俺は魔法使いの息子らしい。

高穂もか

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第一部 決闘大会編

百三十一話

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 俺はかあっとなって、俯いた。
 恥ずかしい!
 よく考えたら、当たり前なのに。
 そもそもイノリは、俺の魔力おこすために触ってくれてたのであって。
 もう、今となっちゃ触る理由がないんだから……。
 そう思ったら、なんか胸が塞いできた。コロッケパンを握りしめる。

「トキちゃん、どした?」
「イノリ……」

 イノリが、不思議そうに問う。よしよしと頭を撫でられて、優しさが胸に沁みた。

「ううん。なんでもねえ」
「ほんと?」
「おう!」

 明るく言うと、イノリはほっと息を吐いた。
 俺は、しゃんと胸を張って、後ろを振り仰いだ。

「なあ、話ってなんだ?」
「うん。あのね……」

 イノリはでっかい手で、俺の手を包んだ。
 と、拍子にパンからこぼれたコロッケが、手のひらにコロンと落ちる。
 俺は、あっと目を見開いた。
 握りすぎて、パンがへしゃげちまってる。ガーン、とショックを受けていると、イノリが笑った。

「ごめんね、ビックリさせて……先にごはん食べちゃおっか?」
「そ、そうだな」

 俺は、頷いた。ちょっと照れ臭い。
 コロッケをパンに挟み直して、俺はがふがふとかじりついた。





 
 お腹いっぱいになったところで、イノリは静かな声で切り出した。

「……さて、トキちゃん。話してもいい?」
「おう!」

 威勢よく答えると、くすっと笑われる。
 イノリは、くるんと俺をひっくり返して。――お互い、向き合う格好で座り直す。
 薄茶の瞳が、じっと俺を見つめて、言った。

「待ってるって言ったのに、こんなん聞くのもどうかとおもうんだけど……」

 イノリは、少し罰が悪そうに目を細めた。

「やっぱ気になるから、ごめん。――トキちゃん、また何かあったでしょ?」
「えっ」

 何かあったかって、言われると。
 俺は、頭のなかで「何か」を列挙した。 
 えっと。
 何かって言うと。
 直近では、あばらのことが頭に浮かぶ。でも、もうすっかり良いから、「何か」ってほどじゃないなあ。
 じゃぁ、うたた寝すると、記憶が戻ってくることとか……。
 でも、イノリは俺に記憶がなくてよかったって、いってた。
 わざわざ知らせて、心配とかかけたくねえ。

「ううん」
 
 困った。
 いろいろ思い当たらなくはないけど、「これだ」って、言えることがない。
 うんうんと、首を捻る。

「ちょっと待って。なんで、そんな事聞くんだ?」

 逆に聞いてみると、イノリは眉を下げてしまう。
 でっかい手を伸べて、俺の片頬を包みこんだ。
 言いにくいこと言うみたいに、視線が泳いでいる。じっと待っていたら、答えてくれた。

「――あんね。トキちゃんに、大きな魔力の痕跡が見えるんだよね」
「えっ?」
「何か大きな魔法を、掛けられたみたいなさ。だから、どうしたんだろうって思って……」

 俺は、目をぱちくりした。
 魔力の痕跡? 
 それって、どういうことだ?
 
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