いつでも僕の帰る場所

高穂もか

文字の大きさ
上 下
287 / 360
最終章〜唯一の未来〜

二百八十六話

しおりを挟む
「宏ちゃんの、すけべ」
 
 お腹の上にわだかまった掛け布団を、口元まで引っ張り上げる。――した後の、気だるくて熱っぽい空気で、お部屋はいっぱいやった。
 隣で、大きな体を投げ出していた宏ちゃんが、不思議そうに言う。
 
「ん? どうした」
「計ったでしょ。ヒートなんて言うて……」
 
 ヒートなんかじゃなくて、宏ちゃんの手でその気にさせられて……体いっぱいを愛された。
 頬をぷくりと膨らませると、宏ちゃんは笑った。
 
「ああ。――お前を連れ込んで、これをしたかっただけだろ、って?」
 
 悪戯な手が、お布団の上からぼくの脚の間に触れる。さっき、散々与えられた快楽がぶり返しそうになって、慌てて足を閉じる。
 
「もう、宏ちゃんっ」
「はは……悪い、悪い。可愛いから、触りたくなんだ」
 
 灰色がかった瞳をやわらかく細め、宏ちゃんはぼくの頭を撫でる。子猫を愛でるように優しい手つきに、すぐに絆されちゃう。 
 ぼくは、広い胸に頬を寄せて、じっと夫の顔を見上げた。
 
「ねえ、宏ちゃん」
「何だ?」
「あのね……ぼくの体、どうだった? 本当に……そろそろ、来そうやった?」
 
 おずおずと尋ねてみると、宏ちゃんは目を丸くする。
 
 ――中谷先生に、順調に開いてきてるって言われたけど。ちゃんと、変わってきてるのかな?
 
 さっきはあんな風に言ったものの、宏ちゃんが本当に心配してくれたのは、わかってるねん。
 ぼくの体に、変化が起きてきてるなら……とても、嬉しいのやけれど。
 
「そうだなあ……」
 
 すると、宏ちゃんはぼくを抱きかかえ、項に顔を埋めた。
 
「……お前の香りが、日に日に強くなってるのがわかるんだ」
「あっ……ほんと?」
 
 温かい吐息が首筋を撫で、ぴくんと肩が震える。宏ちゃんは、穏やかな声音で囁きながら、大きな手でぼくの肌を撫でた。
 
「うん。項と、背中……あとは、ここな」
「ひゃっ」
 
 閉じた脚の間を、手のひらが潜って来る。熱い指先が、生殖弁を優しく擽って、目を見開いた。
 さっき、宏ちゃんので”そう”されたように、ぴったりと閉じた肉の合わせ目を押されると――じわ、と甘い痺れがぶり返す。
 
「あぁ……宏ちゃんっ……」
「お前から、甘い桃みたいな匂いがするんだ。熟して、はやく食ってくれって言うみたいに……」
「ふぁ……っ」

 宏ちゃんの灰色の目が、ぼくの目を覗き込む。

「お前は咲く。もうすぐ……俺には、わかるんだ」
 
 低い声が、鼓膜を震わせる。宏ちゃんの体から、獰猛な森の香りが立ち上り……食べられちゃいそうって、ちょっぴり怖くなる。
 
 ――でも。
 
 ぼくは、逞しい胸にひっついて、甘い陶酔にぎゅっと目を閉じた。宏ちゃんの手を求め、勝手に開いていく膝を、止めることが出来ない。
 だって、本当に望んでいることだから。
 
「嬉しい……宏ちゃん。ぼく、早く咲きたい」
 
 ――あなたのために……今度こそ。
 
 十四の時に、一度咲きかけた。
 それからずっと、未熟なままだったぼくは――陽平の元でもう一度、咲く機会を待っていた。
 
 ――『お前みたいな欠陥品、誰が妻に欲しがるか!』
 
 また、咲けなくて。もう無理なのかって、怖かった。ぼくは、誰のためにも咲けないのかと……こてんぱんに自信がなくなったん。
 ……だけど、宏ちゃんのもとにきて、ぼくは変わった。

――『可愛い、成』

 ちっぽけな体を、宝物みたいに抱きしめてくれた。だから――自分が、ダメじゃないのかもって、思えるようになったん。

「宏ちゃん……」

 ぼくは、宏ちゃんの頬に手をのべた。
 彼の大きな手が、すぐに手の甲を包んでくれて、涙が溢れる。
 
「成、大好きだよ」
「ぼくも、大好き」
 
 ずっと優しくしてくれて、ありがとう。
 宏ちゃんにひっついて、ぼくは喜びの嗚咽を漏らした。


しおりを挟む
感想 203

あなたにおすすめの小説

もう人気者とは付き合っていられません

花果唯
BL
僕の恋人は頭も良くて、顔も良くておまけに優しい。 モテるのは当然だ。でも――。 『たまには二人だけで過ごしたい』 そう願うのは、贅沢なのだろうか。 いや、そんな人を好きになった僕の方が間違っていたのだ。 「好きなのは君だ」なんて言葉に縋って耐えてきたけど、それが間違いだったってことに、ようやく気がついた。さようなら。 ちょうど生徒会の補佐をしないかと誘われたし、そっちの方に専念します。 生徒会長が格好いいから見ていて癒やされるし、一石二鳥です。 ※ライトBL学園モノ ※2024再公開・改稿中

妹を侮辱した馬鹿の兄を嫁に貰います

ひづき
BL
妹のべルティシアが馬鹿王子ラグナルに婚約破棄を言い渡された。 フェルベードが怒りを露わにすると、馬鹿王子の兄アンセルが命を持って償うと言う。 「よし。お前が俺に嫁げ」

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

【書籍化進行中】契約婚ですが可愛い継子を溺愛します

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
恋愛
書籍化確定です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ  前世の記憶がうっすら残る私が転生したのは、貧乏伯爵家の長女。父親に頼まれ、公爵家の圧力と財力に負けた我が家は私を売った。  悲壮感漂う状況のようだが、契約婚は悪くない。実家の借金を返し、可愛い継子を愛でながら、旦那様は元気で留守が最高! と日常を謳歌する。旦那様に放置された妻ですが、息子や使用人と快適ライフを追求する。  逞しく生きる私に、旦那様が距離を詰めてきて? 本気の恋愛や溺愛はお断りです!!  ハッピーエンド確定 【同時掲載】小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/12/26……書籍化確定、公表 2024/09/07……カクヨム、恋愛週間 4位 2024/09/02……小説家になろう、総合連載 2位 2024/09/02……小説家になろう、週間恋愛 2位 2024/08/28……小説家になろう、日間恋愛連載 1位 2024/08/24……アルファポリス 女性向けHOT 8位 2024/08/16……エブリスタ 恋愛ファンタジー 1位 2024/08/14……連載開始

モブらしいので目立たないよう逃げ続けます

餅粉
BL
ある日目覚めると見慣れた天井に違和感を覚えた。そしてどうやら僕ばモブという存存在らしい。多分僕には前世の記憶らしきものがあると思う。 まぁ、モブはモブらしく目立たないようにしよう。 モブというものはあまりわからないがでも目立っていい存在ではないということだけはわかる。そう、目立たぬよう……目立たぬよう………。 「アルウィン、君が好きだ」 「え、お断りします」 「……王子命令だ、私と付き合えアルウィン」 目立たぬように過ごすつもりが何故か第二王子に執着されています。 ざまぁ要素あるかも………しれませんね

言い逃げしたら5年後捕まった件について。

なるせ
BL
 「ずっと、好きだよ。」 …長年ずっと一緒にいた幼馴染に告白をした。 もちろん、アイツがオレをそういう目で見てないのは百も承知だし、返事なんて求めてない。 ただ、これからはもう一緒にいないから…想いを伝えるぐらい、許してくれ。  そう思って告白したのが高校三年生の最後の登校日。……あれから5年経ったんだけど…  なんでアイツに馬乗りにされてるわけ!? ーーーーー 美形×平凡っていいですよね、、、、

幽閉王子は最強皇子に包まれる

皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。 表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

花婿候補は冴えないαでした

BL
バース性がわからないまま育った凪咲は、20歳の年に待ちに待った判定を受けた。会社を経営する父の一人息子として育てられるなか結果はΩ。 父親を困らせることになってしまう。このまま親に従って、政略結婚を進めて行こうとするが、それでいいのかと自分の今後を考え始める。そして、偶然同じ部署にいた25歳の秘書の孝景と出会った。 本番なしなのもたまにはと思って書いてみました! ※pixivに同様の作品を掲載しています

処理中です...