いつでも僕の帰る場所

高穂もか

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最終章〜唯一の未来Ⅱ〜

三百二十三話

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「いらっしゃいませ!」

 お客様に、笑顔でご挨拶する。

「やあ、成ちゃん」
「杉田さん、こんにちはっ。いつものお席、空いてます」
「おお、ありがとねえ」

 常連の杉田さんは、カウンターの隅っこにいそいそと向かわはる。行きがけに、仲良しのお客様の肩を叩いてくのも忘れへん。

「成、あがったよ」
「はい、店長。ただいま!」

 宏ちゃんの声に、ぼくは笑顔で振り返る。 
 シャッターの修理も済んで、お店が再開してからというもの、うさぎやは連日繁盛しています。

「お待たせしました、いちじくのパンケーキです」
「わっ、ありがとう!」

 ご注文のパンケーキをサーブすると、友菜さんが明るい声を上げはった。
 ほかほかのケーキにクリームをたっぷりつけて頬張ったとたん、満面の笑みが浮かぶ。

「やば。美味しすぎ!」
「ありがとうございますっ」

 ぼくもお盆を抱え、にこにこする。――友菜さんと芽実さんは、すっかりお店の常連さんになってくれはったんよ。
 今日は、岩瀬さん・渡辺さんと一緒に、来てくれはったん。ありがたいよね!

「はあ……ここに来ると落ち着くなあ。ごはんも甘いものも美味しいし」
「嬉しいです。……友菜さん、すごくお忙しそうですもんね」

 相槌を打つと、友菜さんはグッとフォークを握り、頷いた。

「そうなの! 卒論のテーマも決まんないし、就活はあるし……ねっ、芽実」
「まあね。私はもう、卒論のサマリー通ったけど」

 そう話すお二人は、忙しそうやけれど、どこか活気づいたお顔をしてはる。

――すごいなあ。卒論とか……博士みたいっ。

 友菜さん達は、ぼくに色々と話して聞かせてくれはるん。自分の知らない世界のお話は、とても楽しい。

「岩瀬くんは、院に行くんだっけ?」
「そうそう、もうちょっと勉強したくて。親泣かせだけどね」
「いいじゃん、羨ましい」
「君ら、大学生? いいねえ」

 楽しげな皆さんの会話に、他のお客様が混じりだす。

「いや、若いうちはなんでも勉強だね。そういや店長は、卒論書いたろ? アドバイスあげなよ」
「俺、中退なんで。想像で良いですか?」

 どっと笑い声が起きて、お店が賑やかになった。
 ニコニコと聴いていたぼくやけど、ふと岩瀬さんのお冷が空なのに気づく。

「岩瀬さん、どうぞ」
「あ……ありがとう!」

 お水を注ぎ足すと、岩瀬さんはギクリとあとずさった。隣の渡辺さんを突き飛ばす勢いに、ぼくはびっくりする。
 
「ど、どうしたんですか?」
「あっいえ……奥さん、なんだか雰囲気変わりましたか」

 そう言ったきり……真っ赤な顔で、俯いてしまうお二人に、きょとんとする。 
 と、友菜さんが声を上げて笑った。

「この人たち、照れてるんだ。成己くん、すごく綺麗なんだもん」
「えっ!」

 からかう様に肘でつかれ、目が丸くなる。――ぼくが綺麗? 言われ慣れなくて、ふきだしてしまう。

「もう、からかわんといてください~」
「いや、本当に……」

 岩瀬さんは、ふと何かに気づいたように言葉を止めた。――急に青ざめて、パスタを猛然と巻き始める彼に驚いてしまう。
 視線の先を追うと、宏ちゃんがいた。

「?」

 くすぐったいほど優しい眼差しに、頬が赤らむ。

――いつもの宏ちゃんやんね。どうしたんやろ……?

 ぼくは、不思議に思いつつ、にっこりと笑い返した。
 
 
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