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最終章〜唯一の未来Ⅱ〜
三百三十六話
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そして、土曜日の午後――
とあるビルの貸し切りフロアで、ぼくはお花と触れ合っていました。
「では、皆さん。楽しみましょうね!」
フラワーアレンジメントの講師の先生を招いての、少人数での体験授業なん。
ぼく以外の数名は、お義母さんのご友人やったよ。皆さん男性オメガで、アルファの番がいらっしゃるそうで――誕生会でお会いしたことのある人と、はじめましての人がいた。
「本日からお世話になります、野江成己です。よろしくお願いいたしますっ」
ちょっと緊張しながら、講義が始まる前にご挨拶して回ったら、「きみが叶夫さんとこの!」って温かく迎えて頂いたんよ。ほっとしたぁ……
「末っ子の宏章くんのお嫁さんでしょ。よろしくね」
「二十歳だっけ? うちの子と同級生だよ」
皆さん、新参のぼくにたくさん気遣ってくれはって、授業が始まるまでずっとお喋りしてくださったん。久しぶりに、顔なじみの人以外とたくさん話して、とっても新鮮な気持ちになっちゃった。
それぞれで作品を仕上げたあと、お茶の時間をして、美味しいケーキを頂いてね。先生の講評をゆっくりと伺ったん。
「先生、ありがとうございましたっ」
「成己さん、初めてなのにとてもお上手でしたよ。これからも続けていきましょうね」
「はいっ。よろしくお願いします」
初心者なので、道具の使い方から教えてもらって、ぼくも小さなアレンジを作りました! 秋らしいコスモスで、ふわふわと振れているのが、とっても可愛くてくすぐったい感じ。
こんなに素敵にできるなんて、先生が丁寧に教えてくれはったからやねえ。
――宏ちゃんに、いいお土産が出来ちゃった……!
快く送り出してくれた、夫の顔を浮かべ――頬が緩んだ。綺麗なお花を見ると、大切な人の顔が浮かぶ気がする。
最後に、お花の前で記念撮影をして、先生をお見送りしたあと――全員でお教室を後にしたん。
お義母さんは、一室を借りている責任者で。フロントに鍵を返しに行かなあかんそうで、ぼくもご一緒することにした。
「叶夫さん、楽しかったよ。お嫁さんに会わせてくれて、ありがとう」
「次も楽しみにしてる」
「ありがとう! じゃあ、次回の予定はまた送るよー」
皆さんも、素敵なお花を抱えて、軽やかな足取りで帰っていかはった。
ぼくも、胸がふわふわするような余韻に浸っていると――半歩前を歩いていたお義母さんが、振り返った。
「成くん、楽しかったかい?」
わくわくした顔に、ぼくは何度も頷く。
「はい、とっても! お義母さん、誘って下さってありがとうございましたっ」
「良かったねえ。喜んでもらえて嬉しいよ」
お義母さんは、うんうんと頷いてはる。
「やっぱり、外出して、人に会わないとね。ずっと家にいると、気が滅入っちゃうでしょう」
「えへへ……」
「あ。そのお花、持たせようか?」
手に持っているお花を気にしてくれはったみたい。ちなみにお義母さんは、すごく大きな作品なので、護衛の人が運んではる。
お気遣いが温かくて、ぼくはにっこりする。
「大丈夫ですっ。小さいのなので……」
きゅ、と器を抱きしめる。お義母さんは「宏のこと、好きなんだねぇ」って苦笑した。
宏ちゃんへのプレゼントって、とっくにバレてたみたい。
フロントに着き、鍵を返却する。
お義母さんは、ついでに「次の予約」の手続きをなさるそうや。
「ぼく、あそこの大きなお花を見てきていいですか?」
「はいはい、行っといで」
ぼくは、手元を覗き込むのも失礼なので、そっと離れた。
そのときやった。
「――!」
エレベーターホールから、ヒールを踵で打ち鳴らすような、猛々しい足音が近づいて来た。間もなく姿を見せたのは、見惚れるほどに綺麗な女の人。
――お義母さん……?
知らず、息を飲む。すると、あちらもぼくに気づいたみたい。
「あなた……!」
ぼくは、鋭い声音にギクリとして、その場に棒立ちになってしまった。
でも、まさか。陽平のお母さんと、会うなんて……!
とあるビルの貸し切りフロアで、ぼくはお花と触れ合っていました。
「では、皆さん。楽しみましょうね!」
フラワーアレンジメントの講師の先生を招いての、少人数での体験授業なん。
ぼく以外の数名は、お義母さんのご友人やったよ。皆さん男性オメガで、アルファの番がいらっしゃるそうで――誕生会でお会いしたことのある人と、はじめましての人がいた。
「本日からお世話になります、野江成己です。よろしくお願いいたしますっ」
ちょっと緊張しながら、講義が始まる前にご挨拶して回ったら、「きみが叶夫さんとこの!」って温かく迎えて頂いたんよ。ほっとしたぁ……
「末っ子の宏章くんのお嫁さんでしょ。よろしくね」
「二十歳だっけ? うちの子と同級生だよ」
皆さん、新参のぼくにたくさん気遣ってくれはって、授業が始まるまでずっとお喋りしてくださったん。久しぶりに、顔なじみの人以外とたくさん話して、とっても新鮮な気持ちになっちゃった。
それぞれで作品を仕上げたあと、お茶の時間をして、美味しいケーキを頂いてね。先生の講評をゆっくりと伺ったん。
「先生、ありがとうございましたっ」
「成己さん、初めてなのにとてもお上手でしたよ。これからも続けていきましょうね」
「はいっ。よろしくお願いします」
初心者なので、道具の使い方から教えてもらって、ぼくも小さなアレンジを作りました! 秋らしいコスモスで、ふわふわと振れているのが、とっても可愛くてくすぐったい感じ。
こんなに素敵にできるなんて、先生が丁寧に教えてくれはったからやねえ。
――宏ちゃんに、いいお土産が出来ちゃった……!
快く送り出してくれた、夫の顔を浮かべ――頬が緩んだ。綺麗なお花を見ると、大切な人の顔が浮かぶ気がする。
最後に、お花の前で記念撮影をして、先生をお見送りしたあと――全員でお教室を後にしたん。
お義母さんは、一室を借りている責任者で。フロントに鍵を返しに行かなあかんそうで、ぼくもご一緒することにした。
「叶夫さん、楽しかったよ。お嫁さんに会わせてくれて、ありがとう」
「次も楽しみにしてる」
「ありがとう! じゃあ、次回の予定はまた送るよー」
皆さんも、素敵なお花を抱えて、軽やかな足取りで帰っていかはった。
ぼくも、胸がふわふわするような余韻に浸っていると――半歩前を歩いていたお義母さんが、振り返った。
「成くん、楽しかったかい?」
わくわくした顔に、ぼくは何度も頷く。
「はい、とっても! お義母さん、誘って下さってありがとうございましたっ」
「良かったねえ。喜んでもらえて嬉しいよ」
お義母さんは、うんうんと頷いてはる。
「やっぱり、外出して、人に会わないとね。ずっと家にいると、気が滅入っちゃうでしょう」
「えへへ……」
「あ。そのお花、持たせようか?」
手に持っているお花を気にしてくれはったみたい。ちなみにお義母さんは、すごく大きな作品なので、護衛の人が運んではる。
お気遣いが温かくて、ぼくはにっこりする。
「大丈夫ですっ。小さいのなので……」
きゅ、と器を抱きしめる。お義母さんは「宏のこと、好きなんだねぇ」って苦笑した。
宏ちゃんへのプレゼントって、とっくにバレてたみたい。
フロントに着き、鍵を返却する。
お義母さんは、ついでに「次の予約」の手続きをなさるそうや。
「ぼく、あそこの大きなお花を見てきていいですか?」
「はいはい、行っといで」
ぼくは、手元を覗き込むのも失礼なので、そっと離れた。
そのときやった。
「――!」
エレベーターホールから、ヒールを踵で打ち鳴らすような、猛々しい足音が近づいて来た。間もなく姿を見せたのは、見惚れるほどに綺麗な女の人。
――お義母さん……?
知らず、息を飲む。すると、あちらもぼくに気づいたみたい。
「あなた……!」
ぼくは、鋭い声音にギクリとして、その場に棒立ちになってしまった。
でも、まさか。陽平のお母さんと、会うなんて……!
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