俺は魔法使いの息子らしい。

高穂もか

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第一部 決闘大会編

九十七話

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  当たり前なんだけど、部屋の中は暗かった。
 ベッドは二つともカーテンが閉まってて、開いているのは俺のベッドだけ。その前に、まん丸いリュックが置かれてた。
 荷物の整理は明日にして、ベッドにもぐりこむ。
 お泊り最終日に、こんなハプニングが起こるとは思わなかったな。イノリも須々木先輩も、俺の事情で巻き込んじゃって申し訳ないぜ……。
 明日の聴取、ちゃんと説明しねえとな。
 そう決意して目を閉じた。





 また、夢を見た。
 パチパチ、なにかはぜる音がする。
 うっすら目を開けると、真っ赤な夕焼けが見えた。俺は父さんの背中に負ぶわれて、右手を小さなイノリと繋いでいる。

「もう行くわよ、勇二」

 おばさんが急かすように言う。
 その手に何故か、めらめらと火が纏わりついている。さっきから、パチパチいってるのはこれらしい。
 小さな家は、雨戸まで閉め切られていて、みんなの足元には旅行カバンがあった。

「ごめんよ。……ただ、時生は眠ったままだから、かわいそうで」
「でも、仕方ないわ」

 悲しそうな父さんに、母ちゃんが応じた。
――行くって、どこへ?
 聞きたいんだけど、骨が抜けたみてえに体が動かない。
 目も開けてられなくて、閉じてしまう。
 と、繋いだ手にぎゅっと力がこめられた。

「もう、かえってこないの?」

 イノリが不安そうに尋ねる。
 するとおじさんが、穏やかに答えた。
  
「いいえ、いつか――ふたりが魔法使いになったら。みんなで帰ってきましょうね」


――ピピピピ。

 甲高い目覚ましの音で、目が覚めた。
 夢をひきずって、しばらくめっぽう寂しかった。






 冷たい水で顔を洗うと、気分がさっぱりする。

「おおっ?」

 鏡に映る目は、真っ黒になっていた。
 きっと、「火」を起こしてもらって四元素そろったからだ。イノリの言う通り、完全に安定したってことなんだろう。
 このぶんじゃ、今日から眼鏡をしなくていいかもしれん。
 俺は、鼻歌を歌いながら、洗面所を出た。
 すると、西浦先輩とドアの前でバッタリ出会う。

「あっ、おはようございます! お先でした」
「おはよう、吉ちゃん」

 慌てて避けると、ニコっと頷いて先輩は中に入ってった。
 その笑顔に「あれっ?」と思う。なんだか、ちょっと元気がないような。
 ちょっとして、水をドドドと出す音がした。

「吉ちゃん、夜に帰ってきたんだね」
「あ、はい! ちょっとハプニングがあって」
「そうなの。大丈夫だった?」
「うすっ。いろいろあったすけど、魔力も起こしてもらって――」

 ドアを隔てて喋っていると、背後でシャッ! とカーテンの開く音がした。
 佐賀先輩が、のっそりとベッドから降りてくる。

「佐賀先輩、おはようございます!」
「おう」

 いつにもましてぶっきらぼうな声に「おろ?」と思う。なにげ、眉間の皺もさらに深い気がする。
 佐賀先輩は勢いよくTシャツを脱ぎ、制服を着こんでいく。
 おろおろ見守るうちに、先輩は鞄を肩にかつぐように持つと、ドアに向かってのしのしと歩きだしてしまう。

「え。もう行っちゃうんすか?」
「まァな」

 先輩は振り返りもせず、バタンと戸を閉めて行っちまった。

「え、ええ~?」

 どうしたんだ! めっちゃ機嫌悪いじゃねえか。
 いや、先輩はいつも怒ってるみたいだけどさ。ほんとに怒ってることって実は少ない人なんだ。
 でも、さっきのはマジで怒ってるってわかったぜ。

「なんでだろ。お、俺なんかしたかな? あっ、昨日遅くに帰ってきてうるさかったとか……」
「違うよ」

 うろたえて、部屋の中をウロウロしていると、固い声で否定される。
 西浦先輩が、暗い顔で洗面所から出てきた。
 
「えっ、でも」
「吉ちゃんは悪くないよ。……おれのせいだから」

 暗い声でそう言われて、俺は目を見開いた。
 反射で、「いや、そんな……」ってバカみたいな返事しちまって。自分でも嫌になったけど、先輩があんまり辛そうで、他に言葉が出てこなかった。
 西浦先輩は、それっきり無言で身支度をし始める。
 俺も、もそもそとジャージに着替えながら、首を傾げた。
 先輩たち、最近仲良さそうだったのに、何があったんだろう?
 いつもの喧嘩かもしんねえけどさ。でも、西浦先輩に絡まない佐賀先輩って、初めてだし――こんなに堪えてる西浦先輩も初めてで。
 なんとなく、不安になった。

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