俺は魔法使いの息子らしい。

高穂もか

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第一部 決闘大会編

十八話

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 十二月、冬季決闘大会に出る!
 やっぱ、目標ができると日々の授業にも身が入るよな。
 イノリも応援してくれてるし頑張らねーとって、午後の授業にも気合がみなぎった。


 撫で上げた髪に一分のスキなし、纏うスーツはオーダーメイド。
 ハーレクインのヒーローみたいな高柳先生は、ポンと手を叩いて生徒の注意を引いた。

「さて。私たちの身に宿る元素を、世界の元素と結びつかせること。これを君、何といいますか?」

 突然指名された生徒が、慌てて答えた。

「ええと、魔法式です」
「そうです。そして、世界と我が結びつき、一つの現象を生み出すことこそ魔法式の発動。すなわち魔法といいます」

 高柳先生は、黒板にスラスラと書きつけはじめた。
『魔法式とは、身に宿る元素を体外に表出し、世界の元素と結合させる(我・世=現象)』
 トン、と黒板を指でたたき、先生は振り返る。

「そして、魔法式を発動させるために様々な術式があります。今日は、魔法式発動の基礎、点火術のおさらいとして、蝋燭に火をつけてもらいます。術式は、今まで学んだ通り。出来たものから、挙手をしてください」

 みんな一斉に、自分の前に置かれた燭台に手をかざし始めた。
 金色の燭台には、魚肉ソーセージくらいの蝋燭が三本刺さってる。
 俺、点火術って初めてだ。火を出すとか、「魔法でござい!」って感じでカッコいいよな。
 ワクワクしながら、端の蝋燭に手をかざして、呪文を詠む。

「我が身に宿る、火の元素よ、熱を生じ……ええと、彼の気と結び? 蝋燭に火を……火を点させたまえ!」

……うーん、何もおこらねえ。
 呪文、噛んだのが悪かったかな。
 もう一回、噛まないようにゆっくり詠じてみる。けど、蝋燭の芯は黒いまま、火が点くどころか冷え冷えしてる。
 何が悪いんだ、って首を傾げたとき。

「先生、出来ました」

 前の席で、鳶尾が高らかに手を挙げた。
 あいつの燭台には、三本の蝋燭全部にあかあかと火が点いてる。

「鳶尾くん、お見事です。皆さんに見せてお上げなさい」
「はい、先生」

 高柳先生は満足そうに頷いて、鳶尾のチェックシートに、でっかいAを書いた。
 鳶尾は得意そうに顎を上げ、クラス中に燭台が見えるように掲げる。遠くの席で、お追従マン二人が、駆け寄りたそうに身を乗り出した。

「よしっ、俺も」

 鳶尾の成功に触発されて、みんな熱が入ったかんじだ。
 しばらくすると、あちこちで「火が点いた」っていう声が上がってくる。
 けど、俺のはうんともすんとも言わないまま。呪文も、噛まずに言えてきたんだけどなあ。

「ふっ、こんなの簡単さ」

 鳶尾が肩越しに俺を振り返り、ふふんと鼻で笑った。
 これ見よがしに、蝋燭にポンポンポンと火を連続でつけてきて、ちょっと腹立つ。

「ふん、俺には難しいんだよ」
「こんなとこで躓いて、大丈夫かなァ? 可哀そうだから、うまくいくコツ、教えてやろうか」
「え、マジで!」

 何だよ、けっこういいとこあるじゃん。
 「耳をよこせ」って言うように指でちょいちょい招かれて、身を前に乗り出した。
 すると、低い声で耳打ちされる。

「お前、学校辞めなよ。才能ないし、人生の時間の無駄だから」
「は?」
 
 何じゃコイツ。なにをどうしたら、こんな意地の悪い声がだせんのよ。
 あっけに取られてたら、耳たぶにパチッと火花が散った。

「あづっ!」

 咄嗟に振り払い、耳を押さえた。耳たぶがじんじん熱い。ぜってえ産毛焦げたぞ、これ。
 鳶尾は、せせら笑う。

「アドバイス、せいぜい役立ててよね」

 もう言う事はねえって感じで、鳶尾が前を向く。
 流石にむかっ腹が立って、鳶尾の肩を掴んだ。

「おいっ」
「うわっ、何すんのさ」

 こっちのセリフじゃ! と、言おうとしたとき、鳶尾の振った腕が俺の燭台とノートを薙ぎ払う。
 ガタン、バサバサッ! と大きな音が立って、次にシーンと静かになった。
 うわ、やべえ。
 と思ったら、カツカツと靴音を高く鳴らして、高柳先生が近づいてきた。
 先生は、片眉を跳ね上げてこっちを見下ろした。
 
「私の授業中に、何の騒ぎです? 鳶尾くん、説明しなさい」

 すると、鳶尾は肩をすくめて弁明しだす。

「吉村くんが、いきなり掴みかかってきたんです。大方、出来なくって、苛々してたんじゃないですか? 驚いて振り払ったら、こんなことに……お騒がせしてすみません」
「はぁ?」

 何言ってんだコイツ。先に喧嘩売ったのはそっちだろ。
 思いっきり文句言おうとしたら、高柳先生が「ふう」とため息をついた。

「困りますね、吉村くん。自分の能力の低さを棚に上げ、他人に当たっても仕方ありません。そのようなことだから、黒などという序列に甘んじることになるんですよ」

 先生は、ドライアイスみてぇな、冷たすぎる目で俺を見た。えっ、俺だけが悪いの?

「いや、ちょっと待ってください。そもそも鳶尾が」
「言い訳など聞きたくありません。よろしい、君がそのような心持でいるなら、私は罰を与えましょう。この後の教室の片づけは、君一人でするように。それと、教科書六十二~七十ページの点火術の心得をノートに三度書き写し、明日の朝提出しなさい」

 ええ~~、俺の意見は聞きもしないんすか?!
 ガビーンって、石でも頭に当たった気分だ。

「わかりましたね、吉村くん」
「ハイ」

 何言っても墓穴になりそうで、俺は頷いた。
 鳶尾のやつ、先生から見えないとこで、嘲笑ってやがる。クラスメイトも見てただろうに、つまらなそうか、にやにやしてるかのどっちかだし。冷たくね?

「では、皆続けて!」

 高柳先生が、授業を再開する。
 みんな、蝋燭に向き合いだしたから。俺もモヤモヤしつつ、燭台を拾い上げた。
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