俺は魔法使いの息子らしい。

高穂もか

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第一部 決闘大会編

百十六話

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 翌朝、俺は俄然張り切っていた。
 やる気っつーか、頑張らねえとって気持ちが、どんどん湧いてくる感じ。

「うおおお!」

 そんで、グラウンドを猛ダッシュ。風の元素をまといつつ、ぎゅんぎゅん足を回転させる。
 まさに風と一体って感じで、気分がいいよなー。「風」は一番最初に使えるようになったからか、一番たのしい。

「よ、吉村くん。調子いいね」
「うん、ありがとう!」

 隣に並んだ森脇が褒めてくれて、俺はニマニマしてしまう。

「吉村、出力は気をつけろー!」
「……バテるぞ」
「うすっ!」

 葛城先生の檄と、片倉先輩の忠告を背に、走りに走った。
 ふと、グラウンドから見える、一番高い建物が目に留まる。――この前聞いたんだけど、あの最上階に生徒会室があるらしい。
 イノリ、もう登校してるかな。してるよな?

『あそこから、トキちゃんが走ってるの見えるよ』

 俺は思いついて、建物に向かってブンブン手を振ってみた。見えるかなあ?

「ど、どどうしたの!?」

 俺の奇行に、ビビッた森脇が転びかけた。スマン。






――夕焼けの差し込む昇降口。
 俺の下駄箱の前に、誰か立っていた。
 いや、忘れ物をしてさ。一回帰ったけど、取りに戻ってきたんだよ。
 あの人、何してんのかなって見ていたら。その人は、急に俺の下駄箱から上履きを抜き取った。
 そのまま、走って行こうとする。
 ポカンとして見守ってた俺は、そこで我に返る。

「ち、ちょっと待った!」

 追っかけてって、その生徒の肩を掴む。――逆光の中で、真っ白い顔が振り返って……。


 ヒュンッ、と風を切る音がした。


「吉村、寝るなー!」
「ぎゃっ」

 ハッと顔を上げた瞬間、コーン! と額にチョークがさく裂した。

「うぉぉ」

 額を押さえて悶えていると、葛城先生が教壇に仁王立ちして言う。

「追い込みの時期に転寝とは、良い度胸だな」
「す、すんません」
「話をするから、あとで僕の部屋に来い」
「はい、すんません!」

 平謝りすると、葛城先生は息を吐いて授業を再開した。俺は、ジンジンする額を押さえてガクッと肩を落とした。
 授業で寝るなんて、やらかした~……。
 トホホ、と座り直して、ぎょっとする。
 クラス中の目がこっちに向いていた。そのくせ、いつもの忍び笑いは無くって、じいっと睨んでくる。

「な、なんだ……?」

 うろたえてると、一人、また一人と視線を外してく。鳶尾のお追従マンたちは、ぎっと一際強く睨んでから前を向いた。
 俺は狼狽えつつ、ノートに問題の解説をかき込んでいった。





 

 葛城先生の背中にくっついて部屋へお邪魔すると、ドアの前に先客がいた。

「先生、おはようございます」
「ああ、おはよう」

 藤川先輩だ。
 先輩は高い背を二つ折りにして、かっこよくお辞儀する。葛城先生は、鍵を開けながら尋ねた。

「どうした?」
「突然すみません。後輩のことで、折り入ってご相談が……」

 言いかけて、先輩は俺に気づいた。「あっしまった」とハッキリ思ってるのがわかる顔で、口を噤む。

「すみません、出直します」
「あっ、いえいえ! 俺はいいんで、先輩がどうぞ!」

 と、さくっと踵を返そうとする先輩を、俺は大声で引き留める。部活で培った上下の精神が、年功序列! と叫んでいるぜ。
 先輩は、戸惑い気味に振り返る。

「いや、しかし……」
「いえいえ、俺は全然急ぎじゃないです」
「馬鹿者! 急ぎじゃない説教があるか!」
「あたっ」

 ビシ、と脇腹に突っ込みが入る。目を白黒させてる間に、先生は先輩に出直してくれるよう、もちかけてしまった。
 おろおろしていると、藤川先輩がちょっと目元を和らげた。

「気にしないでくれ、急に来たのは俺なんだ。それに、先生が時間を設けて下さったから」
「いや、その」
「すまないな、藤川。さて、行くぞ吉村」
「失礼します」
「あ、うす……」

 藤川先輩に会釈して、先生の後について行きかけて――ハッとした。
 「見学に行かせてもらう」こと、挨拶しとかなきゃ!
 俺は、先輩の背中に叫ぶ。

「あの、藤川先輩っ。俺、こんど勉強会に見学に行かして貰う、吉村時生です。他のメンバーに、森脇と片倉先輩もいます。当日は、よろしくお願いします!」

 ピョコ、とバネ仕掛けみたいにお辞儀する。
 振り返った藤川先輩は、片手を上げて「こちらこそよろしく」と言ってくれた。かっけえ。
 ぼえっと見送っていると、先生が「早く来い」と呆れ声で言った。


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