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第一部 決闘大会編
四十一話
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昼休み。
俺は、305教室の前で大きく深呼吸した。
「……よしっ」
気合を入れて、取っ手に手をかけ、一息に戸を開けた。
直後、フワッと冷たい風が顔に吹いてくる。
白いカーテンが、大きく翻っていた。開いた窓の側に、イノリが背を向けて立っている。
風に揺れる亜麻色の髪と、白い横顔を見て、胸がぎゅっとなった。
たった一日、会えなかっただけなのに、すげえ久しぶりな気がする。
「トキちゃん、おはよー」
ゆっくりと振り返ったイノリが、にっこり笑った。俺は、笑顔をつくって同じ言葉を返した。
「昨日、ごめん。ちょっとトラブルがあって来れなくなって……」
「ううん、いいよ」
イノリは、銀色の窓枠に手をかけて立っている。そんなとこ寒いだろうに、近づいてこようとはしない。
俺も、なんとなくまごまごして、入り口の近くに突っ立ってた。
ちゃんと話さねえと。鞄の紐を、ぎゅっと握って口を開く。
「イノリ、怪我したって聞いたぞ。大丈夫なのか?」
イノリは、目を丸く開いた。それから、困ったように首を傾げる。
「もしかして、須々木先輩に聞いた?」
「うん。お前が書記の人と喧嘩して、怪我したって」
「……そっかぁ」
イノリは苦笑すると、窓の外を見た。
「大丈夫だよ。もう医務室に行ったし、全部治ってるんだ。ごめんね、心配かけて」
「何言ってんだよ! 心配なんて、当たり前じゃんか」
言うと、イノリは息だけで笑ったみたいだった。
「優しいなぁ、トキちゃんは」
「普通だって。なあ、喧嘩ってどうしたんだ。その人と、あんま仲良くねえの?」
「んー、どうかな。確かに、ぶつかることは多い人かも? でも、いじめられてるとかじゃないし、平気だよ」
「そっか……」
頷いたものの、なんとなく不安だ。
イノリは、人とそんなに揉めたりしねえのに、喧嘩するなんて。相手は、よっぽどヤバい人なんじゃって、心配になる。
ぎくしゃくする前の俺なら、もっとしつこく聞いたと思う。
でも、さっきから――イノリとずっと目が合わなくて。それで、ちょっとビビってる。
昨日だって、避けられたんじゃないってわかってるのに。
駄目だ。
仲直りするって決めたのに、及び腰になってる。
――そうだ、イノリに聞きたいことだってある。
イノリとぎこちなく会話しながら、昨晩、須々木先輩に言われたことを思い出していた。
『あのな、桜沢が生徒会室を爆発させたん、これが初めてやないねん』
先輩は、面白そうに話した。
『前んときはな。八千草が面白半分に、桜沢の魔力に触ろうとしたからなんやけど。キモい、言うてブチ切れてな。桜沢、魔力に触られるのめっちゃ嫌いなんやで。ぼくらの誰にも触らしたことないもん』
『そんなあいつが、ただのボランティアで、きみに触ったりせえへんと思うけどなぁ』
俺は、唇を噛みしめた。
先輩の言うことが本当なら。イノリは、どういうつもりで、俺に触ってくれたんだろう?
聞いてみたい。俺は、意を決して尋ねる。
「あのさ、イノリ。魔力コントロールのことなんだけど――」
「トキちゃん」
が、言い終わる前に、イノリに遮られる。
静かな声だったけど、有無を言わさない響きに、俺は口をつぐんだ。
「須々木先輩から、聞いたんだけどさぁ……葛城先生に、魔力起こして貰うことになったんだって?」
「えっ?」
俺は、目を丸くする。
イノリが、その話があったことを、知っていたことに驚いて。
けど、俺は葛城先生に頼むつもりはない。今朝ちゃんと、お断りしてきたんだから。
なんか、行き違いがあるような。
不思議だったけど、とにかく否定しようと、慌てて口を開く。けど、
「違うよ。俺は、」
「――いいんじゃないかな」
その前に、イノリに静かな声で言われて。
俺は意味がわかんなかった。
俺は、305教室の前で大きく深呼吸した。
「……よしっ」
気合を入れて、取っ手に手をかけ、一息に戸を開けた。
直後、フワッと冷たい風が顔に吹いてくる。
白いカーテンが、大きく翻っていた。開いた窓の側に、イノリが背を向けて立っている。
風に揺れる亜麻色の髪と、白い横顔を見て、胸がぎゅっとなった。
たった一日、会えなかっただけなのに、すげえ久しぶりな気がする。
「トキちゃん、おはよー」
ゆっくりと振り返ったイノリが、にっこり笑った。俺は、笑顔をつくって同じ言葉を返した。
「昨日、ごめん。ちょっとトラブルがあって来れなくなって……」
「ううん、いいよ」
イノリは、銀色の窓枠に手をかけて立っている。そんなとこ寒いだろうに、近づいてこようとはしない。
俺も、なんとなくまごまごして、入り口の近くに突っ立ってた。
ちゃんと話さねえと。鞄の紐を、ぎゅっと握って口を開く。
「イノリ、怪我したって聞いたぞ。大丈夫なのか?」
イノリは、目を丸く開いた。それから、困ったように首を傾げる。
「もしかして、須々木先輩に聞いた?」
「うん。お前が書記の人と喧嘩して、怪我したって」
「……そっかぁ」
イノリは苦笑すると、窓の外を見た。
「大丈夫だよ。もう医務室に行ったし、全部治ってるんだ。ごめんね、心配かけて」
「何言ってんだよ! 心配なんて、当たり前じゃんか」
言うと、イノリは息だけで笑ったみたいだった。
「優しいなぁ、トキちゃんは」
「普通だって。なあ、喧嘩ってどうしたんだ。その人と、あんま仲良くねえの?」
「んー、どうかな。確かに、ぶつかることは多い人かも? でも、いじめられてるとかじゃないし、平気だよ」
「そっか……」
頷いたものの、なんとなく不安だ。
イノリは、人とそんなに揉めたりしねえのに、喧嘩するなんて。相手は、よっぽどヤバい人なんじゃって、心配になる。
ぎくしゃくする前の俺なら、もっとしつこく聞いたと思う。
でも、さっきから――イノリとずっと目が合わなくて。それで、ちょっとビビってる。
昨日だって、避けられたんじゃないってわかってるのに。
駄目だ。
仲直りするって決めたのに、及び腰になってる。
――そうだ、イノリに聞きたいことだってある。
イノリとぎこちなく会話しながら、昨晩、須々木先輩に言われたことを思い出していた。
『あのな、桜沢が生徒会室を爆発させたん、これが初めてやないねん』
先輩は、面白そうに話した。
『前んときはな。八千草が面白半分に、桜沢の魔力に触ろうとしたからなんやけど。キモい、言うてブチ切れてな。桜沢、魔力に触られるのめっちゃ嫌いなんやで。ぼくらの誰にも触らしたことないもん』
『そんなあいつが、ただのボランティアで、きみに触ったりせえへんと思うけどなぁ』
俺は、唇を噛みしめた。
先輩の言うことが本当なら。イノリは、どういうつもりで、俺に触ってくれたんだろう?
聞いてみたい。俺は、意を決して尋ねる。
「あのさ、イノリ。魔力コントロールのことなんだけど――」
「トキちゃん」
が、言い終わる前に、イノリに遮られる。
静かな声だったけど、有無を言わさない響きに、俺は口をつぐんだ。
「須々木先輩から、聞いたんだけどさぁ……葛城先生に、魔力起こして貰うことになったんだって?」
「えっ?」
俺は、目を丸くする。
イノリが、その話があったことを、知っていたことに驚いて。
けど、俺は葛城先生に頼むつもりはない。今朝ちゃんと、お断りしてきたんだから。
なんか、行き違いがあるような。
不思議だったけど、とにかく否定しようと、慌てて口を開く。けど、
「違うよ。俺は、」
「――いいんじゃないかな」
その前に、イノリに静かな声で言われて。
俺は意味がわかんなかった。
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