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最終章〜唯一の未来Ⅱ〜
三百三十一話【SIDE:朝匡】
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野江家への滞在の礼として、宏章が他人行儀にメロンを送ってよこしてきたと思っていたが。俺に隠れて、こんなやりとりもあったのかと思うと、胸が嫉妬にちりついた。
「こないだ来てくれた時、陣中見舞いに持ってきてくれたんだ。もう食べたけど、甘くて美味いぞ」
「はあ? 考えなしに食うな!」
「んだよ! 成己がくれたもんだから、いいだろ!」
つい怒鳴ってしまえば、ご満悦だった顔が曇る。そうなると、必然こっちだって罪悪感を抱いてしまう。
――クソ。弱いな……
頭を振り、気分を切り替える。
確かに――この頃は、「他人に貰ったものを考えなしに食うな」と注意し続けた成果か、少しは意識の改革は見られるようになってきた(なにせ、見知らぬ他人から渡された茶を、笑顔で飲んでいた奴だ)。
だというのに、こんなアホな振る舞いをするのは……それほど、彼を信頼しているということか。
俺は、綾人に問う。
「お前は……本当に、成己さんを信頼しているんだな?」
「それ、さっきも言ったし」
ぐっと詰まる。確かに、さっきも肯定されたばかりだが。
「成己さんは、お前とは会わないと言った。つまりは……お前じゃなくて、宏章を取ったんだぞ?」
わからない綾人に、言葉を重ねる。
友人の綾人ではなく、彼の夫の気持ちを優先したからこその「距離を置く」という選択なのだ。謝罪は、友人として最後の筋を通しに来ただけだ。
「お前は、本当に良いのか?」
綾人は目を丸くし、手をひらひらと振った。
「いや……ダチってことに、変わりは無えもん。会わないだけで、電話もしてるしさ? それだって、オレが気持ちを入れ替えれば、宏章さんも許してくれると思ってるし」
「そんなこと、叶うか? 宏章は、昔から勝手な奴だからな……お前が改めたところで、取り消すつもりはないかもしれんぞ」
「それは……」
そう詰めよれば、綾人の顔が不安に翳る。
あいつは――宏章と言う奴は、昔からそうだ。自分のしたいように振舞って、誰にもはばからない。
仕事や妻、ちょっとした菓子を選ぶときでさえ、ひとりで勝手に決めていた。
『本当に、宏はマイペースだね。お兄ちゃん、よく見てあげて』
『……ああ、わかったよ』
後継として厳しく育てられた俺と違い、甘やかされて育ったせいかも知れない。
我がままなのだ。
「あまり宏章を信用するな」
「……そんな事ねーし。ヤなことばっか言うなよな!」
綾人は、席を蹴るように立ち上がった。急須を掠めるように取り、キッチンへと歩いていく。
俺は、ふと紙袋を眺める。――手作りで、心の籠ったメッセージが書かれている。これを見れば、作り手は細やかで暖かい人なのだろう、と大半の者が思うだろう。
だが、それだけだ。
――通りすがりの優しさは、ときに残酷だぞ。募った期待の分、傷つくのは綾人だ。
俺は、手の甲で包みを遠ざけた。
すると、多過ぎる茶葉で蓋の上がった急須を持って、綾人が戻ってくる。
「朝匡も飲め。いれたてだぞ」
「……ああ」
不機嫌を流しに溶かしてきたように、からりと笑っている。大方、単純で、馬鹿だが――可愛い、と思わなくもないのだ。
俺はまた、渋くて飲めたもんじゃない茶に口をつけた。
――仕方ない……俺がなんとかしてやろう。まずは、あの人に相談してからだ。
俺は、苦すぎる茶を飲み干し、頭の中で算段をつけ始めた。
「こないだ来てくれた時、陣中見舞いに持ってきてくれたんだ。もう食べたけど、甘くて美味いぞ」
「はあ? 考えなしに食うな!」
「んだよ! 成己がくれたもんだから、いいだろ!」
つい怒鳴ってしまえば、ご満悦だった顔が曇る。そうなると、必然こっちだって罪悪感を抱いてしまう。
――クソ。弱いな……
頭を振り、気分を切り替える。
確かに――この頃は、「他人に貰ったものを考えなしに食うな」と注意し続けた成果か、少しは意識の改革は見られるようになってきた(なにせ、見知らぬ他人から渡された茶を、笑顔で飲んでいた奴だ)。
だというのに、こんなアホな振る舞いをするのは……それほど、彼を信頼しているということか。
俺は、綾人に問う。
「お前は……本当に、成己さんを信頼しているんだな?」
「それ、さっきも言ったし」
ぐっと詰まる。確かに、さっきも肯定されたばかりだが。
「成己さんは、お前とは会わないと言った。つまりは……お前じゃなくて、宏章を取ったんだぞ?」
わからない綾人に、言葉を重ねる。
友人の綾人ではなく、彼の夫の気持ちを優先したからこその「距離を置く」という選択なのだ。謝罪は、友人として最後の筋を通しに来ただけだ。
「お前は、本当に良いのか?」
綾人は目を丸くし、手をひらひらと振った。
「いや……ダチってことに、変わりは無えもん。会わないだけで、電話もしてるしさ? それだって、オレが気持ちを入れ替えれば、宏章さんも許してくれると思ってるし」
「そんなこと、叶うか? 宏章は、昔から勝手な奴だからな……お前が改めたところで、取り消すつもりはないかもしれんぞ」
「それは……」
そう詰めよれば、綾人の顔が不安に翳る。
あいつは――宏章と言う奴は、昔からそうだ。自分のしたいように振舞って、誰にもはばからない。
仕事や妻、ちょっとした菓子を選ぶときでさえ、ひとりで勝手に決めていた。
『本当に、宏はマイペースだね。お兄ちゃん、よく見てあげて』
『……ああ、わかったよ』
後継として厳しく育てられた俺と違い、甘やかされて育ったせいかも知れない。
我がままなのだ。
「あまり宏章を信用するな」
「……そんな事ねーし。ヤなことばっか言うなよな!」
綾人は、席を蹴るように立ち上がった。急須を掠めるように取り、キッチンへと歩いていく。
俺は、ふと紙袋を眺める。――手作りで、心の籠ったメッセージが書かれている。これを見れば、作り手は細やかで暖かい人なのだろう、と大半の者が思うだろう。
だが、それだけだ。
――通りすがりの優しさは、ときに残酷だぞ。募った期待の分、傷つくのは綾人だ。
俺は、手の甲で包みを遠ざけた。
すると、多過ぎる茶葉で蓋の上がった急須を持って、綾人が戻ってくる。
「朝匡も飲め。いれたてだぞ」
「……ああ」
不機嫌を流しに溶かしてきたように、からりと笑っている。大方、単純で、馬鹿だが――可愛い、と思わなくもないのだ。
俺はまた、渋くて飲めたもんじゃない茶に口をつけた。
――仕方ない……俺がなんとかしてやろう。まずは、あの人に相談してからだ。
俺は、苦すぎる茶を飲み干し、頭の中で算段をつけ始めた。
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