120 / 239
第一部 決闘大会編
百二十話
しおりを挟む
305教室に行くと、イノリはまだ来ていなかった。
なんか、ちょっとだけホッとする。いつもの席に鞄を置いて、窓を開けた。びゅう、と寒い風が吹き込んできて、カーテンがバタバタ揺れる。
熱った頬に、風がきもちいい。
短時間に色んなことがあって、気持ちの整理が出来てないんだぜ。
俺の夢のこと。布団のタワーが積み上がってたこと。
会長にやけにからかわれたり、イノリが布団を積み上げたんだって、聞いたり……。
――知っといてやれ。あいつはよっぽどあんたが好きなんだ。
会長の声が甦って、頬にカッと血が上る。
「あわわわ」
慌てて、ブンブンと頭を振った。
いや、べつに、何もおかしいことないけど。
たぶん、会長にからかわれて動揺してるだけなんだ、俺ぁ!
イノリが、俺のことを好きなんつったって。
そりゃ、俺たちは幼馴染みで親友なんだもん。好きだから、ずっと一緒にいるって、至極トーゼンのことじゃんか。
もちろん俺だって、イノリのことは好きだから……。
「はっ!」
また、舌がもつれる。
やっぱり、イノリのこと好きって、上手く言葉になんねえ。なんか、胸の奥をトテトテ蹴られてるみたいに、息苦しくなっちまって。
俺は、鞄の上に突っ伏した。
「ううう……! なんで……まさか、何かの呪いなのかっ?!」
「何が?」
やわらかい声が聞こえて、ハッと顔を上げる。
間近に、緑かかった薄茶の目があって、ぎょっとした。
「イイイノリ?!!」
「うん、俺だよ?」
がばぁ、とのけ反ると、イノリは不思議そうに首を傾けた。
「いつの間に?! どこから?!」
戸の開く音、しなかったぞ。すると、イノリは事も無げに言う。
「さっきの間ー。窓開いてたから、窓からー」
「……生徒会って、窓移動する掟なん?」
「そうでもないよー」
イノリは、ニコッとしてビニル袋を掲げた。なんか香ばしい、いい匂いがする。
「食堂でね、焼きそば焼きたてだったんだー。トキちゃん、一緒にたべよ?」
「マジ!? すげー!」
――焼きそば!
一瞬にして、心が焼きそばにとらわれる。
食堂の焼きそば、めっちゃ美味いんだ。昼メシ時には焼きたての焼きそば弁当があって、これがまた最高なんだけど、数量限定で滅多にお目にかかれねえの。
ありがとう、イノリ!
イノリが、大判のプラパックを開けると、焼きそばがほかほかと湯気を立てる。
「いただきまーす」
二人で手を合わせて、甘辛い麺をたぐる。
「うまっ!」
「おいしいねぇ」
信じられんくらい具だくさんだし、もちもちたまご麺にソースがたっぷり絡んでやみつきになるウマさ。
夢中で食べていると、イノリがニコニコして言う。
「トキちゃん、魔力測定どうだった?」
「ん? ああ、なんかさ――」
俺は、イノリに測定石が爆発したことを伝えた。
あれには、驚いた。
一晩で、測定室が元通りだったのにも、びっくりだけど。
イノリは、手をパチパチ叩く。
「やったね。俺、トキちゃんは爆発させる気がしてたー」
「えっマジで?」
「うん、マジ」
「へへへー。イノリは? 今日だろ」
「俺?」
イノリは、こてんと首を傾げた。
「俺はまだだよー」
「え、でも」
「桜沢」なら、早くにおわってるはずでは? イノリは苦笑する。
「爆発するから、あとまわしになんだってー」
「あ、なるほど」
「はい、トキちゃん。イカ―」
「あー」
口を開けると、イカとそばを押し込まれる。うまい。
もぐもぐ噛んでいると、イノリが目元をやわらかく和ませて、
「――あれ?」
ふと、不思議そうな声を上げる。
「どした?」
「うーん? へんだな……?」
イノリは、箸を長い指に挟んだまま、まっすぐに俺を見つめてくる。
なんとなく、探るような視線にうろたえる。バレたくないことまで、バレちゃいそうな気がして――。
胸に変な汗がしみた。
「な、なに? 別に、俺なにも――」
おろおろと俯くと、口にモシャッとしたもんが当たった。
ティッシュだ。
ぽんぽんと優しくはたくみたいに、口の周りを拭われてきょとんとする。
「ふふっ。トキちゃん、ソースのひげ生えてるし」
「んなっ」
頭が、がんっとなる。
「なんだよー! 美味かったんだよっ!」
「あはははっ。かわいいよー、カールおじさんみたいで」
「ほめてねぇ!」
わあわあ憤慨すると、イノリはますます笑ってくる。
もう、なんだよっ。こいつ、マジな顔するから何かと思うじゃん。
なんか、ちょっとだけホッとする。いつもの席に鞄を置いて、窓を開けた。びゅう、と寒い風が吹き込んできて、カーテンがバタバタ揺れる。
熱った頬に、風がきもちいい。
短時間に色んなことがあって、気持ちの整理が出来てないんだぜ。
俺の夢のこと。布団のタワーが積み上がってたこと。
会長にやけにからかわれたり、イノリが布団を積み上げたんだって、聞いたり……。
――知っといてやれ。あいつはよっぽどあんたが好きなんだ。
会長の声が甦って、頬にカッと血が上る。
「あわわわ」
慌てて、ブンブンと頭を振った。
いや、べつに、何もおかしいことないけど。
たぶん、会長にからかわれて動揺してるだけなんだ、俺ぁ!
イノリが、俺のことを好きなんつったって。
そりゃ、俺たちは幼馴染みで親友なんだもん。好きだから、ずっと一緒にいるって、至極トーゼンのことじゃんか。
もちろん俺だって、イノリのことは好きだから……。
「はっ!」
また、舌がもつれる。
やっぱり、イノリのこと好きって、上手く言葉になんねえ。なんか、胸の奥をトテトテ蹴られてるみたいに、息苦しくなっちまって。
俺は、鞄の上に突っ伏した。
「ううう……! なんで……まさか、何かの呪いなのかっ?!」
「何が?」
やわらかい声が聞こえて、ハッと顔を上げる。
間近に、緑かかった薄茶の目があって、ぎょっとした。
「イイイノリ?!!」
「うん、俺だよ?」
がばぁ、とのけ反ると、イノリは不思議そうに首を傾けた。
「いつの間に?! どこから?!」
戸の開く音、しなかったぞ。すると、イノリは事も無げに言う。
「さっきの間ー。窓開いてたから、窓からー」
「……生徒会って、窓移動する掟なん?」
「そうでもないよー」
イノリは、ニコッとしてビニル袋を掲げた。なんか香ばしい、いい匂いがする。
「食堂でね、焼きそば焼きたてだったんだー。トキちゃん、一緒にたべよ?」
「マジ!? すげー!」
――焼きそば!
一瞬にして、心が焼きそばにとらわれる。
食堂の焼きそば、めっちゃ美味いんだ。昼メシ時には焼きたての焼きそば弁当があって、これがまた最高なんだけど、数量限定で滅多にお目にかかれねえの。
ありがとう、イノリ!
イノリが、大判のプラパックを開けると、焼きそばがほかほかと湯気を立てる。
「いただきまーす」
二人で手を合わせて、甘辛い麺をたぐる。
「うまっ!」
「おいしいねぇ」
信じられんくらい具だくさんだし、もちもちたまご麺にソースがたっぷり絡んでやみつきになるウマさ。
夢中で食べていると、イノリがニコニコして言う。
「トキちゃん、魔力測定どうだった?」
「ん? ああ、なんかさ――」
俺は、イノリに測定石が爆発したことを伝えた。
あれには、驚いた。
一晩で、測定室が元通りだったのにも、びっくりだけど。
イノリは、手をパチパチ叩く。
「やったね。俺、トキちゃんは爆発させる気がしてたー」
「えっマジで?」
「うん、マジ」
「へへへー。イノリは? 今日だろ」
「俺?」
イノリは、こてんと首を傾げた。
「俺はまだだよー」
「え、でも」
「桜沢」なら、早くにおわってるはずでは? イノリは苦笑する。
「爆発するから、あとまわしになんだってー」
「あ、なるほど」
「はい、トキちゃん。イカ―」
「あー」
口を開けると、イカとそばを押し込まれる。うまい。
もぐもぐ噛んでいると、イノリが目元をやわらかく和ませて、
「――あれ?」
ふと、不思議そうな声を上げる。
「どした?」
「うーん? へんだな……?」
イノリは、箸を長い指に挟んだまま、まっすぐに俺を見つめてくる。
なんとなく、探るような視線にうろたえる。バレたくないことまで、バレちゃいそうな気がして――。
胸に変な汗がしみた。
「な、なに? 別に、俺なにも――」
おろおろと俯くと、口にモシャッとしたもんが当たった。
ティッシュだ。
ぽんぽんと優しくはたくみたいに、口の周りを拭われてきょとんとする。
「ふふっ。トキちゃん、ソースのひげ生えてるし」
「んなっ」
頭が、がんっとなる。
「なんだよー! 美味かったんだよっ!」
「あはははっ。かわいいよー、カールおじさんみたいで」
「ほめてねぇ!」
わあわあ憤慨すると、イノリはますます笑ってくる。
もう、なんだよっ。こいつ、マジな顔するから何かと思うじゃん。
20
お気に入りに追加
503
あなたにおすすめの小説
モテる兄貴を持つと……(三人称改訂版)
夏目碧央
BL
兄、海斗(かいと)と同じ高校に入学した城崎岳斗(きのさきやまと)は、兄がモテるがゆえに様々な苦難に遭う。だが、カッコよくて優しい兄を実は自慢に思っている。兄は弟が大好きで、少々過保護気味。
ある日、岳斗は両親の血液型と自分の血液型がおかしい事に気づく。海斗は「覚えてないのか?」と驚いた様子。岳斗は何を忘れているのか?一体どんな秘密が?
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である
【完結】別れ……ますよね?
325号室の住人
BL
☆全3話、完結済
僕の恋人は、テレビドラマに数多く出演する俳優を生業としている。
ある朝、テレビから流れてきたニュースに、僕は恋人との別れを決意した。
王道にはしたくないので
八瑠璃
BL
国中殆どの金持ちの子息のみが通う、小中高一貫の超名門マンモス校〈朱鷺学園〉
幼少の頃からそこに通い、能力を高め他を率いてきた生徒会長こと鷹官 仁。前世知識から得た何れ来るとも知れぬ転校生に、平穏な日々と将来を潰されない為に日々努力を怠らず理想の会長となるべく努めてきた仁だったが、少々やり過ぎなせいでいつの間にか大変なことになっていた_____。
これは、やりすぎちまった超絶カリスマ生徒会長とそんな彼の周囲のお話である。
【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】
彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』
高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。
その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。
そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?
人気アイドルグループのリーダーは、気苦労が絶えない
タタミ
BL
大人気5人組アイドルグループ・JETのリーダーである矢代頼は、気苦労が絶えない。
対メンバー、対事務所、対仕事の全てにおいて潤滑剤役を果たす日々を送る最中、矢代は人気2トップの御厨と立花が『仲が良い』では片付けられない距離感になっていることが気にかかり──
悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!
梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!?
【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】
▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。
▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。
▼毎日18時投稿予定
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる