いつでも僕の帰る場所

高穂もか

文字の大きさ
上 下
328 / 403
最終章〜唯一の未来Ⅱ〜

三百二十七話

しおりを挟む
 ぼくは濡れたまま寝室に運ばれて、シーツに横たえられた。
 
「宏ちゃん、お布団が……」
「替えがあるよ。明日、俺が洗濯しとくから……」
 
 宏ちゃんはあっさり言うと、ぼくの唇を塞いだ。
 ほんまに気にしたわけじゃなくって、性急さに照れただけやって気づいてるみたい。深くなるキスにうっとりしながら、逞しい首に腕を絡ませた。
 濡れてしっとりした肌は、いつもよりソープの香りが強い。また、お風呂に入るときに、愛されたことを思い出してしまいそう……なんて、恥ずかしいことを思いながら、やさしい愛撫に息を乱す。
 
「……んっ」
 
 ぴり、と疼くような痛みの後に、胸に新しい花が咲く。
 
 ――あ、この前のが消えてないのに……
 
 嬉しくて、唇がほころんだ。宏ちゃんが、舌で胸の先端を潰しながら、上目に問いかける。
 
「どうしたんだ?」
「あっ……ん……あ、痕がいっぱいで……」
 
 快感に震えながら、何とか伝えると、宏ちゃんは照れたように笑う。
 
「俺のもの、って思ったらな……成が困るなら、控えようか」
「いやっ……困らへん。たくさんして……」
 
 ぼくは、ぎゅって夫の頭を抱く。
 
「そりゃ、検査の日は、ちょっと恥ずかしいけど……嬉しいん。宏ちゃんが、いっぱいしてくれるの、思い出せるから……」
 
 愛された次の日にね、鏡で見るん。いつもと変わらへん、ちっぽけな体やけど……たくさんの花びらに彩られていると、なんだか素敵に思えるん。
 そう伝えると、宏ちゃんはぐうと唸った。
 
「成……!」
「んんっ!」
 
 ばふ、とベッドに押し付けられて、激しく唇を奪われる。熱い舌で、ねっとりと上あごを撫でられて、「う~」と甘えきった呻き声が漏れる。舌が泳ぎそうなほど、たっぷりと唾液が溢れて、口端から伝っていく。
 
「……ふぁ」
 
 お互いの唇を銀の糸が繋ぐ。ぽうっとしながら、灰色に光る宏ちゃんの瞳を見上げていると……両手を取られ、シーツに縫い付けられる。
 
「えっ……ひゃんっ」
 
 無防備な胸の真ん中に、宏ちゃんが顔を伏せた。ちゅう、と強く吸われて、肩が弾む。
 
「あ……」
「綺麗だ」
 
 胸の真ん中……心臓の上に、ひと際鮮やかな赤が咲いていた。
 すごく綺麗――どきどきと胸を高鳴らせていると、宏ちゃんが指先で痕を撫でる。
 
「俺のだって、忘れるなよ」
 
 熱い声で囁かれて、お腹がきゅうと痛むほど、感じてしまった。
 
 
 

 
 
「あっ……んん……」
 
 仰向けのぼくの上に、宏ちゃんが覆いかぶさってくる。……両腿を逞しい腕に抱えこまれ、ゆっくりとふたつの体が繋がっていく。
 
「成……ゆっくり息を吐いて」
「うんっ……はぅ……」
 
 もう、幾度も夜を過ごしたのに、このときは変わらず苦しい。強張った頬に伝う涙を、熱い唇が拭ってくれる。
 
「好きだよ、成……」 
「宏ちゃ、すき……ああッ」
 
 それでも……この先に、たくさんの喜びがあるって知ってるから。
 シーツにしがみついて、宏ちゃんが深くに達するのを、待つ。

――熱い。苦しい…………気持ちいい。

 浅黒い肌から感じる森の香りを嗅ぐと、苦しさが和らぐ。快感と、苦しさがないまぜで……熱い杭に打たれるような衝撃に、涙がどっと溢れた。
 
「ああっ……!」
 
 しっかりと結ばれた瞬間、腰の奥がざわざわ……と甘い電流を放つ。ぼくは、宏ちゃんの腕の中で叫んだ。

「いやぁ……あああんっ!」

 あんまりにも砕けて、とろとろの声が迸る。恥ずかしいって感じる余裕も無くて、必死に逞しい背に縋り付いた。

「成……っ、ああ、凄いな……」
「んっ……ふぁあ」

 息を詰めた宏ちゃんに、頭を抱え込まれる。恋しい人の切ない声に、彼を包んだところを……きゅう、と締め付けてしまう。

「宏ちゃん。宏ちゃ……」
「成……」

 抱きつくと、宏ちゃんはたくさんキスしてくれる。――内側を炙るような熱とうらはらの、優しいキス。安心して、身を任せていると……お腹の奥が、甘く疼き出す。

「あっ……」

 天井を向いたつま先が、きゅうと丸まってしまう。――泣きたくなるほど切ない、甘い衝動。

――宏ちゃん、好き……!

 救いを求めて、愛おしい夫に縋り付く。
 宏ちゃんが、低く囁いた。

「成……動くよ」
「うん……!」

 ゆっくりと、宏ちゃんが動き出す。ゆらゆら、揺り籠に揺られるみたいに、優しい。

「んくぅ……ふっ……」
「……大丈夫か。苦しくない?」

 こくこくと頷く。痛くない。それどころか……少しでも腰を引かれると、気持ちよくて声が溢れた。

「あっ、あっ……」
「成、かわいい……」
「あんっ」

 宏ちゃんの動きに合わせて、高く上がったお尻が弾んじゃう。

――恥ずかしいのに……声も、体も止まらない……

 ぎゅっと抱きしめられて、揺さぶられていると……次第に頭が真っ白になってく。

「いっちゃう……」

 唇を噛み締めて、懸命に意識を繋ごうとする。けれど、当の宏ちゃんは、ぼくを抱きしめたまま甘やかす。

「愛してるよ……」

 宏ちゃんに、脚をこれ以上なく押し開かれる。もっと深くまで暴かれ、耐えきれない。

「ああ……っ」

 夫にきつくしがみついて、果ててしまう。
 同時に、思い切り縋り付いたぼくの中で、宏ちゃんが熱を吐き出す。

「成……!」

 一番奥で、熱い迸りを受け止めながら……意識を失った。
 


 

  

しおりを挟む
感想 213

あなたにおすすめの小説

君への気持ちが冷めたと夫から言われたので家出をしたら、知らぬ間に懸賞金が掛けられていました

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【え? これってまさか私のこと?】 ソフィア・ヴァイロンは貧しい子爵家の令嬢だった。町の小さな雑貨店で働き、常連の男性客に密かに恋心を抱いていたある日のこと。父親から借金返済の為に結婚話を持ち掛けられる。断ることが出来ず、諦めて見合いをしようとした矢先、別の相手から結婚を申し込まれた。その相手こそ彼女が密かに思いを寄せていた青年だった。そこでソフィアは喜んで受け入れたのだが、望んでいたような結婚生活では無かった。そんなある日、「君への気持ちが冷めたと」と夫から告げられる。ショックを受けたソフィアは家出をして行方をくらませたのだが、夫から懸賞金を掛けられていたことを知る―― ※他サイトでも投稿中

オメガの復讐

riiko
BL
幸せな結婚式、二人のこれからを祝福するかのように参列者からは祝いの声。 しかしこの結婚式にはとてつもない野望が隠されていた。 とっても短いお話ですが、物語お楽しみいただけたら幸いです☆

【完結】可愛いあの子は番にされて、もうオレの手は届かない

天田れおぽん
BL
劣性アルファであるオズワルドは、劣性オメガの幼馴染リアンを伴侶に娶りたいと考えていた。 ある日、仕えている王太子から名前も知らないオメガのうなじを噛んだと告白される。 運命の番と王太子の言う相手が落としていったという髪飾りに、オズワルドは見覚えがあった―――― ※他サイトにも掲載中 ★⌒*+*⌒★ ☆宣伝☆ ★⌒*+*⌒★  「婚約破棄された不遇令嬢ですが、イケオジ辺境伯と幸せになります!」  が、レジーナブックスさまより発売中です。  どうぞよろしくお願いいたします。m(_ _)m

【完結】幼馴染と恋人は別だと言われました

迦陵 れん
恋愛
「幼馴染みは良いぞ。あんなに便利で使いやすいものはない」  大好きだった幼馴染の彼が、友人にそう言っているのを聞いてしまった。  毎日一緒に通学して、お弁当も欠かさず作ってあげていたのに。  幼馴染と恋人は別なのだとも言っていた。  そして、ある日突然、私は全てを奪われた。  幼馴染としての役割まで奪われたら、私はどうしたらいいの?    サクッと終わる短編を目指しました。  内容的に薄い部分があるかもしれませんが、短く纏めることを重視したので、物足りなかったらすみませんm(_ _)m    

拝啓、許婚様。私は貴方のことが大嫌いでした

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【ある日僕の元に許婚から恋文ではなく、婚約破棄の手紙が届けられた】 僕には子供の頃から決められている許婚がいた。けれどお互い特に相手のことが好きと言うわけでもなく、月に2度の『デート』と言う名目の顔合わせをするだけの間柄だった。そんなある日僕の元に許婚から手紙が届いた。そこに記されていた内容は婚約破棄を告げる内容だった。あまりにも理不尽な内容に不服を抱いた僕は、逆に彼女を遣り込める計画を立てて許婚の元へ向かった――。 ※他サイトでも投稿中

悪役令息の伴侶(予定)に転生しました

  *  
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、自らを反省しました。BLゲームの世界で推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑)

【完結】捨ててください

仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
ずっと貴方の側にいた。 でも、あの人と再会してから貴方は私ではなく、あの人を見つめるようになった。 分かっている。 貴方は私の事を愛していない。 私は貴方の側にいるだけで良かったのに。 貴方が、あの人の側へ行きたいと悩んでいる事が私に伝わってくる。 もういいの。 ありがとう貴方。 もう私の事は、、、 捨ててください。 続編投稿しました。 初回完結6月25日 第2回目完結7月18日

わたしは夫のことを、愛していないのかもしれない

鈴宮(すずみや)
恋愛
 孤児院出身のアルマは、一年前、幼馴染のヴェルナーと夫婦になった。明るくて優しいヴェルナーは、日々アルマに愛を囁き、彼女のことをとても大事にしている。  しかしアルマは、ある日を境に、ヴェルナーから甘ったるい香りが漂うことに気づく。  その香りは、彼女が勤める診療所の、とある患者と同じもので――――?

処理中です...