俺は魔法使いの息子らしい。

高穂もか

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第一部 決闘大会編

六話

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 翌日、俺とイノリは転校の手続きの為に職員室に行った。
 転校って、そう簡単にできねえもんだと思ってたんだけど、担任とちょろっと話しておしまいだった。
 もしかして、おじさんが先に話をつけてくれたのかもしれない。

「ごめん、ガッチャン。一緒に全国目指すって言ってたのにさ」
「いいって、家の事情じゃ仕方ねえもん。気にすんなよな」

 俺はイノリといったん別れ、サッカー部に挨拶に行った。
 うちは、練習がすげーきつい分、部員の仲が良くってさ。転校することになったつったら、皆けっこう惜しんでくれた。

「寂しいけど、サッカー部の絆は永遠だぜ! みんな、トキにせんべつの寄せ書きしてやろう」
「吉村、足だけは速かったかったからなあ、惜しいよ。まあ、むこうでも頑張ってくれ」

 佐藤は、一年に音頭取って、俺の体操着を汚い字まみれにしてくれたし。顧問は、しみじみと俺の肩を叩いて、門出を祝ってくれた。

「みんな、サンキュー! 元気でな!」

 俺は、荷物と体操着を胸に抱え、頭を下げると部室を後にした。
 同じDFのよしみか、ガッチャンは、校門まで見送ってくれるつもりらしい。抱えていた荷物も半分持ってくれた。

「なあ、家の事情って大丈夫か? なんかあったら言えよな」

 校庭を歩きながら、ガッチャンが心配そうに言う。急に転校することになったのを、気にしてくれていたらしい。俺はじんとして、肩をぶつけた。

「ありがとなー。ガッチャンも、彼女出来たら言えよ」
「かあ~、そりゃ、いつになることか……! 誰だよ、サッカーしたらモテるなんつった奴!」

 ギャハハと馬鹿話をしながら歩いていると、遠くで黄色い声があがった。見れば、イノリが女の子たちに囲まれている。
 ガッチャンは、「うほっ」とゴリラみたいな声を出した。

「桜沢のやつ、相変わらずモテてんなあ。羨ましいぜっ」
「イノリ、生徒会長もやってっしなぁ」
「あ~~ね。つうかずりいよ、あんだけズボン下げてて、生徒会長できる奴なんて、あいつくらいじゃね?」
「なんだそりゃ」

 めそめそしているガッチャンの肩を叩いていると、当のイノリが俺たちに気づいたらしい。手を振りながら、駆け寄ってくる。

「トキちゃーん、待った?」
「彼女かよ。てかお前、荷物すごくね」
「えっ、これ? なんか、女子が餞別にってくれたー」

 イノリは、手紙やら食い物やらが入っている紙袋を二つ下げていた。今日いきなり、転校を知らせたってのに、女子ってすげえな。
 ガッチャンが、よりショックを受けたようで、俺に寄っかかる。

「くうっ、なんで桜沢ばっかり!」
「おー、泣くな泣くな」

 おいおいと泣くガッチャンを慰めていると、べりっと横から引き剥がされる。いつもの甘い匂いがする、イノリの腕に抱え込まれていた。
 びっくりして見上げると、イノリのイケメンがニコッとほほ笑んだ。

「トキちゃん、亜世パパが待ってると思うよぉ」
「あ、やべ! わり、ガッチャン。また連絡するわ」

 イノリに言われて、俺はハッとする。おじさんが、すでに校門に車を横付けして待ってくれているのだった。

「安田くん、それ、トキちゃんの荷物だよね? 俺、持つね。アリガトー」 
「あ、お、おう……」

 なんか、ぼうっとしているガッチャンに別れを告げ、俺とイノリは校門に向かった。
 なぜかイノリは、俺の荷物を持ちたがり、断ると不満そうにしていた。いや、ふつう自分より荷物が多い奴に持たせねえだろ?

「なあ、それにしても変だよなあ。一応、転入だってのに、試験もないなんてさ」
「そうだねえ。ともかく魔法使いなら、オッケーってことなのかも?」

 イノリが、こてんと首を傾けた。
 魔法学園とやらには、驚いたことに編入試験もなしに転校が決まった。
 ネットの入学案内に書かれてた電番にかけて、電話口で「行きたいんすけど」て言ったら、「良いですよ」て返ってきたかんじ。
 え、簡単すぎねって思った。まあ、テストだったら、受かる気しねえし、いんだけどさ。

「まー、俺はぁ。トキちゃんと一緒ならなんでもいいかなぁ」
「そおかあ? お前ってマジ呑気だよなあ」

 ニコニコ笑うイノリにつられて、俺も笑った。
 ぶっちゃけ、「魔法使いだ」とか言われたところで、まるで自覚が湧いてねえ。魔法なんて、使えたこともねえし。
 こんなんで、魔法学園とか行って、何とかなんのかよ? って半信半疑の部分もあったわけ。
 でも、俺はどうやら一人じゃねえし。案外、何とかなるかもなって思った。




 …………ころもありましたっ、と。

「吉村くん、きみふざけてんの? ちゃんとしてくれないと、単位あげられないよ?」
「すんません」

 転校して、一か月。
 俺は、見事に落ちこぼれていた。
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