俺は魔法使いの息子らしい。

高穂もか

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第一部 決闘大会編

百三十二話

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「魔力の痕跡って?」
「うん。トキちゃんの身体にね、別の人の魔力の気配がある」

 俺は、自分の身体を見下ろした。何も、おかしなものがくっついてるようには見えない。
 でも、イノリはじっと俺の「何か」を凝視している。

「それって、何? 普通はついてないものなん?」
「ううん。魔力がうつること自体は、そんなに珍しいことじゃないよ。俺たち魔法使いって、体から魔力が滲み出てるでしょう。だから、他人と触れあったりすると、お互いのがくっついちゃったりする。……でも、それって普通、長くは持たないんだよね」
「ほうほう。何で?」
「ええとね……」

 イノリは、手のひらを俺に見せつけた。白い肌の内側から、滴るように金の光が零れ出てくる。

「見た方が、早いかな。手ぇかしてー」

 イノリが、俺の手を握る。
 俺の手に、イノリの光が、ふよふよとまとわりついた。体ん中に入ってはいかなくて、手のひらで踊るようにふわふわ。

「うわわっ」
「トキちゃん、よく見てて」

 真剣なかおで、イノリが言う。
 ドキッとして、俺は気合を入れ直す。より目になって、じいっと手のひらを凝視する。
 すると。――ふわ、と俺の手のひらで透明な光が滲みだした。

「あっ」

 透明な光は、金色の光を滑らせて、宙に持ち上がる。二色の光は、くるくると舞うように、空気の中に溶けていった。

「イノリの魔力が飛んでった……!」
「――ね。こうやって、自分の魔力がね、他人の魔力を押し飛ばしちゃう。だから、定着しないんだよ」
「へええ……!」
「勿論、魔力の序列の違いで、他の人の魔力が長く残ることもあるけど……トキちゃんの場合は、そうそう残らないよ」
「へー、そうなんだ」

 面白いなあ。
 俺たちの身体って、こんな仕組みになってたのか。
 イノリいわく、滲み出る魔力が多いほど、他人からの魔力の干渉を受けにくいんだって。

「つまり、あれだな。魔力って、ガマの油みてえな感じ……」
「あははっ! トキちゃんらしー」
「お? どういう意味だ」

 首を捻る俺をよそに、イノリはニコニコ笑いながら話を続けた。

「そういうわけで、魔力は定着しないから。今のトキちゃんみたいに、誰かの痕跡が残るってのは、普通じゃないの。……考えられるのは、他人の魔力が体内に取り込まれて――循環しているか、暴れているか」
「!」

 イノリは、じっと俺を見た。薄茶の目の奥が、きらっと底光りする。

「そういうとき、理由は"魔法をかけられたか"、"魔力を注がれたか"ぐらいなんだ。――だから、トキちゃん」

 イノリはそこで言葉を切った。じっ、と思わずたじろぐほど、強い目で見つめられる。

「何か、危ないことに巻き込まれてない?」



 俺は、うろたえてしまう。あ、危ないことか……。こんな方向から、色々バレそうなんて、おもわなくてビビる。
 イノリは、物憂げに長い睫毛を伏せる。

「ごめんね、詮索しちゃって。……ただ、トキちゃんにこんなに長く魔力が残るなんて、稀だから。どうしても気になって……」
「……!」

 そう言われて、ハッと。
 イノリは、気にしてるんだな。
 俺がまた、危ないことに巻き込まれてんじゃないかって。俺が一回、大怪我したもんだから。
 イノリの手を握ると、心配そうに見つめられる。
 胸が、ぎゅうって詰まる。
 そうだ。
 イノリはいつも、俺の変化にすぐ気づくから。その分、俺が危なっかしかったら、気が休まんないよな。
 ちゃんと、安心させてやんなくちゃ……!

「イノリ、大丈夫だぞ。実はさ――」
 

 俺は、事情を話した。
 うっかり怪我して、葛城先生に回復魔法をかけてもらったこと。怪我自体、もうすっかり治ってて、心配いらないよってこと。
 イノリはそりゃ心配してくれた。
 どうどうと、なんとか宥める。

「トキちゃん、本当に無理してない?」
「へいきだぞ。ほら」

 手を取って、ヒビのあった所に導いた。
 イノリは、おそるおそる俺のあばらに手を当てる。熱もなにも無いことを確かめて、息を吐いた。

「な?」

 ニカッと笑って見せると、イノリもへにゃっと笑う。

「よかった……」
「おう! 心配かけてごめんな」
「それは当たり前だしー。……魔力も、回復魔法の痕跡が、のこってたってことなんだね」
「たぶん。よくわかんねーけど……」
「……けがは、本当に。うっかり転びかけて、お腹うっちゃったの?」
「う、うん! そうだぜっ」

 それでもイノリは、不安なようなホッとしたような、矛盾した表情を浮かべた。
 俺は、首を捻る。

「どうした?」
「ううん」

 イノリに腕をひかれて、胸の中にぽすっとおさまった。ふんわり抱きしめられて、でかい背中に腕を回した。
 イノリは俺の頭に頬をつけて、大きく息を吐く。 

「気のせいなら、いいけど……」

 と、どうにも不安そうに呟いた。
 俺はちょっぴり、悲しくなった。
 
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