言って」
「いえ、ありがとうございます!」
白井さんって、マジ親切だよなあ。俺、全然そういうの知らねえし、いつも注意してくれて、ありがてえや。
なるほど、魔力の込められたものか……。もし、渡して来ようとする人が居たら、気をつけよう。
俺は、ふんすと握りこぶしを作った。
「い、いえ! 言ってみただけです。決闘の報酬でもないのに、図々しかったですね……!」
「ええ!?」
報酬って、あれがか?!
大げさな言葉にぎょっとする。
「や、あの。よくわかんないすけど。俺のってわけでもないですし、どうぞ……」
「えっ、良いのですか?」
副会長は、ころっと顔を明るくする。
肩を揺らされて、何度も「本当に良いのですね?」と念を押されてさ。俺が「もちろんす」って、何度も頷くと、ぱあっと嬉しそうに笑った。
「ありがとうございます! 大切に使いますね」
「いえいえ……」
何がなんだかわかんねえけど、喜んでくれたなら良かった。ニカッと笑い返すと、そばで見ていた白井さんが、ため息を吐く。
「蓮条、まだあの”クマ”に凝ってるのか? よくまあ、飽きない……」
「何を言いますか。私がテディちゃんに飽きるなどありえませんよ」
「テディちゃん?」
「あっ見ますか?」
くるん、と副会長が振り返る。
んで、懐から生徒手帳を取り出して、中に挟んであった写真を見せてくれたんだ。そこには、色とりどりの透明なクマが、体をスイングさせてんのが写ってて。
「お、カワイイ!」
「でしょう?! 揺れるだけじゃなくて、飛び跳ねたりもするんです。サイズも手に乗るくらいでね、本当に可愛いんですよ」
「えーっ、すげえっすね!」
「はい! この子達は、魔力をガソリンにしてまして。しかも、魔力の性質によって色もそれぞれ変わるんです。多彩な色が出るのがまた、楽しくて――」
「……まあ、子供の玩具なんだけどな」
熱く語る副会長に、白井さんが呆れ顔で言う。
いわく、テディちゃんってのは、魔法使いの子供に向けた玩具なんだって。コップ一杯の水に魔法の粉を入れて、魔力を込めるだけで、動くクマさん「テディちゃん」が爆誕するらしく。
「魔力を込めた水に粉を入れるんでも、テディちゃんは生まれるって発見したんです。それから、色んな人に魔力に水を込めてもらって、楽しんでいるんですよ。やっぱり、人の魔力は千差万別ですし、その分たくさんのテディちゃんに会えるなら、会いたいと思うじゃないですか――」
「へええ」
熱いな~!
昔、小学校の近くに住んでた盆栽好きのおじいさんを思い出すぜ。ふだんニコニコしてるのに、盆栽のこと話し出すと止まんねえの。
副会長は、水の玉を手元に呼び寄せて、にっこりする。
「で、この水の玉は、吉村くんの魔力を多量に吸い上げていますから。……ふふ、楽しみだなあ。久々に虹色が出るかもしれませんね。私の魔力も少し混ざってしまうのが、残念ですが――」
「虹色が欲しいなら、あいつに頼めばいいじゃないか? 喜ぶだろ」
「いえ。それは、決闘で勝ちませんとね」
「お前も難儀だなぁ」
きっぱりと言い切った副会長に、白井さんは肩を竦めた。なんのこっちゃ解らないけど、きっといろんな事情があんだろうな。
副会長はうきうきと生徒手帳を取り出すと、サラサラとペンを走らせた。あっけにとられて見ていると、ビリッと破り取ったページを見せられる。
「『蓮条・C・幸也は、吉村時生より譲渡された魔力をダンシング・テディちゃんの生成にのみ使うことを誓います』……あの、これは?」
「言葉通り、私は君の魔力を悪用しないという、誓いですよ。魔力をお預かりするからには、そこの所はきちんとしておきたいのです」
にっこり笑って、手に紙を握らされる。なんだか、すごく大ごとな気がするんだが……。
戸惑っていると、白井さんに肩を叩かれる。
「まあ、貰っておきなさい」
「は、はぁ……」
よくわかんねえけど、せっかくのご厚意だもんな。
俺は、貰った紙を生徒手帳に挟んだ。
「こうしてはいられません。魔力が抜けてしまう前に、テディちゃんを爆誕させなくては……お先に失礼しますね!」
「はい! ありがとうございましたっ」
副会長は、上機嫌で教室を飛び出して行った。ぴゅーっと鉄砲玉みてえな速さだ。
本当に好きなんだなあ、テディちゃんのこと。
それから、俺は、白井さんと廊下を歩いていた。
「念のため」って、俺の教室まで、送ってくれるって。いつも気遣ってもらって、申し訳ないぜ。
「すんません」
「気にするな。――少し、話したいこともあってな」
半歩前を行く白井さんは、真剣な顔で振り向いた。
「何すか?」
「さっきの……魔力を込めて動くクマで思い出したんだが。水だけでなく、物にも魔力は込めることが出来るんだ」
「はい」
「他人の魔力が込もったものは、簡単に受け取らないようにな。体に思わぬ作用をしたり――何かまじないがかかっている可能性もある」
「えっ」
思わず声を上げると、白井さんは頷いた。
「蓮条の奴は、ホイホイと受け取っているが……あいつは実力を自負してるからな。だが本来、他人の魔力が籠ったものは危ない。だからもし――魔力の籠った物を、そうと言わずに渡してきた者が居たら、警戒したほうが良い」
「……はい」
気迫のこもった目に、圧倒される。こくりと深く頷くと、白井さんは目力を和らげた。
「頼む。――すまない、脅すようなことを言って」
「いえ、ありがとうございます!」
白井さんって、マジ親切だよなあ。俺、全然そういうの知らねえし、いつも注意してくれて、ありがてえや。
なるほど、魔力の込められたものか……。もし、渡して来ようとする人が居たら、気をつけよう。
俺は、ふんすと握りこぶしを作った。
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