俺は魔法使いの息子らしい。

高穂もか

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第一部 決闘大会編

十話

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 寮の部屋で、俺は教科書を開いていた。
 つっても開いてるだけで、鉛筆もノートの上に放り出したまんまだ。

「は~~……」 

 やべえ。今日の決闘が目に焼き付いて、まるで集中出来ねえ。
 三年の藤川先輩と渡り合い、みごとに勝利をもぎ取ったイノリ。
 そう、俺の幼馴染はすげえ奴なんだ。一緒にいて、馬鹿笑いしてると忘れちまうけど。
 イケメンで、背が高くて、運動神経抜群で。そういや、助っ人で出た野球の試合で、レギュラーより冴えたプレーを見せたこともあったっけ。
 しかも、このスペックで、えばったりしねえ良い奴で。
 対する俺は、平凡の極み。
 スポーツは何でも好きだけど、万年補欠くんだし。とりえと言えば、頑丈なことくらい。バカだからか、風邪もひいたことねえの。
 考えてみりゃ、デコボコなんだな俺たちは。
 俺とイノリは、ずっと親友で。それを不思議に思ったことはなかったけど――。

「はあ~~~……」

 ぐーっと伸びをして天井を仰ぐと、ギシッと椅子の背もたれが鳴る。と、視界に、にゅっと顔が割り込んだ。

「うおっ!」
「うるっせーよ、吉村。ハアハアハアハア、犬かてめえはぁ」
「あっ、すんません先輩」

 いかつい顔で舌打ちするのは、ルームメイトの佐賀先輩だ。ランニングシャツとハーパン姿で、鍛えられたマッスルがお目見えしている。

「吉ちゃん、どうかしたの。元気ないじゃない」

 二段ベッドの下段で、寝転んで雑誌を読んでいた、これまたルームメイトの西浦先輩が、心配そうに声をかけてくれる。

「あ、大丈夫っす。数学、全然わかんねえなって思って」
「そうなんだ。よかったら、教えようか?」
「西浦、甘やかすんじゃねえ。こいつ、赤点五回目だぞ。やる気がねえんだ、やる気が」
「いや、ははは」

 笑うしかねえ。昨日、わざわざ佐賀先輩に見てもらったのに赤点だったからな。さすがの俺も、ばつが悪い。

「佐賀。その言い方、厳しくない?」

 西浦先輩が、キュッと眉根を寄せた。その反応に、佐賀先輩の米神もぴくっとしたのを見て、俺は焦った。

「あっ、あの! 俺、ちょっとノート買いに行こうかと! ついでに何か買ってきますよ?!」

 素っ頓狂に叫ぶと、にらみ合っていた二人は同時に俺を見た。二人に、へらっと笑いかける。
 数瞬後、佐賀先輩は、ばりばりと頭を掻き、ため息を吐いた。西浦先輩も、いからせていた肩を下ろす。

「じゃ、パン買ってこいや。明日の朝飯の分」
「うす。西浦先輩は何かないすか?」
「おれは大丈夫かな。ありがとね」

 パン代を受け取って、俺は財布をポケットに突っ込んで部屋を出た。ドアを閉める直前、そっぽを向いている先輩たちの姿が見えて、あちゃーっとなる。
 二人は、俺のルームメイトで。
 揃って二年生で、序列は佐賀先輩が黄、西浦先輩が白らしい。俺より上だけど、関係なく接してくれる、いい人たちだ。
 でも、なんか二人は喧嘩ばっかなんだよな。なんでだろ。



 ところで、学生寮はでっかい。
 食堂も三つくらいあるし、24時間やってるコンビニもある。やべえよな。
 部屋数もすげえ多い。生徒が多いから、当然かもだけど。
 で、上の階に行くほど、序列が上の生徒が住んでるって聞いた。
 イノリも、一人で上の階にいるらしい。遊びに行けてねえから、どんな部屋かは知らんけど。
 上の階は、序列の関係で立ち入り禁止なんだよな。

「さて、ノートも買ったし。コロッケパンも買えたし」

 コンビニで目的を果たした俺は、衝動買いしたアメリカンドッグを携え、ロビーをうろついた。
 なんとなく、先輩たちがピリついてるとさ、部屋に戻りづれぇじゃん?
 手ごろな椅子に座って、アメドに噛り付いてると、ざわざわと出入り口が騒がしくなる。

「んっ?」

 帰寮してきた生徒ときたら、鳶尾たちだった。なんとなく、ピリピリしているみたいで、嫌な雰囲気だ。
 さりげなく場所を変えようとしたときには遅かった。

「あれ? なんか場違いな人が居るみたいだけど」

 よしときゃいいのに、鳶尾は俺を見つけて近寄ってきた。俺は、しぶしぶ振り返る。

「よお、鳶尾。今帰りか?」
「そんなの、黒のお前に聞く権利あると思う?」

 普通に社交辞令だよ! 
 俺は、頬がひきつった。鳶尾は、はんと鼻で笑った。

「みすぼらしいものを見て、嫌な気分になった。よくそんな恰好で、上位の方々も通るここにいられるね。神経を疑うよ」
「鳶尾くん、そりゃそうだよ。黒のくせに、学校辞めないくらいだもん」
「あはは、確かに。僕なら、恥ずかしくっていられないや」

 鳶尾と、お追従マン二人がハハハと笑い声をあげる。笑ってる方も、聞いてる方も楽しくねえ感じのやつ。

「いいだろ。俺は、これから頑張んだよ」
「はあ?」

 言い返すと、鳶尾が目を剥いた。お追従マン二人が、大げさに噴き出す。

「何を頑張るって言うわけ。黒の分際でする努力に、なんの価値があるの? そんなのは、無能な自分を慰めるだけの、現実逃避でしかないんだよ、バカが」

 まくしたてて、鳶尾はふんぞり返りながら俺の横を通り過ぎる。
 お追従マンがすれ違いざま、両側から突き飛ばしてくる。拍子に、アメリカンドッグが手から吹っ飛んだ。

「あっ!」
「汚い。掃除しとけよ」

 ハハハと例の笑い声を上げながら、鳶尾達は去っていった。
 俺は、かわいそうなアメリカンドッグを拾い上げ、拳を握る。
 あいつら、なんでこんなことすんだ? マジ、やべえ。

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