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第一部 決闘大会編

九十八話

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「ふむ、問題ないな。四元素がまったく調和している」
「おお、やったー!」

 葛城先生は鷹揚に頷いて、虫眼鏡を下ろした。
 恒例になった魔力チェックも、今日で最後だ。俺は鞄から、眼鏡ケースを取り出した。

「これ、長い間貸していただいて、ありがとうございました」
「まだ持っていても構わないが?」

 いや、目も治ったし。貴重なものを長く借りるわけにも!
 笑って手を振ると、先生は「必要ならいつでも言え」って言ってくれた。平気だと思うけど、そう言ってもらえると心強いぜ。

「試験まで時間もないが。――ともかく、魔力コントロールの鍛錬は毎日欠かさず行うように。究極、コントロールが上手くいけば、一年の試験くらい全部通る」
「うす!」
「大切なのは、その後だ。鍛錬に終わりはないということを胸に刻み、努力すればいいんだ。そうすれば、必ず実力がともなってくるからな」
「うす! 頑張りますっ」

 先生は真っすぐな目で熱く激励してくれた。俺も胸がカッカしてきて、やる気がわいてくる。
 今朝の補習での、俺のコントロールについてアドバイスをもらっていると、ノックの音がした。

「どうぞ」
「失礼します」

 葛城先生の応えに、澄んだ声と低い声がユニゾンした。振り返って、俺はパッとソファから立ち上がった。

「須々木先輩っ、おはようございます」 
「あれ、吉村くんやん。おはよう」

 須々木先輩が、ニコっとして手を振った。隣には、すげえ長身の――藤川先輩が立っている。目があったので、会釈をかわす。

「誠之助。ちょっとスマン」
「ああ」

 須々木先輩は藤川先輩の肩を叩き、こっちに駆けてくる。

「昨日、災難やったなあ。寝れた?」
「や、俺より先輩のほうが……お部屋のこと、本当すみません」
「いやいや、あれは松代のせいやから!」

 先輩はそう言ってくれるけど、やっぱ申し訳ない。そもそも、俺のためにあそこを貸してくれて、起きたトラブルなんだから。片付けには絶対行かせてくれって粘ったら、先輩は苦笑しつつオッケーしてくれた。

「遼くん。葛城先生が、ひとつ記名が抜けていると」
「えっマジ」

 プリントを掲げて、藤川先輩が言う。須々木先輩は目を丸くした。

「ちょっと、ごめんな」
「あっすんません。どうぞ!」

 須々木先輩は、先生の隣に座ってペンを走らせる。
 いっけね、引き留めちまってたぜ。それにしても、混み入った話だったら、お暇したほうが良いかな? 
 思案してると、俺の隣がギシッと沈んだ。見れば、藤川先輩がどんと腰をかけている。

「話し中に、すまなかったな」
「えっ、いやいや!」
「俺たちの用はすぐだから、気を使わなくていいぞ。なあ、遼くん」
「そうそう。気にせんでや」

 藤川先輩が言うと、須々木先輩が明るく相槌をうった。

「これでええ? アレクちゃん」

 プリントに目を通して、先生は頷く。
 
「うむ。では、僕の方から申請しておくから、三十分前には鍵を取りに行けよ」
「はい。ありがとうございます」

 二人は立ち上がって、揃って頭を下げた。ビシッと決まったカッコいい礼で、思わず見ほれる。

「ほな、失礼しました。吉村くん、またなー」
「失礼しました」

 本当にきびきびと、二人は部屋を出てってしまう。なんつーか、颯爽としてるってああいう感じなんだろうな。
 ぽえっと見送っていると、葛城先生に肩を叩かれる。

「何を呆けてるんだ」
「あ。カッコいいなーって思って」
「ほう」

 先生は、軽く目を見開いた。

「なら、今度話してみるといい。先達の話を聞くのも良い勉強になる」
「えっ、いいんすかね?」
「気のいい奴らだ。もっとも、須々木とはすでに知り合いのようだし、知っているだろうが」
「はいっ」

 俺はニカッと笑った。先輩には、いつもお世話になっているもんな。




 お礼を言って部屋を出て、俺は次の授業に向かう。
 葛城先生は上級生向きに勉強会を開いているらしい。二人はそれにいつも参加しているから、その時に見学に来るかって言ってくれた。
 しかも、

「補習のメンバーで見学会かぁ。楽しそうだなー」

 俺は、るんと足取り軽く歩く。補習も学期末で終わりに近づいてるから、皆で何かできるのって、嬉しい。
 また、片倉先輩と森脇に知らせに行かなきゃな!


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