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最終章〜唯一の未来Ⅱ〜
三百二十四話
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晩ごはんのお片づけを終えて、静かな夜の時間。
宏ちゃんは、書斎でお仕事をしていて、ぼくは自室でテレビ通話の真っ最中です。
『ああ、ここで公式間違えたのか……なるほど!』
スマホの画面のなかでは、綾人がわしわしと髪をかき回してる。
「ほかは、大丈夫?」
『おう。サンキュー成己! 勉強教えてくれて』
「何言うてるん。これくらい当たり前っ」
『成己~!』
胸をどんと叩いて請け合えば、綾人が破顔した。お部屋に、ふたり分の笑い声がさざめく。
『てかマジで、ちょっとずつ点数も上がってっから。今年は受かっちゃうかも知んねーぜ』
「おお。やったね、綾人!」
『ワハハ』
スマホ越しの、綾人の屈託のない笑みを見て……ぼくは、しみじみ思う。
――綾人と仲直りできて、よかった。
あのね。お兄さんに綾人のことを聞いてから、ずっと思ってたん。
ちゃんと綾人に謝りたい、って。
――『受験に専念したいからさ!』
辛かったに違いないのに、ぼくを気遣って、明るく振る舞ってくれた綾人。どうしても、「辛い思いをさせて、ごめんね」って伝えたかったん。
それに、宏ちゃんのことも……
――『これ以上、成が危険な目に遭うのが、耐えられなかった』
宏ちゃんが、ぼくに黙って綾人を遠ざけたのは……ぼくのため。
ぼくが不甲斐ないせいで、優しい宏ちゃんに、そんなことをさせてしまった。
宏ちゃんのことを信じてって、お兄さんにえらそうに言ったけど。悪いのは自分やんって、すごく恥ずかしくて……悔しかったんよ。
――宏ちゃん、綾人。ごめんなさい。
それで、宏ちゃんにね。「綾人に謝りに行きたい」ってお願いして、綾人の家へ連れて行って貰ったん。
お兄さんはちょうどご在宅やなくて、綾人と二人で話せたよ。佐藤さんに、お部屋の前まで案内してもらって……ドア越しにやけれどね。
『ごめんね、綾人。気づけなくて……辛い思いをさせて』
『……成己のせいじゃねえよ! オレこそごめん』
『ううん! ぼくが、ちゃんとしていれば』
『違げーよ! オレがオタンコナスで』
ぼく達は、お互いに競うように謝りあって……次第に笑ってしまってた。
『まあ、あれだ。これから、ちゃんとしたら良いんだよな』
『うん……そうやね』
そんな感じで、「これからもよろしくね」って、仲直り出来たんよ。
「ふふ」
仲直りした日のことを思い出していたら、綾人が怪訝そうに首を傾げる。
『どったん? 成己。ニヤニヤしてんぞ』
「えへ。何でもないよっ」
『ほーう。どうせ、宏章さんのことでも考えてたんだろ?』
画面越しにビシッと指を突きつけられ、頬が赤らんだ。
『マジでラブラブだよなあ。さっすが新婚』
「もう。綾人ってば」
綾人ってば、目が半月みたい。ニヨニヨした笑顔に見つめられ、ぼくはうろたえた。
「ぼくって、そんなにニヤけてるかな?」
『って言うより、幸せそうだな。今までも、ニコニコしてたけど……なんか、フワってしてるつーかさあ……?』
綾人は不意に言葉を止め、あたりをきょろりと見回した。
『おっと、朝匡のやつ、帰ってきやがった! 悪い、また連絡するなっ』
「あ……うん! またね」
頷いた途端、「ただいま」ってお兄さんの声が聞こえてきて……ぷつんって、通信が絶えた。
ぼくは、鏡に立てかけていたスマホを取り、アプリを落とす。
「綾人、大丈夫やったかな?」
お兄さんに、見とがめられてないと良いんですが。
友達を案じていると、ぼくの方もドアがノックされた。
「はいっ!」
「成。今いいか?」
慌てて出ると、もちろん宏ちゃんやった。
宏ちゃんは、書斎でお仕事をしていて、ぼくは自室でテレビ通話の真っ最中です。
『ああ、ここで公式間違えたのか……なるほど!』
スマホの画面のなかでは、綾人がわしわしと髪をかき回してる。
「ほかは、大丈夫?」
『おう。サンキュー成己! 勉強教えてくれて』
「何言うてるん。これくらい当たり前っ」
『成己~!』
胸をどんと叩いて請け合えば、綾人が破顔した。お部屋に、ふたり分の笑い声がさざめく。
『てかマジで、ちょっとずつ点数も上がってっから。今年は受かっちゃうかも知んねーぜ』
「おお。やったね、綾人!」
『ワハハ』
スマホ越しの、綾人の屈託のない笑みを見て……ぼくは、しみじみ思う。
――綾人と仲直りできて、よかった。
あのね。お兄さんに綾人のことを聞いてから、ずっと思ってたん。
ちゃんと綾人に謝りたい、って。
――『受験に専念したいからさ!』
辛かったに違いないのに、ぼくを気遣って、明るく振る舞ってくれた綾人。どうしても、「辛い思いをさせて、ごめんね」って伝えたかったん。
それに、宏ちゃんのことも……
――『これ以上、成が危険な目に遭うのが、耐えられなかった』
宏ちゃんが、ぼくに黙って綾人を遠ざけたのは……ぼくのため。
ぼくが不甲斐ないせいで、優しい宏ちゃんに、そんなことをさせてしまった。
宏ちゃんのことを信じてって、お兄さんにえらそうに言ったけど。悪いのは自分やんって、すごく恥ずかしくて……悔しかったんよ。
――宏ちゃん、綾人。ごめんなさい。
それで、宏ちゃんにね。「綾人に謝りに行きたい」ってお願いして、綾人の家へ連れて行って貰ったん。
お兄さんはちょうどご在宅やなくて、綾人と二人で話せたよ。佐藤さんに、お部屋の前まで案内してもらって……ドア越しにやけれどね。
『ごめんね、綾人。気づけなくて……辛い思いをさせて』
『……成己のせいじゃねえよ! オレこそごめん』
『ううん! ぼくが、ちゃんとしていれば』
『違げーよ! オレがオタンコナスで』
ぼく達は、お互いに競うように謝りあって……次第に笑ってしまってた。
『まあ、あれだ。これから、ちゃんとしたら良いんだよな』
『うん……そうやね』
そんな感じで、「これからもよろしくね」って、仲直り出来たんよ。
「ふふ」
仲直りした日のことを思い出していたら、綾人が怪訝そうに首を傾げる。
『どったん? 成己。ニヤニヤしてんぞ』
「えへ。何でもないよっ」
『ほーう。どうせ、宏章さんのことでも考えてたんだろ?』
画面越しにビシッと指を突きつけられ、頬が赤らんだ。
『マジでラブラブだよなあ。さっすが新婚』
「もう。綾人ってば」
綾人ってば、目が半月みたい。ニヨニヨした笑顔に見つめられ、ぼくはうろたえた。
「ぼくって、そんなにニヤけてるかな?」
『って言うより、幸せそうだな。今までも、ニコニコしてたけど……なんか、フワってしてるつーかさあ……?』
綾人は不意に言葉を止め、あたりをきょろりと見回した。
『おっと、朝匡のやつ、帰ってきやがった! 悪い、また連絡するなっ』
「あ……うん! またね」
頷いた途端、「ただいま」ってお兄さんの声が聞こえてきて……ぷつんって、通信が絶えた。
ぼくは、鏡に立てかけていたスマホを取り、アプリを落とす。
「綾人、大丈夫やったかな?」
お兄さんに、見とがめられてないと良いんですが。
友達を案じていると、ぼくの方もドアがノックされた。
「はいっ!」
「成。今いいか?」
慌てて出ると、もちろん宏ちゃんやった。
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