俺は魔法使いの息子らしい。

高穂もか

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第一部 決闘大会編

六十六話

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 朝めしだけど、どうしてもチャーハンが食いてぇ。
 ってなわけで、今朝は食堂はよしてコンビニにやってきた。
 店の奥に入ってくと、パンの陳列棚で、ひょこひょこ動く細い背中を発見する。背後からトトトと近づいて、ポンと肩を叩いた。

「ひゃあっ?」
「おはよ、森脇!」
「よ、吉村くん」

 森脇は、胸元で両手を振って振り返る。ぼすっと音を立て、たまごハムパンとマカロニパンが床に落ちた。
 さっと拾い上げて、尋ねる。

「ぐうぜん。今からメシ?」
「あっ。う、うん」
「じゃあ、一緒に食おうぜ」
「えっ。い、いいの?」
「おう!」

 俺たちはさくっと朝めしを調達し、コンビニを出た。
 一歩外に踏み出した拍子に、空からポツンと雫が落ちてくる。

「あ」
「雨だ」

 手を差しだすと、あとからあとから降ってきた。森脇と顔を見合わせて、屋根のある通路へ移動する。

「か、葛城先生の、予報通りだね」
「うん、すげえなあ」

 昨日の補習のとき、葛城先生に「明日は雨だから、魔力コントロールの補習は室内で行う」って言われてたんだ。今までも、雨の日はちょいちょいあったんだけど、いっつも先生の予報通りになんの。
 指定された教室に行く道すがら、森脇はもじもじと手を動かしていた。

「どうしたん?」
「あっ! ……あ、ああのね。ごめんね」
「へ? 何が?」

 謝られるような覚えがなくて、首を傾げてると。森脇は、慌てた様子で両手を振った。

「そっその。昨日、ぼ「僕が相手になる」なんて言って……よ、吉村くんずっと頑張ってるのに。八百長なんて勧めて、失礼だったよね?」
「あー!」

 ようやく合点が行った。心底申し訳なさそうな森脇に、俺は思わず笑ってしまった。ホント、気にしいだなあ。
 パン、と背中を叩く。

「ひゃっ!」
「やだなあ。心配してくれたの、わかってるって!」
「……吉村くん」

 森脇は目を潤ませると、ぐすぐすと鼻を啜り上げて泣き出してしまった。

「うおお! どうした!?」
「うぐ……ごめん。うっうれしくて……」

 ぎょっとして叫ぶ。
 おろおろと背をさすっていると、森脇は泣き笑いの顔を上げた。ジャージの袖で目を押さえ押さえしながら、話し出す。

「昨日から、ずっと。よっ吉村くんに嫌われたかもって……ぼ、僕ああいうこと多いんだ。……クラスメイトにも、よく怒られてて。いつもね、あ、あとから、失礼だって気づくんだけどね。僕、無神経だから……」
「そんなことないぞ。森脇、良い奴じゃん」
「でっ、でも……」
「いっつもアドバイスくれるし、おっとりしてて面白いし。気にし過ぎだよ!」
「吉村くん……ありがとう」

 ティッシュを渡すと、森脇はチーンと鼻をかむ。泣き止んでくれて、ほっとする。
 それにしても、森脇ってすっげえ自分を責めちゃうんだな。良いやつなのに、それって悲しいぞ。
 励ましの気持ちを込めてポンと肩を叩くと、森脇はちょっとはにかんだ。

「ご、ごめんね。聞いてくれてありがとう」
「わはは、いいって」

 珍しく、ちょっと甘えるみたいに肩に寄り掛かられて。森脇のほうが背が高いから、「入」の字みたいになっちまってさ。おかしくて、笑いながら歩いてると。

――ピリッ。

「……!」

 項に、痛いような感じがして後ろを振り返る。
 と、部活の朝練に出るらしい集団がさあっと通り過ぎていくところだった。楽しそうにがやがやしてて、こっちを見てるかんじはない。

「よ、吉村くん。どうしたの?」
「うーん。なんでもねえや」

 項をさすりながら、首を傾げた。
 一瞬、すっげえ睨まれたみたいな感じがしたんだけど……。
 気のせいか。


 それから、森脇と二人で朝飯を食った。胸のつかえがとれたみたいに、森脇はニコニコしてて。いつになくおしゃべりで、色々話せて嬉しかった。
 中等部に転入してから、ずっと学校に馴染めなくて大変だったらしいんだ。
 でも、森脇すごいんだぜ。一人の時間を、その分修業に打ち込んだから入学以来「青」から落ちたことないんだって。やべえ、超かっこよくね?
 あと、今クラスで仲良くしたい人が居るんだって、こっそり教えてくれた。

「でも、たぶん僕嫌われてて」
「えっ。いやでも、わからんって!」
「……よく、ウザいって言われる……うう」
「おお……」

 しょぼんと落ちる肩を、ばんと叩く。

「まー元気出せ! 俺も話なら聞けっから!」
「吉村くん……ありがとう」

 森脇の目が輝いた。
 ぎゅっと固く握手していると、ちょうど教室に入ってきた片倉先輩が引き気味に言う。

「うわ……何だお前ら。昭和のマンガかよ」

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