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第一部 決闘大会編
百三十話
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ちょっとして、俺は葛城先生のお部屋を辞した。
「失礼しましたっ」
「吉村、今日はあまり無理するなよ。本当は、早退しても良いくらいだからな」
「うす!」
深く頭を下げると、人気のない廊下を歩きだす。もう授業が始まってるらしい。どこかの教室から、すげぇ巻き舌の英語が聞こえてきた。
先輩たちは、葛城先生のお部屋を片付けてから、授業に行くんだって。
「お手伝いします」って言ったら、葛城先生に「けが人がいらん心配するな」って。ちょっと申し訳ないけど、お言葉に甘えさしてもらうことにした。
「授業出て大丈夫なん?」
「はい。もう元気です」
須々木先輩は、めっちゃ心配してくれてた。
それはもう、「早退しい」って、寮まで送ってくれそうな勢いで。ありがたいけど、マジ元気だから授業に出たくてさ。藤川先輩が、「彼の意思を尊重しよう」って、言ってくれてちょい助かった。
俺は、てくてく廊下を歩く。
窓から、冬晴れの日差しがきらきらと差し込んでいた。ホコリが虹色に光って、くるくる宙を舞う。
それにしても。
ちょっと転寝した拍子に、記憶が戻るからびっくりするな。
また、真っ赤な夕焼けの景色。――たぶん、俺が四階から落ちて、死にかけたときの空だろうけど。
真っ赤な頭の須々木先輩が、俺のことをのぞき込んでた。
ごめん、って。
何度も、辛そうに言いながら。
なんでだろう。
むしろ、先輩は俺の恩人なのに……。
「あっ! お礼言い忘れた」
うっかりだ。
次こそ、きちんと「助けてくれてありがとう」って言わなくちゃな。
そして、授業を終えて迎えた昼休み。
「……」
「……」
俺は、困惑していた。
「……なあ、イノリよう」
「ん? なぁに、トキちゃん」
亜麻色の髪が、さらりと頬に落ちかかってきた。
ちょっ、くすぐってえ。
思わずビクッとした肩に、頭がぽんと乗っかってくる。俺は、つとめてあさってを向いたまま、尋ねる。
「なんで俺、抱えられてる?」
うお。
なんか、宇宙人みたいになったぞ。
項にじわ、と汗が滲んだ。
「……いや?」
ぎゅ、と俺の腹に回った両腕に、かるく力が籠められる。距離が近づいて、ふわりと甘い香りが強くなった。
不安そうな声に、俺はそわそわしながら答える。
「い、やではねえけどさ。お前、メシ食いづらくねえ?」
「俺は大丈夫ー」
「そおかあ……?」
「うん」
イノリは頷いて、俺の頭頂に頬をくっつけた。
俺はと言うと、コロッケパンを握りながら、様子のおかしいイノリに首を傾げる。
俺はいま、壁を背中にしたイノリの、足の間に座ってる状態で。
ぎゅっと、ぬいぐるみよろしく。……抱えられてたりするわけで。
いや、なんで?
動揺して、胸がどこどこする。
305教室で、顔を合わせたばっかのときは、普通だったんだぜ。
「トキちゃん、おはよー」
「おはよう、イノリ」
「今日も寒いねえ」
って笑ったイノリが、ふざけて俺を抱きしめて。
頭に頬をすり寄せたとき、「――あれ?」って小さく呟いたんだ。
で、急に黙り込んで。
どうしたのかと思えば、俺を抱えて座り込んじまったってわけ。
そっから、コアラみたいになっちまってさ。
おかげで、腹ペコだったのにメシが喉を通らないんですが……。
「なあ、どうしたんだよー」
俺は意を決して、背後を振り向いた。
そらもう、細心の注意を払って。だって、うっかりすると事故をおこす距離だし。
「んー。なんでもない……こともないけど」
「なんだよ?」
間近にあるイノリの目が、きょろ、と俺を見た。一瞬、目の奥がきらっと光って見えて、どきっとする。
「い、イノリ?」
イノリの目の奥が、金色にちかちかしてる。
え、ちょっと。
脳裏に、お泊まり会の記憶がギューンと再生される。きらきらした目に、目を覗き込まれながら、魔力に触れられたこと――。
もしかして。
いや、でも理由がないし!
俺は、ごくりと固唾を飲む。
イノリは、じっと俺の目を覗き込んでいた。
どぎまぎしながら目を開いていると、やにわにため息を吐かれる。
「……」
「……」
「………やば」
「え?」
「はー……俺、またフェアじゃなかった」
「ええっ?」
「ごめん。ちゃんと話すから、聞いてくれる?」
「……あ、うん」
ポカンと頷いてから、じわじわ恥ずかしさがやってきた。
なんだよお!?
肩透かしを食って、俺は頬が熱くなった。
てっきり、魔力に触られるのかと思って、緊張したのに!
「失礼しましたっ」
「吉村、今日はあまり無理するなよ。本当は、早退しても良いくらいだからな」
「うす!」
深く頭を下げると、人気のない廊下を歩きだす。もう授業が始まってるらしい。どこかの教室から、すげぇ巻き舌の英語が聞こえてきた。
先輩たちは、葛城先生のお部屋を片付けてから、授業に行くんだって。
「お手伝いします」って言ったら、葛城先生に「けが人がいらん心配するな」って。ちょっと申し訳ないけど、お言葉に甘えさしてもらうことにした。
「授業出て大丈夫なん?」
「はい。もう元気です」
須々木先輩は、めっちゃ心配してくれてた。
それはもう、「早退しい」って、寮まで送ってくれそうな勢いで。ありがたいけど、マジ元気だから授業に出たくてさ。藤川先輩が、「彼の意思を尊重しよう」って、言ってくれてちょい助かった。
俺は、てくてく廊下を歩く。
窓から、冬晴れの日差しがきらきらと差し込んでいた。ホコリが虹色に光って、くるくる宙を舞う。
それにしても。
ちょっと転寝した拍子に、記憶が戻るからびっくりするな。
また、真っ赤な夕焼けの景色。――たぶん、俺が四階から落ちて、死にかけたときの空だろうけど。
真っ赤な頭の須々木先輩が、俺のことをのぞき込んでた。
ごめん、って。
何度も、辛そうに言いながら。
なんでだろう。
むしろ、先輩は俺の恩人なのに……。
「あっ! お礼言い忘れた」
うっかりだ。
次こそ、きちんと「助けてくれてありがとう」って言わなくちゃな。
そして、授業を終えて迎えた昼休み。
「……」
「……」
俺は、困惑していた。
「……なあ、イノリよう」
「ん? なぁに、トキちゃん」
亜麻色の髪が、さらりと頬に落ちかかってきた。
ちょっ、くすぐってえ。
思わずビクッとした肩に、頭がぽんと乗っかってくる。俺は、つとめてあさってを向いたまま、尋ねる。
「なんで俺、抱えられてる?」
うお。
なんか、宇宙人みたいになったぞ。
項にじわ、と汗が滲んだ。
「……いや?」
ぎゅ、と俺の腹に回った両腕に、かるく力が籠められる。距離が近づいて、ふわりと甘い香りが強くなった。
不安そうな声に、俺はそわそわしながら答える。
「い、やではねえけどさ。お前、メシ食いづらくねえ?」
「俺は大丈夫ー」
「そおかあ……?」
「うん」
イノリは頷いて、俺の頭頂に頬をくっつけた。
俺はと言うと、コロッケパンを握りながら、様子のおかしいイノリに首を傾げる。
俺はいま、壁を背中にしたイノリの、足の間に座ってる状態で。
ぎゅっと、ぬいぐるみよろしく。……抱えられてたりするわけで。
いや、なんで?
動揺して、胸がどこどこする。
305教室で、顔を合わせたばっかのときは、普通だったんだぜ。
「トキちゃん、おはよー」
「おはよう、イノリ」
「今日も寒いねえ」
って笑ったイノリが、ふざけて俺を抱きしめて。
頭に頬をすり寄せたとき、「――あれ?」って小さく呟いたんだ。
で、急に黙り込んで。
どうしたのかと思えば、俺を抱えて座り込んじまったってわけ。
そっから、コアラみたいになっちまってさ。
おかげで、腹ペコだったのにメシが喉を通らないんですが……。
「なあ、どうしたんだよー」
俺は意を決して、背後を振り向いた。
そらもう、細心の注意を払って。だって、うっかりすると事故をおこす距離だし。
「んー。なんでもない……こともないけど」
「なんだよ?」
間近にあるイノリの目が、きょろ、と俺を見た。一瞬、目の奥がきらっと光って見えて、どきっとする。
「い、イノリ?」
イノリの目の奥が、金色にちかちかしてる。
え、ちょっと。
脳裏に、お泊まり会の記憶がギューンと再生される。きらきらした目に、目を覗き込まれながら、魔力に触れられたこと――。
もしかして。
いや、でも理由がないし!
俺は、ごくりと固唾を飲む。
イノリは、じっと俺の目を覗き込んでいた。
どぎまぎしながら目を開いていると、やにわにため息を吐かれる。
「……」
「……」
「………やば」
「え?」
「はー……俺、またフェアじゃなかった」
「ええっ?」
「ごめん。ちゃんと話すから、聞いてくれる?」
「……あ、うん」
ポカンと頷いてから、じわじわ恥ずかしさがやってきた。
なんだよお!?
肩透かしを食って、俺は頬が熱くなった。
てっきり、魔力に触られるのかと思って、緊張したのに!
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