305 / 360
最終章〜唯一の未来〜
三百四話
しおりを挟む
「お前のことは俺が守る。だから、泣かないでくれ」
「あっ……」
とさり、とソファに優しく押し倒された。覆いかぶさって来た宏ちゃんに、唇を塞がれる。
「ん……、ひろちゃ……」
「成、好きだよ」
甘いキスに酔わされながら、ぼくは広い肩にしがみついた。頭がぽうっとして、もう何も考えたくないような気持ちになる。
言葉も、思考も全てさらうように絡む舌に、なすがまま……全部投げ出してしまいたい。
――『あなたは、それで良いのか』
不意に、お兄さんの怒りに満ちた低い声が脳裏を過る。
「――!」
ぼくは、咄嗟に広い胸を押していた。
「ま、待って」
「……どうした?」
宏ちゃんは、目を瞬いている。
ぼくは、濡れた唇から目を逸らし、おろおろと口にした。
「あのっ……綾人のことなんやけど。何があったか、知りたい」
ぼくの問いに、宏ちゃんは「あ」と呻いた。
「……そうだった。兄貴から聞いたんだよな?」
「うん。えと……お兄さんは、宏ちゃんが綾人を遠ざけたって言ってて……」
そっと尋ねると、宏ちゃんは目を伏せた。
「本当だ。……ごめんな」
「……なんでって、聞いても良い?」
すると、宏ちゃんはぼくの頬を包んだ。怪我はすっかり治っているのに……すでに去った痛みまで、労わるような手つきで。
「綾人君と兄貴を、お前に近づけたくなかったんだ。今後も、こないだのようなことを繰り返すとわかるから」
「宏ちゃん……」
「お前が、綾人君を大切に想っているのを知ってる。それでも、俺は……すまない」
そう、苦し気に吐露した宏ちゃんを、ぼくは沁みるような気持ちで見つめていた。
――ぼくの為に……ひとりで、抱え込んでくれてたんやね……
これ以上、もう何も聞く必要が無かった。
だって、宏ちゃんはさっきも言ってくれたもの。――成を守る、って。だから……ぼくのために、苦しい決断をしてくれたんよね。
じわりと瞼が熱を持つ。
「ごめんね、宏ちゃん。ぼく、守ってもらってばっかりやね……」
頬を包む手をきつく掴む。この優しい人に、綾人を突き放させたんだと思うと――涙が止められない。
宏ちゃんが、はっと息を飲んだのが聞こえた。
「成、違う。俺が勝手にやったんだ」
「ううん。ぼく……もっと、強くなる。……もう、一人で抱え込まないで」
両腕を伸ばし、宏ちゃんを抱きよせる。思いきり引っ張ったから、ぼくの上に大きな体がずしんと乗っかった。
「……っ」
身体全部に宏ちゃんの重みを感じて、くらくらする。
「成っ? 平気か」
宏ちゃんが、上からどこうと慌てている。……優しいなあ。つい、笑ってしまった。
ぼくは、ぎゅうと首にかじりつく。
「大丈夫。ぼく……宏ちゃんの奥さんやもの。何も苦しくないよ」
「……!」
間近にある綺麗な目が、瞠られる。
ぼくは、想いを込めて見つめた。
「宏ちゃん、大好き。やから……ぼくも、あなたを大切にしたいの」
お義母さんの話を聞いたとき、思ったん。
大嫌いなはずのパイナップルケーキを選ぶのは……ご両親と、ご兄姉の仲を取り持つためなんだよね。
そうやって、当たり前に優しいあなたを……ぼくが、大切にしたい。
「宏ちゃん……」
頬を寄せて、ぼくから唇を重ねる。
ぴく、と宏ちゃんが固まった。それでも――愛情が伝わるようにって願いながら、たくさん……宏ちゃんにキスをした。
「成……!」
宏ちゃんの切ない声が、ぼくを呼んだ。
突然に、形勢が逆転する。ソファに押し付けられるように、宏ちゃんが覆いかぶさってきて、激しく唇を奪われた。
「あっ……」
とさり、とソファに優しく押し倒された。覆いかぶさって来た宏ちゃんに、唇を塞がれる。
「ん……、ひろちゃ……」
「成、好きだよ」
甘いキスに酔わされながら、ぼくは広い肩にしがみついた。頭がぽうっとして、もう何も考えたくないような気持ちになる。
言葉も、思考も全てさらうように絡む舌に、なすがまま……全部投げ出してしまいたい。
――『あなたは、それで良いのか』
不意に、お兄さんの怒りに満ちた低い声が脳裏を過る。
「――!」
ぼくは、咄嗟に広い胸を押していた。
「ま、待って」
「……どうした?」
宏ちゃんは、目を瞬いている。
ぼくは、濡れた唇から目を逸らし、おろおろと口にした。
「あのっ……綾人のことなんやけど。何があったか、知りたい」
ぼくの問いに、宏ちゃんは「あ」と呻いた。
「……そうだった。兄貴から聞いたんだよな?」
「うん。えと……お兄さんは、宏ちゃんが綾人を遠ざけたって言ってて……」
そっと尋ねると、宏ちゃんは目を伏せた。
「本当だ。……ごめんな」
「……なんでって、聞いても良い?」
すると、宏ちゃんはぼくの頬を包んだ。怪我はすっかり治っているのに……すでに去った痛みまで、労わるような手つきで。
「綾人君と兄貴を、お前に近づけたくなかったんだ。今後も、こないだのようなことを繰り返すとわかるから」
「宏ちゃん……」
「お前が、綾人君を大切に想っているのを知ってる。それでも、俺は……すまない」
そう、苦し気に吐露した宏ちゃんを、ぼくは沁みるような気持ちで見つめていた。
――ぼくの為に……ひとりで、抱え込んでくれてたんやね……
これ以上、もう何も聞く必要が無かった。
だって、宏ちゃんはさっきも言ってくれたもの。――成を守る、って。だから……ぼくのために、苦しい決断をしてくれたんよね。
じわりと瞼が熱を持つ。
「ごめんね、宏ちゃん。ぼく、守ってもらってばっかりやね……」
頬を包む手をきつく掴む。この優しい人に、綾人を突き放させたんだと思うと――涙が止められない。
宏ちゃんが、はっと息を飲んだのが聞こえた。
「成、違う。俺が勝手にやったんだ」
「ううん。ぼく……もっと、強くなる。……もう、一人で抱え込まないで」
両腕を伸ばし、宏ちゃんを抱きよせる。思いきり引っ張ったから、ぼくの上に大きな体がずしんと乗っかった。
「……っ」
身体全部に宏ちゃんの重みを感じて、くらくらする。
「成っ? 平気か」
宏ちゃんが、上からどこうと慌てている。……優しいなあ。つい、笑ってしまった。
ぼくは、ぎゅうと首にかじりつく。
「大丈夫。ぼく……宏ちゃんの奥さんやもの。何も苦しくないよ」
「……!」
間近にある綺麗な目が、瞠られる。
ぼくは、想いを込めて見つめた。
「宏ちゃん、大好き。やから……ぼくも、あなたを大切にしたいの」
お義母さんの話を聞いたとき、思ったん。
大嫌いなはずのパイナップルケーキを選ぶのは……ご両親と、ご兄姉の仲を取り持つためなんだよね。
そうやって、当たり前に優しいあなたを……ぼくが、大切にしたい。
「宏ちゃん……」
頬を寄せて、ぼくから唇を重ねる。
ぴく、と宏ちゃんが固まった。それでも――愛情が伝わるようにって願いながら、たくさん……宏ちゃんにキスをした。
「成……!」
宏ちゃんの切ない声が、ぼくを呼んだ。
突然に、形勢が逆転する。ソファに押し付けられるように、宏ちゃんが覆いかぶさってきて、激しく唇を奪われた。
359
お気に入りに追加
1,428
あなたにおすすめの小説
悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!
梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!?
【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】
▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。
▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。
▼毎日18時投稿予定
もう人気者とは付き合っていられません
花果唯
BL
僕の恋人は頭も良くて、顔も良くておまけに優しい。
モテるのは当然だ。でも――。
『たまには二人だけで過ごしたい』
そう願うのは、贅沢なのだろうか。
いや、そんな人を好きになった僕の方が間違っていたのだ。
「好きなのは君だ」なんて言葉に縋って耐えてきたけど、それが間違いだったってことに、ようやく気がついた。さようなら。
ちょうど生徒会の補佐をしないかと誘われたし、そっちの方に専念します。
生徒会長が格好いいから見ていて癒やされるし、一石二鳥です。
※ライトBL学園モノ ※2024再公開・改稿中
【完結】別れ……ますよね?
325号室の住人
BL
☆全3話、完結済
僕の恋人は、テレビドラマに数多く出演する俳優を生業としている。
ある朝、テレビから流れてきたニュースに、僕は恋人との別れを決意した。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない
文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。
使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。
優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。
婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。
「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。
優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。
父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。
嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの?
優月は父親をも信頼できなくなる。
婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる