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第一部 決闘大会編
三十五話
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完全にやらかした。
俺はノートの上に突っ伏して、頭を抱えた。五限目の授業もなんのその、馬の耳に念仏状態で、俺は猛烈にへっこんでいた。
イノリの手を、避けたのなんて初めてだった。
なんでそんなことしたって言うと、とっさに体が動いちゃったんだとしか言いようがない。だから、自分でもなんでかわかんねえ。
――イノリ、傷ついた顔してた。
手を避けちゃって、すぐに「ごめん」て言ったけど。そしたら、イノリは「俺こそごめんね」って、全然悪くないのに謝ってさ。
あの後も、いつも通りに笑ってたけど、あれは絶対気にしてる。付き合い長いから、それくらい俺にでもわかる。
「うう、どうしよう……」
「何がですか、吉村くん」
呟いたら、頭上に唐突に冷たい声が降ってくる。
はっとして顔を上げれば、氷点下の眼差しで俺を見下す高柳先生が、傍らに立っていた。
「た、高柳先生」
「全く……どうにかしてほしいのは、私の方ですよ。成績も悪い、授業態度も悪いでは、君に単位をあげるのは難しいのですがね」
「はい、すんません」
慌てて立ち上がって、頭を下げる。先生は胡散臭そうに俺を見て、「仕方がない」というようにため息をついた。
「それでも。教師として、君に救済案を与えなければなりません。この後、ずっと立って授業を受けなさい。それと――便覧62章の問題をすべてノートに書き写し、明日の朝に提出すること。いいですね」
「はい」
神妙に頷くと、高柳先生はクルッと踵を返し授業を再開した。通りがかりに、生徒の一人に教科書を音読するように言いつける。
よどみない音読の声を聞きながら、俺はがっくり肩を落とした。ああ、まずった。
突っ立ってるのが面白いのか、クスクスと忍び笑いが聞こえてくる。
ちょっと滅入ったけど、ボーっとしてた俺が悪い。ただでさえ、もうじき期末で先生はピリピリしてるんだから、ちゃんとしねえと。
でも。気を抜いたら、すぐにイノリのことを考えちまう。
俺、イノリを傷つけた。だったら、とにかく謝るべきだ、と思う。
でも、わけわかんねえのに謝っていいのか? また、同じことしちまったら、どうするんだ。
そもそも、これってどういう状況なんだろう。喧嘩……ではないし。俺が、一方的に変なだけだから。
これ、謝って、なんとかなるのかな。
どんどん不安になってくる。
うだうだ考えてる間に、授業の時間が過ぎていった。
……どうしよう。俺はどうしたいんだろう。
不安って、的中するもんだよな。
俺とイノリは、もう三日もギクシャクしていた。
三日って! こんなこと初めてだ。
そりゃ、ここに来たばっかの頃は、少し距離が空いたけど。あの時だって、何か理由があんだって思ってて。こんな風に、「気まずい」のとは違ってたんだ。
そもそも、喧嘩してるんじゃないんだよ。
手を避けちゃったことは、もう謝ったし、イノリも「いいよ」って言ってくれた。
なのに、元通りにならないのは、俺の態度が変なせい。
イノリに、自然に振舞えなくて。触れられそうになると、なんか……すげえ身構えちゃうわけ。
一昨日なんか。肩に埃が落ちてたの、イノリが取ってくれようとしたんだよ。
それを、俺が妙にビビッちまってさ。したら、イノリはまた悲しそうな顔で「ごめんね」って、手を引っ込めちゃった。
本当に、まずいと思う。だってそうじゃん。俺は、イノリにこんな態度取られたら、普通に傷つくもん。するべきじゃない。
けど、治らない。
なんで、こんな態度とっちゃうんだろう。
イノリは、大切なダチなのに。
焦って、悶々とする俺とうらはらに、イノリとのギクシャクは改善できず日々が過ぎる。
期末が近いのに、勉強はボロボロだし。
魔力のコントロールも、相変わらずうまくいってない。
葛城先生だけでなく、最近は森脇と片倉先輩まで、俺にアドバイスしてくれてるのに。
すげえ申し訳なかった。
いや、葛城先生に借りた本に、書いてあったんだけどさ。
俺が、四元素拮抗型ってやつなら。自力で元素に気づくのはほぼ無理なんだって。
俺は、イノリに教えてもらって、自分が「そう」なんじゃないかってわかってる。だったら、魔力を起こしてもらわなきゃダメだって、本当はわかってるのに、問題から逃げて。
自分でできる努力もせずに、みんなに甘えてる。
最悪だ!
うだうだしてる間に、メシも食えんくなってきて。
西浦先輩にも、さんざん「体調が悪いのか」って心配かけてるし。昨日の夕飯じゃ、ついに佐賀先輩までおかずをくれた。
「食え。いらねえからやる」
「吉ちゃん、入りそうなら食べてやって。佐賀のかっこつけだし、遠慮はいらないよ」
優しくされて、もったいなくて。俯いたら、珍しく佐賀先輩が頭をわしわし撫でてくれた。撫でるより、掴むって感じだったけど。
そしたらさ、これまた珍しく。イノリと食堂で鉢合わせしたんだよな。
イノリは、もう一人の庶務と連れ立って、メシを食いに来てたみたいだった。
目は合わなかった。人前じゃ、知らないふりすることになってるから、当たり前なんだけどさ。
でも、なんかショックで。眼鏡の庶務と、仲良さそうに話してたからかもしんないけど。
俺はだめだ。自分で気まずくなっといて、イノリを束縛しようとしてる。
勝手すぎる。
そんな風に、自分のことばっか考えてた罰なのか。
ついに今日。
イノリが、俺にいっさい触らなくなった。
俺はノートの上に突っ伏して、頭を抱えた。五限目の授業もなんのその、馬の耳に念仏状態で、俺は猛烈にへっこんでいた。
イノリの手を、避けたのなんて初めてだった。
なんでそんなことしたって言うと、とっさに体が動いちゃったんだとしか言いようがない。だから、自分でもなんでかわかんねえ。
――イノリ、傷ついた顔してた。
手を避けちゃって、すぐに「ごめん」て言ったけど。そしたら、イノリは「俺こそごめんね」って、全然悪くないのに謝ってさ。
あの後も、いつも通りに笑ってたけど、あれは絶対気にしてる。付き合い長いから、それくらい俺にでもわかる。
「うう、どうしよう……」
「何がですか、吉村くん」
呟いたら、頭上に唐突に冷たい声が降ってくる。
はっとして顔を上げれば、氷点下の眼差しで俺を見下す高柳先生が、傍らに立っていた。
「た、高柳先生」
「全く……どうにかしてほしいのは、私の方ですよ。成績も悪い、授業態度も悪いでは、君に単位をあげるのは難しいのですがね」
「はい、すんません」
慌てて立ち上がって、頭を下げる。先生は胡散臭そうに俺を見て、「仕方がない」というようにため息をついた。
「それでも。教師として、君に救済案を与えなければなりません。この後、ずっと立って授業を受けなさい。それと――便覧62章の問題をすべてノートに書き写し、明日の朝に提出すること。いいですね」
「はい」
神妙に頷くと、高柳先生はクルッと踵を返し授業を再開した。通りがかりに、生徒の一人に教科書を音読するように言いつける。
よどみない音読の声を聞きながら、俺はがっくり肩を落とした。ああ、まずった。
突っ立ってるのが面白いのか、クスクスと忍び笑いが聞こえてくる。
ちょっと滅入ったけど、ボーっとしてた俺が悪い。ただでさえ、もうじき期末で先生はピリピリしてるんだから、ちゃんとしねえと。
でも。気を抜いたら、すぐにイノリのことを考えちまう。
俺、イノリを傷つけた。だったら、とにかく謝るべきだ、と思う。
でも、わけわかんねえのに謝っていいのか? また、同じことしちまったら、どうするんだ。
そもそも、これってどういう状況なんだろう。喧嘩……ではないし。俺が、一方的に変なだけだから。
これ、謝って、なんとかなるのかな。
どんどん不安になってくる。
うだうだ考えてる間に、授業の時間が過ぎていった。
……どうしよう。俺はどうしたいんだろう。
不安って、的中するもんだよな。
俺とイノリは、もう三日もギクシャクしていた。
三日って! こんなこと初めてだ。
そりゃ、ここに来たばっかの頃は、少し距離が空いたけど。あの時だって、何か理由があんだって思ってて。こんな風に、「気まずい」のとは違ってたんだ。
そもそも、喧嘩してるんじゃないんだよ。
手を避けちゃったことは、もう謝ったし、イノリも「いいよ」って言ってくれた。
なのに、元通りにならないのは、俺の態度が変なせい。
イノリに、自然に振舞えなくて。触れられそうになると、なんか……すげえ身構えちゃうわけ。
一昨日なんか。肩に埃が落ちてたの、イノリが取ってくれようとしたんだよ。
それを、俺が妙にビビッちまってさ。したら、イノリはまた悲しそうな顔で「ごめんね」って、手を引っ込めちゃった。
本当に、まずいと思う。だってそうじゃん。俺は、イノリにこんな態度取られたら、普通に傷つくもん。するべきじゃない。
けど、治らない。
なんで、こんな態度とっちゃうんだろう。
イノリは、大切なダチなのに。
焦って、悶々とする俺とうらはらに、イノリとのギクシャクは改善できず日々が過ぎる。
期末が近いのに、勉強はボロボロだし。
魔力のコントロールも、相変わらずうまくいってない。
葛城先生だけでなく、最近は森脇と片倉先輩まで、俺にアドバイスしてくれてるのに。
すげえ申し訳なかった。
いや、葛城先生に借りた本に、書いてあったんだけどさ。
俺が、四元素拮抗型ってやつなら。自力で元素に気づくのはほぼ無理なんだって。
俺は、イノリに教えてもらって、自分が「そう」なんじゃないかってわかってる。だったら、魔力を起こしてもらわなきゃダメだって、本当はわかってるのに、問題から逃げて。
自分でできる努力もせずに、みんなに甘えてる。
最悪だ!
うだうだしてる間に、メシも食えんくなってきて。
西浦先輩にも、さんざん「体調が悪いのか」って心配かけてるし。昨日の夕飯じゃ、ついに佐賀先輩までおかずをくれた。
「食え。いらねえからやる」
「吉ちゃん、入りそうなら食べてやって。佐賀のかっこつけだし、遠慮はいらないよ」
優しくされて、もったいなくて。俯いたら、珍しく佐賀先輩が頭をわしわし撫でてくれた。撫でるより、掴むって感じだったけど。
そしたらさ、これまた珍しく。イノリと食堂で鉢合わせしたんだよな。
イノリは、もう一人の庶務と連れ立って、メシを食いに来てたみたいだった。
目は合わなかった。人前じゃ、知らないふりすることになってるから、当たり前なんだけどさ。
でも、なんかショックで。眼鏡の庶務と、仲良さそうに話してたからかもしんないけど。
俺はだめだ。自分で気まずくなっといて、イノリを束縛しようとしてる。
勝手すぎる。
そんな風に、自分のことばっか考えてた罰なのか。
ついに今日。
イノリが、俺にいっさい触らなくなった。
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