俺は魔法使いの息子らしい。

高穂もか

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第一部 決闘大会編

百三十四話

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「我が身に宿る火の元素よ、熱を生じ、彼の気と結び蝋燭に火を点させよっ!」

 腕をガバッと広げ、俺は高らかに詠唱する。
 詠じた途端、体がホカホカし始めた。
 ジャケットを羽織った背中に、じんわり汗が滲む。
 けど……何も起こらねえ。どっかから、「あいつ、マジかよ」と呆れる声が聞こえてきた。

「まさか、鳶尾くんの真似するつもりか?」
「バッカじゃないの?」

 ええい、ほっとけ!
 俺は、ふんすと鼻息を吐く。
 できなくてもビビらねえ。火が点かないのは、いつものことだし。
 なら、好きなやり方で挑戦してみんだ。

「我が身に――」

 繰り返し、詠唱をはじめる。
 さっきより、もっと火の元素を捉えるんだ。体の内側でひりひり燃えて、わーって突き抜けてくみてえな、あの感じ……。 
 ふわ、と体から赤い光が溢れだす。
「魔法は、イメージ勝負だから」って、イノリの言葉を思い出せ。
 熱くなって、火を点す。
 蝋燭に火が点る。――それだけを、イメージし続ける!
 まだ、火が点かない。何か――「届いてる感じ」がしない。まだ魔力が足りねえのか?
 体から、もっともっと、熱を溢れさせろ。
 次第に、視界がゆらゆらしてくる。
 汗が、顎からポタポタ落ちた。
 熱い!――いやまて、集中だ。火を点すんだ。
 蝋燭に、火を。
 燭台の側の生徒が「うわぁ!」と叫んだ気がした。
 わかんねえ。頭がうかされる。

「――蝋燭に火をとも」

 そのまま詠唱を完了しようとした、刹那。

――バシャッ!

 天井から、大量の水が降ってくる。
 頭からひっかぶって、ジュウッと肌の上で音を立てた。 

「えっ?」

 俺は目をぱちくりする。

「そこまでです、吉村くん」

 高柳先生が眉根を寄せて、手をかざしている。
 我に返って、辺りを見渡せば。
 煙る燭台とか。どろどろんなって、床を汚すロウとか。なんかいっぱい、見えてなかったもんが、目にはいってきて――。     

「あれ?」

 俺は、頬がひきつった。
 視界の隅で、鳶尾が忌々しそうに舌打ちをした。





 高柳先生は、呆れ声で言った。

「吉村くん、君は本当に何を考えているんでしょうね」

 頭痛そうに、米神をぐりぐりしている先生の前で、俺は小さくなる。
 寒くて、奥歯がカチカチ鳴った。

「すんません……」

 頭を下げた拍子に、体から水滴が飛び散った。
 ビシャビシャ、と床に広がった水たまりが、さらに大きくなる。
 ああ、大惨事。
 俺どころか、教室まで水浸しだし。
 その上、きな臭い。
 どうも、ぶすぶすと煙をあげる燭台が、異臭をはなっているらしかった。
 周りを囲むクラスメイトが、「くっさ」と顔をしかめている。
 すまん、みんな。
 高柳先生は、でっかいため息をついた。

「いいですか? 魔力コントロールが拙いうちに大きな魔力を動かしては、制御がきかないのは当然です。大変な事故になるところですよ! 君が、鳶尾くんの真似など十年早い」
「は、はい。すんません」
「全く。――つまらぬ自惚れは捨て、謙虚に修練するように……吉村くん、皆に迷惑をかけた罰を与えます。教室を一人で掃除しなさい」
「はい!」
「それと、点火術の心得をノートに十回書いて、明日の朝までに提出すること」
「はい!」

 つらつらと、立て板に水の勢いで高柳先生が言う。
 俺は腰をペコリと折って、一も二もなく頷いた。
 




「うー、寒い」

 モップで水を拭き取りながら、俺は身震いした。
 真冬にずぶ濡れはきつい。
 火の元素であっつあつだったときはいいけど、我に返ったら凍えそうだ。
 はやく終わらせて、ジャージに着替えなきゃ。
 せっせと水を拭き取ると、床の蝋をはがして。
 それから、燭台をひとつひとつ磨いていく。
 体が濡れてるせいで、拭いたそばから水が落ちてしまう。

「ひー、タオルほしい……!」

 がむしゃらに床を拭いていると、ガラッと教室の戸が開いた。

「おや? お一人で掃除ですか」

 心地よいトーンで、言葉がはきはきと発される。長い髪を靡かせて部屋に入ってきた、すらりとした人。
 この人は……たしか、生徒会の副会長だ。
 すげーハンサム。部屋が明るくなった気がする。

「吉村くん?」

 その背後から、白井さんが顔を出す。
 
「何でずぶ濡れなんだ?」

 至極まっとうな疑問を口にされて、俺は苦笑した。

                                                                                                                                         
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