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第一部 決闘大会編

百十八話

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 遠目に見てたイケメンが間近にあって、俺はポカンとしてしまう。
 美形だ。近くで見ても。とくに、切れ長の目の綺麗なことといったら。まるで、目の玉が夜空をグアッて吸い込んだみたいだぜ……。
 見とれていると、バーン! と教室の扉が開いた。
 風紀委員が、どよどよと部屋の中になだれこんでくる。

「うわぁ、何だ?!」

 ぎょっとして、一歩後じさった。
 会長は、「お、来たな」と言って、彼らを出迎えるように腕を広げる。
 風紀の集団から、赤毛でツンツン頭の人が飛び出した。

「よ、ご苦労さん」
「八千草、てめぇ! 案内する気あんのかよ。ビュンビュン先行きやがって、迷っちまったじゃねーか!」
「悪い悪い。目離してるうちに、逃げねえか心配でよ」
「心がこもってねー!」

 ツンツン頭の人は、ぎゃいぎゃい叫んでいる。会長は、俳優みたいに肩をすくめて喋っていた。
 と、集団から飛び出して、茶嶋先輩がどうどうってやる。
 
「落ち着け、健太。騒ぎに来たんじゃないだろ」
「あ……すみません草一さん、俺……」

 呟いて、しゅんと水をかけられたみたいに大人しくなる。先輩は、その肩をグローブみたいな手で叩いて、会長に向き直った。

「八千草、知らせてくれてありがとう。彼らが下手人か?」
「いえ。こちらこそ助かります。あいつらが加害生徒です。被害生徒は、ウチの後輩が先んじて医務室に連れて行きました」
「そうか。しかし、また派手にやったなぁ。ぶちのめすまではともかく、何も積まなくても……」
「ははは。桜沢に言って下さい。全部あいつの仕業ですから」
「ええっ、イノリが!?」

 ぎょっとして、叫んだ。
 すると、会長と茶嶋先輩がヒョイとこっちを振り返って、焦る。
 やべっ、声が出ちまったよ。だって、イノリがこの布団タワーを作ったとか「まさか!?」だったから、つい。

「すっ、すんません!」

 おろおろと頭を下げると、茶嶋先輩が戸惑い気味に言う。

「八千草、彼も関係者なのか?」
「いえ。そこの布団共の発見者ですよ」
「そうか……よかった」

 茶嶋先輩は、ホッと太い息を吐いた。
 そこに、さっきのツンツン頭の人が、駆け寄ってくる。

「草一さん! 加害生徒の確保と、医務室への運搬の準備整いました」
「ああ、わかった。じゃあ、八千草。俺たちはこれで」
「はい、ありがとうございます」
「――皆、急がず安全第一で行こう」
「はい!!」

 気がつくと、布団みたいだった連中は、一人残らず担架に乗せられていた。すげぇ、早わざだ。
 茶嶋先輩の号令で、委員たちが二人がかりで担架を運び出していく。統制のとれたテキパキした動きに、思わず見とれた。

「赤尾も行けよ。一番後輩だろ?」

 一人残ったツンツン髪の人――赤尾さんに、会長がからかうような目を向ける。
 赤尾さんは、カッと目を見開いた。

「後輩として、てめぇに言ってやんなきゃ気がすまなかったんだ! いいか八千草、今度また俺たちを便利使いしようとしたら、ただじゃおかねぇかんな!」
「便利使いたぁ心外だな。生徒会と風紀による、連係プレーじゃねえか」
「薄っぺらいこと言いやがって。お前らが風紀を見下してんのは、解ってんだ! せいぜい調子乗ってろ、今に吠え面かかせてやるからなっ!」

 ズビシ! と会長に指先を突きつけて、赤尾さんは啖呵を切る。会長は、頬をぽりぽりかきながら、言った。

「まぁ、お前は好きにすりゃいいけどよ。俺は、仲良くしたいと思ってっから、ソコんとこ忘れんじゃねェぞ」
「けっ!」

 赤尾さんは背を向けると、ガニ股でガシガシ歩き去ってった。すげえな、あの人。ほぼずっと怒ってたぞ。
 それにしても。
  生徒会と風紀の合同警備って、大変そうだ。茶嶋先輩と会長は、仲悪くなさそうだけど。赤尾さんて人は、あからさまに生徒会のこと嫌ってるし。
 イノリ、どうかな。疲れてねーかな……。
 ぼーっと見送っていると、視線を感じて振り返る。
 会長が何故か、じいっと俺を眺めていた。
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