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第一部 決闘大会編

百二十話 

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 305教室に行くと、イノリはまだ来ていなかった。
 なんか、ちょっとだけホッとする。いつもの席に鞄を置いて、窓を開けた。びゅう、と寒い風が吹き込んできて、カーテンがバタバタ揺れる。
 熱った頬に、風がきもちいい。
 短時間に色んなことがあって、気持ちの整理が出来てないんだぜ。
 俺の夢のこと。布団のタワーが積み上がってたこと。
 会長にやけにからかわれたり、イノリが布団を積み上げたんだって、聞いたり……。

――知っといてやれ。あいつはよっぽどあんたが好きなんだ。

  会長の声が甦って、頬にカッと血が上る。

「あわわわ」

 慌てて、ブンブンと頭を振った。
 いや、べつに、何もおかしいことないけど。
 たぶん、会長にからかわれて動揺してるだけなんだ、俺ぁ!
 イノリが、俺のことを好きなんつったって。
 そりゃ、俺たちは幼馴染みで親友なんだもん。好きだから、ずっと一緒にいるって、至極トーゼンのことじゃんか。
 もちろん俺だって、イノリのことは好きだから……。

「はっ!」

 また、舌がもつれる。
 やっぱり、イノリのこと好きって、上手く言葉になんねえ。なんか、胸の奥をトテトテ蹴られてるみたいに、息苦しくなっちまって。
 俺は、鞄の上に突っ伏した。

「ううう……! なんで……まさか、何かの呪いなのかっ?!」
「何が?」

 やわらかい声が聞こえて、ハッと顔を上げる。
 間近に、緑かかった薄茶の目があって、ぎょっとした。

「イイイノリ?!!」
「うん、俺だよ?」

 がばぁ、とのけ反ると、イノリは不思議そうに首を傾けた。

「いつの間に?! どこから?!」

 戸の開く音、しなかったぞ。すると、イノリは事も無げに言う。

「さっきの間ー。窓開いてたから、窓からー」
「……生徒会って、窓移動する掟なん?」
「そうでもないよー」

 イノリは、ニコッとしてビニル袋を掲げた。なんか香ばしい、いい匂いがする。

「食堂でね、焼きそば焼きたてだったんだー。トキちゃん、一緒にたべよ?」
「マジ!? すげー!」

――焼きそば!
 一瞬にして、心が焼きそばにとらわれる。
 食堂の焼きそば、めっちゃ美味いんだ。昼メシ時には焼きたての焼きそば弁当があって、これがまた最高なんだけど、数量限定で滅多にお目にかかれねえの。
 ありがとう、イノリ!
 イノリが、大判のプラパックを開けると、焼きそばがほかほかと湯気を立てる。

「いただきまーす」

 二人で手を合わせて、甘辛い麺をたぐる。

「うまっ!」
「おいしいねぇ」

 信じられんくらい具だくさんだし、もちもちたまご麺にソースがたっぷり絡んでやみつきになるウマさ。
 夢中で食べていると、イノリがニコニコして言う。

「トキちゃん、魔力測定どうだった?」
「ん? ああ、なんかさ――」

 俺は、イノリに測定石が爆発したことを伝えた。
 あれには、驚いた。
 一晩で、測定室が元通りだったのにも、びっくりだけど。
 イノリは、手をパチパチ叩く。

「やったね。俺、トキちゃんは爆発させる気がしてたー」
「えっマジで?」
「うん、マジ」
「へへへー。イノリは? 今日だろ」
「俺?」

 イノリは、こてんと首を傾げた。

「俺はまだだよー」
「え、でも」

 「桜沢」なら、早くにおわってるはずでは? イノリは苦笑する。

「爆発するから、あとまわしになんだってー」
「あ、なるほど」
「はい、トキちゃん。イカ―」
「あー」

 口を開けると、イカとそばを押し込まれる。うまい。
 もぐもぐ噛んでいると、イノリが目元をやわらかく和ませて、

「――あれ?」

 ふと、不思議そうな声を上げる。

「どした?」
「うーん? へんだな……?」

 イノリは、箸を長い指に挟んだまま、まっすぐに俺を見つめてくる。
 なんとなく、探るような視線にうろたえる。バレたくないことまで、バレちゃいそうな気がして――。
 胸に変な汗がしみた。

「な、なに? 別に、俺なにも――」

 おろおろと俯くと、口にモシャッとしたもんが当たった。
 ティッシュだ。
 ぽんぽんと優しくはたくみたいに、口の周りを拭われてきょとんとする。

「ふふっ。トキちゃん、ソースのひげ生えてるし」
「んなっ」

 頭が、がんっとなる。

「なんだよー! 美味かったんだよっ!」
「あはははっ。かわいいよー、カールおじさんみたいで」
「ほめてねぇ!」

 わあわあ憤慨すると、イノリはますます笑ってくる。
 もう、なんだよっ。こいつ、マジな顔するから何かと思うじゃん。

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