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第一部 決闘大会編
百話
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「――では、お疲れ様でした」
「ありがとうございましたっ」
茶嶋先輩が資料をトントンと揃えて言う。俺はぺこりと頭を下げた。
聴取は、つつがなく終わった。
イノリと須々木先輩が、昨晩のうちに説明してくれてあったんだ。俺への聴取は、ほとんど確認みたいな感じだった。
今回のことは、生徒会同士のケンカってことで収めるらしい。
イノリは正当防衛ってことで、お咎めなし。俺を庇ってくれてのことだから、本当にほっとした。
「昼休みにすまなかったね。ご飯食べる時間、あるかい?」
「はい! こちらこそお時間取って頂いて、ありがとうございます」
いい人だなあ。ちなみに、茶嶋先輩って言うのは草一さんのこと。今日、聴取の最初に教えてもらったんだ。
廊下まで見送ってくれて、恐縮しつつもう一度礼をする。
「お世話になりました。失礼します」
「あ。――ちょっと待ってくれ」
引き留められて、目を丸くする。茶嶋先輩は、困り顔で頬をかいて言う。
「ええと。君は、このまえ俺たちの部屋に来たよな。片倉に用があるって」
「あっ、はい」
片倉先輩に、生徒手帳を返しに行ったときのことを思い出す。
週末挟むとあれだし、早いほうが良いと思ってさ。寮監さんにお部屋を聞いて、持ってったんだ。
片倉先輩はお部屋にいて、ちゃんと渡せた。
急に行ったからびっくりしてたけど、生徒手帳を渡したらホッとした様子になって。
「……ちょうど無えって気づいて、探してたとこ。ありがとう」
ぽつぽつと低い声で呟いて、ちょっぴり笑ってくれた。
手帳を開く横顔がすげえ穏やかで、大事な物なんだってわかってさ。急ぎで持ってきて良かったなぁって思ったんだ。
で。茶嶋先輩は、片倉先輩の同室者なんだよな。
「嬉しくて。あいつを訪ねてくる人なんて、今までなかったから」
「えっ?」
茶嶋先輩はどこか懐かしそうに、腕を組んで話し出す。
「片倉とは、あいつが高等部に上がってからずっと同室でね。俺は今年卒業だから、ちょっと心配していたんだ。……俺から言うのもなんだが……これからも仲良くしてやってほしい」
「いや、そんな! 俺のほうこそですよっ」
俺、片倉先輩ともっと仲良くなりてえもん。先輩ぶっきらぼうだけど、すごく優しい人だしさ。
そう言うと、茶嶋先輩は「そうか」って笑った。
高柳先生は、カツカツと踵を鳴らして教室中を練り歩いた。
「点火術のおさらいをしましょう。試験の内容は説明しましたね。一気に複数の蝋燭に火をともすには、コントロールと集中力が求められます」
先生は指先をチョイとまげて、教卓の上の燭台を手元に引き寄せた。高く掲げて、なめらかな声で言う。
「今日は、五本の蠟燭に同時に火をともす訓練をします。出来たものから挙手するように。――では、始めなさい」
一斉に生徒達が動いた。みんな目の前にある燭台に手をかざして、呪文をやんややんやと詠じ始めた。さっそく火がともったのか、ロウの焼ける匂いがする。
俺は、すーはーすーはーと深呼吸して、蝋燭に手をかざす。
「我が身に宿る火の元素よ。熱を生じ彼の気と結び、蝋燭に火をともさせたまえ」
……うーん。何も起きねえ。
魔力を感じ取れてないのかな? よし、もっと火の元素のヒリヒリする感じを思い出して。
体を、熱くするイメージ。――むんと念じると、指先に熱がこもり始めてきて、ちょっとずつ全身に熱いものが巡りだす。
よし、いまだ。
「我が身に宿る火の元素よ。熱を生じ、彼の気と結び、蝋燭に火をともさせたまえ!」
体から、ぽうっと赤い光がでた。
「お、やった……!?」
喜びかけたけど、違った。
まだ火はついてない。光ったから、イケるかなと思ったんだけどな。
「ウーム」と唸った――そのとき。
どろっ。
燭台の蝋燭が、全部とろけた。ドロドロになって、燭台を伝い机にロウだまりを作る。
「うおっ?!」
なんじゃこりゃ!
ぎょっとして、思わずガタッと席を立った。
すると。
「うわっ、なんだこれ!」
「ロウが溶けて、めちゃくちゃだ!」
「ああっ、僕のも!」
あちこちで、驚愕の声が上がる。
みんなの蝋燭も、俺のと同じように溶けてしまったらしい。
見た感じ、俺の周りの生徒は全滅だ。
「落ち着きなさい! 代わりの蝋燭を用意しますから」
高柳先生が、手をたたいて呼び掛ける。
それでなんとか気を取り直して、みんなドロドロの燭台を綺麗にするため動き出した。
俺も、燭台を布巾で拭きながら、首を傾げる。
何だったんだろう。部屋があったかいからロウがゆるくなってたのかな……。
と、前の席の鳶尾が振り返る。
俺を一瞬、すげえ目で睨んだかと思うと、すぐに前を向いてしまった。
「ありがとうございましたっ」
茶嶋先輩が資料をトントンと揃えて言う。俺はぺこりと頭を下げた。
聴取は、つつがなく終わった。
イノリと須々木先輩が、昨晩のうちに説明してくれてあったんだ。俺への聴取は、ほとんど確認みたいな感じだった。
今回のことは、生徒会同士のケンカってことで収めるらしい。
イノリは正当防衛ってことで、お咎めなし。俺を庇ってくれてのことだから、本当にほっとした。
「昼休みにすまなかったね。ご飯食べる時間、あるかい?」
「はい! こちらこそお時間取って頂いて、ありがとうございます」
いい人だなあ。ちなみに、茶嶋先輩って言うのは草一さんのこと。今日、聴取の最初に教えてもらったんだ。
廊下まで見送ってくれて、恐縮しつつもう一度礼をする。
「お世話になりました。失礼します」
「あ。――ちょっと待ってくれ」
引き留められて、目を丸くする。茶嶋先輩は、困り顔で頬をかいて言う。
「ええと。君は、このまえ俺たちの部屋に来たよな。片倉に用があるって」
「あっ、はい」
片倉先輩に、生徒手帳を返しに行ったときのことを思い出す。
週末挟むとあれだし、早いほうが良いと思ってさ。寮監さんにお部屋を聞いて、持ってったんだ。
片倉先輩はお部屋にいて、ちゃんと渡せた。
急に行ったからびっくりしてたけど、生徒手帳を渡したらホッとした様子になって。
「……ちょうど無えって気づいて、探してたとこ。ありがとう」
ぽつぽつと低い声で呟いて、ちょっぴり笑ってくれた。
手帳を開く横顔がすげえ穏やかで、大事な物なんだってわかってさ。急ぎで持ってきて良かったなぁって思ったんだ。
で。茶嶋先輩は、片倉先輩の同室者なんだよな。
「嬉しくて。あいつを訪ねてくる人なんて、今までなかったから」
「えっ?」
茶嶋先輩はどこか懐かしそうに、腕を組んで話し出す。
「片倉とは、あいつが高等部に上がってからずっと同室でね。俺は今年卒業だから、ちょっと心配していたんだ。……俺から言うのもなんだが……これからも仲良くしてやってほしい」
「いや、そんな! 俺のほうこそですよっ」
俺、片倉先輩ともっと仲良くなりてえもん。先輩ぶっきらぼうだけど、すごく優しい人だしさ。
そう言うと、茶嶋先輩は「そうか」って笑った。
高柳先生は、カツカツと踵を鳴らして教室中を練り歩いた。
「点火術のおさらいをしましょう。試験の内容は説明しましたね。一気に複数の蝋燭に火をともすには、コントロールと集中力が求められます」
先生は指先をチョイとまげて、教卓の上の燭台を手元に引き寄せた。高く掲げて、なめらかな声で言う。
「今日は、五本の蠟燭に同時に火をともす訓練をします。出来たものから挙手するように。――では、始めなさい」
一斉に生徒達が動いた。みんな目の前にある燭台に手をかざして、呪文をやんややんやと詠じ始めた。さっそく火がともったのか、ロウの焼ける匂いがする。
俺は、すーはーすーはーと深呼吸して、蝋燭に手をかざす。
「我が身に宿る火の元素よ。熱を生じ彼の気と結び、蝋燭に火をともさせたまえ」
……うーん。何も起きねえ。
魔力を感じ取れてないのかな? よし、もっと火の元素のヒリヒリする感じを思い出して。
体を、熱くするイメージ。――むんと念じると、指先に熱がこもり始めてきて、ちょっとずつ全身に熱いものが巡りだす。
よし、いまだ。
「我が身に宿る火の元素よ。熱を生じ、彼の気と結び、蝋燭に火をともさせたまえ!」
体から、ぽうっと赤い光がでた。
「お、やった……!?」
喜びかけたけど、違った。
まだ火はついてない。光ったから、イケるかなと思ったんだけどな。
「ウーム」と唸った――そのとき。
どろっ。
燭台の蝋燭が、全部とろけた。ドロドロになって、燭台を伝い机にロウだまりを作る。
「うおっ?!」
なんじゃこりゃ!
ぎょっとして、思わずガタッと席を立った。
すると。
「うわっ、なんだこれ!」
「ロウが溶けて、めちゃくちゃだ!」
「ああっ、僕のも!」
あちこちで、驚愕の声が上がる。
みんなの蝋燭も、俺のと同じように溶けてしまったらしい。
見た感じ、俺の周りの生徒は全滅だ。
「落ち着きなさい! 代わりの蝋燭を用意しますから」
高柳先生が、手をたたいて呼び掛ける。
それでなんとか気を取り直して、みんなドロドロの燭台を綺麗にするため動き出した。
俺も、燭台を布巾で拭きながら、首を傾げる。
何だったんだろう。部屋があったかいからロウがゆるくなってたのかな……。
と、前の席の鳶尾が振り返る。
俺を一瞬、すげえ目で睨んだかと思うと、すぐに前を向いてしまった。
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