俺は魔法使いの息子らしい。

高穂もか

文字の大きさ
上 下
10 / 239
第一部 決闘大会編

十話

しおりを挟む
 寮の部屋で、俺は教科書を開いていた。
 つっても開いてるだけで、鉛筆もノートの上に放り出したまんまだ。

「は~~……」 

 やべえ。今日の決闘が目に焼き付いて、まるで集中出来ねえ。
 三年の藤川先輩と渡り合い、みごとに勝利をもぎ取ったイノリ。
 そう、俺の幼馴染はすげえ奴なんだ。一緒にいて、馬鹿笑いしてると忘れちまうけど。
 イケメンで、背が高くて、運動神経抜群で。そういや、助っ人で出た野球の試合で、レギュラーより冴えたプレーを見せたこともあったっけ。
 しかも、このスペックで、えばったりしねえ良い奴で。
 対する俺は、平凡の極み。
 スポーツは何でも好きだけど、万年補欠くんだし。とりえと言えば、頑丈なことくらい。バカだからか、風邪もひいたことねえの。
 考えてみりゃ、デコボコなんだな俺たちは。
 俺とイノリは、ずっと親友で。それを不思議に思ったことはなかったけど――。

「はあ~~~……」

 ぐーっと伸びをして天井を仰ぐと、ギシッと椅子の背もたれが鳴る。と、視界に、にゅっと顔が割り込んだ。

「うおっ!」
「うるっせーよ、吉村。ハアハアハアハア、犬かてめえはぁ」
「あっ、すんません先輩」

 いかつい顔で舌打ちするのは、ルームメイトの佐賀先輩だ。ランニングシャツとハーパン姿で、鍛えられたマッスルがお目見えしている。

「吉ちゃん、どうかしたの。元気ないじゃない」

 二段ベッドの下段で、寝転んで雑誌を読んでいた、これまたルームメイトの西浦先輩が、心配そうに声をかけてくれる。

「あ、大丈夫っす。数学、全然わかんねえなって思って」
「そうなんだ。よかったら、教えようか?」
「西浦、甘やかすんじゃねえ。こいつ、赤点五回目だぞ。やる気がねえんだ、やる気が」
「いや、ははは」

 笑うしかねえ。昨日、わざわざ佐賀先輩に見てもらったのに赤点だったからな。さすがの俺も、ばつが悪い。

「佐賀。その言い方、厳しくない?」

 西浦先輩が、キュッと眉根を寄せた。その反応に、佐賀先輩の米神もぴくっとしたのを見て、俺は焦った。

「あっ、あの! 俺、ちょっとノート買いに行こうかと! ついでに何か買ってきますよ?!」

 素っ頓狂に叫ぶと、にらみ合っていた二人は同時に俺を見た。二人に、へらっと笑いかける。
 数瞬後、佐賀先輩は、ばりばりと頭を掻き、ため息を吐いた。西浦先輩も、いからせていた肩を下ろす。

「じゃ、パン買ってこいや。明日の朝飯の分」
「うす。西浦先輩は何かないすか?」
「おれは大丈夫かな。ありがとね」

 パン代を受け取って、俺は財布をポケットに突っ込んで部屋を出た。ドアを閉める直前、そっぽを向いている先輩たちの姿が見えて、あちゃーっとなる。
 二人は、俺のルームメイトで。
 揃って二年生で、序列は佐賀先輩が黄、西浦先輩が白らしい。俺より上だけど、関係なく接してくれる、いい人たちだ。
 でも、なんか二人は喧嘩ばっかなんだよな。なんでだろ。



 ところで、学生寮はでっかい。
 食堂も三つくらいあるし、24時間やってるコンビニもある。やべえよな。
 部屋数もすげえ多い。生徒が多いから、当然かもだけど。
 で、上の階に行くほど、序列が上の生徒が住んでるって聞いた。
 イノリも、一人で上の階にいるらしい。遊びに行けてねえから、どんな部屋かは知らんけど。
 上の階は、序列の関係で立ち入り禁止なんだよな。

「さて、ノートも買ったし。コロッケパンも買えたし」

 コンビニで目的を果たした俺は、衝動買いしたアメリカンドッグを携え、ロビーをうろついた。
 なんとなく、先輩たちがピリついてるとさ、部屋に戻りづれぇじゃん?
 手ごろな椅子に座って、アメドに噛り付いてると、ざわざわと出入り口が騒がしくなる。

「んっ?」

 帰寮してきた生徒ときたら、鳶尾たちだった。なんとなく、ピリピリしているみたいで、嫌な雰囲気だ。
 さりげなく場所を変えようとしたときには遅かった。

「あれ? なんか場違いな人が居るみたいだけど」

 よしときゃいいのに、鳶尾は俺を見つけて近寄ってきた。俺は、しぶしぶ振り返る。

「よお、鳶尾。今帰りか?」
「そんなの、黒のお前に聞く権利あると思う?」

 普通に社交辞令だよ! 
 俺は、頬がひきつった。鳶尾は、はんと鼻で笑った。

「みすぼらしいものを見て、嫌な気分になった。よくそんな恰好で、上位の方々も通るここにいられるね。神経を疑うよ」
「鳶尾くん、そりゃそうだよ。黒のくせに、学校辞めないくらいだもん」
「あはは、確かに。僕なら、恥ずかしくっていられないや」

 鳶尾と、お追従マン二人がハハハと笑い声をあげる。笑ってる方も、聞いてる方も楽しくねえ感じのやつ。

「いいだろ。俺は、これから頑張んだよ」
「はあ?」

 言い返すと、鳶尾が目を剥いた。お追従マン二人が、大げさに噴き出す。

「何を頑張るって言うわけ。黒の分際でする努力に、なんの価値があるの? そんなのは、無能な自分を慰めるだけの、現実逃避でしかないんだよ、バカが」

 まくしたてて、鳶尾はふんぞり返りながら俺の横を通り過ぎる。
 お追従マンがすれ違いざま、両側から突き飛ばしてくる。拍子に、アメリカンドッグが手から吹っ飛んだ。

「あっ!」
「汚い。掃除しとけよ」

 ハハハと例の笑い声を上げながら、鳶尾達は去っていった。
 俺は、かわいそうなアメリカンドッグを拾い上げ、拳を握る。
 あいつら、なんでこんなことすんだ? マジ、やべえ。

しおりを挟む
感想 14

あなたにおすすめの小説

【奨励賞】恋愛感情抹消魔法で元夫への恋を消去する

SKYTRICK
BL
☆11/28完結しました。 ☆第11回BL小説大賞奨励賞受賞しました。ありがとうございます! 冷酷大元帥×元娼夫の忘れられた夫 ——「また俺を好きになるって言ったのに、嘘つき」 元娼夫で現魔術師であるエディことサラは五年ぶりに祖国・ファルンに帰国した。しかし暫しの帰郷を味わう間も無く、直後、ファルン王国軍の大元帥であるロイ・オークランスの使者が元帥命令を掲げてサラの元へやってくる。 ロイ・オークランスの名を知らぬ者は世界でもそうそういない。魔族の血を引くロイは人間から畏怖を大いに集めながらも、大将として国防戦争に打ち勝ち、たった二十九歳で大元帥として全軍のトップに立っている。 その元帥命令の内容というのは、五年前に最愛の妻を亡くしたロイを、魔族への本能的な恐怖を感じないサラが慰めろというものだった。 ロイは妻であるリネ・オークランスを亡くし、悲しみに苛まれている。あまりの辛さで『奥様』に関する記憶すら忘却してしまったらしい。半ば強引にロイの元へ連れていかれるサラは、彼に己を『サラ』と名乗る。だが、 ——「失せろ。お前のような娼夫など必要としていない」 噂通り冷酷なロイの口からは罵詈雑言が放たれた。ロイは穢らわしい娼夫を睨みつけ去ってしまう。使者らは最愛の妻を亡くしたロイを憐れむばかりで、まるでサラの様子を気にしていない。 誰も、サラこそが五年前に亡くなった『奥様』であり、最愛のその人であるとは気付いていないようだった。 しかし、最大の問題は元夫に存在を忘れられていることではない。 サラが未だにロイを愛しているという事実だ。 仕方なく、『恋愛感情抹消魔法』を己にかけることにするサラだが——…… ☆描写はありませんが、受けがモブに抱かれている示唆はあります(男娼なので) ☆お読みくださりありがとうございます。良ければ感想などいただけるとパワーになります!

【短編】乙女ゲームの攻略対象者に転生した俺の、意外な結末。

桜月夜
BL
 前世で妹がハマってた乙女ゲームに転生したイリウスは、自分が前世の記憶を思い出したことを幼馴染みで専属騎士のディールに打ち明けた。そこから、なぜか婚約者に対する恋愛感情の有無を聞かれ……。  思い付いた話を一気に書いたので、不自然な箇所があるかもしれませんが、広い心でお読みください。

悪役令息の伴侶(予定)に転生しました

  *  
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、自らを反省しました。BLゲームの世界で推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑)

Hand to Heart 【全年齢版】

亨珈
BL
チームのいざこざに巻き込まれて怪我を負ってしまった和明は、その時助けてくれた人を探して全寮制の高校へ。そこで出会う同級生や先輩たちとの賑やかな毎日をコメディタッチで書いています。

幸せになりたかった話

幡谷ナツキ
BL
 このまま幸せでいたかった。  このまま幸せになりたかった。  このまま幸せにしたかった。  けれど、まあ、それと全部置いておいて。 「苦労もいつかは笑い話になるかもね」  そんな未来を想像して、一歩踏み出そうじゃないか。

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】

彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』 高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。 その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。 そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?

新しい道を歩み始めた貴方へ

mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。 そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。 その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。 あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。 あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……? ※沢山のお気に入り登録ありがとうございます。深く感謝申し上げます。

処理中です...