いつでも僕の帰る場所

高穂もか

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最終章〜唯一の未来Ⅱ〜

三百三十九話

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 薄いカーテンを引いたばかりの窓からは、赤い夕陽が差し込んでくる。明るいのに、ほんのりと薄暗い居間で、ぼくと宏ちゃんは抱き合っていた。
 
「ああ……んぅ……っ」
「成……大丈夫か?」
「へい、き……」
 
 椅子に腰かけた宏ちゃんに跨って、ぼくは呻き声を漏らす。
 衣服も、下着もふり捨てて――ごはんを食べる椅子の上でなんて、結婚するまでは考えもしなかった。夕陽で薄黄色に染まる、裸の広い肩を、ぎゅっと抱きしめる。
 
「うんん……っ」
 
 熱いものの上に腰を落とすと……たっぷりと注がれた潤滑剤がぬるんで、太ももを伝いおちた。
 夫婦って、本当に思いもかけないタイミングで、はじまっちゃう。
 やから……寝室以外にも、こっそりと”そういう道具”を用意してるん。宏ちゃんは情熱的なアルファで、ぼくもまた……そんな彼の想いをすぐに、受け止めたいって願ってるから。
 
「あっ、ん……」
 
 胸の尖りを、舌ではじかれて、甘い声が漏れる。
 大きな手に腰を支えられながら、自らゆっくりと飲みこんでいくのは……宏ちゃんの前で、自涜してるみたい。背徳感と、快感で頭が煮えそう……
 
 ――はずかしい、けど……宏ちゃんに、喜んで欲しい……
 
 はじめての繋がり方に、少し怯えていると、逞しい腕が抱きしめてくれる。
 
「大丈夫だよ。俺に任せて、力をぬいて……」 
「んん……っ」
 
 涙に濡れた唇に、優しくキスされた。やわらかく唇を啄まれて、うっとりと息を吐くと……おなかの奥がきゅんと疼く。宏ちゃんを含んだところが、「もっと、もっと」ってざわめきだす。
 
 ――あ……入っちゃい、そう……
 
 リラックスした途端、腰が勝手に沈んでいく。――押しひらかれちゃう、と目を閉じる。信じられないほど、奥まで暴かれて……ぼくは、甲高い悲鳴を上げた。
 
「や……ああっ!」
 
 ぎゅうって、逞しい肩に力いっぱいしがみつく。おなかの奥がつきんと痛むほど、宏ちゃんを締め付けて……「うーうー」って、子どもみたいな泣き声をもらしてしまう。
 喉の奥まで、貫かれているみたい。
 すごく苦しいのに、快感のぜんぶに火が点いたみたいに、全身が燃え立っている。
 
「ひろちゃ……苦しい……」
「成、大丈夫だ。ゆっくり息を吐いて……」
「っ……ふー……」
 
 汗だくの背中を撫でられて、涙がほろほろと零れる。
 こういうときに優しくされると、ゼリーとか果物とかになったみたいに、心がぐずぐずにとろけた。――もう、どうにでもしてって、気もちになるん。
 
「宏ちゃん、だいすき……」
「俺もだよ。愛してる、成……」
 
 甘い声が囁いてくれる。
 胸の中がくすぐったくって、思いっきり愛しい夫の頭を抱きしめると、「うお」って驚いた声がした。艶やかな髪を巻く、つむじが可愛く見えて、キスをする。
 
「こ、こら」
「宏ちゃん……」
 
 宏ちゃんの髪に頬を埋めていると、腰を抱く腕に力がこもった。
 ぐい、と上に持ち上げられて、声が漏れる。
 
「あっ、やだぁ……動かさないで」 
「あんまり可愛いこと、するからだ」
「だって、好きやもん……」
「……お前はなあ~」
 
 宏ちゃんに「好き」って、いっぱい伝えたい気分なん。
 照れて、赤く染まった目尻にもキスすると、ぐうと唸り声が上がる。顎をすくわれ、唇に噛みつくようにキスされた。
 呼吸ごと食べられちゃうような、激しい愛撫。うっとりしていると……腰がぐっと衝きあがってきた。
 
「ふぁ……っ」
 
 眼前に、ぱっと火花が散る。
 浅く、深く揺らされて、ぼくはがっしりした首に抱きつく。……汗ばんだ浅黒い肌から上る、深い木々の香りを、胸いっぱいに吸い込んだ。
 青々とした葉の瑞々しさが、官能を揺さぶってくる。
 
 ――せつないよぅ……
 
 啜り泣くと、宏ちゃんが「苦しいか」って聞く。
 苦しくないのに、なんでか涙がとまらない。「ううん」って頭を振るたび、涙がはらはらと散った。身体を貫く快感に酔って、夫の熱い体にしがみつき、身悶えるしかない。
 
「あ……ああっ……!」
 
 忘我の瞬間……きつく抱きしめられる。ぼくも、宏ちゃんを抱きしめ返して……体の奥で熱い震えが起きるのを感じた。
 ぐしょぐしょに濡れた頬を、大きな手のひらで包まれる。
 
「成……好きだよ」
「ぼくも……」
 
 涙の筋を親指が辿り、温かな感触に目を閉じる。
 優しいキスを唇に受け、全身が安らぎに包まれるのを感じた。
 
 ――宏ちゃんが居てくれるから、何も怖くない……
 
 はなさないで。
 そう伝える代わりに、ぎゅっと腕に力を込めた。
 
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