いつでも僕の帰る場所

高穂もか

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最終章〜唯一の未来〜

二百八十九話

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「宏~、成くん~!」
 
 廊下の奥から出てこられたのは、お義母さんやった。明るいグレーの着物の裾を捌き、驚くほど素早く駆けてきはったと思うと、宏ちゃんとぼくの肩をガシリと掴んだ。
 
「二人とも、無事でよかったよ~! 怖い思いしたねえ」
「お義母さん……!」
 
 つやつやの頬を滂沱の涙が伝ってる。
 お義母さんは、宏ちゃんとぼくの手を握り、何度も「大丈夫?」と尋ねはった。すごく心配をおかけしたんや――そう思ったら、胸がじんと熱くなった。
 
「母さん、驚かせてごめん。電話でも伝えた通り、ちょうど出かけてて鉢合わせはしなかったから」
 
 宏ちゃんは、穏やかな声でお義母さんに説明する。――気遣うよう、肩に置かれた手が優しい。ぼくも、お義母さんの手を包んだ。
 
「お義母さん、心配かけてごめんなさい。宏章さんもぼくも、大丈夫です!」
「本当かい?」
「はいっ」
 
 にっこり笑うと、お義母さんはほうと息を吐く。
 佐藤さん(父)に渡された手拭いで鼻をかんで、笑ってくれた。
 
「良かった。……ええと、玄関先でごめんよ。とりあえず、奥でお茶でも飲もう。んで、今後の話をしようか」
 
 それから――ぼく達は、母屋の大きな洋間に通されて、話し合いをしたん。
 宏ちゃんが、状況を説明してくれたので、ぼくは隣に座っているだけやってんけどね。
 
「調査のあいだ、もちろん家に居なさい。うちほど安全なとこは無いんだし。後まあ、犯人のことは心配しないで。絶対、捕まえて見せるから」
 
 と、お義母さんは請け負ってくれはってね。丸く握った拳で、どんと胸を叩く仕草には自身が表れていたん。
 
「本当に助かるよ。ありがとう」
「ありがとうございます。お世話になります!」
 
 こうして、ぼくと宏ちゃんは――しばらく、野江家に身を寄せさせてもらうことになったんよ。
 方針が決まると、久しぶりの顔合わせに近況を話した。

「僕は、政くん関連の接待が終わったもんで、帰って来たんだよ。暫く暇だから、いろいろ遊ぼうね」
「はい。嬉しいです」

 お気遣いが有難くて、こくりと頷く。と――宏ちゃんは、訊いた。

「じゃあ、母さんしかいないのか」
「そうそう。だからね、気がねは必要ないよ。宏の離れだって、みんな大急ぎで準備してくれてるし」
「離れ、ですか?」
 
 ぼくは、聞きなれない言葉に目を瞬く。宏ちゃんがこたえる前に、お義母さんが教えてくれる。

「うん、離れ。宏が出てく前、ずっと住んでたところだよ」
「えっ」

 宏ちゃんを振り返ると、苦笑していた。

――宏ちゃんが、住んでいたところ……?

 そう言えば、宏ちゃんのお宅にお邪魔したのは初めて。そして……宏ちゃんの口から、ご家族の話を聞くこともなかった。ぼくに気を遣ってくれていたから。

「……」

 ぼくは、そっとお義母さんと話す宏ちゃんの横顔を見る。すると、宏ちゃんが気づいて、笑う。

「そろそろ行こうか、成」
「えっ……あ」

 促されて見れば、使用人さんが廊下に控えていた。離れの準備が整ったって、伝えに来てくれはったみたい。

「うん、宏ちゃん」

 ぼくは差し出された手を取った。
 
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