116 / 239
第一部 決闘大会編
百十六話
しおりを挟む
翌朝、俺は俄然張り切っていた。
やる気っつーか、頑張らねえとって気持ちが、どんどん湧いてくる感じ。
「うおおお!」
そんで、グラウンドを猛ダッシュ。風の元素をまといつつ、ぎゅんぎゅん足を回転させる。
まさに風と一体って感じで、気分がいいよなー。「風」は一番最初に使えるようになったからか、一番たのしい。
「よ、吉村くん。調子いいね」
「うん、ありがとう!」
隣に並んだ森脇が褒めてくれて、俺はニマニマしてしまう。
「吉村、出力は気をつけろー!」
「……バテるぞ」
「うすっ!」
葛城先生の檄と、片倉先輩の忠告を背に、走りに走った。
ふと、グラウンドから見える、一番高い建物が目に留まる。――この前聞いたんだけど、あの最上階に生徒会室があるらしい。
イノリ、もう登校してるかな。してるよな?
『あそこから、トキちゃんが走ってるの見えるよ』
俺は思いついて、建物に向かってブンブン手を振ってみた。見えるかなあ?
「ど、どどうしたの!?」
俺の奇行に、ビビッた森脇が転びかけた。スマン。
――夕焼けの差し込む昇降口。
俺の下駄箱の前に、誰か立っていた。
いや、忘れ物をしてさ。一回帰ったけど、取りに戻ってきたんだよ。
あの人、何してんのかなって見ていたら。その人は、急に俺の下駄箱から上履きを抜き取った。
そのまま、走って行こうとする。
ポカンとして見守ってた俺は、そこで我に返る。
「ち、ちょっと待った!」
追っかけてって、その生徒の肩を掴む。――逆光の中で、真っ白い顔が振り返って……。
ヒュンッ、と風を切る音がした。
「吉村、寝るなー!」
「ぎゃっ」
ハッと顔を上げた瞬間、コーン! と額にチョークがさく裂した。
「うぉぉ」
額を押さえて悶えていると、葛城先生が教壇に仁王立ちして言う。
「追い込みの時期に転寝とは、良い度胸だな」
「す、すんません」
「話をするから、あとで僕の部屋に来い」
「はい、すんません!」
平謝りすると、葛城先生は息を吐いて授業を再開した。俺は、ジンジンする額を押さえてガクッと肩を落とした。
授業で寝るなんて、やらかした~……。
トホホ、と座り直して、ぎょっとする。
クラス中の目がこっちに向いていた。そのくせ、いつもの忍び笑いは無くって、じいっと睨んでくる。
「な、なんだ……?」
うろたえてると、一人、また一人と視線を外してく。鳶尾のお追従マンたちは、ぎっと一際強く睨んでから前を向いた。
俺は狼狽えつつ、ノートに問題の解説をかき込んでいった。
葛城先生の背中にくっついて部屋へお邪魔すると、ドアの前に先客がいた。
「先生、おはようございます」
「ああ、おはよう」
藤川先輩だ。
先輩は高い背を二つ折りにして、かっこよくお辞儀する。葛城先生は、鍵を開けながら尋ねた。
「どうした?」
「突然すみません。後輩のことで、折り入ってご相談が……」
言いかけて、先輩は俺に気づいた。「あっしまった」とハッキリ思ってるのがわかる顔で、口を噤む。
「すみません、出直します」
「あっ、いえいえ! 俺はいいんで、先輩がどうぞ!」
と、さくっと踵を返そうとする先輩を、俺は大声で引き留める。部活で培った上下の精神が、年功序列! と叫んでいるぜ。
先輩は、戸惑い気味に振り返る。
「いや、しかし……」
「いえいえ、俺は全然急ぎじゃないです」
「馬鹿者! 急ぎじゃない説教があるか!」
「あたっ」
ビシ、と脇腹に突っ込みが入る。目を白黒させてる間に、先生は先輩に出直してくれるよう、もちかけてしまった。
おろおろしていると、藤川先輩がちょっと目元を和らげた。
「気にしないでくれ、急に来たのは俺なんだ。それに、先生が時間を設けて下さったから」
「いや、その」
「すまないな、藤川。さて、行くぞ吉村」
「失礼します」
「あ、うす……」
藤川先輩に会釈して、先生の後について行きかけて――ハッとした。
「見学に行かせてもらう」こと、挨拶しとかなきゃ!
俺は、先輩の背中に叫ぶ。
「あの、藤川先輩っ。俺、こんど勉強会に見学に行かして貰う、吉村時生です。他のメンバーに、森脇と片倉先輩もいます。当日は、よろしくお願いします!」
ピョコ、とバネ仕掛けみたいにお辞儀する。
振り返った藤川先輩は、片手を上げて「こちらこそよろしく」と言ってくれた。かっけえ。
ぼえっと見送っていると、先生が「早く来い」と呆れ声で言った。
やる気っつーか、頑張らねえとって気持ちが、どんどん湧いてくる感じ。
「うおおお!」
そんで、グラウンドを猛ダッシュ。風の元素をまといつつ、ぎゅんぎゅん足を回転させる。
まさに風と一体って感じで、気分がいいよなー。「風」は一番最初に使えるようになったからか、一番たのしい。
「よ、吉村くん。調子いいね」
「うん、ありがとう!」
隣に並んだ森脇が褒めてくれて、俺はニマニマしてしまう。
「吉村、出力は気をつけろー!」
「……バテるぞ」
「うすっ!」
葛城先生の檄と、片倉先輩の忠告を背に、走りに走った。
ふと、グラウンドから見える、一番高い建物が目に留まる。――この前聞いたんだけど、あの最上階に生徒会室があるらしい。
イノリ、もう登校してるかな。してるよな?
『あそこから、トキちゃんが走ってるの見えるよ』
俺は思いついて、建物に向かってブンブン手を振ってみた。見えるかなあ?
「ど、どどうしたの!?」
俺の奇行に、ビビッた森脇が転びかけた。スマン。
――夕焼けの差し込む昇降口。
俺の下駄箱の前に、誰か立っていた。
いや、忘れ物をしてさ。一回帰ったけど、取りに戻ってきたんだよ。
あの人、何してんのかなって見ていたら。その人は、急に俺の下駄箱から上履きを抜き取った。
そのまま、走って行こうとする。
ポカンとして見守ってた俺は、そこで我に返る。
「ち、ちょっと待った!」
追っかけてって、その生徒の肩を掴む。――逆光の中で、真っ白い顔が振り返って……。
ヒュンッ、と風を切る音がした。
「吉村、寝るなー!」
「ぎゃっ」
ハッと顔を上げた瞬間、コーン! と額にチョークがさく裂した。
「うぉぉ」
額を押さえて悶えていると、葛城先生が教壇に仁王立ちして言う。
「追い込みの時期に転寝とは、良い度胸だな」
「す、すんません」
「話をするから、あとで僕の部屋に来い」
「はい、すんません!」
平謝りすると、葛城先生は息を吐いて授業を再開した。俺は、ジンジンする額を押さえてガクッと肩を落とした。
授業で寝るなんて、やらかした~……。
トホホ、と座り直して、ぎょっとする。
クラス中の目がこっちに向いていた。そのくせ、いつもの忍び笑いは無くって、じいっと睨んでくる。
「な、なんだ……?」
うろたえてると、一人、また一人と視線を外してく。鳶尾のお追従マンたちは、ぎっと一際強く睨んでから前を向いた。
俺は狼狽えつつ、ノートに問題の解説をかき込んでいった。
葛城先生の背中にくっついて部屋へお邪魔すると、ドアの前に先客がいた。
「先生、おはようございます」
「ああ、おはよう」
藤川先輩だ。
先輩は高い背を二つ折りにして、かっこよくお辞儀する。葛城先生は、鍵を開けながら尋ねた。
「どうした?」
「突然すみません。後輩のことで、折り入ってご相談が……」
言いかけて、先輩は俺に気づいた。「あっしまった」とハッキリ思ってるのがわかる顔で、口を噤む。
「すみません、出直します」
「あっ、いえいえ! 俺はいいんで、先輩がどうぞ!」
と、さくっと踵を返そうとする先輩を、俺は大声で引き留める。部活で培った上下の精神が、年功序列! と叫んでいるぜ。
先輩は、戸惑い気味に振り返る。
「いや、しかし……」
「いえいえ、俺は全然急ぎじゃないです」
「馬鹿者! 急ぎじゃない説教があるか!」
「あたっ」
ビシ、と脇腹に突っ込みが入る。目を白黒させてる間に、先生は先輩に出直してくれるよう、もちかけてしまった。
おろおろしていると、藤川先輩がちょっと目元を和らげた。
「気にしないでくれ、急に来たのは俺なんだ。それに、先生が時間を設けて下さったから」
「いや、その」
「すまないな、藤川。さて、行くぞ吉村」
「失礼します」
「あ、うす……」
藤川先輩に会釈して、先生の後について行きかけて――ハッとした。
「見学に行かせてもらう」こと、挨拶しとかなきゃ!
俺は、先輩の背中に叫ぶ。
「あの、藤川先輩っ。俺、こんど勉強会に見学に行かして貰う、吉村時生です。他のメンバーに、森脇と片倉先輩もいます。当日は、よろしくお願いします!」
ピョコ、とバネ仕掛けみたいにお辞儀する。
振り返った藤川先輩は、片手を上げて「こちらこそよろしく」と言ってくれた。かっけえ。
ぼえっと見送っていると、先生が「早く来い」と呆れ声で言った。
30
お気に入りに追加
523
あなたにおすすめの小説
六日の菖蒲
あこ
BL
突然一方的に別れを告げられた紫はその後、理由を目の当たりにする。
落ち込んで行く紫を見ていた萌葱は、図らずも自分と向き合う事になった。
▷ 王道?全寮制学園ものっぽい学園が舞台です。
▷ 同室の紫と萌葱を中心にその脇でアンチ王道な展開ですが、アンチの影は薄め(のはず)
▷ 身代わりにされてた受けが幸せになるまで、が目標。
▷ 見た目不良な萌葱は不良ではありません。見た目だけ。そして世話焼き(紫限定)です。
▷ 紫はのほほん健気な普通顔です。でも雰囲気補正でちょっと可愛く見えます。
▷ 章や作品タイトルの頭に『★』があるものは、個人サイトでリクエストしていただいたものです。こちらではいただいたリクエスト内容やお礼などの後書きを省略させていただいています。
いとしの生徒会長さま
もりひろ
BL
大好きな親友と楽しい高校生活を送るため、急きょアメリカから帰国した俺だけど、編入した学園は、とんでもなく変わっていた……!
しかも、生徒会長になれとか言われるし。冗談じゃねえっつの!

鬼は精霊の子を愛でる
林 業
BL
鬼人のモリオンは一族から迫害されて村を出た。
そんなときに出会った、山で暮らしていたセレスタイトと暮らすこととなった。
何時からか恋人として暮らすように。
そんな二人は穏やかに生きていく。

【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】
彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』
高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。
その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。
そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?

僕のために、忘れていて
ことわ子
BL
男子高校生のリュージは事故に遭い、最近の記憶を無くしてしまった。しかし、無くしたのは最近の記憶で家族や友人のことは覚えており、別段困ることは無いと思っていた。ある一点、全く記憶にない人物、黒咲アキが自分の恋人だと訪ねてくるまでは────
少年神官系勇者―異世界から帰還する―
mono-zo
ファンタジー
幼くして異世界に消えた主人公、帰ってきたがそこは日本、家なし・金なし・免許なし・職歴なし・常識なし・そもそも未成年、無い無い尽くしでどう生きる?
別サイトにて無名から投稿開始して100日以内に100万PV達成感謝✨
この作品は「カクヨム」にも掲載しています。(先行)
この作品は「小説家になろう」にも掲載しています。
この作品は「ノベルアップ+」にも掲載しています。
この作品は「エブリスタ」にも掲載しています。
この作品は「pixiv」にも掲載しています。
夢では溺愛騎士、現実ではただのクラスメイト
春音優月
BL
真面目でおとなしい性格の藤村歩夢は、武士と呼ばれているクラスメイトの大谷虎太郎に密かに片想いしている。
クラスではほとんど会話も交わさないのに、なぜか毎晩歩夢の夢に出てくる虎太郎。しかも夢の中での虎太郎は、歩夢を守る騎士で恋人だった。
夢では溺愛騎士、現実ではただのクラスメイト。夢と現実が交錯する片想いの行方は――。
2024.02.23〜02.27
イラスト:かもねさま

【完結済み】乙男な僕はモブらしく生きる
木嶋うめ香
BL
本編完結済み(2021.3.8)
和の国の貴族の子息が通う華学園の食堂で、僕こと鈴森千晴(すずもりちはる)は前世の記憶を思い出した。
この世界、前世の僕がやっていたBLゲーム「華乙男のラブ日和」じゃないか?
鈴森千晴なんて登場人物、ゲームには居なかったから僕のポジションはモブなんだろう。
もうすぐ主人公が転校してくる。
僕の片思いの相手山城雅(やましろみやび)も攻略対象者の一人だ。
これから僕は主人公と雅が仲良くなっていくのを見てなきゃいけないのか。
片思いだって分ってるから、諦めなきゃいけないのは分ってるけど、やっぱり辛いよどうしたらいいんだろう。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる