52 / 239
第一部 決闘大会編
五十二話
しおりを挟む
はしゃいだ気分のまま、向かい合ってメシを食った。
俺のメシは、飛びついたときに放りだしちまったんだけど、中は無事でよかった。
「なあ、イノリ。鮭おにぎり半分こしねぇ?」
「わーい、食べるー」
鮭おにぎりを半分に割って、イノリに渡す。にこにこしながら頬張っているのを見て、「しめしめ」とほくそ笑む。
今日の俺の昼飯は、おにぎり(鮭とたらこ)、コロネ、クリームパン、牛乳寒天ってラインナップ。ちなみに、全部イノリの好きなもの。
俺の飯とみせかけて、こっそりイノリを労おう作戦だ。
回りくどい? 俺もそう思うけど、イノリって普通におごられてくんないんだよー。
でも、半分こなら喜んでくれるんだよな。気にしいな奴だぜ。
「トキちゃんのおにぎり、おいしー」
「そりゃ良かった。コロネも半分食う?」
「食べるー」
不思議なことに、今日のイノリは、いつものイノリだった。
和やかにメシを食って、お互い色々喋ってさ。最近、あんま喋れてなかったから、話題はつきなかった。
俺のメシを半分こして、その後イノリのメシも半分こして、腹一杯になったころ。イノリが、今夜のことを言う。
「今夜、どうしようか。魔力、起こしてみる?」
「トキちゃんの良いときにしようね」って、心配そうに言い添えて。優しいな。
しかし、どうしよう。
俺としては、魔法使えたはずみをつけて、どんどん進んじゃいたいけど。イノリは、予定とか大丈夫だろうか。
「俺、今夜からがいいな。イノリは」
「わかったー」
「え。いいのか?」
「いいよー」
快く頷いてイノリは、俺の手をとった。にぎにぎと懐っこい仕草で握られて、くすぐったい。
「ふふ、何だよー」
「今日からさ、夜もトキちゃんに会えるんだぁって」
「へ」
「すっげぇ、嬉しー」
イノリは明るい、うきうきした目で笑った。どの甘いパン食ったときより、ふんわり口が緩んでて――かわいい。
胸の奥で、きゅんって音が鳴る。
やたらに恥ずかしくって、「うん」って頷くのがやっとだった。
なんてこった。
腹一杯の状態で、五限の授業だってのにちっとも眠くならない。
乾いたミカンの皮を、すり鉢でゴリゴリやりながら、俺はため息をついた。
かなうことなら、泡でも吹いて倒れたい。そしたら、その間は考えずに済むもんな。
と、思った矢先にイノリの笑顔が脳裏に浮かぶ。
「あわわわ」
ゴリゴリ! と力を込めてすりこぎを暴れさせた。
また考えてるし、俺って奴は!
「こら、吉村くん。乱暴にやっちゃいけませんよー」
「あっ、すんません」
作業台を見回っていた姫子先生に、メっと注意される。
見ると、粉砕された皮が、台の上に飛び散りまくってた。
ハッとして、頭を下げる。
「丁寧に、愛情込めてね」
「はい」
素直に頷くと、姫子先生はにっこり笑って見回りに戻る。くるんと巻いた髪が、白衣の背で揺れていた。
姫子先生は美人だ。親切だし、笑顔も綺麗だって思う。
でも、「きゅん」とかそういうのじゃないよな……。
「はー」
黒い棒みたいな草をぐつぐつ煮だした鍋に、さっきのミカンの皮を放り込む。謎の人参とか生姜もぶちこんで、お玉でぐるぐるかき混ぜる。黒い液体の中で、材料が渦を描いた。
今、すげえ誰かに聞きたいぜ。
ダチにときめくって、あるのかなぁって。
イノリ本人にまさか聞くわけにいかねえし、困る。
最近、そんなんばっか。ここ来るまでは、イノリに相談できねえことなんてなかったんだけど……。
「はぁ~~」
でっかいため息が聞こえる。
一瞬、俺かと思ったけど、隣の作業台からだった。
見れば、この前も深刻そうに喋っていた二人が、暗い顔で鍋を混ぜていた。
「なぁ、決まった?」
「一応……お前はどう」
「俺も、一応はね。でもな~……条件が良くなくてさ」
「お前も? でも、僕なんか……」
顔が真っ暗に見えるくらい、陰が差している。
条件って、何なんだろう。なんか、困ったことでもあったんかな。
俺は、近づいてポンと肩を叩いた。
「なぁ、大丈夫か? 具合悪そう――」
「うわっ! 何だお前、気安く触んなよ!」
「黒に心配されるほど落ちてねえんだよ!」
ぺいっと、追い払われる。
世知辛いぜ。まあ、調子悪いと、気が立ってるもんだよな。
それにしても、あの二人いつも悩んでるなぁ。そりゃ、みんな色々悩みがあるだろうけども。
「あ、そういえば」
「条件」とか「誰かに頼む」とか決闘大会のことで、あの二人前も話してたっけ。
先輩に聞いてみようと思って、ずっと忘れてた。今度こそ、聞いてみよう。
俺のメシは、飛びついたときに放りだしちまったんだけど、中は無事でよかった。
「なあ、イノリ。鮭おにぎり半分こしねぇ?」
「わーい、食べるー」
鮭おにぎりを半分に割って、イノリに渡す。にこにこしながら頬張っているのを見て、「しめしめ」とほくそ笑む。
今日の俺の昼飯は、おにぎり(鮭とたらこ)、コロネ、クリームパン、牛乳寒天ってラインナップ。ちなみに、全部イノリの好きなもの。
俺の飯とみせかけて、こっそりイノリを労おう作戦だ。
回りくどい? 俺もそう思うけど、イノリって普通におごられてくんないんだよー。
でも、半分こなら喜んでくれるんだよな。気にしいな奴だぜ。
「トキちゃんのおにぎり、おいしー」
「そりゃ良かった。コロネも半分食う?」
「食べるー」
不思議なことに、今日のイノリは、いつものイノリだった。
和やかにメシを食って、お互い色々喋ってさ。最近、あんま喋れてなかったから、話題はつきなかった。
俺のメシを半分こして、その後イノリのメシも半分こして、腹一杯になったころ。イノリが、今夜のことを言う。
「今夜、どうしようか。魔力、起こしてみる?」
「トキちゃんの良いときにしようね」って、心配そうに言い添えて。優しいな。
しかし、どうしよう。
俺としては、魔法使えたはずみをつけて、どんどん進んじゃいたいけど。イノリは、予定とか大丈夫だろうか。
「俺、今夜からがいいな。イノリは」
「わかったー」
「え。いいのか?」
「いいよー」
快く頷いてイノリは、俺の手をとった。にぎにぎと懐っこい仕草で握られて、くすぐったい。
「ふふ、何だよー」
「今日からさ、夜もトキちゃんに会えるんだぁって」
「へ」
「すっげぇ、嬉しー」
イノリは明るい、うきうきした目で笑った。どの甘いパン食ったときより、ふんわり口が緩んでて――かわいい。
胸の奥で、きゅんって音が鳴る。
やたらに恥ずかしくって、「うん」って頷くのがやっとだった。
なんてこった。
腹一杯の状態で、五限の授業だってのにちっとも眠くならない。
乾いたミカンの皮を、すり鉢でゴリゴリやりながら、俺はため息をついた。
かなうことなら、泡でも吹いて倒れたい。そしたら、その間は考えずに済むもんな。
と、思った矢先にイノリの笑顔が脳裏に浮かぶ。
「あわわわ」
ゴリゴリ! と力を込めてすりこぎを暴れさせた。
また考えてるし、俺って奴は!
「こら、吉村くん。乱暴にやっちゃいけませんよー」
「あっ、すんません」
作業台を見回っていた姫子先生に、メっと注意される。
見ると、粉砕された皮が、台の上に飛び散りまくってた。
ハッとして、頭を下げる。
「丁寧に、愛情込めてね」
「はい」
素直に頷くと、姫子先生はにっこり笑って見回りに戻る。くるんと巻いた髪が、白衣の背で揺れていた。
姫子先生は美人だ。親切だし、笑顔も綺麗だって思う。
でも、「きゅん」とかそういうのじゃないよな……。
「はー」
黒い棒みたいな草をぐつぐつ煮だした鍋に、さっきのミカンの皮を放り込む。謎の人参とか生姜もぶちこんで、お玉でぐるぐるかき混ぜる。黒い液体の中で、材料が渦を描いた。
今、すげえ誰かに聞きたいぜ。
ダチにときめくって、あるのかなぁって。
イノリ本人にまさか聞くわけにいかねえし、困る。
最近、そんなんばっか。ここ来るまでは、イノリに相談できねえことなんてなかったんだけど……。
「はぁ~~」
でっかいため息が聞こえる。
一瞬、俺かと思ったけど、隣の作業台からだった。
見れば、この前も深刻そうに喋っていた二人が、暗い顔で鍋を混ぜていた。
「なぁ、決まった?」
「一応……お前はどう」
「俺も、一応はね。でもな~……条件が良くなくてさ」
「お前も? でも、僕なんか……」
顔が真っ暗に見えるくらい、陰が差している。
条件って、何なんだろう。なんか、困ったことでもあったんかな。
俺は、近づいてポンと肩を叩いた。
「なぁ、大丈夫か? 具合悪そう――」
「うわっ! 何だお前、気安く触んなよ!」
「黒に心配されるほど落ちてねえんだよ!」
ぺいっと、追い払われる。
世知辛いぜ。まあ、調子悪いと、気が立ってるもんだよな。
それにしても、あの二人いつも悩んでるなぁ。そりゃ、みんな色々悩みがあるだろうけども。
「あ、そういえば」
「条件」とか「誰かに頼む」とか決闘大会のことで、あの二人前も話してたっけ。
先輩に聞いてみようと思って、ずっと忘れてた。今度こそ、聞いてみよう。
31
お気に入りに追加
519
あなたにおすすめの小説
いとしの生徒会長さま
もりひろ
BL
大好きな親友と楽しい高校生活を送るため、急きょアメリカから帰国した俺だけど、編入した学園は、とんでもなく変わっていた……!
しかも、生徒会長になれとか言われるし。冗談じゃねえっつの!

【完結】I adore you
ひつじのめい
BL
幼馴染みの蒼はルックスはモテる要素しかないのに、性格まで良くて羨ましく思いながらも夏樹は蒼の事を1番の友達だと思っていた。
そんな時、夏樹に彼女が出来た事が引き金となり2人の関係に変化が訪れる。
※小説家になろうさんでも公開しているものを修正しています。

学園の俺様と、辺境地の僕
そらうみ
BL
この国の三大貴族の一つであるルーン・ホワイトが、何故か僕に構ってくる。学園生活を平穏に過ごしたいだけなのに、ルーンのせいで僕は皆の注目の的となってしまった。卒業すれば関わることもなくなるのに、ルーンは一体…何を考えているんだ?
【全12話になります。よろしくお願いします。】

ある日、木から落ちたらしい。どういう状況だったのだろうか。
水鳴諒
BL
目を覚ますとズキリと頭部が痛んだ俺は、自分が記憶喪失だと気づいた。そして風紀委員長に面倒を見てもらうことになった。(風紀委員長攻めです)

俺の親友がモテ過ぎて困る
くるむ
BL
☆完結済みです☆
番外編として短い話を追加しました。
男子校なのに、当たり前のように毎日誰かに「好きだ」とか「付き合ってくれ」とか言われている俺の親友、結城陽翔(ゆうきはるひ)
中学の時も全く同じ状況で、女子からも男子からも追い掛け回されていたらしい。
一時は断るのも面倒くさくて、誰とも付き合っていなければそのままOKしていたらしいのだけど、それはそれでまた面倒くさくて仕方がなかったのだそうだ(ソリャソウダロ)
……と言う訳で、何を考えたのか陽翔の奴、俺に恋人のフリをしてくれと言う。
て、お前何考えてんの?
何しようとしてんの?
……てなわけで、俺は今日もこいつに振り回されています……。
美形策士×純情平凡♪
夢では溺愛騎士、現実ではただのクラスメイト
春音優月
BL
真面目でおとなしい性格の藤村歩夢は、武士と呼ばれているクラスメイトの大谷虎太郎に密かに片想いしている。
クラスではほとんど会話も交わさないのに、なぜか毎晩歩夢の夢に出てくる虎太郎。しかも夢の中での虎太郎は、歩夢を守る騎士で恋人だった。
夢では溺愛騎士、現実ではただのクラスメイト。夢と現実が交錯する片想いの行方は――。
2024.02.23〜02.27
イラスト:かもねさま
【奨励賞】恋愛感情抹消魔法で元夫への恋を消去する
SKYTRICK
BL
☆11/28完結しました。
☆第11回BL小説大賞奨励賞受賞しました。ありがとうございます!
冷酷大元帥×元娼夫の忘れられた夫
——「また俺を好きになるって言ったのに、嘘つき」
元娼夫で現魔術師であるエディことサラは五年ぶりに祖国・ファルンに帰国した。しかし暫しの帰郷を味わう間も無く、直後、ファルン王国軍の大元帥であるロイ・オークランスの使者が元帥命令を掲げてサラの元へやってくる。
ロイ・オークランスの名を知らぬ者は世界でもそうそういない。魔族の血を引くロイは人間から畏怖を大いに集めながらも、大将として国防戦争に打ち勝ち、たった二十九歳で大元帥として全軍のトップに立っている。
その元帥命令の内容というのは、五年前に最愛の妻を亡くしたロイを、魔族への本能的な恐怖を感じないサラが慰めろというものだった。
ロイは妻であるリネ・オークランスを亡くし、悲しみに苛まれている。あまりの辛さで『奥様』に関する記憶すら忘却してしまったらしい。半ば強引にロイの元へ連れていかれるサラは、彼に己を『サラ』と名乗る。だが、
——「失せろ。お前のような娼夫など必要としていない」
噂通り冷酷なロイの口からは罵詈雑言が放たれた。ロイは穢らわしい娼夫を睨みつけ去ってしまう。使者らは最愛の妻を亡くしたロイを憐れむばかりで、まるでサラの様子を気にしていない。
誰も、サラこそが五年前に亡くなった『奥様』であり、最愛のその人であるとは気付いていないようだった。
しかし、最大の問題は元夫に存在を忘れられていることではない。
サラが未だにロイを愛しているという事実だ。
仕方なく、『恋愛感情抹消魔法』を己にかけることにするサラだが——……
☆描写はありませんが、受けがモブに抱かれている示唆はあります(男娼なので)
☆お読みくださりありがとうございます。良ければ感想などいただけるとパワーになります!
思い出して欲しい二人
春色悠
BL
喫茶店でアルバイトをしている鷹木翠(たかぎ みどり)。ある日、喫茶店に初恋の人、白河朱鳥(しらかわ あすか)が女性を伴って入ってきた。しかも朱鳥は翠の事を覚えていない様で、幼い頃の約束をずっと覚えていた翠はショックを受ける。
そして恋心を忘れようと努力するが、昔と変わったのに変わっていない朱鳥に寧ろ、どんどん惚れてしまう。
一方朱鳥は、バッチリと翠の事を覚えていた。まさか取引先との昼食を食べに行った先で、再会すると思わず、緩む頬を引き締めて翠にかっこいい所を見せようと頑張ったが、翠は朱鳥の事を覚えていない様。それでも全く愛が冷めず、今度は本当に結婚するために翠を落としにかかる。
そんな二人の、もだもだ、じれったい、さっさとくっつけ!と、言いたくなるようなラブロマンス。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる